ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第3話 廃墟

 作戦開始5分前──衛星軌道基地の下部、地表降下ポッドの中には何十ものSENTRYが詰め込まれている。その内の一つに、621の搭乗する機体も含まれていた。

 

 降下ポッドの揺れがわずかに伝わってくる。カウントダウンの音声が響き、空間全体が次第に緊張感を帯びていく中、621は淡々と最終準備を進める。

 

 目の前のHUDには、降下地点の地図が立体的に投影され、目標区域や部隊の配置、標的とする地点が詳細に表示されている。それは部隊共通の情報であり、全員が共有する戦術データだ。

 

 だが、621のコンソールにはそれとは別に、暗号化された通信の通知が表示されていた。

 

『接続完了:ハンドラー・ウォルター』

 

 彼女の指が素早くコンソールを操作し、通知を開く。途端に、無線越しの低い声が耳に響いた。心地良い低音に、思わず621は瞼を閉じる。

 

『聞こえるか、621』

 

 短い確認の後、621は「了解」を意味する簡潔な信号を送信する。ウォルターは構わず話を続けた。

 

『任務の概要は共有された通りだ。ベリウス地方の旧市街区域にて確認されたコーラル反応の調査、可能であればサンプルを採取し持ち帰れ。だが、お前には他に監視すべき目標が存在する』

 

 画面に映し出されたのは、惑星表面の特定区域を示す地図データだった。一般の降下部隊に共有されている情報には記載されていない場所だ。

 

『この地点だ。封鎖機構の公式記録には記載されていない。だが、コーラルの活動が疑われている。お前にはこの区域の状況を記録し、可能な限り詳細なデータを回収してもらう』

 

 短い沈黙が無線に漂う。621は一瞬だけ目を細め、表示された情報を自分の端末に保存した。

 

『分かっていると思うが、部隊の目に余計な行動を晒すな。お前はあくまで通常のSENTRY部隊の一員だ』

 

 ウォルターの声は冷たく、しかし確信に満ちていた。

 

『お前ならばやり遂げられる。とはいえ、危険を犯す様な事はするな』

 

 621はウォルターの言葉を噛み締めるように、何度か頷くと、表面上は無関心かのように「了解」を示す信号を再送し、ウォルターからの通信を切断した。

 

「SENTRY部隊及び、HC・LC全機準備完了。降下まで、あと10秒!」

 

 コックピット内に共通無線の声が響く。621は再び部隊のHUDに目を向け、全体の動きを確認する。数十体のSENTRYが降下ポッドに詰められ、地表への突入を今か今かと待っていた。

 

 ポッド内部の照明が赤から緑に切り替わる。降下シークエンスの開始だ。

 

「降下開始!」

 

 その言葉と共に、621のポッドが振動し、重力が瞬時に変化する感覚が全身を襲った。HUDには降下進路と着地点が表示され、センサーが機体の安定を保つためのデータを処理していく。

 

 外の状況を確認する時間はほとんどない。高速で大気圏を突き抜ける振動が機体を包み込み、ポッド外殻を叩く音が静寂を破る。

 

 621はコックピット内で微動だにせず、ただ冷静にデータを確認していた。その目には、部隊の共通目標とウォルターが指示した隠された目標が重なって映っている。

 

 降下ポッドが予定地点に近づく。次の瞬間、急激な減速と共にポッドの外殻が弾け飛ぶ音が響いた。

 

 降下ポッドの外装が開き、機体が地表に解放される。621のセントリーは即座にブースターを起動し、滑らかな動きで旧市街区域の地表に降り立った。

 

 ──メインシステム、戦闘モード起動──

 

 地表に広がるのは荒廃した都市の廃墟。周囲には次々と他のSENTRYが降下し、指定された隊列配置についていく。先んじて機体のままに大気圏を突破していた上位パイロット達の高性能執行機体──LCやHC達が、辺りを警戒する様に飛行している。

 

 部隊の命令に従いながらも、621の意識はウォルターから送られた暗号化データに向いていた。彼女のHUDの隅に表示された隠された目標地点へのルートが、冷たく点滅している。

 

『621、観察を怠るな』

 

 再び耳元に響くウォルターの声。その指示を受けながら、621のセントリーは静かにその目標地点を意識し始める。地表に降り立ったSENTRYの隊列の中で、彼女の動きだけが微かに異質だった。

 

 降下地点に展開した部隊は、荒廃した旧市街区域の廃墟を警戒しながら進軍を開始する。

 無数の瓦礫や崩れた建物が広がる地表には、長い年月をかけて腐食した鉄骨がむき出しになり、吹きすさぶ風が異様な静けさを際立たせている。

 

 621は、部隊の中央位置で隊列を維持しながら機体を進めていた。HUDには周囲の地形データが逐次表示され、味方機の位置や戦術マーカーが点滅している。

 

『目標地点まで残り2クリック。全機、索敵態勢を維持しろ』

 

 共通無線からグレイ執行上尉の指示が流れる。621も機体のセンサーを最大稼働させ、視界に映る全てを解析する。

 

 だが、その動作の中で彼女は一瞬だけ操作を切り替えた。

 ウォルターから送られた隠された目標地点へのデータをHUDのサブディスプレイに移し、部隊の共通目標と並行してモニタリングを始める。

 

『621、焦るな。目標地点は今のルート上だ。まずは部隊として行動し、状況を把握しろ』

 

 ウォルターの声が耳元に響く。彼の言葉に応じるように、621は短く「了解」を示す信号を送信した。

 

 部隊が進む中、廃墟の影に隠れるように配置された古い機械や、崩れた施設の残骸が次第に目に付くようになる。

 周囲のセンサーが鋭く稼働し、621のHUDには小さな異常反応が複数検知されていた。

 

『SENTRY部隊、モニターを確認しろ。コーラルの微弱な反応を検知した。前方のビル群が見えるな、部隊を分割し内部に侵入せよ』

 

 部隊の上空を飛行していたLC機体から、観測結果と共に指示がデータとして送られてくる。

 

 621は冷静にブースターを調整し、建物の内部を目指す。他のSENTRYたちも同様に警戒しながらも加速し、内部は向けて進み始めた。

 

 

 旧市街の崩壊したビル内部に進入すると、環境はさらに劣悪だった。瓦礫の中に埋もれた破損した機械や、長年手つかずの廃材が視界を埋め尽くしている。センサーが微弱なコーラル反応を示し続けているが、それは微細すぎて正確な位置を特定できない。

 

『全機、警戒態勢を維持しつつ調査を続けろ』

 

 LC機体のパイロットが指示を飛ばす中、621のセントリーは廃墟の一角で小さな異常反応を検知した。

 

 621の機体は、建物の奥に埋もれた何かを捉えた。センサーの反応が急速に強まっている。HUDには「コーラル反応:高レベル」と赤い文字で表示され、危険度を警告していた。

 

 621は慎重に瓦礫の間を進む。やがて、反応の中心に到達すると、そこには無傷の輸送用タンクが鎮座していた。

 タンクは傷一つなく保存されており、その内部からは赤く揺らめく光がかすかに漏れ出していた。長年放置されていたはずのタンクが無傷で存在するという事実に、621はわずかに眉をひそめる。

 

『輸送タンクを発見、内部は不明。コーラルの可能性、あり』

 

 彼女は素早くデータを記録し、共有データベースに情報をアップロードした。タンクの外部にあるアクセスパネルにセントリーのアームを接続すると、HUDに輸送タンクのデータが次々と表示される。

 

『621、どうした。状況を報告しろ』

 

 621は機体が読み込んだ輸送タンクのデータを、そのままウォルターに暗号化した転送する。暫くの沈黙の後に、残念そうなため息が聞こえてきた。

 

『コーラル輸送タンク……だが、内部は空か。反応はあるが、残留している粒子は既に不活性化している。骨折り損だったようだ、621』

 

 ウォルターに送った物と同じタンクの情報を共有データベースにアップロードすると、少ししてグレイ執行上尉から直接指示が送られてきた。

 

『タンクの件は了解した。サンプルを採取し、引き続き周囲を探索せよ』

 

 彼女は指示通り、タンクの一部からコーラルサンプルを慎重に採取し始めた。その瞬間──センサーが異常を検知する。

 

 慌てたウォルターの声が響いた。

 

『621! 複数のMTが部隊のいる旧市街区域に出現した、この反応は……ルビコン解放戦線!」

 

 HUDに敵性反応が点滅する。621は即座に作業を中断し、周囲の状況を確認した。

 遠くから、発砲音や爆発音が轟く。

 

 タンクの奥に続く廃墟の影から、MTのシルエットが浮かび上がる。警報音が耳を刺すように響き渡った。

 共有無線が一気に騒がしくなり、621は眉を顰めて音量を落とす。

 

『解放戦線のMTを多数確認! 一部部隊が交戦を開始! LC機体の応援を要請する!』

 

 ルビコン解放戦線──ルビコン3の現地星人達からなる武装組織であり、封鎖機構の惑星封鎖に反発する唯一の勢力であった。彼らは支援もせず、逃げ道を封鎖し、惑星唯一の資源であるコーラルを徹底的に排除しようとする惑星封鎖機構に対し強烈な反発を行っている。

 

 この様な実力行使に出る事も、珍しくは無い。

 

『621、部隊と合流し解放戦線のMTを迎撃しろ。このタンクは罠だ!』

 

 廃墟の奥から次々と現れる解放戦線のMTたちは、武装を手に621のいるビル群へと殺到し始めていた。

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