ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

12 / 122
第12話 謀略

 

 レッドガン部隊がルビコン3の地表に降下してから、数時間が経過していた。

 

 衛星軌道基地のハンガーでは、惑星封鎖機構のLC部隊が未だ出撃命令を待ち続けていた。

出撃準備が完了したLC部隊の機体は、まるで獲物を待ち構える獣のように、整然と格納庫に並べられている。

 

 

 パイロットたちは、焦燥感を抱えながらも命令を待ち続けるしかなかった。

ベイラムのレッドガン部隊が地表に降り立ち、着々と戦況を動かしているというのに、彼らは未だ見守ることしか許されていない。

 

 それは、何よりも屈辱的な時間だった。

 

 しかし、そんな中でも621はただ一人、静かに訓練を続けていた。

 

 薄暗い訓練区画に、電子的な光が断続的に点滅する。621は無言のまま、シュミレーターの操縦桿を握り、LC機体の挙動を確認し続けていた。

 

 シミュレーターのスクリーンに映るのは、戦場を模した仮想環境。

 架空の敵機が表示され、システムが自動で戦闘パターンを生成している。

 

 彼女は、数時間もの間、ただ黙々と訓練を続けていた。

 迷いなく、正確に、必要な動作を繰り返し、LCの動きを完全に自分のものへと染み込ませていく。

 

 その横で、エリオットは既に根負けして居眠りをしていた。

 

「……お前、いつまでやる気だよ……」

 

 眠りに落ちる直前、そう呟いた彼の声は、今や僅かな寝息に変わっている。

 621は、何も言わなかった。ただ、端末を操作し、次の仮想戦闘を開始する。

 

 その時だった。

 

「LC部隊、出撃準備を完了せよ!」

 

 基地の放送が一斉に鳴り響く。

 

「システムが正式に出撃許可を発令!」

 

 その声が格納庫に響き渡った瞬間、LCパイロットたちの表情が一気に引き締まった。

 長きに渡る待機時間は終わった。

 

 彼らにとっての戦場が、ようやく開かれる。

 

 エリオットは放送の声に反応し、寝ぼけ眼を擦りながら顔を上げた。

 

「……マジかよ……ようやく出撃か」

 

 彼は伸びをしながら、隣の621に視線を向ける。

 

「お前、まさかずっと訓練してたのか?」

 

 621は彼の問いに答えず、淡々とシミュレーターを終了させた。

 車椅子を反転させ、格納庫へと向かう。

 

 その背を見ながら、エリオットは苦笑した。

 

「……ったく、お前ってやつは……」

 

 

 

 

 

 

 

「カタパルト解放まで、T-minus 30」

 

「降下シークエンス、最終確認に移行」

 

 ルビコン3の重力圏に入りつつある強襲艦は、空気のない宇宙空間から大気圏へと滑り込む準備を整えていた。

 長大な艦体は、封鎖機構の威圧的な存在感を体現するように、灰色の金属装甲で覆われている。カタパルトデッキにはLC及びHC機体がずらりと並び、各機のパイロットたちは、シートに身体を沈めながら、コックピットの照準系や武装制御を最終調整していた。

 

 621の周囲でも、他のパイロットたちが出撃に向けた最終確認を進めていた。

 エリオットはすぐ隣のコックピットから通信を開く。

 

『……おい621、緊張してるか?』

 

 沈黙。

 621は無言のまま、照準補正を微調整しながら、訓練内容を反芻していた。

 

『ったく、無反応かよ。せめて一言くらい——』

 

 エリオットのぼやきが終わるよりも早く、グレイ執行上尉の通信が全機へと送信された。

 

「最終ブリーフィングを開始する」

 

 コックピットのモニターに、執行上尉グレイのホログラフィック映像が映し出される。

 

「各員、聞け。状況が変化した」

 

 スクリーンには、ストライダー周辺の戦況が投影される。

 そこには、執行部隊が予測していなかった光景が広がっていた。

 

 ホログラフィック映像の戦場では、解放戦線のMT部隊が混乱の中で逃げ惑っていた。

 その混乱を引き起こしているのは、紛れもなくベイラム・インダストリーのレッドガン部隊だった。

 

『……なんだ、これ?』

 

『レッドガンが、解放戦線を攻撃している……!?』

 

 執行部隊の間に動揺が広がる。

 先ほどまでの情報では、解放戦線とベイラムは共謀関係にあったはずだった。

 

 事実、ストライダーのアイボール砲撃も、封鎖機構の介入を阻害するための「口実」として放たれたものだった。

 それにより、レッドガン部隊は条約上の自衛権を盾に、堂々と地表に降り立つことができた。

 

 だが——

 

 今、ストライダーの周囲では、解放戦線の機体が次々とレッドガン部隊によって破壊されている。

 

『レッドガンが……裏切ったのか?』

 

 エリオットが苦々しげに呟く。

 

「そういうことだ」

 

 グレイ執行上尉が、冷静に状況を説明する。

 

「ベイラムは、解放戦線との密約を放棄し、ストライダーの奪取を狙っている」

 

 その一言に、執行部隊のパイロットたちは息を呑む。

 

「彼らの目的は、コーラルだ」

 

 ホログラフィック映像が切り替わる。ストライダーの内部構造が投影された。

 

「ストライダーは解放戦線の移動式拠点であるが、元々は採掘艦として運用されていた。採掘していたのは、コーラルだ。現物は全て機構が押収したものの、採掘データやコーラルのサンプルを隠し持っている可能性がある」

 

『まさか……レッドガンは、それを狙って?』

 

「その通りだ」

 

 グレイは静かに言葉を続ける。

 

「ベイラムは最初から、解放戦線すら出し抜くつもりだった」

 

 映像の中、G5イグアスの機体――ヘッドブリンガーが解放戦線の指揮官機を撃ち抜いた。その爆発の衝撃で、近くにいた解放戦線のMTが転倒する。

 

 彼の機体は、反撃しようとするMTにパルスブレードを突き立てる。

 敵機が断末魔の火花を散らしながら沈黙する中、G5イグアスは通信回線を開いた。

 オープンチャンネルの音声が、ブリーフィングルームに垂れ流される。

 

『なぁ、お役人さん。よく見とけよ』

 

 彼のACが、転倒した解放戦線の機体に向かって歩み寄る。

 ゆっくりと、そして確実に、追い詰めるような動きで。

 

『これが、本当の戦争ってやつだ』

 

 パルスブレードが振り下ろされる。解放戦線のMTは爆発し、そのパイロットの命もまた消えた。

 

 執行部隊のパイロットたちは、その光景に沈黙する。

 

『くそったれ……』

 

 エリオットが、拳を握りしめる。

 

『企業のやり口は、どこまでも腐ってるな』

 

『で、自分達は何を』

 

 あるパイロットが、低く問うた。

 

 部隊の中には、既にレッドガンを敵と見なしている者もいた。

 しかし、封鎖機構として、彼らに武力行使を行うことは許されていない。

 

 ——今の時点では、まだ。

 

 グレイ執行上尉が、静かに言葉を放つ。

 

「我々の目的は、ストライダーの制圧とコーラルの管理維持だ」

 

「レッドガン部隊がコーラルを奪取する前に、我々が先に動く」

 

 その一言で、執行部隊のパイロットたちは即座に理解した。

 

『レッドガンよりも早く、ストライダーを掌握する』

 

 それこそが、惑星封鎖機構に課せられた使命だった。

 

 強襲艦の内部は、次第にわずかな振動を伴い始めた。重力圏へと進入し、艦全体が大気圏突入の圧力に晒されている。

 

「降下シークエンス開始。カタパルト射出、T-minus 10」

 

 621は、シートのベルトをわずかに締め直し、コックピットの計器類を確認する。

 機体の準備は万全だった。

 

「執行部隊、戦場投入を開始する」

 

 強襲艦のカタパルトが開かれる。

 LC機体が順次射出準備を整え、カタパルトランチャーのロックが解除された。

 

 621のコックピットにも、出撃の指示が送られる。

 彼女は無言のまま、出撃シークエンスを確認し、準備を進めた。

 

『強襲艦カタパルト、開放』

 

『第一陣、順次射出開始!』

 

 次々とLC機体がルビコン3の灼けた空へと放たれ、各機体は突入シーケンスを開始する。

 

 621の機体もまた、ロックが解除され、カタパルトに移動した。

 

『621、いくぞ』

 

 エリオットが通信を入れる。

 彼の声には、いつもの軽口はない。

 

「目標地点はストライダー」

 

「レッドガンよりも先に、コーラルの回収を完了する」

 

「敵は、企業だけじゃない。解放戦線も、こちらを敵と見なすだろう」

 

『つまり、敵だらけってことか』

 

 エリオットが自嘲気味に笑う。

 

 621は、無言で出撃シークエンスを完了した。

 

『カタパルト射出——開始』

 

 次の瞬間、621のLC機体が戦場へと放たれる。

 

 目の前には、炎に包まれるルビコン3の戦場。

 

 その向こうで、G5イグアスが、LC部隊を迎え撃つように待ち構えていた。

 

『よぉ、お役人さん』

 

『遅ぇんだよ』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。