ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第14話 激戦

 

 G13のティエンチャンが、焼け焦げた装甲の上に沈黙していた。

 

 爆発の余波が収まり、煙が静かに晴れていく。

 

 621は無言のままLC機体を前進させ、崩れ落ちたACの残骸を見下ろした。

 

 機体の構造は崩壊していたが、その腕――パルスブレードを握っていた細い機械の指だけは、まだ原形をとどめている。

 

 621はゆっくりと腕を伸ばし、倒れたティエンチャンの指からそれを剥ぎ取るように抜き取った。

 

 パシュン――

 

 起動信号を受け取ったブレードが、緑がかった力場を形成する。

 

 ブン――、ブン――

 

 試すように、空中で数度振るった。

 

 刃が空気を裂く音が、通信チャンネルのノイズと混ざる。

 

『……』

 

 その手ごたえに、621は一瞬だけ微動した。

 

 何かを発見した子供のように、興味深げにパルスブレードを眺める。

 

 彼女は、もう一度振るった。

 

 シュン――!

 

 薄緑の刃の軌跡が、黒く焦げ付いた甲板の上に光の線を描く。

 

 おもしろい。

 

 ライフルやマシンガンとは違う。撃つのではなく、振るう武器。

 遠距離から正確に撃ち抜くものではなく、間合いに踏み込んで敵を断ち切るもの。

 

 違う動作が、求められる。

 

 621は、刃を収めた。

 

 そして――

 

 カチ、カチ、カチ――

 

 ハンガーに収める動作を、何度も、何度も、繰り返す。

 

 カチ。カチ。

 

 収めては、また抜く。

 

 カチ。カチ。

 

 収めて、また抜く。

 

 その様子は、まるで初めてオモチャを与えられた子供のようだった。

 

 カチ、カチ、カチ――

 

『……621?』

 

 エリオットが警戒の声を送る。

 

『おい、何してんだ!拾い物で遊んでる場合か!』

 

 621は、何も言わない。

 

 カチ、カチ、カチ――

 

 収める。抜く。収める。抜く。

 

 彼女の機体が、無意味な反復動作を繰り返している。

 

 いや――彼女にとっては無意味ではないのかもしれない。

 

 彼女の意識は、今この動作に完全に集中している。

 視線はブレードに釘付けだ。

 繰り返す。何度も、何度も、何度も――

 

 だが、その時間は、突然の銃撃によって強制的に終わりを迎えた。

 

ズガン――――!!

 

 マシンガンの弾丸が621の背後を掠め、装甲を弾き飛ばす。

 

 『おいおい、お役人さん』

 

 G5イグアスのヘッドブリンガーが、悠然と銃口を向けていた。

 その背後には、被弾したのか黒煙を撒き散らしながら膝をつくエリオットのLC機体がある。

 

『戦場で拾い物に夢中になっちゃ、ダメだろ?』

 

 次弾装填を終え、空になったマガジンが投げ捨てられる。

 

『いや、いいぜ。続けな?俺はお前がそのオモチャで遊び飽きるまで待ってやるよ」

 

 イグアスは、楽しげに笑った。

 

 621は、一瞬だけパルスブレードを見つめ――

 

 そして、収めた。

 

 次の瞬間、621のLC機体がスラスターを吹かし、ヘッドブリンガーの迎撃に向けて跳躍した。  

 

 バシュン――!

 

 薄緑の刃が閃いた。

 

 G5イグアスのヘッドブリンガーは、間一髪のところで後退する。

 LC機体の機動力を活かし、621は跳躍と同時にパルスブレードを振るった。

 

 しかし――

 

『ははっ、遅ぇよ、お役人さん!』

 

 イグアスのヘッドブリンガーが、即座にカウンター射撃を開始する。

 リニアライフルの砲撃がLC機体の装甲をかすめ、機体のバランスを崩す。

 

 ガガン――!

 

 621はブースト制御で即座に姿勢を立て直し、ヘッドブリンガーの懐へと潜り込む。

 再び、パルスブレードを振るう――だが、届かない。

 

 621のLC機体が振るうには、刀身が短すぎる。

 

 AC用のパルスブレードは、AC同士の戦闘を前提とした設計だ。

 LCの機体スケールに対して、振るう際のリーチが圧倒的に足りていない。

 接近戦の間合いに入っても、刃が届かずに空を切る。

 

 イグアスはそれを見て、愉快そうに笑った。

 

『おいおい、何遊んでやがる』

 

 それに気づいた。

 

 621は、即座にパルスブレードの設定を開く。

 エネルギー出力を確認し、刃の形成領域を拡張する。

 

 カチ、カチ――

 

 HUD上の刃の長さが微調整され、薄緑のエネルギーフィールドが広がった。

 LC用に最適化するため、出力を適正化し、刀身のリーチを倍近くまで引き伸ばす。

 

 シュウン――!

 

 621は、試しに再び振るう。

 

 シュンッ――!

 

 刃の軌跡が、これまでよりも遥かに広範囲に展開された。

 エネルギー出力の最適化により、LCのスケールで実用に足る攻撃範囲を確保する。   

 

『……』

 

 621の視線が、新しい玩具を試す興味と探究心で光る。

 

 彼女は、即座に加速した。

 

 獲物を狩る猟犬のように。

 

 イグアスのヘッドブリンガーが、即座に射撃を開始する。

 四連装ミサイルが噴煙を上げ、マシンガンの銃撃がLC機体の進路を塞ぐ。

 

 しかし、621の動きは機械的な計算ではなく、本能的な”狩り”だった。

 

 ミサイルの追尾をギリギリまで引きつけ、寸前で急角度のブースト回避。

 射線の外に出た瞬間に、高速ジャンプで上方から切り込む。

 

『なっ――!』

 

 イグアスの反応が一瞬遅れる。

 

 次の瞬間――

 

 バシュン――!!

 

 薄緑の刃が、ヘッドブリンガーの装甲を切り裂いた。

 

 盾を構えていたはずのヘッドブリンガーのパルスシールドが、ブレードのパルスと相干渉し、中和され砕け散った。

 

『ッ!? ひよっこのパルスブレードか!やりやがったな!」』

 

 イグアスが咄嗟に距離を取るが、彼女のLC機体は獲物を逃がす気はなかった。

 

 新しい“おもちゃ”――最適化されたパルスブレードを手にした彼女は、まるで狩りを覚えたばかりの獣のように、攻撃を繰り返すことに執着していた。

 

 ヘッドブリンガーのパルスシールドはブレードとの相干渉によりすでに意味をなさず、盾を頼みにした防御戦術が崩壊している。イグアスは常にLC機体の高速ブーストを警戒しながら、ギリギリの距離を維持しようとするが、それも時間の問題だった。

 

 621は、一度捕らえた獲物を決して逃がさない。

 

『くそっ……しつけぇぞ、お役人!』

 

 イグアスのヘッドブリンガーが急上昇し、ミサイルを牽制射撃として放つ。

 炸裂する弾頭が空間を支配し、視界を炎と煙で埋め尽くす。

 

 しかし、621はまるで煙など存在しないかのように、精密な動きで弾幕を掻い潜り、ブーストの軌跡を閃光のように描きながら急接近する。  

 

『また来るか……!』

 

 イグアスはとっさにリニアライフルを構え、迎撃のための射撃を開始。

 

 621の動きは完全に読まれている――

 

 だが、それを知ったところで、防げるとは限らない。

 

 ブシュン――!

 

 パルスブレードが、ヘッドブリンガーの左肩を貫いた。

 

『ちっ……!』

 

 ブーストの機動力をフル活用し、斬撃と同時に角度を変えながら空間を舞う621。

 その動きは、ただのLC機体の挙動ではなかった。

 

 むしろ、これは獣の動きだった。

 

 敵の反応を見極め、視界外から襲いかかる捕食者の狩り。

 猟犬のように執拗に、何度も何度も追撃を加え、仕留めるまで絶対に止まらない。

 

『野郎……! いい加減、距離を取らせろッ!』

 

 イグアスは強引にブースターを吹かし、621との間に間合いを開こうとする。

 

 621のLCが、一瞬、動きを止めた。

 

 次の瞬間――

 

 シュン――!!

 

 今度は、別方向からのENライフルによる射撃がヘッドブリンガーの進路を塞いだ。

 

『……は?』

 

 イグアスの疑問が生じた瞬間――

 

『悪い!被弾して姿勢制御がダメになっちまってな、遅れたが合流する!』

 

 被弾から復帰したエリオットのLCが猛然と割り込んできた。

 

 彼の機体は片側の装甲が削れ、機体バランスがやや崩れている。しかし、それでも機能は生きており、戦闘には十分対応できる状態だ。

 

 イグアスの逃げ道は、もうなかった。

 

 

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