ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜 作:助兵衛
瓦礫に覆われた高架下、粉塵が舞い、電力を喪失した街灯が沈黙のまま佇んでいる。音もなく、熱もなく、ただ世界だけが崩壊の余韻を引きずっている。
ウォルターは、身を低くしながら《HAL 826》を滑らせ、倒壊したアパートの残骸に身を隠していた。
全員を生かすため、そして変異波形との接続者が誰か一人でもコーラルに辿り着くため、彼は先ほど全隊に「散開」を命じた。
『長距離の通信が出来ない。妨害……いや、高濃度のコーラル粒子によるものか。皆は……』
低く呟き、機体を停止させる。
周囲の探知反応は一時的に落ち着いた。ウォルターは素早くモニターを切り替え、センサーを拡張モードへ移行させる。建物内部の反応を探るための、広域スキャン。わずかでも電子反応があれば探知できる。
だが──その瞬間。
**ズン……**と、地面が揺れた。
直後、目の前の瓦礫が爆ぜ、粉塵と共に巨大な影が降ってきた。
『……ッ!?』
ウォルターが反応するよりも早く、センサーに“強制的な干渉波”が走る。システムが一瞬ブラックアウトしかける中、光の中から現れたのは──
模倣AC。
重量二脚型。重装甲、過剰火力、回避性能を犠牲にした破壊特化の機体。左腕、右腕ともに、ベイラム製の重ショットガンを装備。まさに近接殲滅のためだけに再現された《暴力》そのものだった。
塗装は一切行われておらず、全身が鈍い銀色の輝きに包まれている。
『模倣機か……』
だが、その呟きに答える者は無い。
模倣ACは即座に両腕を振りかぶり、左右のショットガンを乱射した。
爆発的な散弾が、瓦礫を吹き飛ばしながら押し寄せてくる。
ウォルターは即座に《HAL 826》を横滑りさせ、ビルの影へと飛び込む。すぐさま再起動したセンサーが敵機の挙動を示す。
──ブースト全開。回避放棄の全力突撃。
『やられる前にやる、か。合理的だな』
ショットガンの発砲音が、廃墟の空気を裂いた。
粉塵の帳を貫くように、模倣ACが突進してくる。装甲が軋む金属音、地面を削る脚部の駆動音。いずれもが迫る死の足音だ。
ウォルターは機体《HAL 826》を後退させつつ、装備されたコーラル投射装置を展開する。
『鈍重な機体では621から学習した回避能力も活かせないだろう』
刹那、砲身が発光。
赤熱するコーラル粒子が凝縮され、圧縮された光矢として解き放たれた。
ズドォン!!
模倣機の正面装甲の一部が指向性コーラルによって融解し、小規模な連鎖爆発が機体表面で発生する。
しかし──止まらない。
模倣ACは、そのまま火花を巻き上げながら突撃を継続した。片腕を上げ、至近距離から重ショットガンを再び乱射する。
『ッ──!!』
ウォルターは即座に低空ホバリングに移行し、機体を真横に滑らせる。直後、彼の元いた空間をショットガンの散弾が削り取った。空気が焼け、廃墟の一部が吹き飛ぶ。
ウォルターはビルの軒先を蹴り、煙の中を縫うように滑空した。
模倣ACのショットガンが壁面を削り、粉塵の中から追撃の音が迫る。
しかし、模倣機の加速には限界がある。重量機体に無理な突撃を強いるその軌道は、直線的だ。
ウォルターはコーラル投射装置を再展開し、再び砲身を赤熱させた。
──ズドン!!
粒子砲が模倣機の胸部へ着弾。硬質な装甲が焦げ、微細な火花が走る。
だが、動きは止まらない。
『……やはり、削るしかないな』
ウォルターの声は冷静だった。即死を狙うのではなく、じわじわと、確実に削る。機動性と装備を活かした“間合いの支配”こそが、《HAL 826》の真骨頂だ。
コーラル粒子のチャージが再び始まる──そのときだった。
──ゴォォォォン!!
突然、右方の廃墟が爆発的に崩落した。
瓦礫と鉄骨を薙ぎ払いながら、巨大なシルエットがウォルターの目の前へと乱入してくる。
『──ッ!? この音は……!』
衝突するようにして飛び込んできたのは、特務機体《カタフラクト》。
ACの枠を超えた巨大な機体とそれを支える無限軌道、可変式レーザーキャノンを始めとした過積載とも言える武装を詰め込まれ備え付けられた何十ものセンサーが蠢く。
特務上尉グレイの機体だった。
機体表面には複数の焼痕と貫通痕が走り、背部スラスターからは白煙が漏れている。
《HAL 826》と《カタフラクト》がかろうじて衝突を避け、鉄骨の山に滑り込むように停止する。
『ッ……ハンドラー・ウォルターか』
低く呻くような通信が、ウォルターのチャンネルに割り込む。
『グレイか。何があった』
『模倣機の一機にマークされた、上層ビルから狙撃されている』
その声には明確な焦燥と苛立ちが滲んでいた。普段冷静沈着なグレイのそれではない。
戦術マップに共有された地点を確認すると、リニアライフルと思わしき銃を構えた軽量二脚がウォルターからも確認出来た。
『こちらも模倣機と交戦中だ、巻き込まれるぞ』
『確認した。ベイラム製ショットガン…… ZIMMERMANか』
《カタフラクト》が体勢を整えつつ、レーザーキャノンを旋回させる。
狙いは、先ほどまでウォルターを追っていた模倣AC。
その姿を認識するや否や、グレイは低く吐き捨てた。
『なるほど、中遠距離を得意とする貴様の機体では分の悪い相手の様だ』
模倣ACは瓦礫の向こうに姿を現す。コーラルの焼痕を胸に残したまま、なおショットガンを構え、真っ直ぐにこちらを見ている。
その様は、まるで──
何があっても止まらぬ“殺戮装置”
ウォルターはスラスターを調整し、再び距離を取ろうとするが──
『……まずい、囲まれている』
背後から新たなセンサーピングが響いた。東側の路地に、別個体の模倣ACが展開しようとしている。
──時間をかければかけるほど、敵は増える。
ウォルターは狙撃手の位置に目をやった。高層ビル、その屋上付近。鉛色の軽量機が、遠距離用のリニアライフルを構え、なおもセンサーの向きをこちらに固定している。
『グレイ、スイッチしよう』
『……ああ、妥当な判断だ。貴様なら、その狙撃手を捉えられる』
『お前なら、あの重装突撃機体を受け止められる』
言葉を交わすと同時、両機は即座に機動を切り替えた。
ウォルターは模倣ACの射線から横に外れ、コーラル投射装置を一時冷却状態に戻す。代わりに《HAL 826》の肩部スラスターが噴き上がり、廃墟の外壁を蹴るように跳ね上がった。
高高度への上昇。狙撃手を捉えるための戦術機動。
一方、グレイの《カタフラクト》はその巨体を地響きと共に前進させた。
模倣ACのショットガンが火を噴く──
だが、《カタフラクト》は躊躇しない。多重装甲と慣性制御システムが、その直撃すら意に介さず真正面から受け止める。
『火力はあるが、その程度で、この《カタフラクト》が沈むか!』
グレイの声と同時、グレネードバズーカが模倣ACの右肩へ撃ち込まれた。
爆風と共に装甲の一部が裂け、模倣ACの動きが僅かに鈍る。
その隙を逃さず、《カタフラクト》は側面から押し出すように接近。側防火器であるガトリングガンが唸りを上げて起動される。
『沈め……ッ!』
回転銃身から、無数の弾丸が射出された。模倣ACは寸前で後退して直撃を避けるが、その軌道は読まれていた。
《カタフラクト》の背部から放たれたレーザーキャノンが、逃走経路を切り裂くように発砲される。
閃光とともに、模倣ACの片脚が爆ぜた。
一方──
上空では、ウォルターの《HAL 826》が高速旋回を行いながら狙撃手との距離を詰めていた。
軽量機は反応して飛び退く。だが、その動きは《HAL 826》のセンサーを誤魔化せない。
『逃がすか──』
ウォルターの機体が急降下。コーラル投射装置が再びチャージを完了する。
爆発的な噴射と共に、赤熱した粒子が高層ビルの壁面を抉るように突き抜けた。
回避した狙撃機は煙の中へ逃れようとするが、その脚部にはすでに《HAL 826》の追撃プログラムがロックオンを完了していた。
左腕にコーラルブレードが展開され、真紅の刀身が生まれる。
『──逃がさん』
刹那、狙撃していた模倣ACがビルの縁から飛び降りた。
その直後、無数のパルスミサイルが一斉に射出される。
粒子波を纏ったミサイルが、廃墟に“爆光の帳”を描きながら迫る。ダメージではなく、これはあくまで視覚阻害とセンサーチャフを狙った目眩ましだ。
《HAL 826》のHUDが瞬間的にノイズまみれになる。
だが、ウォルターの機体は止まらない。
爆煙の中を突き抜け、ノイズの海の先にある敵影を感覚で捕らえる。
──音。機体の質量。重心の偏り。そして逃げる方向。
それは、まるで殺しを熟知した猟犬の嗅覚だった。
『ビル下、路地へ──右。回避行動の癖、甘い』
スラスターが閃き、ビルの側壁を滑るようにして《HAL 826》が急旋回。
光の尾を引いたコーラルブレードが、逃げようとする軽量機にすぐ背後まで迫る。
模倣ACは機敏に身を翻し、リニアライフルを構えながら振り返る──が、遅い。
『あの子ら達の足元にも及ばない』
コーラルブレードが閃き、火花と断裂音が夜を裂いた。
模倣ACのライフルは宙を舞い、右肩から大きく裂けた装甲が吹き飛ぶ。
逃げようとした模倣ACは《HAL 826》の膝蹴りに叩き折られ、機体はその場でバランスを崩した。
『終了だ──』
ウォルターは続けざまにもう一撃、刃を振りかざした。
だが、その瞬間。
模倣ACが自爆コードを起動したかのように、胸部ユニットが赤く点滅を始める。
『……合理的な判断だ』
即座に《HAL 826》は反転。コーラルブレードを強制収束させ、路地裏の瓦礫を蹴り、スラスターで後方へ退避する。
次の瞬間、ビルの一角が吹き飛んだ。
模倣ACの軽量機は、自らを弾頭と化して消し飛んだのだ。
衝撃波が街区の一帯を薙ぎ、粉塵と熱風がウォルターの装甲を撫でていく。
《HAL 826》はわずかにバランスを崩しながらも、すぐに体勢を立て直す。
濛々と舞い上がる灰煙の中、ウォルターは機体を立て直し、破壊された狙撃機の残骸を一瞥した。
──その刹那。
ズズン……ッ!
振動。地響き。そして、戦場の地形全体を“踏み締める”かのような異音が遠方から近づいてきた。
『グレイか……?』
廃墟の裏手から、瓦礫を押しのけるようにして《カタフラクト》の機影が現れる。
だが、その前方には──まだ生きている模倣ACの重装型がいた。
片脚を失い、肩部のショットガンは砕けている。だがその躯体はまだ僅かに蠢いていた。自爆コードを起動しようと、胸部装甲が開きかけている。
その動作を、グレイは見逃さなかった。
『そのまま……沈んでいろッ!』
《カタフラクト》の無限軌道が火花を噴き、全重量をかけて模倣ACに突進する。
ズドォン……ッ!!
轟音と鉄の悲鳴。キャタピラが模倣機の胴体を捉え、バキィィ……! という鈍い音を立ててそのフレームを潰していく。
重量。質量。装甲。すべてが《カタフラクト》に劣る模倣ACは、逃れることも抗うことも叶わない。
模倣ACのAIが呻くようなジャミング音を撒き散らすが、無慈悲な履帯はその上をさらに踏み締めた。
ガガガ……! ガコンッ……バキィ……ズズ……ッ!
何度も、何度も、砕くように。
《カタフラクト》のキャタピラが、重装模倣ACの自爆ユニットごと胸部を叩き潰す。電流が走り、潤滑油が漏れ出すが、すでにその機体は沈黙していた。
『……執行完了』
グレイの声が無線に戻る。
《カタフラクト》は、潰された機体の上を超えて踏破すると、そのまま旋回し、ウォルターの《HAL 826》の隣に並び立った。
『処理を完了した。そちらも問題ないようだな』
『……助かった。見事だ』
《HAL 826》のセンサーが再起動される。戦闘後のノイズを除去し、広域スキャンが再び展開される。
戦域の高濃度コーラルは、依然として機器の動作に干渉していた。粒子波の層がセンサーの解像度を曇らせる。だが、ウォルターは手際よくフィルタリング処理を施し、可能な限りの索敵を試みた。
その時だった。
ピ──……ガ、ザ……ッ……ッ……──ィィィィ……
爆音にも似たジャミングの中、割れるような音声断片が通信チャンネルに滑り込んでくる。
『──現在……交戦……救援を……敵模倣機体は、不可解な……』
ウォルターは即座に通信ログを逆解析、音声帯域とID信号の微弱な残留を精査する。
『ID信号、マッチング……これは──』
『サム・ドルマヤンか……』
グレイが低く呟く。
『あいつは“接続者”の一人だ。この戦いの勝利条件を左右する。ハンドラー・ウォルター、向かうぞ』
『当然だ』
二機は躊躇なく向きを変え、スラスターを最大出力で点火。
濛々とした灰煙を掻き分け、旧区画の裏路地を走り抜ける。
──そして、その先に。
崩れかけた銀行ビル跡の前。交差点の中央で、無数の弾丸によって地面へ倒れ伏す機体があった。
《アストヒク》
ルビコン解放戦線の指導者、師父サム・ドルマヤンの機体だ。
角ばった無骨な装甲、重量に任せた一撃離脱を得意とする鈍重な突撃型AC──が、今やその姿は変わり果てていた。
頭部は完全に砕け、腕部は片方が破損しており、武装も確認できない。背部ユニットからは火花と黒煙が絶え間なく漏れ出し、全身の関節部には高温による焼損の痕跡。
『……サム』
ウォルターは音声チャンネルを試みるが、応答はない。
『生きているかもしれん。熱源は微弱ながら残っている』
グレイがセンサーパルスを送信、機体のエネルギー反応を追う。
だが、次の瞬間──
《アストヒク》の周囲に、奇妙な“ノイズ反応”が重なる。
『……待て、これは──』
瓦礫の影。破壊されたビルの上層。地下通路の排熱口。
複数のポイントから、同時に反応が浮上する。
『模倣ACの伏兵群……これは“誘い”か』
『サムが狙われていたのは、偶然じゃない』
グレイは口元を歪める。戦術レベルで仕組まれた罠だ。
模倣ACたちは、変異波形との接続者──つまりはコーラルと接触する手段を持つ者を、優先して排除しようとしている。
『奴ら、我々の戦略を読んでいる……!』
ウォルターは即座にスラスターを解放し、アストヒクの元へ向けて急速接近。煙を撒き散らしながら、胴体部を《HAL 826》の腕で支えるように抱え上げた。
『アストヒク、起動確認……生命維持装置は……──生きてる!』
仄かに、モニターにサムのIDが点滅する。
生きている──だが、時間はない。
──その時。
センサーが再び、重い脈動のような反応を捉える。
『……また来るか』
ウォルターが即座に《HAL 826》の機体を旋回させる。
灰煙の帳が揺らぎ、そこから──二機の模倣ACが姿を現す。
中量級の標準的な二脚AC。シルエットは整っているが、肩部に不釣り合いな超大口径グレネードキャノンを備えている。
さらに──ウォルターの《HAL 826》にも搭載されているはずのコーラルミサイルランチャーが、まるで鏡写しのように搭載されていた。
『──それを何処で……』
ウォルターの眼が鋭く細められる。
肩のミサイルポッドがわずかに開き、内部にうごめくコーラル反応が赤く脈動している。
その隣に立つもう一機は──明らかに異様だった。
コアパーツはBAWS製の重装型、鈍重なシルエットを誇る骨太の構造。だがその下に接続されているのは、まるで細い金属の棒のようなシュナイダー製の細脚レッグパーツ。
完全に釣り合いを欠いたバランス、だがその歪さこそが“人工の殺意”を滲ませていた。
両腕にはマシンガンを抱え、今まさにスライド機構を動かしながら弾倉をリロードしている。
ガチャン……チッ。ガッ……ギィィン……
無音の中で響く、規則正しい給弾音。
その不気味なリズムが、グレイの神経を逆撫でした。
『……何だ、その構成は』
新たに現れた二機の模倣機体は、新たな獲物であるウォルターとグレイを見定める様に動かない。
異様な二機ではあるが、ルビコン解放戦線の首魁であったサム・ドルマヤンを打ち倒した強敵である事に疑いの余地は無かった。
重装突撃機→W重ショ突撃デブ
ビル上から狙撃していた機体→Wハリス引き軽2
歪な構成の機体→Wエツジン邪神像
大口径グレネードとコーラルミサイルの機体→レガリア級
ちなみに筆者はレガリア級使いです