ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第30話 輪帯

 惑星封鎖機構には、戦場の均衡を一撃で破壊する戦力が存在する。

 それが《特務機体》と呼ばれるカテゴリの兵器群である。

 

 通常の「執行機体」とは異なり、特務機体は特定の戦略目的のために設計された一点物のワンオフ機体だ。

 量産を前提とせず、限られた作戦領域に投入される究極の機体。

 

 その目的は、主に特定人物の排除、もしくは特定施設の防衛。

 惑星封鎖機構が「絶対に失うわけにはいかない領域」や「確実に排除しなければならない対象」に対して、通常の機体では対処できないと判断された場合にのみ、投入が許可される。

 

 そして、いま現れた機体――

 特務無人機体《バルテウス》は、そうした特務機体の中でも異質な存在だった。

 

 バルテウスは、通常の特務機体とは異なり、無人兵器として運用されている。

 その目的は惑星封鎖機構の重要拠点、ウォッチポイント・デルタの防衛。

 

 《バルテウス》の設計思想は、従来の「機動兵器」の枠を超えていた。

 その姿は異様の一言に尽きた。

 

 本体は標準的な人型LCの形状をしているが、

 その背後には、本体の数倍にも及ぶ巨大な武装・推進ユニットを搭載。

 マルチプルパルスランチャーを帯状に巡らせたそれは、まるで空中に巨大な球体が浮遊しているかのようにすら見える。

 

 敵から見た場合、まずその輪郭すら掴めない。

 無数のパルス砲が光の帯を作りながら周囲を巡り、幾重にも張り巡らされたパルスシールドはどんな攻撃も通さない鉄壁の防御を誇る。

 

 事実、その火力と防御機構は、封鎖機構の通常機とは一線を画していた。

 通常の人型機動兵器とは比べ物にならない圧倒的な空戦能力と広範囲制圧能力を誇り、接近を試みる敵機をパルスランチャーの火線網が即座に迎撃する。例え接近を許したとしても、大量に搭載された近距離兵装は瞬く間に敵機体を打ち砕くだろう。

 

 そして今――

 その戦略級無人兵器が、ここに降臨する。

 

 ズズゥゥゥゥン……!!

 

 戦場に異質な震動が響き渡った。

 

 ユエユー・ユエロンのコックピット内、621は微かに目を見開く。

 レーダーが突然、異常な熱量のシグナルを捉えた。

 

 数値異常――熱源検知。

 識別結果:封鎖機構・特務無人機体《バルテウス》

 

 ゴォォォォッッ!!

 

 バルテウスが燃え上がるようなエネルギーの閃光を放ち、急速降下を開始した。

 超高高度から滑るように降りてくるその姿は、まるで彗星のようだった。

 

『……まさかそちらから来てくれるとはな』

 

 スッラが低く声を漏らす。

 

 その声には、先ほどまでの余裕はなかった。

 あのバルテウスは、単機で戦局を覆す力を持つ存在――。

 

 バルテウスのパルスランチャー群が、スッラの部隊を照準に捉えた。

 

 ゴォォォォォォッッッ!!

 

 夜空を引き裂く轟音とともに、無数のパルスランチャーが火を噴いた。

 幾千もの深紅の光条が、スッラの随伴機体をなぎ払う。

 

 狙撃型MTが一瞬のうちに吹き飛ばされ、車輪型兵器が熱核反応を起こして爆散する。

 無数の砲撃が空を埋め尽くし、バルテウスが戦場を支配していく。

 

『――ッ!!』

 

 スッラは舌打ちをしながら、急旋回して射線から外れた。

 バルテウスの攻撃範囲に捉えられれば、もはや生存の目はない。

 

バルテウスは、炎と煙の中を悠然と舞い降りた。

 その機体は、無人機でありながら、意志を持つかのように621の前に立ちはだかる。

 

 ユエユー・ユエロンは、すでに満身創痍だった。

 機体は崩れかけ、スラスターも死に、通信も不安定。

 

 コックピット内で621はツィイーの容態を確認した。

 呼吸は弱いが、まだ生きている。

 

 ――しかし、このままでは助からない。

 

 そのときだった。

 

 ガコン――。

 

 目の前のバルテウスが、コックピットを開いた。

 無人機であるはずの機体が、あたかも「乗れ」と言わんばかりに、621を招き入れるように。

 

 封鎖機構からの通信が入った。

 

『621……生きていたか』

 

 通信の相手は、グレイ執行上尉だった。

 惑星封鎖機構の高官であり、戦場の裁定者。

 

 彼女の声は冷徹だったが、その第一声にはわずかな安堵が混じっていた。

 

 短い沈黙。

 

『このまま、独立傭兵スッラ及び随伴部隊を討伐せよ。やつらは惑星封鎖を突破し、なにかしらの目的をもって封鎖機構の施設を奇襲しようとしていたようだ』

 

 621の眉がわずかに動いた。

 ここまでの戦闘で、もはやまともに戦う余力など残っていない。

 

 そのことは、執行上尉も当然わかっているはずだ。

 

『貴様に《バルテウス》のパイロットとしての権限を一時付与する』

 

 だが――その言葉とともに、バルテウスの内部システムが起動する音が響いた。

 無人機であるはずのこの機体には、臨時の有人操縦システムが搭載されていた。

 

『特務無人機体バルテウス。貴様にこの機体の制御を許可する』

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、621は即座に行動を開始した。

 

 621はツィイーの意識を確認しつつ、彼女をユエユー・ユエロンのシートベルトから外し、慎重に移動させた。

 彼女の身体は冷え、血液がシートに染み込んでいた。

 

 バルテウスのコックピットへ近づくと、内部に自動治療機器が格納されているのが確認できた。

 621はツィイーをそこへ横たえ、モニターで治療プログラムを起動する。

 

《患者のバイタルをスキャン……処置開始。》

 

 機械音声が流れ、コックピット内に治療用ナノマシンが噴霧される。

 ツィイーの容態が、少しずつ安定していく。

 

 治療システムの稼働を確認した621は、シートに腰を下ろし、操縦桿を握った。

 

 バルテウスの機体制御システムが621の脳内、脳深部コーラルデバイスに一気に流れ込み、頭の中で機体の全体像が浮かび上がる。

 同時に、いくつかの不明なエラーが視界内に表示されたが、621は構っている暇はないと切り捨て表示を消去した。

 

 火器、全システムオンライン。

 ――マルチプルパルスランチャー――異常なし

 ――近中距離迎撃武装、散弾機銃、機関銃、対AC榴弾砲、火炎放射機――異常なし。

 ――パルスアーマー――正常起動中。

 ――アサルトアーマー――待機中。

 スラスター出力、通常値の120%。

 装甲、損傷なし。

 

 621は無言で通信を開いた。

 

『……バルテウス、起動』

 

 コックピットが閉じ、内部が密閉される。

 バルテウスが、ゆっくりと浮上を開始した。

 

『ほう……バルテウスに乗ったか』

 

 通信越しにスッラが低く笑う。

 彼のエンタングルは、すでに戦闘態勢に入っていた。

 

 バルテウスの迎撃で壊滅した随伴機――

 しかし、完全に殲滅されたわけではない。

 

『ウォッチポイントの攻略には、最初からバルテウスの撃破も含まれていた。計画に狂いはない』

 

 その言葉とともに、スッラの背後で生き残った随伴機が動いた。

 損傷を受けつつも健在な機体が、彼の元へ駆け寄り、パルス兵器を差し出す。

 

 スッラのエンタングルは、パルスアンテナを失った。

 だが――

 

 新たに手にしたのは、バルテウスのパルスアーマーを相干渉により無効化する、パルスブレード。

 

 それは、まさにバルテウスを攻略するためにスッラが用意した兵器だった。

 

 スッラは受け取ったパルスブレードを軽く振るう。

 青白い光が軌跡を描き、次の瞬間――

 

 バルテウスのシールドが、一瞬だけ揺らいだ。

 

『こちらの方が性に合っている。パルスガンは……デザインが好かない』

 

 スッラは満足そうに呟き、バルテウスを見上げる。

 

『さあ、見せてもらおうか。お前がどこまでやれるか……』

 

 幾つものスラスターが爆発的に噴射され、バルテウスが加速する。

 機体が空間を抉るように跳躍し、マルチプルパルスランチャーが唸りを上げた。

 

 ゴォォォォッッッ!!

 

 無数のパルス弾が一斉発射され、エンタングルを包囲する。

 

 しかし――

 

 スッラのエンタングルが、ありえない機動でそれを回避した。

 

『甘いぞ!!』

 

 スッラのパルスブレードが閃く。

 通常ならパルスアーマーが干渉して無効化する攻撃――

 

 しかし、相干渉型のパルス兵器は違った。

 

 ビキィィィィィィッッ!!

 

 バルテウスのシールドが急激に崩壊していく。

 

 621はすぐに回避機動に移るが、パルスアーマーの影響が消えたことで、スッラの攻撃が完全に通る状態になってしまう。

 

 スッラはさらに追撃の機動を仕掛ける。

 バルテウスの異常な機動性能をもってしても、この状況では防御が難しい。

 

『どうした、特務機体がこの程度か!?』

 

 スッラの挑発が響く。

 バルテウスはこれまでの無人戦闘データでは決して起こり得なかった、パルスアーマーの完全中和という状態に陥っていた。

 

 スッラは確かに、バルテウス攻略のための準備をしていたのだ。

 

 621は素早くカウンターの動きを組み立てる。

 バルテウスは無人機として設計されていたが、有人操縦ならではの突破策がある。

 

 近接戦闘であれば、むしろ621にとっても望むところ。

 

 621はバルテウスのスラスターを逆噴射。

 一瞬、機体が後退するように見せかけ――

 

 次の瞬間、スッラのエンタングルの懐に急接近した。

 0からの100、否、マイナスからの100。

 理外の急制動、それによる負荷に、警告音が鳴り響くが621は全て無視してスラスターを酷使する。

 

 スッラの機体が一瞬、硬直した。

 

 バルテウスの機体は、遠距離からの高火力砲撃を主体としていた。

 そのバルテウスが、至近距離で急制動をかけたこと自体が、スッラの意識の外だったのだ。

 

 ガシィィィィンッッ!!

 

 バルテウスの巨大な帯状マルチプルパルスランチャーが、エンタングルの右腕を強引に押さえつける。

 

『くっ!?』

 

 エンタングルのパルスブレードが、バルテウスの装甲を掠める。

 しかし、押さえつけられた状態では、致命傷を与えるには至らない。

 

「……」

 

 甲高い悲鳴のような金属音が響くバルテウスのコックピット内で、621はツィイ―を横目に見る。

 彼女の容態はいくらか落ち着いたが、輸血機能や精密な検査を行える医師が存在しない以上、この戦いを長引かせる訳にははいかない。

 

 621はコックピット内の端末に指を走らせた。

 本来、バルテウスのマルチプルパルスランチャーは広範囲砲撃による制圧兵装だ。

 しかし、621はこの機体の戦術を根本から変える。

 

 ――エラー、本来の運用方法を逸脱しています、エラー、本来の運用方法を――

 

 真っ赤なエラーを吐き出す火器管制システムの警告を無視し、621は操作を続ける。

 

 ――射撃モードから、近接刃形成モードへ移行――

 ――警告、本来の運用方法を逸脱している為予期せぬエラーが発生する可能性が――

 

「……」

 

 バルテウスの背部、武装・推進ユニットが、低く唸りを上げた。

 帯状に巡らせた巨大なマルチプルパルスランチャーが、異様な動作を始める。

 

 通常ならばパルス弾を放つはずの砲門が、今、無数の“刃”を形作っていた。

 

 スッラは眉をひそめる。

 相干渉型のパルス兵器を手にした彼は、バルテウスのパルスアーマーを無力化できるという確信を持っていた。

 だが、目の前で起こる変化に、警戒の色を浮かべる。

 

『……なにをしている?』

 

 ガキンッ!!

 

 次の瞬間、バルテウスの周囲に展開されたパルスランチャーが、超高回転を開始した。

 まるでチェンソーの刃の如く、超高密度のパルスエネルギーが連続的に形成され、

 無数の光の刃が、回転しながら空間を切り裂く。

 

『――ッ!?』

 

 バルテウスの回転する光の刃が、エンタングルの装甲を押し当てられる。

 青白い閃光がスッラの機体を包み込み、その装甲が瞬く間に削り取られていった。

 

 ズタズタに切り裂かれるエンタングルの外装。

 

 スッラは必死に機体を後退させようとする。

 しかし、バルテウスの猛攻は止まらない。

 

 621は低く唸りながら、さらにスラスターを吹かした。

 無数の回転する刃が、一斉にスッラの機体へと襲いかかる。

 

 ガガガガガガガッ!!!

 

 エンタングルの左脚が、完全に破砕される。

 さらに、左腕が断ち切られ、関節部が吹き飛ぶ。

 パルスブレードを持っていた右腕も、無数の光の刃によってズタズタに刻まれた。

 

 しかし――スッラは、まだ笑っていた。

 

『……なるほどな。ウォルターもとんでもない狂犬を送り込んだものだ』

 

 その瞬間――

 

 ドォォォォンッ!!!!!

 

 バルテウスのパルスチェンソーが、エンタングルの胴体を切り裂いた。

 

 青白い閃光とともに、スッラの機体が吹き飛ぶ。

 激しく弾け飛ぶ装甲片、機体が爆発の中へと飲み込まれる最中、スッラは遺言の様に呟く。

 

『ウォッチポイントは、やめておけ……』

 

 621は、ゆっくりと機体を浮かせた。

 バルテウスのパルス刃は、まだ回転を続けている。

 

 爆炎の余韻が空に消え、戦場は一瞬の静寂に包まれた

 

 

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