ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第18話 鉄霞

 ルビコン3上空、封鎖機構強襲艦内部

 

 強襲艦の艦内は、出撃を控えたLC部隊の待機エリア特有の静かな緊張感に包まれていた。機体整備の機械音がわずかに響き、パイロットたちはそれぞれの方法で戦闘前の時間を過ごしている。

 

 誰もが、これから始まる戦いの苛烈さを理解していた。

 

 「壁越え」――解放戦線の要塞を攻略する作戦。

 

 成功すれば、解放戦線の戦力は壊滅的な打撃を受け、抵抗戦力は一気に減殺する、だが、それは同時に要塞側の死に物狂いの抵抗を受けることを意味していた。

 

 LC部隊のパイロットたちの表情は、皆一様に固い。ある者はコックピットに座り、武装システムのチェックを繰り返し、またある者はヘルメットを手に持ったまま深く考え込んでいた。

 

 しかし――

 

 621は、ただ一人、静かにシミュレーションを続けていた。

 

『メインシステム、訓練モード起動』

 

 コックピットのスクリーンには、仮想戦場の映像が映し出される。

 

 架空の戦場。敵機が複数出現する。

 

 621は一瞬の迷いもなく、機体を加速させた。

 

 「壁越え」の戦闘を想定したシミュレーション。

 

 解放戦線の機体を模した仮想敵ACが次々と現れ、彼女のLC機体に攻撃を仕掛ける。ミサイルの軌道、ビームの散布、遮蔽物の配置――全てのデータがリアルに再現されていた。

 

 621は、反射的にブーストを吹かし、回避行動を取りながら反撃する。

 

 ENライフルを放つ。

 

 ヒット。

 

 仮想敵の装甲が融解し、即座に次の動きに移る。

 

 621の操作には、無駄な動きが一切なかった。

 

 淡々と、正確に、確実に敵を仕留めていく。

 

 戦場のノイズが鳴り響く。

 

 『敵機撃破』

 

 次の敵が出現する。

 

 再び、迎撃。

 

 『敵機撃破』

 

 また次。

 

 そしてまた次――

 

 彼女は何時間でも、いや、それ以上に、ただ黙々とこの動作を繰り返していた。

 

「あいつ……」

 

 エリオットは、自機のLCに腰掛けながら、隣の621の機体をちらりと見た。

 

 シミュレーターの画面がひっきりなしに稼働している。

 

 通常のパイロットなら、戦闘前の時間は精神を整えるために静かに過ごすものだ。考えを整理し、集中を高め、余計な疲労を避けるために無理はしない。

 

 だが、621は違った。

 

 待機中ですら、戦うことしかしていない。

 

 彼女はまるで機械のように、延々とシミュレーションを繰り返している。

 

「……お前なぁ」

 

 エリオットは、呆れたように息を吐く。

 

「ずっとそれやってるのかよ?」

 

 もちろん、返事はない。

 

 621はただ画面を見つめ、機体を操作し続ける。

 

 エリオットは軽く頭を掻きながら、ふっと笑った。

 

「……ま、らしいっちゃらしいけどな」

 

 彼はもう何度も621の戦い方を見てきた。戦場でも、訓練でも、そして今も。

 

 彼女は、何かを証明しようとしているのか。

 

 それとも、ただそうすることしか知らないのか。

 

 エリオットには、それがどちらなのか分からなかった。

 

 だが、一つだけ確信していることがあった。

 

 この「壁越え」でも、621は間違いなく戦い抜く。

 

 そしてまた、確実に敵を屠る。

 

「お前が無事に帰ってくるって前提で話すけどさ」

 

 彼はシートに身を預けながら、苦笑混じりに呟いた。

 

「作戦が終わったら、また新しい電子雑誌でも送ってやるよ」

 

 LC機体のシミュレーションスクリーンが、再び敵機の出現を告げる。

 

 621は、何の躊躇もなく照準を定め、トリガーを引いた――その瞬間。

 

 ドン――!!

 

 突如として、強襲艦が激しく揺れた。

 

「何だッ!? 何が起きた!!」

 

 整備士の叫びが艦内に響く。

 

 格納庫の照明が一瞬暗転し、次の瞬間、警報音が甲高く鳴り響いた。

 

「強襲艦、被弾! 被弾! 右舷側に直撃!」

 

「出力低下! 早すぎる、いったい何が……!」

 

 ルビコン3大気圏外にいる強襲艦を攻撃できる手段は限られている。地上の解放戦線には、ストライダーが撃墜された今、対宇宙戦能力を持つ兵器は存在しないはずだった。

 

 それなのに、今、強襲艦は何者かの攻撃を受けている。

 

「おい、まさか地上からの砲撃か!?」

 

「ありえん! 解放戦線にそんな火力は残されていない!ここは大気圏外だぞ!」

 

「じゃあ何だ!? 何が撃ってきている!?」

 

エリオットが素早くコックピットの通信を繋ぐ。

 

「621、聞こえてるか? 敵の攻撃だ、用意しとけ」

 

「……」

 

 621は静かに、シミュレーションを中断。端末を操作して、艦内ネットワークに接続した。

 

強襲艦の外部カメラがその「影」を捉える。

 

 宇宙の闇の中を切り裂くように、一機のACが高速で接近していた。

 

 全体的にシャープかつ攻撃的な印象のパーツを全身に採用した、鉄紺色の軽量二脚AC。狼を思わせる特徴的なヘッドパーツが、太陽光を受け静かに輝く。

 

 未確認ACは、まるで重力など存在しないかのように宙を駆け、鋭い軌道で強襲艦へと肉薄する。

 

 その捉え所の無い動きは、まさに鉄の霞――

 

 まるで、人間の感覚を超えた存在のようだった。

 

 強襲艦が慌てて対空砲を展開する。

 

 しかし――

 

 そのACは、一瞬にして視界から消えた。

 

「――ッ!? どこに行った!?」

 

 次の瞬間――

 

 轟音と共に、強襲艦の装甲が裂けた。

 

 鮮やかな青い光刃が、強襲艦の外殻を一閃し、衝撃で艦全体が揺れる。

 

ドン――!!

 

 今度は機関部を損傷したのか、艦内灯火が赤色に代わり、焦燥感を煽る様なアラートが鳴り響く。

 

「――緊急出撃だ!!」

 

 執行部隊の指揮官、グレイ執行上尉が怒鳴るように命令を発した。

 

「全部隊、即時出撃! 艦の周囲を固め、敵ACの撃破を最優先せよ!」

 

 照明が赤く点滅し、格納庫内の整備員たちが一斉に作業を中断して後退する。格納庫の大型シャッターが開かれ、出撃シークエンスが始まる。

 

 各機のスラスターが点火され、甲高い轟音が格納庫に響き渡った。

 執行部隊のLCたちが、一機また一機と発艦していく。

 

「621!予定より早いが出番だ!」

 

 621は静かに「了解」と信号を送り、出撃シークエンスを開始した。

 

 

 

 

 

 

 ルビコン3上空、大気圏外。

 

 漆黒の宇宙に、強襲艦から発進したLC部隊が散開する。

 

『コード5!敵機確認! 未確認AC、正面12時方向!』

 

『攻撃を開始する! 各機、間隔を維持しろ!』

 

 LCの先行部隊がENライフルを放つ。

 

 しかし――

 

『なっ……!』

 

 そのACは、驚異的な機動力でエネルギー弾を回避した。

 

 機体の挙動は人間の限界を超えた動きだった。まるで、最適な軌道をすでに計算していたかのように、微塵の躊躇もなく最短の回避行動を取る。

 

 LCの一機が、突如として粉砕された。

 

 未確認ACが構えるのは――レーザースライサー。

 

 敵機体は青い光の刃を高速回転させながら、LCの装甲を紙のように切り裂いていた。

 

 続け様に未確認ACは反対の手に構えていたニードルガンを発砲。

 杭のような弾丸が、高速でLC機の装甲を貫通する。

 

 『こいつ、本当に有人か!?どういう動きしてやがる……!』

 

 戦場は一瞬で混乱に陥る。

 リロードの隙に距離を詰めようにも、未確認ACの展開する実弾オービットの弾幕によって思う様には近付けないでいた。

 

 まるで、どこへ逃げても逃げ道がないかのような、完璧な弾幕。

 

 そして、その隙を突くように、未確認AC自身が間合いを詰めた。

 

 レーザースライサーが、LCの胴体を一閃する。

 

『コード78!支援を!このままじゃ……!』

 

 わずか数十秒の間に、執行部隊のLCが次々と沈黙していく。

 

『すごいな、あいつ。執行部隊が雑兵扱いだ……』

 

 エリオットの顔が険しくなる。

 

 一方、621は冷静に未確認ACのスキャンデータを分析していた。

 

 ――敵機の挙動、武装、軌道パターン、そして621自身の経験や知識。

 

 機体システムが瞬時にデータ解析を開始する。

 通常のACでは不可能なほどの精密な動きを見せるこの敵機。

 それが何者なのか――彼女はまず、それを知る必要があった。

 

 未確認ACの外装は、徹底的に改変されている。

 機体は鈍く輝く鉄紺に統一され、企業ロゴも一切削除。

 パーツのナンバーすら消され、どこの企業が開発したものなのかも判別できない。

 

 まるで、誰かに意図的に”出自”を消された機体のようだった。

 

 しかし――

 

「……」

 

 621の視線が、敵機の特定部位を捉える。

 

 未確認ACの四肢の関節部、装甲の構成、リアスラスターの形状。

 そこに、彼女は見覚えのある設計思想を見出した。

 

 機体の各部はまるで職人が手掛けたかの様に精巧な調整が施され、高速戦闘を重視した構造になっている。

 機体のセンサー類はフレームはファーロンダイナミクスの技術によく似ていた。

 特にリアスラスターの配置――これはシュナイダー製ACに多く見られる特有のもの。

 

 だが、ファーロンやシュナイダーの機体とは違い、パーツ一つ一つに至るまでまるで職人が一から手掛けたかのような芸術的な鋳造、いや……鍛造部品。

 

「……エルカノ」

 

『え?ん?え、なんだって?今の誰が言った?』

 

 621は素早く端末を操作し、ルビコン現地企業エルカノのデータを共有するネットワークに送信する。

 

 エルカノは、ルビコン3に根を張る企業のひとつ。

 惑星封鎖の影響で大規模な技術投資は難しかったが、それでも彼らは独自の技術開発を続けていた。

 

 パーツ一つ一つを鍛造によって造り上げる狂気の作業工程、執拗なまでに軽さと硬さの両立に拘った芸術的なACの数々。

 

 621はブースターを最大出力に引き上げ、一気に未確認ACの元へと飛び込んだ。

 

『621!?そうか、何か掴んだんだな!』

 

 エルカノは素晴らしい企業だ。惑星封鎖の中にあっても決して折れず、自らの企業理念を貫き通し続けた。職人による狂気の作業工程を守り抜いた。

 

 故に、故に――生じた歪みを、猟犬は見逃さない。

 

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