ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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いつもに増してとんでもIF設定です


第23話 失墜

 執行部隊の通信が錯綜する中、夜空の向こうに現れた巨大なシルエットを前に、戦場のすべてが静止したかのような感覚が広がった。

 

 621のコックピット内でも、警告音が短く鳴り響く。

 新たな高エネルギー反応を探知——識別不能な大型構造物を補足

 

『……あれは』

 

 エリオットの低い声が無線越しに響く。

 彼の機体も621と並行して飛行しながら、センサーを最大感度にして遠方の巨大な物体を解析していた。

 

 しかし、その結果を見た瞬間、彼は驚愕に声を詰まらせた。

 

『識別コードなし……既存データに該当するモデルなし……これは……船だ。宇宙船……!?』

 

 その言葉を聞き、621は共有ネットワークからルビコン解放戦線の戦力データを閲覧する。

 彼らが宇宙船を保有しているというデータは無く、また建造する技術や設備も存在しない。惑星封鎖下の現状、外部から持ち込んだということもあり得ない。

 

 だが、事実としてルビコン3の空に、巨大な宇宙船が浮遊している。

 

『至急解析を急げ!あの巨大構造物の正体を特定しろ!』

 

 執行部隊の通信が錯綜する中、夜空に浮かぶ巨大なシルエットが戦場全体を支配しつつあった。

 

 621の視界に映るのは、まさしく巨大な船影。要塞の様な装甲が折り畳まれ、内部の推進機構が姿を現し、四基のスキルミオンジェネレーターが青白い閃光を放っている。

 

 まるで、それは惑星ルビコンに再び「天蓋」が覆われるような光景だった。

 

『……識別データが出ました。』

 

 封鎖機構のオペレーターが、静寂を破るように通信を発信する。

 

『あれは、壁です。ルビコン解放戦線の陸上要塞……“壁”。外壁の形状や塗装のパターンが一致。衛星軌道基地からの観測結果が届きました、“壁”があった地点が巨大な陥没跡となり……“壁”が消失……』

 

『そんな、あり得ない……“壁”って、俺達が攻めようとしてた要塞だろ。なんで、飛んで来てるんだよ』

 

 執行部隊隊員達の、困惑する呟きが無線に流れる。

 

 次の瞬間——

 

 “壁”が開いた。

 

 船体の各所で防御ハッチが開放され、内部に格納されていた武装が展開する。

 

 宇宙船の本体は戦艦やジャガーノートの様な火力は持たない。

 だが、砲門の数が異常だった。

 

 解放戦線がこれまでに鹵獲・改造してきた旧式兵器がずらりと並び、無数の砲塔が執行部隊を見下ろす。

 

『まずい、くるぞ!』

 

 エリオットが警告を発した次の瞬間——

 

 “壁”からの一斉射撃が開始された。

 

 ズドォォォォォンッ!!!

 

 上空から降り注ぐ砲弾が、地表を砕き、執行部隊の戦線を更に撹乱する。

 

 同時に——

 

 『ジャガーノートが砲撃を再開!前衛部隊が押される!』

 

 陸上では、ジャガーノートの巨砲が再び轟音を響かせ、執行部隊の防衛ラインを削り取っていく。

 

 空と地上、両方向からの砲撃により、戦場は完全に混沌とした。

 

 執行部隊は包囲されつつあった。

 

 機動性を活かして展開していたLC機は、上空からの砲撃によって思うように動けなくなり、HC機体ですら砲撃の圧力に耐えきれずに後退を余儀なくされる。

 

 封鎖機構の執行部隊は、今や解放戦線の制空権の中に囚われていた。

 

『……』

 

 621は機体を旋回させながら、ひたすら共有ネットワークから解放戦線のデータを引っ張り出し続ける。いくら探しても、巨大な宇宙船の正体に言及する様な資料は発見出来なかったが、更に検索範囲を広げ膨大なデータの海から目的の物を探し続ける。

 

 そしてついに、解放戦線とはなんの繋がりもないはずの組織のデータベースに、気になる記述を見つけ出した。

 組織の名は『ルビコン調査技研』、かつてルビコンにてコーラルを調査・研究し多くの試作兵器を作り出した狂気の技術者集団――621は彼らの制作物リストを拡大して表示する。

 

 恒星間入植船建造計画。

 

 ルビコン調査技研が設計した都市型の超巨大恒星間入植船の建造計画。

 元々はルビコン3におけるコーラルの開発と、それに伴う入植を目的として数隻が建造されたが、災禍『アイビスの火』を契機に秘匿、あるいは廃棄されその存在を知るものは少ない。

 現在もルビコン3のどこかに残骸程度なら残っている可能性はあったが、まさか、飛行可能な状態で現存しているとは封鎖機構の誰もが予想出来ていなかった。

 

『恒星間入植船……壁が、まさかそんな代物だったとはな。あいつらが前時代的な陸上要塞に固執していたのは、コレがあったからか』

 

 621は、エリオットの言葉を反芻する。

 

 解放戦線は、ただのゲリラ組織ではなかった。彼らは、長年にわたりルビコンを"開放"するために準備をしていた。

 

 そして、ついに壁を復活させた。

 

 恒星間入植船『ウォール』。

 解放戦線による武装化を施された巨大宇宙船の存在は、惑星封鎖機構の持つ圧倒的優位である高度の有利を完全に奪い去った。ルビコンの灼けた空は、彼らの手によって奪い返されたのだ。

 

ドォォォォォォォォン!!!

 

 再び、空から地を穿つ破壊の奔流が解き放たれる。

 無数の砲火が夜空を切り裂き、ルビコンの戦場に狂気じみた閃光を生み出す。

 

 かつて陸上要塞と呼ばれた巨影が、今や封鎖機構の空を支配し、執行部隊を包囲する巨大な要塞船と化していた。地上からは重装機動砲台による超長距離迫撃。

 飽和する砲撃は執行部隊の陣形を削ぎ、逃げ場を奪い、戦線を混乱へと陥れる。

 

『チッ……!本当にまずいな……』

 

 エリオットが罵声を吐きながら機体を旋回させる。

 621のLC機もまた、強烈な砲撃の波を掻い潜りながら移動を続けていた。

 

『執行部隊、後退しろ!一旦、陣形を立て直せ!』

 

 グレイ執行上尉の冷静な指示が飛ぶが、もはや戦場の均衡は崩れ去っていた。

 

 ——そして、致命的な瞬間が訪れた。

 

 「ウォール」からの主砲が強襲艦を狙う。

 

『……狙いは、強襲艦か!』

 

 エリオットが即座に叫ぶ。

 621の視線の先、封鎖機構の強襲艦が整備を切り上げ、徐々に高度を上げようとしていた。

 

 だが、それは明らかに遅すぎた。

 

 「ウォール」の砲撃が、強襲艦を捕えた。

 

 次の瞬間——

 

 ゴォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!

 

 目も眩むような閃光。

 空を焼くような爆炎が広がり、真紅の光条が強襲艦へと直撃する。

 

 ——激震。

 封鎖機構の拠点たる戦艦が、その巨体を揺るがせた。

 直撃を受けた強襲艦の装甲はひしゃげ、船体の一部が激しく爆砕。

 その衝撃で機体制御が失われ、船体が大きく傾く。

 

『エンジンユニット損傷! 第二甲板で火災発生! 機関部、出力低下!』

 

 強襲艦のブリッジから、緊急の報告が入る。

 しかし、その無線は混線し、焦燥と混乱に満ちた声が飛び交っていた。

 

 ウォールの砲撃は止まらない。

 

 第一射が強襲艦を捉えた次の瞬間——

 第二、第三の砲撃が続けて放たれた。

 

 ズドォォォォォォンッ!!!!

 

 今度は、艦橋側面に直撃。

 強襲艦の艦橋が火に包まれる。

 

『機関部からの応答なし! 制御不能! このままでは……』

 

 ——その報告を最後に、通信が途切れた。

 

 空中で強襲艦の船体が裂け、炎が吹き出す。

 機関部が破損し、戦艦は徐々に高度を失いながら地表へと落ちていく。

 

 その様は、まるで巨大な鉄塊が墜落するかのようだった。

 

 戦場の誰もがその光景を見つめていた。

 

 ルビコン解放戦線からの猛攻に耐えきれず、燃え上がる巨躯が、地上へと墜落していく。

 

『強襲艦、墜落……!』

 

 執行部隊の通信が震えた声で伝えた。

 

 戦場に、巨大な衝撃が走る。

 

 ——ゴォォォォォォォォンッ!!!!

 

 大地が揺れ、爆風が周囲を襲う。

 炎が吹き上がり、残骸が辺り一面に飛び散る。

 強襲艦は地表へと叩きつけられ、その巨体は粉々に砕けた。

 

 この瞬間、執行部隊は完全に制空権を喪失した。

 

『執行部隊、全機撤退!最寄りの拠点へ向かえ!』

 

 グレイ執行上尉の冷徹な指示が戦場に響き渡る。

 この戦いは敗北だ。

 戦力の温存すら難しく、ここで無駄死にするよりも撤退して態勢を立て直す方が賢明だった。

 

 ——だが、それは容易ではなかった。

 

『駄目だ!撤退ルートが砲撃で封鎖されてる!』

『上空からの砲撃がひどい!機動が取れない!』

『ジャガーノートの砲撃が進路を潰している!挟撃されるぞ!』

 

 撤退は混乱の中にあった。

 強襲艦を失い、制空権を奪われ、さらにジャガーノートの火力によって進路を妨害されている。

 

 統制の取れた撤退は不可能だった。

 

 ウォールは圧倒的な高所からの砲撃を続ける。

 砲弾が降り注ぎ、執行部隊の陣形を破壊し、個々の機体を散り散りにする。

 

『各機、独自の判断で離脱せよ!拠点α-7へ向かう!』

 

 グレイ執行上尉が最後の命令を下した。

 組織的な撤退は不可能。

 

 もはや、各自の生存能力に委ねるしかない。

 

 621のコックピット内で、撤退ルートのデータが更新される。

 しかし、最寄りの拠点へのルートはことごとく砲撃によって封鎖されていた。

 

『……行けるか?』

 

 エリオットの声が無線から響く。

 彼のLC機もまた、砲火の中を縫うように動きながら脱出を試みていた。

 

【ルート確保困難】

 

『クソ……!どこかに抜け道が——』

 

 ——ズドォォォォォン!!!

 

 その時だった。

 ウォールからの砲撃が621たちの進路上に降り注いだ。

 

 空からの飽和攻撃。

 ジャガーノートによる地上からの砲撃。

 

 もはやこの戦場に、安全な場所など存在しない。

 

『621!避けろ!』

 

 エリオットの声が響いた瞬間、621は彼の機体の軌道を計算する。

 エリオットのLC機は、砲撃の落ちる進路に入り込んでいた。

 

 次の瞬間——

 

 621は無意識に、ブースターを最大出力にする。

 

 エリオットの機体を突き飛ばすように、進路を変えた。

 

『な……!』

 

 ——ズドォォォォォォン!!!!

 

 621の機体が、砲撃の爆風に飲み込まれた。

 

 強烈な衝撃。

 コックピット内に警報が鳴り響く。

 

 LC機の制御が奪われ、621は宙へと吹き飛ばされていく。

 

『621!!!』

 

 エリオットの叫びが、無線越しに響いた。

 

 621は視界が回転する中、制御を取り戻そうと必死に機体のスラスターを操作する。

 しかし、機体はすでに大きく吹き飛ばされ、炎と煙に包まれていた。

 

 レーダーが乱れ、状況把握が困難になる。

 

 そして、遠ざかる視界の先には——

 

 燃え上がる戦場。

 墜ちた強襲艦の残骸。

 撤退する執行部隊。

 

 そのすべてが、夜のルビコン3の荒野に沈みつつあった。

 

 621の意識が、ゆっくりと闇に落ちていく——。

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