ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第15話 決着

 爆炎が吹き荒れるストライダーの甲板。薄緑のパルスブレードの軌跡が、獲物を追い詰める猟犬の牙のように輝いていた。

 

 G5イグアスのヘッドブリンガーは、すでに満身創痍だった。

 

 四連装ミサイルの残弾は尽き、パルスシールドはブレードとの相干渉で無力化。リニアライフルとマシンガンだけでLC二機を相手取るのは、もはや無謀な状況だった。

 

 しかし――

 

『役人どもが、調子に乗るんじゃねえ!』

 

 ヘッドブリンガーはなおも戦い続けていた。

 

 621とエリオットの二機による猛攻を受け、損傷は深刻だったが、それでもイグアスは粘りに粘っていた。

 

 リニアライフルの弾丸が621の機体を掠める。マシンガンの掃射が、エリオットのシールドを削り取る。決して無駄な攻撃ではない。イグアスの戦闘技術は、レッドガン部隊の番号付きに恥じぬものだった。

 

 戦場で培った経験、練り上げた技量、瞬時の判断力――すべてを駆使し、徹底的に隙を作らない立ち回りを続けていた。

 

 もし彼の相手が、単独のLCだったなら。

 

 あるいは、彼はこの局面を覆していたかもしれない。

 

 しかし――

 

『……チッ』

 

 数的不利、相性不利。

 

 どれほどの実力があろうと、戦場の理は非情だった。

 

 621のパルスブレードが再び振るわれる。

 

 バシュン――!!

 

ヘッドブリンガーの装甲が、さらに深く裂ける。

 

 ブースターが炎を噴き上げ、スラスターの推力が低下。

 

 『……くそっ……!』

 

 イグアスは即座に反撃を試みた。

 

 だが――

 

『終わりだ、イグアス』

 

 エリオットのライフルが、ヘッドブリンガーの膝関節を撃ち抜いた。

 

 ガン――!!

 

 関節部に直撃したエネルギー弾が炸裂し、機体のバランスが崩れる。

 

 スラスターはすでに限界。推力が足りず、イグアスの機体は踏ん張ることすら叶わなかった。

 

 ガタガタと揺れながら、ヘッドブリンガーの膝が折れる。

 

『……チッ、立て、クソが……!』

 

 イグアスはスラスターを最大出力にする。

 

 だが、もはや機体は応じなかった。

 

 ストライダーの甲板の上で、戦場の覇者たるACが、LCに屈した。

 G5イグアスのヘッドブリンガーは、もはや立ち上がることができず、半壊した機体の膝をついたまま、かすかに蒸気を吹き上げていた。

 

 各地でも、戦闘は終わりを迎えつつあった。

 

『各戦線、戦況報告を』

 

 グレイ執行上尉が、戦場全体の状況を整理すべく、各地に無線を送信し報告を求めた。

 

『レッドガン部隊、各地で敗走を続けています。現在、G5を含む複数の番号付きエースが戦闘不能、もしくは撤退を開始』

 

『ストライダー周辺では、執行部隊が完全に制圧。生存した敵機体の大半が投降を表明』

 

ストライダー周辺の解放戦線の残党は、すでに壊滅していた。

 その後を追うように、レッドガン部隊も続々と敗北し、戦線の崩壊が始まっていた。

 

『……ついに、追い詰めたか』

 

 エリオットが小さく息を吐き、投降した敵機のデータを確認する。

 

『レッドガンの連中、最後まで足掻くと思ってたが……結局は企業兵か』

 

 通信チャンネルには、続々とベイラム部隊のパイロットたちが投降の意思を示す報告が流れてくる。

 戦場に響いていた激しい砲火の音が、徐々に静まり始めていた。

 

 戦場全体の戦闘が収束する。

 

 ベイラムの戦力は、封鎖機構の圧倒的な戦力の前に、もはや抵抗を続けることができなくなっていた。

 次々と赤い機体反応が投降の意思を示し、武装を解除していく。

 

 その中で、最後まで抗おうとしたイグアスも――ついに、投降。

 

『……おい621、こいつを回収するぞ』

 

 エリオットが通信を入れる。

 

 621は無言で、目の前の膝をついたヘッドブリンガーを見つめていた。

 まるで、それをまだ”壊して”もいいのかどうか、考えているかのように。

 

『……もう終わりだ、621』

 

エリオットの静かな言葉に、621は数秒遅れて機体を引いた。

 

 パルスブレードを収める。

 

 カチ――

 

 また、カチ――

 

 何度か、収める。抜く。また、収める。

 

 やがて、621の機体はゆっくりと戦闘態勢を解除した。

 

 

 

 

 

 

 惑星封鎖機構、軌道衛星基地。

 

 冷たい金属の床が続く通路を、イグアスは堂々と歩いていた。

 

 足元の拘束具はない。監視兵に付き添われることもない。

 白とグレーを基調とした無機質な施設の中で、彼はまるで、もともとここに所属していたかのように悠然と振る舞っていた。

 

 封鎖機構の執行部隊が手配した厳重な「戦犯拘束区域」――ではなく、普通に基地の一般エリアに滞在することを許されていた。

 

「……いいご身分じゃねえか」

 

 すれ違った封鎖機構の士官が、忌々しげに吐き捨てる。

 それに、イグアスは軽く肩をすくめた。

 

「そうカリカリすんなよ。俺たち企業兵ってのは、金さえ払えばすぐにお役御免なんでね」

 

 レッドガン部隊――すなわち、ベイラム・インダストリーの精鋭ACパイロットたちは、莫大な「保釈金」を支払うことで、速やかに「釈放」されることになった。

 

 封鎖機構としては、彼らを戦犯として正式に裁く道もあった。

 だが、現実問題として、それはあまりにも手間がかかる上に、企業側の政治的圧力や法的な抜け道によって、長引けば長引くほど企業にとって有利な形で決着がつく可能性が高い。

 

 そのため――

 

 多額の保釈金と交換に、企業兵たちは「迎え」が来るまでの間、基地内での滞在を許可された。

 

「お偉いさんの間じゃ、これを『超法規的処置』って言うらしいぜ?」

 

 イグアスは苦笑しながら、袖をまくり、疲れた肩を回す。

 

 戦場で散々動いたせいで、まだ体の奥に戦闘の余韻が残っている。

 だが、もうここでは戦う理由も、敵もいない。

 

 武装解除された彼は、今や「基地の客人」として、何の制約もなく自由に歩き回ることを許されていた。

 

「さて……どこ行った?」

 

 イグアスはポケットに手を突っ込み、辺りを見回す。

 目当ての人物を探している。

 

 ――621。

 

 戦場で唯一、自分を圧倒したLCパイロット。

 あの妙な女。

 

 あの戦闘中、彼女の動きは完全に捕食者のそれだった。

 理知的な判断ではなく、純粋な「狩猟本能」に従ったような動き。

 

 しかも、最後の最後で見せた、あの無邪気な反応――。

 

 パルスブレードを収め、また抜く。

 収めて、また抜く。

 まるで新しい「おもちゃ」を与えられた子供のように。

 

 戦場で命を懸けて戦っていたはずの相手が、戦いの最中にそんな反応を見せた。

 そして、それは彼女が純粋に楽しんでいたことの証左だった。

 

 だからこそ、イグアスは――興味を持った。

 

 あの女が何者なのか、どういう思考回路を持っているのか。

 そして、自分と同じ「戦争漬けの強化人間」が、あんな風になることがあり得るのか。

 

「……さて、会いに行くか」

 

 彼は軽く足を鳴らし、基地の通路を歩き出した。

 

軌道衛星基地の各所には、執行部隊のLCパイロットたちが散見される。

 彼らは皆、レッドガン部隊の敗残兵たちを睨みつけるような視線を送っていた。

 

 が、イグアスは全く気にしない。

 気にする必要もない。

 

 この基地内での自分の「身分」は既に保証されている。

 文句があるなら、保釈金を受け取ったお偉いさんにでも言えばいい。

 

「さて……621はどこだ?」

 

 基地の配置図はすでに頭に入っている。

 彼女がいそうな場所をいくつか当たりながら、適当に歩いていく。

 

 医療区画――不在。

 シュミレーター施設――不在。

 格納庫――不在。

 

 戦闘データの解析室にも、彼女の姿はなかった。

 

 だが、どこかにはいるはずだ。

 621は、必ずどこかにいる。

 

 そう確信しながら、彼は歩き続けた。

 

 そして――

 

 ふと、通路の奥で、車椅子に座る白髪の少女を見つけた。

 

 LCパイロット用の軽量スーツを着たまま、端末の画面を無表情に見つめている。

 彼女の視線は僅かに揺れ、モニターに映る何かをひたすら見つめていた。

 

 621――。

 

「よう、お役人さん」

 

 イグアスは軽く笑い、片手をポケットに突っ込んだまま、ゆっくりと近づいていった。

 

「戦場じゃ散々追い回してくれたが……あんた、こんなところで何してんだ?」

 

 621は、端末の画面から視線を上げ、ゆっくりとイグアスを見た。

 

 その目には――何の感情も宿っていないように見えた。

 

 

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