ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜 作:助兵衛
G13のティエンチャンが、焼け焦げた装甲の上に沈黙していた。
爆発の余波が収まり、煙が静かに晴れていく。
621は無言のままLC機体を前進させ、崩れ落ちたACの残骸を見下ろした。
機体の構造は崩壊していたが、その腕――パルスブレードを握っていた細い機械の指だけは、まだ原形をとどめている。
621はゆっくりと腕を伸ばし、倒れたティエンチャンの指からそれを剥ぎ取るように抜き取った。
パシュン――
起動信号を受け取ったブレードが、緑がかった力場を形成する。
ブン――、ブン――
試すように、空中で数度振るった。
刃が空気を裂く音が、通信チャンネルのノイズと混ざる。
『……』
その手ごたえに、621は一瞬だけ微動した。
何かを発見した子供のように、興味深げにパルスブレードを眺める。
彼女は、もう一度振るった。
シュン――!
薄緑の刃の軌跡が、黒く焦げ付いた甲板の上に光の線を描く。
おもしろい。
ライフルやマシンガンとは違う。撃つのではなく、振るう武器。
遠距離から正確に撃ち抜くものではなく、間合いに踏み込んで敵を断ち切るもの。
違う動作が、求められる。
621は、刃を収めた。
そして――
カチ、カチ、カチ――
ハンガーに収める動作を、何度も、何度も、繰り返す。
カチ。カチ。
収めては、また抜く。
カチ。カチ。
収めて、また抜く。
その様子は、まるで初めてオモチャを与えられた子供のようだった。
カチ、カチ、カチ――
『……621?』
エリオットが警戒の声を送る。
『おい、何してんだ!拾い物で遊んでる場合か!』
621は、何も言わない。
カチ、カチ、カチ――
収める。抜く。収める。抜く。
彼女の機体が、無意味な反復動作を繰り返している。
いや――彼女にとっては無意味ではないのかもしれない。
彼女の意識は、今この動作に完全に集中している。
視線はブレードに釘付けだ。
繰り返す。何度も、何度も、何度も――
だが、その時間は、突然の銃撃によって強制的に終わりを迎えた。
ズガン――――!!
マシンガンの弾丸が621の背後を掠め、装甲を弾き飛ばす。
『おいおい、お役人さん』
G5イグアスのヘッドブリンガーが、悠然と銃口を向けていた。
その背後には、被弾したのか黒煙を撒き散らしながら膝をつくエリオットのLC機体がある。
『戦場で拾い物に夢中になっちゃ、ダメだろ?』
次弾装填を終え、空になったマガジンが投げ捨てられる。
『いや、いいぜ。続けな?俺はお前がそのオモチャで遊び飽きるまで待ってやるよ」
イグアスは、楽しげに笑った。
621は、一瞬だけパルスブレードを見つめ――
そして、収めた。
次の瞬間、621のLC機体がスラスターを吹かし、ヘッドブリンガーの迎撃に向けて跳躍した。
バシュン――!
薄緑の刃が閃いた。
G5イグアスのヘッドブリンガーは、間一髪のところで後退する。
LC機体の機動力を活かし、621は跳躍と同時にパルスブレードを振るった。
しかし――
『ははっ、遅ぇよ、お役人さん!』
イグアスのヘッドブリンガーが、即座にカウンター射撃を開始する。
リニアライフルの砲撃がLC機体の装甲をかすめ、機体のバランスを崩す。
ガガン――!
621はブースト制御で即座に姿勢を立て直し、ヘッドブリンガーの懐へと潜り込む。
再び、パルスブレードを振るう――だが、届かない。
621のLC機体が振るうには、刀身が短すぎる。
AC用のパルスブレードは、AC同士の戦闘を前提とした設計だ。
LCの機体スケールに対して、振るう際のリーチが圧倒的に足りていない。
接近戦の間合いに入っても、刃が届かずに空を切る。
イグアスはそれを見て、愉快そうに笑った。
『おいおい、何遊んでやがる』
それに気づいた。
621は、即座にパルスブレードの設定を開く。
エネルギー出力を確認し、刃の形成領域を拡張する。
カチ、カチ――
HUD上の刃の長さが微調整され、薄緑のエネルギーフィールドが広がった。
LC用に最適化するため、出力を適正化し、刀身のリーチを倍近くまで引き伸ばす。
シュウン――!
621は、試しに再び振るう。
シュンッ――!
刃の軌跡が、これまでよりも遥かに広範囲に展開された。
エネルギー出力の最適化により、LCのスケールで実用に足る攻撃範囲を確保する。
『……』
621の視線が、新しい玩具を試す興味と探究心で光る。
彼女は、即座に加速した。
獲物を狩る猟犬のように。
イグアスのヘッドブリンガーが、即座に射撃を開始する。
四連装ミサイルが噴煙を上げ、マシンガンの銃撃がLC機体の進路を塞ぐ。
しかし、621の動きは機械的な計算ではなく、本能的な”狩り”だった。
ミサイルの追尾をギリギリまで引きつけ、寸前で急角度のブースト回避。
射線の外に出た瞬間に、高速ジャンプで上方から切り込む。
『なっ――!』
イグアスの反応が一瞬遅れる。
次の瞬間――
バシュン――!!
薄緑の刃が、ヘッドブリンガーの装甲を切り裂いた。
盾を構えていたはずのヘッドブリンガーのパルスシールドが、ブレードのパルスと相干渉し、中和され砕け散った。
『ッ!? ひよっこのパルスブレードか!やりやがったな!」』
イグアスが咄嗟に距離を取るが、彼女のLC機体は獲物を逃がす気はなかった。
新しい“おもちゃ”――最適化されたパルスブレードを手にした彼女は、まるで狩りを覚えたばかりの獣のように、攻撃を繰り返すことに執着していた。
ヘッドブリンガーのパルスシールドはブレードとの相干渉によりすでに意味をなさず、盾を頼みにした防御戦術が崩壊している。イグアスは常にLC機体の高速ブーストを警戒しながら、ギリギリの距離を維持しようとするが、それも時間の問題だった。
621は、一度捕らえた獲物を決して逃がさない。
『くそっ……しつけぇぞ、お役人!』
イグアスのヘッドブリンガーが急上昇し、ミサイルを牽制射撃として放つ。
炸裂する弾頭が空間を支配し、視界を炎と煙で埋め尽くす。
しかし、621はまるで煙など存在しないかのように、精密な動きで弾幕を掻い潜り、ブーストの軌跡を閃光のように描きながら急接近する。
『また来るか……!』
イグアスはとっさにリニアライフルを構え、迎撃のための射撃を開始。
621の動きは完全に読まれている――
だが、それを知ったところで、防げるとは限らない。
ブシュン――!
パルスブレードが、ヘッドブリンガーの左肩を貫いた。
『ちっ……!』
ブーストの機動力をフル活用し、斬撃と同時に角度を変えながら空間を舞う621。
その動きは、ただのLC機体の挙動ではなかった。
むしろ、これは獣の動きだった。
敵の反応を見極め、視界外から襲いかかる捕食者の狩り。
猟犬のように執拗に、何度も何度も追撃を加え、仕留めるまで絶対に止まらない。
『野郎……! いい加減、距離を取らせろッ!』
イグアスは強引にブースターを吹かし、621との間に間合いを開こうとする。
621のLCが、一瞬、動きを止めた。
次の瞬間――
シュン――!!
今度は、別方向からのENライフルによる射撃がヘッドブリンガーの進路を塞いだ。
『……は?』
イグアスの疑問が生じた瞬間――
『悪い!被弾して姿勢制御がダメになっちまってな、遅れたが合流する!』
被弾から復帰したエリオットのLCが猛然と割り込んできた。
彼の機体は片側の装甲が削れ、機体バランスがやや崩れている。しかし、それでも機能は生きており、戦闘には十分対応できる状態だ。
イグアスの逃げ道は、もうなかった。