ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜 作:助兵衛
強襲艦の船体が激しく揺れる中、621はLCのブースターを全開にし、一気に未確認ACへと飛び出した。
『621!気を付けろ!中々やるぞあいつ!』
エリオットの警告が通信越しに飛んできたが、621は無言のまま加速を続けた。敵ACとの距離が急速に縮まる。背後でエリオットが未確認ACへと射撃を仕掛けるが――
シュンッ!
未確認ACは、まるで事前に攻撃パターンを予測していたかのように動き、スラスターを瞬時に噴かして軌道を変えた。射撃はすべて空を切り、敵ACは一切のダメージを受けていない。
「……」
621は即座に敵機の動きを計算し、パルスブレードを展開する、ブースターを最大出力に引き上げ、未確認ACへと切り込んだ。
未確認ACは即座に迎撃の態勢を取る。光刃を高速回転させるレーザースライサーが振るわれ、621のパルスブレードと激突する。
ギィィィン――!
エネルギー同士がぶつかり合い、閃光と火花が宇宙に散る。
しかし、621は後退しない。
一撃を受け止めたまま、機体を捻りながらさらなる追撃を仕掛けた。
未確認ACは僅かに後ずさる。
おかしい。
敵ACは、驚異的な回避能力を誇るはずだった。
一撃で相手を沈める圧倒的な火力と機動力を持っていた。
しかし、今――
近接戦闘が続くにつれ、その動きが微妙に鈍り始める。
621は、敵機の挙動にわずかな違和感を感じ取っていた。
――このACのパイロットは近接戦闘を好んでいる。武装は全て射程距離が短く、フィニッシュは殆どがレーザースライサー。
――だが、それに適した機体の最適化がされていない。特に腕部パーツは、近接戦闘には全く不向きなのかレーザースライサーを振るう度、微かに軋んでさえいた。
621の目が鋭くなる。
このACは本来、適切な距離を取る戦闘――所謂引き撃ちが最も強みを活かせる機体だ。
にも関わらず、戦法は徹底した近接戦闘。
パイロットの好みと、機体のアセンブルが噛み合っていない。
あるいは――
621は再びブースターを吹かし、間合いをゼロにする。
敵ACが回避しようとする――だが、今までのように完璧な動きではない。
確信を持って攻撃のペースを上げる。
621はわざと敵の攻撃をギリギリで避けることで、未確認ACに連続して斬撃を振るわせる。
そして――
未確認ACの動きが、さらに鈍くなった。
『どうなっているんだ?まさか』
エリオットも同じ違和感に気付いたらしく、怪訝な声が無線に漏れる。
未確認ACは、ひたすらにレーザースライサーを振るい続けた。
その攻撃は依然として凄まじい破壊力を持っていたが、動きに違和感がある。腕部の駆動系が軋み、スラスターの噴射が均一ではなくなっていた。
――限界が近い。
621は確信する。
この機体は、長時間の近接戦闘を想定していない。
装甲と出力は優れているが、各パーツの調整が完璧ではなく、継戦能力が著しく低い。
今までの戦闘は、すべて瞬殺だった。
だが、長引く戦闘では、機体そのものが耐えられない。
これほどの操縦技術を持つパイロットならば、本来は戦闘の最中に最適化を行えるのだろう――しかし。
ガギィィィン――!!
未確認ACの腕が激しく震えた。
レーザースライサーを振るうたびに負荷がかかり、ついに駆動系が悲鳴を上げる。
そしてついに、未確認ACの左腕が裂けた。
機関部の接合が耐えきれず、腕部のフレームが分解し、レーザースライサーが宙を舞う。
だが、それでも未確認ACは怯まない。
肘から先が消失した左腕を振り上げ、存在しないレーザースライサーで621を切り刻もうとする。
しかし、その時にはすでに621のブレードが振り下ろされていた。
胸部装甲の隙間に――
刃を突き立てる。
パルスブレードが、未確認ACのコアユニットを貫いた。
エネルギーの迸る衝撃が宇宙に閃光を走らせる。
――終わった。
敵は機能停止するはずだった。
だが。
未確認ACは、止まらなかった。
コアを貫かれてなお、頭部センサーが輝き、胴体が微かに動き続ける。
『621!気を付けろ、そいつは……無人機だ』
この機体はパイロットの意思ではなく、事前に設定された戦闘パターンでのみ動いている。
だから、どれだけ機体の負荷が蓄積されようと、行動を止めることはない。
完全に制御不能になるまで、設定された戦闘動作を繰り返すだけの”人形”。
恐らくは、腕の立つ実在パイロットの戦闘データを再現するだけの存在だった。
621は、なおも動こうとする未確認ACを前に、一瞬の静寂を感じ取る。
――確実に止めを刺す。
そう思い、パルスブレードをさらに深く押し込み、完全にコアを破壊しようとした、その時――敵機体が、異常な振動を始める。
コアを貫かれてなお、未確認ACは停止しなかった。
代わりに――背部ユニットが異常なまでに発光し、機体のエネルギー放出量が急激に上昇する。
コクピットのセンサーが、異常なエネルギーシグナルを感知し、警告音を鳴らす。
「……621!距離を取れ!」
エリオットの声が無線に響く。
次の瞬間――
閃光が爆発する。
強烈なEN波が周囲に広がり、621のLC機体が衝撃波に飲み込まれた。
621は咄嗟にブースターを吹かし、直撃を避けようとする。
だが、あまりにも至近距離だった。
621のLCは、アサルトアーマーの爆風に飲み込まれ、コクピットが警告音に包まれる。
621は、ぎりぎりのタイミングで機体を後退させ、態勢を立て直した。
しかし、その隙に――
未確認ACは、ブースターを最大出力にし、凄まじい加速で宇宙の闇へと飛び去った。
621は直ちに機体を追尾させようとしたが、アサルトアーマーの余波によってスラスターの制御が一瞬だけ遅れた。
そのわずかな時間の差で、未確認ACは621の視界から消える。
『……621、怪我はないか?』
未確認ACは、まるで初めからその場にいなかったかのように、完全にレーダーから姿を消した。
エリオットの無線を無視して621は即座に再追跡しようとするが、すでに未確認ACの反応は消えていた。
「……」
621は静かに未確認ACが去った方向を見据える。
今まで、敵ACは単騎で強襲し、執行部隊を一方的に蹂躙してきた。
だが、先ほどの行動は違う。
「撤退する」という、明確な意図を持った動きだった。
無人機が戦況により撤退を選択するアルゴリズムを持っていたのか、あるいは――何者かが、直接操作し撤退を行ったのか。
621の機体は、静かにパルスブレードを収めた。
未確認ACは、確かに倒せたはずだった。
だが、完全には仕留められなかった。
それが、今も621の心の奥に冷たい違和感として残る。
『……621、戻れ。これ以上の追跡は無理だ』
エリオットが冷静に指示を送る。
621は短く「了解」と信号を送ると、ゆっくりと機体を反転させ、強襲艦へと帰投を開始した。
宇宙の闇に消えた未確認ACの残像が、脳裏に焼き付いていた。