ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜 作:助兵衛
爆炎と砲撃の閃光が夜空を染める。
解放戦線のMT部隊は壊滅寸前だった。
封鎖機構の執行部隊はグレイ執行上尉の指揮のもと、驚異的な速度で敵戦力を削ぎ落としていった。
LC部隊の精密射撃。
HCによる圧倒的な殲滅力。
戦況は完全に執行部隊の優勢に傾いていた。
だが――
戦場の中央、崩れ落ちたMT部隊の残骸を踏み越えて、4機のACが前線に現れた。
――リング・フレディ。AC《キャンドルリング》
――リトル・ツィイー。AC《ユエユー》
――六文銭。AC《シノビ》
――インデックス・ダナム。AC《バーンピカクス》
彼らは解放戦線の中でも特に名の知れたAC乗りだった。
アリーナランカーとしての実力を持ち、数々の戦場で惑星封鎖機構と熾烈な戦いを繰り広げてきたのだ。
その4機が、執行部隊の眼前に立ちふさがる。
『執行部隊、臨戦態勢を維持せよ!』
グレイ執行上尉が指示を飛ばす。
LC部隊は散開し、射撃態勢を取った。
HCはその圧倒的な装甲を活かし、前線を構築しようと前に出る。
だが、次の瞬間――
ゴォォォォォォォォォォォォォッ!
戦場の背後、遥か遠方から凄まじい砲撃音が響いた。
『……まさか』
エリオットが怪訝な声を漏らす。
そして、数秒後――
巨大な光条が、封鎖機構の前線を薙ぎ払った。
――轟音。
地表が爆ぜ、大気が震える。
まるで戦場そのものが粉砕されるかのような破壊の奔流。
爆風が執行部隊を襲い、LC機が数機、吹き飛ばされる。
HCですら装甲に亀裂が入るほどの凄まじい威力だった。
執行部隊の隊員たちが、反射的に通信を走らせる。
『砲撃……!?どこから!』
執行部隊の通信が錯綜する。
爆炎と衝撃波が広がり、地表の砂塵が舞い上がった。
視界が遮られ、レーダーが異常な熱反応を捉える。
そして――再び閃光が迸った。
――ズドォォォォン!!
LC機の一機が、砲撃の直撃を受けた瞬間、装甲ごと吹き飛び空中で爆裂四散する。
『チッ……!とてつもなく遠くから、とんでもなく大口径の対AC榴弾が飛んできている!』
エリオットが機体を急速旋回させ、砲撃の発射を観測しようと試みる。
――次の砲撃は、さらに別のLC機を貫いた。
『後方だ!後方に砲撃拠点がある!』
エリオットが共通無線で叫ぶ。
621は共有ネットワークにアップロードされた砲撃拠点のデータを見て、思わず端末を叩く指を止めてしまう。
爆炎と粉塵が晴れた瞬間、執行部隊のレーダーに新たな敵影が映し出された。
そこにあったのは――
左右2列計4列の履帯に支えられた、正しく『壁』の如き巨躯。
三連装グレネードキャノン、腕部に相当する箇所に二連装速射砲、体側にはミサイルポッド、余りにも多くの武装を搭載した異形の怪物――重装機動砲台『ジャガーノート』
砲台の巨躯が、低く唸りながら砲塔を旋回させている。
その鋼鉄の巨砲が、執行部隊を狙っていた。
――ズゥン……ズゥン……
機体が駆動する音とともに、砲身が上向きに持ち上がり、
照準が固定される。
次の瞬間――
『621!』
発光、静寂――衝撃。
再び、対AC榴弾が発射され、執行部隊の陣形を薙ぎ払った。
『第二砲撃確認!被害拡大中!』
過剰なまでに搭載された炸薬が地表を焼き尽くし、衝撃波が執行部隊の戦線を崩壊させていく。
このジャガーノートこそが、解放戦線の勝機であった。
『……壁防衛の為に配備されていたジャガーノート、まさか攻勢に用いるとはな』
グレイ執行上尉の低い声が響く。
解放戦線のMT部隊はほぼ壊滅し、
AC部隊も消耗していた。
この砲撃は戦場の流れを変えた。
後方のジャガーノートが、継続的に砲撃を加えることで、執行部隊のLC機は一方的に撃たれ続ける状況となった。
機動力を活かした戦闘がLC機の主戦術だが――
長距離砲撃の前では、その戦術が通用しない。
回避行動をとるたびに、敵ACの迎撃網に絡め取られ、
反撃の機会すら奪われていく。
執行部隊は一時的に陣形を乱し、解放戦線に付け入る隙を与えてしまう。
その最中――一機のACが前線へと踊り出た。
リトル・ツィイー、そしてAC《ユエユー》――解放戦線の若きAC乗り。
パルスバックラーを展開し、両腕のグレネードを構えながら、疾走する機影。
パルスシールドを備え、爆発的な機動力で戦場を駆け抜ける、まさに遊撃機。
だが、若い。
経験不足は隠せず、動きには迷いがある。
だが、彼女の意志は揺らがなかった。
『――コーラルよ!ルビコンと共にあれ!』
彼女の叫びが通信回線に響いた。
次の瞬間、ツィイーの《ユエユー》は加速。
その標的は――621。
621のLC機は、砲撃の混乱の中で戦線を維持しながら戦っていた。
ミサイルを放ち、MTを掃討しながら次のターゲットを見定めてる。
その時――
警告音が鳴り響いた。
レーダーに映し出される高速の機影。それは、一直線にこちらへ向かっていた。
621は傭兵支援システムALLMINDからの戦闘データを表示する。
『くらええええええええ!』
若い声が通信に混じると同時に、両腕のグレネードが発射された。
――ドォォン!
――ドォォン!
爆炎が広がり、621は瞬時に回避行動を取る。
ブースターを噴かし、右に跳ねるように旋回。
直撃は回避。
しかし、ツィイーは追撃を止めなかった。
『逃がさない……!よくもみんなを!仲間たちを!』
彼女のパルスバックラーが展開された。
青白いエネルギーの盾が輝き、彼女は一直線に飛来する。
『みんなの仇だ!』
ツィイーの動きは速い。
彼女は攻撃に迷いがない。
だが、単調すぎる。
621は彼女の突進軌道を瞬時に予測する。
次に撃たれるグレネードのタイミングすら読める。
621のLC機が、急加速。
真横に旋回し、ツィイーの攻撃軌道から外れる。
ツィイーの《ユエユー》は、加速しすぎてブレーキが間に合わない。
狙った獲物を逃し、姿勢を崩しかける。
その瞬間――
621のカウンターが炸裂した。瞬時に展開されたパルスブレードが、ユエユーのパルスバックラーを相干渉により弾き飛ばす。
『くっ……!』
彼女の悲鳴が通信に乗る。
パルスバックラーを展開していたため、直撃は防いだ。
しかし、バランスを崩し、強制的に後退させられる。
『なんで……こんな、ひどい事が出来るんだ』
ツィイーは歯を食いしばった。
彼女は若い――しかし、戦いたかった。
惑星ルビコンのために。
封鎖機構を打ち砕くために。
『惑星を封鎖して、エネルギーまで取り上げて、毎日仲間の誰かが飢えて死んでいく……お前たちは、人間じゃない!』
ツィイーの悲痛な叫びが通信回線を通じて響いた。
621は、その言葉を聞いても無言のままだった。 彼女は端末を操作し、即座にユエユーの次の動きを予測する。
熱い志は、戦場では何の意味も持たない。 戦場においては、感情よりも効率が優先される。 ツィイーの攻撃パターンは単純で、回避し続けることは容易かった。
無視。ツィイーの怒りに対し、それ以上の返答はなかった。 彼女の攻撃が感情に基づくものである以上、戦場での合理性には敵わない。
しかし――
何かがおかしい。
解放戦線の動きが、戦術的な合理性を欠いているように見えた。
通常、AC部隊が突出すれば、それは包囲され撃破されるリスクを伴う。 しかし、解放戦線のACは、奇妙なほど前線を維持しようとしている。
特に、ツィイーのような若いパイロットまでが、無理な突撃を繰り返していた。
621は戦場全体のデータを確認する。 この戦闘は、初めは執行部隊の圧倒的優勢だった。 ジャガーノートの砲撃による逆転を受けてもなお、執行部隊は一時的な混乱を収束させつつあり決定的な後れを取るほどの状況ではない。
しかし――戦況はある一点で停滞していた。
解放戦線は、まるで時間を稼いでいるかのように動いている。
再び、ジャガーノートが砲撃を放つ。
――ズドォォォン!!
対AC榴弾が夜空を切り裂き、執行部隊の陣形を削っていく。
高精度な射撃というよりも、持続的な火力支援による圧迫だった。
砲撃の狙いが、単なる殲滅ではない。
強襲艦の発艦を阻害し続けている。
621は瞬時に戦況を再確認した。
ジャガーノートの砲撃地点は強襲艦の進路上に集中している。 そして、AC部隊は防衛線を形成し、執行部隊を戦場に釘付けにしている。
――これは、足止めだ。
解放戦線は、明らかに執行部隊をここに留めようとしている。
621のLC機のセンサーが、戦場の異常な配置を映し出す。 通常なら、前線で戦っているACは一旦後退し、再編成を行う。 しかし、解放戦線のACは撤退せず、傷ついた機体でも無理やり戦線を維持しようとしていた。
その意味するところは一つ。
時間を稼ぐということは、この場に執行部隊を拘束しなければならない理由があるということ。
それが何かは分からない。 だが、確実に通常の戦闘行動とは異なる意図がある。
『相棒、どう思う?』
エリオットの通信が入る。
彼のLC機は、621のすぐ近くでカバーを取っていた。
彼もまた、戦場の異常な流れに気づいていたのかもしれない。
621は短くメッセージを送る。
【不自然】
『だよな。621、なにかが来るぞ』
エリオットの声が低くなる。
彼もまた戦場を見渡し、解放戦線の動きを観察していた。
『通常、ここまで追い詰められたら撤退するはずだ。なのに、どいつもこいつも後退しねえ。』
彼の機体がセンサーを最大感度にし、周囲をスキャンする。
『ジャガーノートの砲撃がずっと止まらない……あれ、明らかに俺たちを足止めしようとしてる。まるで、何かの準備が終わるのを待ってるみてえだ』
621はエリオットの分析を確認し、端末を叩いた。
【なにを】
『……それが分かれば苦労しない』
エリオットのLC機が旋回しながら、戦場の後方を探る。 だが、解放戦線のACとジャガーノートが執行部隊の視界を塞いでおり、後方の様子が分からない。
『相棒。一度後ろに下がるべきだ』
戦況を把握するため、一旦戦闘を離脱するのも手だった。 だが、621はすぐに答えを返さなかった。
なぜなら――
その瞬間、解放戦線の動きがさらに変わったからだ。
解放戦線のACたちは、戦闘を維持しつつも、さらに時間を引き延ばそうとしている。 だが、それだけではない。
先ほどまで無理をして突撃していたツィイーが、急に機体を後退させた。
同時に、六文銭のAC《シノビ》がレーダーの範囲から一時的に消失する。
さらに、リング・フレディのAC《キャンドルリング》が、ジャガーノートの砲撃の死角に入り、何かの指示を送っている。
解放戦線は――
明らかに次の段階へと移行しようとしていた。
『……相棒、これマズいぞ。』
エリオットの緊迫した声が響く。
『敵が何かを企んでる。足止めは前座だったかもしれない』
621は短くメッセージを送る。
【了解】
その直後、遠方のジャガーノートから発射された巨大な閃光が戦場を照らした。
砲撃ではない、最大仰角かつ低速で放たれ、上空にて滞留する光と煙――信号弾。
そして――
ジャガーノートの砲撃の先、遥か後方の夜空に、新たな巨大なシルエットが浮かび上がった。
エリオットの声が震える。
『あれは……』
621は冷静にレーダーを確認する。
そこに映し出されたのは、未知のエネルギー反応。
解放戦線は――
何か"とんでもない"切り札を持ち込もうとしていた。