ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜 作:助兵衛
強襲艦の通信システムが開かれ、公的機関としての威厳を持った声明が戦場に向けて発せられる。
『こちらは惑星封鎖機構執行部隊である。ルビコン解放戦線の全戦力に告げる』
『直ちに戦闘を停止せよ。いかなる名目であれ、ルビコン3での武力行使は条約違反である』
『武装を解除し、投降せよ。さもなくば、封鎖機構は必要な措置を講じる』
衛星軌道基地からの長距離通信と連動し、封鎖機構の警告はルビコン3全域に広がる。
だが、誰も応じなかった。応じる訳がない。
レッドガンによって蹂躙された解放戦線は必死の反撃を試みている。ストライダーを包囲され、コーラルのデータを死守しようと暴れ回っていた。
強襲艦から発進したLC部隊は、降下直後に散開し、それぞれの担当区域へと向かっていく。
621とエリオットは、予定通りストライダー奪取のため、先行部隊として移動していた。
『勧告は無意味か、無理もないな。ベイラムに言えって話だろうよ』
エリオットの機体が加速し、621の横を並走する。
彼らの目の前には、ストライダーの巨大な脚部がそびえ立っていた。
その下に、ベイラム・インダストリーのMT部隊が待ち構える。
『コード5!敵を発見した!……621、こいつら、撃っていいか?』
エリオットが通信を送る。
封鎖機構の規則上、条約違反と明確に認定されない限り、企業への先制攻撃は認められない。
だが、次の瞬間、ベイラムのMT部隊がライフルを放ち、弾丸が621の機体頭上をかすめる。
『条約は――無効になった!』
グレイ執行上尉の通信が届く。
『惑星封鎖機構、戦闘行動を開始する。全機、攻撃を許可』
エリオットが笑う。
『ようやくかよ!』
封鎖機構の攻撃許可が下りた瞬間、621は迷いなくトリガーを引いた。
LCのENライフルが連続して発光し、前方に展開していたベイラムのMT部隊を撃ち抜いていく。
『撃てるなら、遠慮はいらねぇ!』
エリオットのLCも同時にブーストを吹かし、敵陣へ突進する。
弾幕の中を疾走し、正確無比な射撃で敵の脚部を撃ち抜く。
ベイラム・インダストリーは『物量による圧倒』を掲げており、兵器開発だけでなくベイラム主導の軍事作戦においても多量のMTを投入し敵を圧倒する戦術をとってきた。
しかし、ルビコン3においては惑星封鎖を掻い潜り限定的な戦力しか投入出来ていない、ベイラムは今、企業としての強みが発揮できない状況にあった。
それを補うために戦術的な布陣を敷いていたが、621とエリオットはそれを強引に突破。難なく目的地へと辿り着く。
『ストライダーの上に移動するぞ!』
621が短く了解と返信を送り、機体を加速させる。
目の前のMTを跳び越え、ストライダーの外壁に向けてブーストを噴射する。
巨体の側面を駆け上がり、脚部関節の支点を利用して更に跳躍。
エリオットもそれに続く。
ベイラムMT部隊は追撃しようとするが、すでに2機のLCはストライダーの背部に達していた。
621とエリオットのLC機体がストライダーの装甲板を滑るように着地する。荒廃した機体表面には、熱と衝撃による焦げ跡が点在し、背部には冷却中の巨大なEN兵器「アイボール」が鎮座していた。ストライダーの核とも言えるこの兵器は、オーバーチャージの余波で冷却中だったが、存在感だけで戦場を支配していた。
その前方に立つ2機のAC――G5イグアスの「ヘッドブリンガー」とG13の「ティエンチャン」が、まるでこの戦場の主であるかのようにLC部隊を迎え撃つ。
『よぉ、お役人さん。待ちくたびれたぜ』
G5イグアスの軽薄な声がオープンチャンネルに流れる。
「ヘッドブリンガー」はベイラム・インダストリー製ACパーツ、メランダーC3シリーズで固めた堅牢かつ堅実な中量型二脚AC。常にパルスシールドを展開し、マシンガンとリニアライフルを構えている。その姿勢は、軽快な戦術を用いる傭兵とは対極の「戦線維持型」とも表現できる。
一方、G13の「ティエンチャン」ベイラム協同企業である大豊核心工業集団の意匠を色濃く残す独特な機体シルエット。胴体と腰部は異常なほど巨大で、その下に枝のように細い四肢が伸びるという、異形とも言える設計だった。
『……』
G13は無言のまま、細い腕に持ったアサルトライフルをゆっくりと持ち上げた。
『レッドガンの番号付き二名、ストライダーを守る気は無いってことか』
エリオットが皮肉気に呟きながら、LC機体のブースターを吹かす。
『守る? 馬鹿言えよ、お役人。これは俺たちの獲物だ。解放戦線のアホどもには期待してなかったが、まぁ、お前らの介入で多少は面白くなりそうだな』
イグアスが笑いながら、リニアライフルのエネルギーをチャージする。
『621、そっちのG13は頼む。俺はアイツを削る』
エリオットのLCが前方に飛び出し、瞬時にミサイルを発射。複数の弾頭が空中を奔り、G5イグアスのヘッドブリンガーに向かっていく。
『ちっ……!野郎が相手か』
イグアスは即座にパルスシールドを構えた。炸裂するミサイルの爆風を受け流しながら、リニアライフルを正確に射撃。エリオットのLC機体は反応速度でかわすが、なおも追撃するマシンガンの銃弾が装甲を削る。
一方、621はG13のティエンチャンと向かい合う。
『……俺は、G13。俺は、レッドガンだ』
次の瞬間、G13のティエンチャンが急加速した。巨大な胴体が鈍重に見えたが、それは錯覚だった。強化されたブースターによる加速と、最適化された関節設計による機動力――それは見た目以上に素早い
『621、そいつ見た目より速いぞ!』
エリオットの警告が響く。
ティエンチャンの腕部が振りかぶられる。パルスブレードの光刃が形成され、621のLC機体へ振り下ろされた。
621は直前でブースターを逆噴射。回避しつつ、カウンターでENライフルを連射する。
だが、G13は最初から回避行動を組み込んでいたのか、巧みに機体をねじりながら射線を外していく。
『どうした!封鎖機構!』
ティエンチャンのアサルトライフルが射撃を開始。高速連射される弾丸が621の機体をかすめ、装甲を削り取る。
621は即座にカウンターを取った。LC機体の高い機動性を活かし、スラスターを噴かしながらティエンチャンの死角へと回り込む。
しかし、G13もただのパイロットではない。胴体こそ重厚だが、彼のACはその太い腰部を軸に異様なほど俊敏に旋回する。LCのブースト軌道を見極め、回避行動と同時にアサルトライフルを発砲した。
カンッ!カンッ!
弾丸が621のLC機体の装甲を弾く。致命傷にはならないが、回避だけでは状況を覆せない。
『いいぞ、いける。いける!』
G13の声は無機質でありながらも、僅かに自信が滲んでいた。
621は応答せず、さらにスピードを上げる。ティエンチャンの射線を避けながら、徹底的に翻弄する軌道を取った。LC機体はこうした高速戦闘において圧倒的な優位を持つ。
『小癪な……』
G13は苛立ちを押し殺しながら、高誘導二連ミサイルを発射。
621の視界に、二発の高性能ミサイルが捉えられる。通常ならば即回避を選択するべきだが――
621は一瞬、ブーストを止めた。
瞬間停止――そして急加速。
まるで肉食獣が獲物へ飛びかかるように、ミサイルの誘導を狂わせながら、621はティエンチャンの正面へと突っ込む。
『!?』
G13が驚愕する。ここまで接近戦を選ぶとは思っていなかったのだろう。
バシュンッ――!
LCのENライフルが至近距離で火を噴く。高出力のエネルギー弾が、ティエンチャンの脇腹を貫いた。
『っぐ……!』
G13のACがバランスを崩し、ストライダーの装甲を滑るように後退する。
しかし、621は追撃を止めなかった。LCはまさしく猟犬のように執拗に食らいつき、ティエンチャンの逃げ道を塞ぐ。
『お前……その戦い方は……独立傭兵か!』
G13の声には、わずかに戦慄が滲む。621の動きはまるで猟犬のようだった。
だが、621はそんな言葉には一切関心を示さない。ただ、目の前の敵を狩ることだけを考えていた。
ティエンチャンが再びパルスブレードを振り上げる。しかし、それは闇雲な悪手だった、621は完全にその動作を読み、機体を鋭く回転させながらG13の右腕を蹴り上げる。
衝撃でパルスブレードの軌道が大きく逸れ、G13のバランスが崩れた。
そして――
621のENライフルが、ティエンチャンのコアパーツ、コックピットの眼前にゼロ距離で構えられる。
『クソッ――!』
G13は全力で機体を立て直そうとするが、621はそれを許さない。まるで執拗に獲物の喉笛を噛み砕く獣のように、射撃を叩き込む。
重厚な装甲を誇るティエンチャンだったが、ゼロ距離からのEN弾により装甲は赤熱し、徐々に外郭から融解していく。
『ッ……!?』
ティエンチャンのENリアクターが異常値を示した。
被弾による異常加熱、排熱機構の損傷、ジェネレーターの歪みにより各圧力系が悲鳴をあげながら暴走していく。
『そんな、おれは……ようやく、コールサインが貰えたのに』
621は、無言のまま照準を外す。
LC機体の光学センサーが、一瞬だけG13のコックピットを映し出し――
そして、敵機は爆発した。