ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第16話 再会

 無機質な白い照明が淡々と床を照らす中、621は車椅子に座ったまま、手元の端末をじっと見つめていた。

 

 ベイラム・インダストリー発行の電子雑誌。

 企業PRを兼ねた広報誌であり、その最新号には、大きく「レッドガン特集」のタイトルが踊っている。

 

 見出しには、こうある。

 

【ベイラム最強の矛――赤き戦士たち】

【狂犬、G5イグアスの闘争哲学】

【レッドガン番号付きパイロットたちが語る、「最強部隊」の実態】

 

 621は、無表情のまま画面を見つめていたが、その視線は微かに焦点が合っていないようにも見えた。彼女がこの雑誌を読むのは、純粋な好奇心というより、自分が倒した相手がどういう人間なのか、理解しようとしているようだった。だがそれはあくまでも機械的で、人間としての感情からは切り離された観察にすぎなかった。

 

 特集の冒頭には、レッドガン部隊の紹介が載っていた。

 ベイラムが誇る精鋭AC部隊。企業の威信を背負い、幾度も戦場で勝利を収めてきたエースパイロットたち。

 

 掲載された写真には、数々のレッドガン所属ACの機体が映っている。

 その中には、つい先日まで戦っていたG5イグアスのヘッドブリンガーの姿もあった。

 

「よう、お役人さん」

 

 突然、すぐ近くで軽快な声が響いた。

 

 621は視線を上げる。

 そこには、レッドガン特集の主役――G5イグアス本人が、立っていた。

 

「戦場じゃ散々追い回してくれたが……あんた、こんなところで何してんだ?」  

 

 イグアスはポケットに片手を突っ込みながら、にやりと笑っていた。

 

「まさか、俺の特集記事なんか読んでんのか?」

 

 621は無言のまま、端末の画面を指でタップする。

 ちょうどイグアスのインタビュー部分が表示されていた。

 

 画面上のテキストには、こんな言葉が並んでいる。

 

《G5イグアス:「戦場で生き残るのは、強い奴だけだ。俺はそれを証明し続けてる。それが、レッドガンの流儀よ」》

 

 それを目にした瞬間、イグアスは鼻高々に笑った。

 

「おいおい、嬉しいねぇ。俺をブチのめした役人さんが、俺の記事なんか読んでるとはな」

 

 彼は自分の紹介記事を指さしながら、軽く肩をすくめる。

 

「いいだろ?これが『本物の戦士』の哲学ってやつだ。読んで勉強してくれよ、お役人さん」

 

彼は得意げな表情で621を見下ろす。

 戦場では完敗したが、少なくともこの「知名度」と「実績」では、自分の方が上だという自負があった。

 

 621が何も言わないことも、イグアスには「認めざるを得ない」という沈黙に聞こえた。

 

「で、どうだったよ?俺の記事、サインしてやろうか」

 

 そう言って、イグアスは腕を組む。

 

 621は、ようやく小さく瞬きをし――

 

 端末の画面を、次のページへと切り替えた。

 

 そこには、別のレッドガンパイロットの紹介が載っている。

 イグアスではなく、G2、G3クラスのエースたちの戦歴が並んでいた。

 

「……」

 

 621は興味なさそうに、それを読み始めた。

 

「……おい、スルーかよ?」

 

 イグアスの眉がピクリと動く。

 

 まさかの反応だった。

 自分の記事を読んでいたはずなのに、質問するとスルー。

 しかも、より上位ランクのレッドガン隊員の記事に目を移すとは――

 

「……テメェ、俺よりG2とかG3に興味あんのか?」

 

 イグアスは微妙に不機嫌そうに言う。

 

 だが、621は変わらず無表情のまま、指を滑らせて記事を読んでいた。

 

 彼は腕を組み、軽く舌打ちした。

 負けた相手に興味を持たれないのは、プライドを傷つけられる。

 

 しかし、それ以上に――戦場で戦った相手に対して、ここまで無頓着な態度を取れる621の異常性に、どこか違和感を覚えた。

 

 戦場でやり合った相手にここまで無関心とは、こいつは本当に生きた人間なのか?

 

 イグアスは笑みを浮かべながらも、内心では苛立ちを隠せなかった。戦場で完全敗北を喫した相手に、無視されるのは彼のプライドを強く刺激した。彼は自分の強さを自負している。にもかかわらず、この小柄な『役人』の女は、自分をまるで路傍の石ころのように扱う。その態度がイグアスの神経を逆なでしていた

 

「……ああ、そういや、お前に言っとくことがあったな」

 

 不意に思い出したように、イグアスは鼻を鳴らした。

 

 621は無言のまま、視線をわずかに持ち上げる。

 

 イグアスはポケットに突っ込んでいた手を出し、雑に振った。

 

 

「ひよっこ……G13の野郎、まだ生きてたぜ」

 

 その言葉に、621の指が一瞬だけ動きを止める。

 

「もっとも、もうAC乗りとしては終わりだがな」

 

 そう言って、イグアスは口の端を歪める。

 

「神経系がダメになったらしい。補助装置がなきゃ日常生活すらままならねぇってよ。最新世代の強化人間化手術を受け直せば、もしかしたら復帰出来るかもだが……そんな不確定な手術にベイラムは金を出してはくれねえらしい」

 

 淡々とした口調だった。そこに同情の色は一切ない。

 

 ただの「敗者」の末路として、当然のように語る。

 

「ま、G13なんて番号の時点で、縁起が悪かったって話だな。このナンバーは早死にするってジンクスだからよ、生きてるだけ儲けもんだ」

 

 イグアスは肩をすくめ、G13のことをあっさり忘れたように、再び621に向き直った。

 

「ま、あんなひよっこどうでもいいさ……それよりよ」

 

 彼はわざとらしくにやけ顔を作り、ゆっくりと621に近づいてきた。621は、端末から顔を上げてじっと彼を見返す。

 

「お役人さんよ、今度はいつ、俺と遊んでくれんだ? 戦場での借りは、たっぷり返してやりたいと思ってんだがなぁ?」

 

 イグアスの言葉には、挑発とともに、戦闘では見せなかった妙な馴れ馴れしさが混じっていた。

 

 だが、その時だった。

 

「おいおい、そこでストップだ」

 

 横から割り込むように、エリオットの声がした。

 

 彼は腕を組みながらイグアスの前に立ちふさがる。

 

「アンタが勝手に基地内をウロウロするのは認められてるが、俺の相棒にちょっかい出すのは許可してねえぞ」

 

 イグアスは舌打ちしながら、エリオットを見下ろした。

 

「邪魔すんなよ。俺はお役人さんと仲良くしたいだけだぜ?」

 

「悪いが、ウチの621はお前みたいなタイプと仲良くする趣味はねぇんだ」

 

 エリオットは軽く鼻で笑うように、イグアスを見返した。

 

「さあさ、犬は犬らしく、檻で大人しくしとけよ。そろそろ迎えが来るんじゃねえのか?」

 

 イグアスの眉がピクリと動き、表情が険しくなったが、やがてふっと力を抜き、口の端を歪めた。

 

「……チッ、仕方ねえな。邪魔が入ったみたいだ」

 

 彼は再び621を一瞥すると、手をひらひらと振りながら去っていった。

 

「またな、お役人さん。次は誰にも邪魔させねぇぜ」

 

 621は無表情のままそれを見送ると、エリオットへと視線を戻した。エリオットは肩をすくめて言った。

 

「やれやれ、世話が焼けるな」

 

 イグアスの背中が見えなくなったのを確認してから、エリオットはゆっくりと621に向き直った。

 

「で、何読んでたんだよ、さっきから」

 

 621の端末を覗き込むようにして、エリオットは眉をひそめる。

 

「なになに……『自殺の予定がある者だけ付いてこい〜歩く地獄 G1ミシガン〜』お前、変な記事ばっか読むな!よりにもよってレッドガンの前で!」

 

 621は無表情のまま、小さく肩をすくめた。

 

「敵を知るってことか? それにしても、ベイラムのクソ野郎共の記事なんか読んだって意味ねえだろ」

 

 エリオットはため息をつきながら言った。

 

「あんな奴らの言葉に触れてると、悪影響受けるぞ。お前はただでさえ……ちょっとアレなんだから」

 

621が静かに視線を向ける。エリオットは慌てて言葉を変えた。

 

「いや、その……気にすんな。要はあれだ、ああいうのを読むと、無駄な思想を植え付けられるってことだ。イグアスみたいな『戦争狂』にはなるなよ」

 

 彼は頭を掻き、軽く笑った。

 

「ま、俺が横で見張っとくから、安心してくれ」

 

 エリオットがそう言った瞬間、621は僅かに彼を見上げた。その視線には、微かにだが安心感のようなものが宿っているようにも見えた。エリオットはそんな621の表情を見逃さず、小さく苦笑した。

 

「やれやれ……まったく、世話が焼けるな」

 

 無機質な照明の下、ふたりの影が静かに床に伸びていた。

 

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