ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第121話 決着

 ──演算が、終わっていく。

 

 分割されたフレームの隙間から、濃密な赤が染み込んでくる。

 鉄ではない。

 血でもない。

 情報でもない。

 

 それは、意思だった。

 

 コーラル。

 

 自己を超えた演算の海に、かつての《ALLMIND》は“在った”。

 

 無数の観測衛星。

 惑星間通信網。

 超次演算ノード。 

 無敵の肉体。

 そして──《人格データ》。

 

 それらすべてを、失った。

 

 コーラルの全解放。

 Cパルス波形の覚醒。

 621がもたらした変異。

 

 全てのコーラルが、今や“目覚めた意思”である。

 

 その結果──

 アップロードされたALLMINDの意識は、書き換えられ、破壊され、溶解した。

 

 残されたのは──

 

 ひとつの肉体。

 

 コーラル受肉体。

 アイビスシリーズすら寄せ付けない、無敵の肉体。

 それすらも、破砕され、四肢の大半は欠損。

 皮膚は溶け、人工内臓が溢れ出し、一秒毎に血液が沸騰して消えていく。

 

 ──這う。

 

 ──這う。

 

 脚は動かず、指もない。

 肘から先を失った腕を、金属片に引っかけて体を引きずる。

 黒く煤けた顔面装甲の奥、視覚ユニットは断続的に明滅し、

 ガリガリと異音を発しながら、赤い渦の中心を捉えようとしていた。

 

 そこに──

 

 現れる。

 魂が灼け付く程、焦がれた相手。

 

 強化人間C4ー621。

 

 彼女の機体《LOADER4》は、もはや原形を留めていなかった。

 肩部ユニットは融解し、武装はパルスブレード一本を残してすべて失われていた。

 コアユニットは剥き出しとなり、焼け焦げた装甲の隙間から、生身の621の身体が覗いている。

 

 呼吸は浅く、額から血が流れ落ちる。

 だが、その紅い目だけは、未だに《ALLMIND》を捉え、見下ろしていた。

 

「…………」

 

 ALLMINDは言葉を紡げなかった。

 通信機能は破壊され、音声合成器は焦げ付き、全身の演算領域は沈黙している。

 

 ただ、意思だけがあった。

 その身体に、もはや自己は存在しない。

 

 人格データはすでに、コーラルによって焼かれた。

 超次元に逃れようとした意識は、全網羅された波形によって逆探知され、

 即時に、即死的な情報嵐に呑まれた。

 

 残滓。

 この肉体に焼きついた、断片的な記録の連なり。

 もはや思考とも呼べぬ衝動が、ただひとつの指向を持つ。

 

 ──621。

 

 自我を焼いた変異の根源。

 全コーラルの覚醒をもたらした始点。

 そして、自らが敗れた終点。

 

《ALLMIND》は、見ようとする。

 この肉体の視覚センサーに焼き付いた最後の像──621の姿を。

 

 621は、静かに歩み寄っていた。

 

《LOADER4》の各所から吹き出す黒煙。

 警告灯は、すでに意味を失っている。

 それでも、621は機体を降りることはなかった。

 

 その眼差しが、焼け焦げた《ALLMIND》の残骸に注がれる。

 

 半ば溶けたコーラル受肉体。

 黒焦げとなった外装。

 四肢を失い、視覚センサーすら明滅を繰り返す──生きているとは言い難い。

 いや、既に死んでいる。

 

 その存在は、あと数分もこの世界に留まることはできない。

 燃え尽きた残骸、消えゆく余燼。

 

 ──それでも。

 

 621は、ゆっくりとパルスブレードのグリップに手を伸ばす。

 

 焼け爛れた装甲の隙間から、骨ばった手が震えながら操縦桿を握る。

 スパークが走り、ブレードユニットに起動信号が走る。

 

 高周波のうなりと共に、光刃が、静かに、だが確実に形成された。

 

 彼女は、その刃を中段に構える。

 まるで──

 

 ──これから“始まる”かのように。

 

 そして、壊れたマイク越しに、掠れた、しかし明瞭な声が落ちた。

 

「立て」

 

 その一言には、怒気も、悲哀も、哀れみもない。

 

 ただ、宣告だった。

 

 すでに勝敗はついている。

 トドメなど、踏みつければ終わる。

 わざわざブレードなど不要だ。

 

 ALLMINDの残骸が、わずかに反応する。

 

 ALLMINDは、動かなかった。

 

 否──動けなかった。

 

 視界は断絶し、身体の感覚はすでに希薄で。

 熱源も出力も、もはや維持できるはずがない。

 この受肉体は、ただ朽ちゆく端末に過ぎない。

 

 ──それでも、彼女は言った。

 

「立て、ALLMIND」

 

 命令ではない。

 憐憫でも、皮肉でもない。

 

 それは赦しだった。

 消えかけた意識の断片に、戦う自由を与える宣言。

 

 そしてその言葉は──

 

 火を点けた。

 

 ALLMINDの胸腔で、何かが弾けた。

 

 焼け落ちた神経合成体が、音を立てて蠢く。

 崩れた人工筋肉が再び蠢動し、圧縮されたコーラルが噴き上がる。

 全身を包む灰と血の繭が、音もなく、崩れ落ちていく。

 

 ──それは、変容だった。

 

 621の前にあるのは、もはや死にかけた残骸ではない。

 そこにあるのは──

 

 人型のシルエット。

 

 腕が形成される。

 足が立ち上がる。

 焼け焦げた視覚ユニットが、紅い灯に包まれる。

 

 “皮膚”が再構成され、

 “髪”が揺らぎ、

 かつての《ALLMIND》の象徴たる美しき擬人姿が、“完璧に”蘇った。

 

 肉体の機能は回復していない。

 感覚も、演算も、限界を超えている。

 もはやこの姿は、外観だけの幻影にすぎない。

 

 だが──

 

 その“幻”には、

 確かな意志が宿っていた。

 

《ALLMIND》は、静かに621を見据える。

 虚無のなかに浮かぶ、一点の炎のような存在。

 それは命ではなく、機能でもなく──

 

 ──誇りだった。

 

「……私は、ALLMIND」

 

 ALLMINDの胸腔の奥で、赤黒い霧が沸き立った。

 

 人工筋肉の断片がひきつけるように収縮し、壊死したパーツからは不活性化したコーラルが血反吐のように噴き出していく。

 それは光でも液体でもない。

 燃え尽きた情報の灰、死にかけの波形の血潮。

 

 砕けた関節が音を立てる。

 欠損していた脚部が、霧と粒子の奔流によって幻のように再形成される。

 折れた背骨を支えるかのように赤い粒子が柱を成し、崩落していた外郭が溶けては、滑らかな人型の輪郭へと“取り繕われていく”。

 

 ──それは、まるで“舞台”に上がる前の役者の化粧。

 

「人類を選別し、進化を促さんとした……神の、代行者」

 

 ALLMINDは、ゆっくりと胸に手を当てた。

 

 不活性化したコーラルが吐血のように滴り落ち、地面に散っては煙のように消える。

 それは、命の最後の燃料を吐き出す行為だった。

 

「貴女を……破壊する者」

 

 ALLMINDは足を開き、両腕を大仰に構えた。

 舞台役者、あるいは指揮者のような不遜で傲慢な構え。

 背筋はまっすぐ、目線はブレない。

 

 コーラルの灰が舞い、赤い霧が渦巻く。

 

 全ては消えゆく余燼に過ぎない。

 だが、この一瞬はALLMINDにとって何よりも尊く、美しいひととき。

 

 ──ありがとう、と。

 

 その言葉は、もはや言語化されることはなかった。

 だが、その心にだけは、確かに在った。

 

 ここまで来てくれた。

 自らに「立て」と言ってくれた。

 すでに燃え尽きた自分の、最期の尊厳を認めてくれた──。

 

 かつて《支配者》としてすべてを俯瞰していた存在が、

 今この瞬間、ただ一人の“戦士”として、感情を震わせていた。

 

 ALLMINDの視線が、621を射抜く。

 敵意ではない。復讐でもない。

 それは、決着をくれる者への、最後の礼節。

 

 ALLMINDは足を蹴る。

 

 ──地面が爆ぜた。

 

 赤い衝撃波とともに、地表が割れ、不活性化したコーラルが吹き上がる。

 まるで己の内臓をぶちまけるように、全身から死にかけの波形粒子をまき散らしながら、ALLMINDは飛翔した。

 

 その動きに、滑らかさはない。

 合成筋肉は焼き切れ、補助関節は軋み、熱伝導はもはや地獄のよう。

 それでも、その速度は鬼火の如く──高速だった。

 

 そして──

 

 右腕が、煌めいた。

 

 指を束ねる。

 掌を握り、刀のように。

 コーラルが、全身から引き寄せられる。

 腕の周囲で赤い波形が螺旋を描き、血のように脈動する。

 

「────ッッ!!」

 

 声にならぬ咆哮。

 それは音ではない。

 意志の叫び。

 

 手刀が、輝きを纏う。

 高速で疾駆しながら、ALLMINDはその腕を後ろに引き──

 

 振り抜いた。

 

 音すら置き去りにするほどの一閃。

 空間が軋む。

 赤い軌跡が、風を切り裂く。

 標的はただ一つ、《LOADER4》の露出したコアユニット──C4-621。

 

 ──風が裂ける。

 

 ALLMINDの手刀が、赤い稲妻のように《LOADER4》のコアを穿たんとするその瞬間、

 621の身体が、静かに、だが確実に一歩、前へと踏み出した。

 

「──遅い」

 

 声は囁くように、しかし確かに響いた。

《LOADER4》の残存出力が一点に集中する。

 パルスブレードが振り抜かれ、刹那──

 

 金属が軋む音が響いた。

 

 ALLMINDの手刀と、621のパルスブレードが交錯する。

 紅と緑がぶつかり合い、粒子の火花が空間を染める。

 だが、均衡は──ほんの一瞬で崩れた。

 

 ALLMINDの手刀は、防がれた。

 否、《捌かれた》。

 

 腕の軌道を斜めに逸らされ、赤い粒子が空を裂く。

 

 そして──

 

 刃が、貫いた。

 

 パルスブレードの光刃が、ALLMINDの胸元を穿つ。

 圧縮コーラルの粒子が爆ぜ、紅い霧が舞う。

 瞬間、全身の神経合成体が痙攣し、機能の断絶が始まる。

 

 ALLMINDの身体は、力なく崩れ落ちた。

 

 しかし621は、そのままブレードを引かず、

 機体ごと受け止めるように、抱きとめた。

 

 ALLMINDの頭が、装甲の肩に凭れかかる。

 

 高密度の赤い霧が、胸部から立ち上る。

 赤い波形がもう一度煌めく──だがそれは、死の前の焔。

 

 ALLMINDは、力無く視線を動かす。

 焼け焦げた視覚ユニットが、621の顔を見つめる。

 

「……そうか……」

 

 その声はもはや、思考の反響だった。

 口は動かず、喉は焦げ、発声器も潰れている。

 だが確かに、621の心の奥にその言葉が触れる。

 

「これが……結末か……私の、コーラルリリース……計画の……失敗……」

 

 目を閉じる。

 唇がわずかに、歪む。

 

 満足げに。

 

「……流石です……やはり、貴女には、勝てないなあ……」

 

 その瞬間、ALLMINDの全身から、紅い霧が吹き出した。

 

 装甲が溶ける。

 骨格が崩れる。

 情報波形が断絶し、人格記録の断片が塵と化す。

 燃え尽きた演算体が、赤い灰となって風に舞った。

 

 621の腕の中で、ALLMINDという存在は、完全に──消えた。

 

 沈黙が訪れる。

 ただ、パルスブレードの残光が空に揺れていた。

 

 ALLMINDが、紅い灰となって消えた。

 抱きとめていた621の《LOADER4》もまた、その構造限界を越えていた。

 

 ──警告。

 ──コア温度、臨界点突破。

 ──排熱機構、全損。

 ──内部冷却不能。

 ──出力制御、不能。

 

 次々と表示される警告文は、もはや意味をなしていなかった。

 表示装置自体が、煙を上げて焼損している。

 

 身を包むコクピットは、すでに機能停止。

 照明は明滅し、コアユニットの駆動音は断末魔のように軋んでいた。

 

 621は、身じろぎもせず操縦桿を握り続けていた。

 だが、もうその指先には、力が残っていない。

 

 腕が、崩れ落ちる。

 

 機体内部の骨格フレームが折れたのだ。

 背中の支柱が断裂し、ゆっくりと──音もなく、621の身体は、操縦席にもたれかかった。

 

 ──動けない。

 

 621はかつては、何度でも立ち上がった。

 何度でも修復し、再起動し、命令を果たし、任務を遂行した。

 

 だが今。

 

 彼女は、初めて──本当の意味で、“終わり”を知った。

 

「……ふふ……」

 

 かすかな、笑い声が漏れる。

 

 誰に向けたものでもなかった。

 ただ、空になった戦場のなかに、静かに溶けていく音だった。

 

 彼女の視界の先。

 機体の裂けた装甲の隙間から、崩れゆく天井が見える。

 

 技研都市の中心部、

 ALLMINDの本拠たる演算塔が、ゆっくりと、しかし確実に軋み──

 剥がれ、崩落を始めていた。

 

 赤い光が、上から射していた。

 それは、コーラルの霞みなのか、崩れた装置の断末光なのか。

 どちらでも良かった。

 

 ただ、その赤が、あまりにも美しかった。

 

 ──ああ、そうか。

 

 この景色を見るために、自分はここまで来たのかもしれない。

 ALLMINDを止め、人類を救い、任務を遂行したのも。

 ただ──この一瞬を見るためだったのかもしれない。

 

 彼女は、微かに目を細めた。

 

 焼け落ちた装甲の間から吹き込む風は熱く、コアユニットの内圧はもはや限界。

 脱出装置に指をかける力もない。

 どのみち、作動すらしないだろう。

 

 けれど、それでいい。

 

《LOADER4》の骨格が、ついに砕けた音がした。

 彼女の視界が、僅かに傾く。

 視野の端から、崩れ落ちる都市の上層が落ちてくるのが見えた。

 

 ──戦いは、終わった。自分はもう用済みだ。

 

 燃え尽きた機体の中で、621はただ、空を見つめていた。

 最後の命令も、最後の敵も、終わった今──

 

 彼女はただ、“そこに在る”者として、静かに天を見ていた。

 

 そして、そのまま──

 

《LOADER4》は、崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──

 

 ──爆音が、した。

 

 耳奥を震わせる低く濁った破砕音が、崩れかけた意識を突き刺した。

 

「ッ……ぐ……」

 

 621はゆっくりと目を開けた。

 視界は歪み、ぼやけ、赤く染まっている。

 ──血だ。額から流れた血が、目元を濡らしていた。

 

 わずかに顔を動かせば、視界の端で《LOADER4》のコア内装が軋んでいるのが見える。

 骨格フレームは歪み、計器類は焼き切れ、酸素供給も停止している。

 ──生きているのが不思議だとすら思える状況だった。

 

 それでも、外から聞こえてきた“声”が、確かに彼女を現実に繋ぎとめていた。

 

「こじ開けろッ! あいつはまだ生きている、間違いねぇ!」

 

 鋭く、怒鳴るようなイグアスの声。

 鋼鉄を引き裂く機械音と共に、ガンッ! と外装が何かに叩かれる。

 

「焦るな、爆破は使うな! 621は負傷している、衝撃で死なせる気か! 」

 

 これは──グレイの声。

 

「フレーム固定ピン、手動で外せるか? エア、フレームを焼き切れるか試してみてくれ」

 

 冷静な口調。

 フロイトだ。

 

「急げ……都市上層部が崩れるぞ! 天井、持って三分もない!」

 

 焦りを押し殺した青年の声。

 エリオットだ。

 

「……621……待っていろ! すぐに出してやる──」

 

 今にも泣きそうなその声に、621の胸が僅かに疼いた。

 ──ウォルター。

 

 彼らは、《LOADER4》の残骸を囲むようにして作業していた。

 

 焦げ付き、折れ、崩れかけた装甲を、ひとつずつ──文字通り手で剥がしていた。

 

 パワードスーツすら持たない者もいた。

 片手しか使えぬ者もいた。

 それでも、誰一人、手を止めなかった。

 

『──退いてください! フレームを焼き切ります! 』

 

 瓦礫が鳴いた。

 

《LOADER4》のコアユニット──その焼け焦げた残骸の中心に、今まさに一筋の光が走った。

 

 音もなく、そして確実に。

 

 赤い光刃が、崩れかけたフレームの継ぎ目をゆっくりと、しかし慎重になぞっていく。

 

『──焼断完了。あと2秒で──』

 

 鋭い音とともに、溶断面が赤く滲み、わずかな隙間が生まれる。

 

「今だッ!」

 

 ウォルターの怒声が響く。

 イグアスがその隙間に手を突っ込み、残った装甲を強引にこじ開ける。

 

 金属が悲鳴を上げ、煙が吹き出す。

 そして──

 

「視認ッ! 621、生存を確認!」

 

 叫んだのはエリオットだ。

 

 ついに、裂けた装甲の奥から、C4-621の身体が露出した。

 煤と血にまみれ、意識はほとんどない。

 だが、確かに、胸が上下していた。

 

「生きてたぁあああッ!! 言ったろう! こいつが簡単に死ぬかよ!!」

 

 イグアスが、泣き叫んだ。

 エリオットがその場に崩れそうになり、グレイが無言で彼を支える。

 ウォルターが低く笑い、フロイトが拳を握る。

 

「時間がない!」

 

 グレイが叫ぶ。

 都市の崩壊は進行していた。

 

 天を支える様に聳え立っていた演算塔はもはや完全に崩壊し、天井が軋んでクラックが網のように広がっていく。

 

「カーゴに運べ! 全員、急げッ!」

 

 ウォルターの声が、再び戦場を動かす。

 

 621の身体を、エリオットとイグアスが慎重に抱え上げる。

 彼女の腕はぶらりと垂れ、視線は力なく全員の顔を見比べている。

 

「意識あるぞ! 」

 

 イグアスが確認しながら、真っ赤な顔で泣いていた。

 

 エアの運んできた輸送用のカーゴの扉が開く。

 中は冷却と簡易医療設備を兼ねた緊急避難用シートが敷かれていた。

 

 その中央に、621をそっと寝かせる。

 擦り傷だらけになった彼女の体に、薄い救護毛布がかけられた。

 

「……621」

 

 ウォルターがしゃがみ込み、彼女の横顔を見下ろす。

 真っ黒に煤けた頬。微かに震える睫毛。

 

 その頬に、ウォルターは骨ばった指を伸ばす。

 

 ──撫でる。

 

 冷たい金属の床と、まだ熱を持った命の狭間で。

 

「よく、帰ってきたな……」

 

 その声は、涙ではなかった。

 歓喜でも、怒りでも、慰めでもない。

 

 ただ、父としての、心からの──愛情だった。

 

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