ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第42話 厄災

 

 惑星封鎖機構衛星軌道基地・外縁監視部。

 

「……接近アラート。宙域G-07にて、高速物体の質量反応を検出」

 

 低く警告音が鳴る。

 監視オペレーターが椅子ごと回転し、隣の副官に表示パネルを向けた。

 

「船籍照会中。IFF信号……未登録。コード無し。署名反応も一致せず」

 

「ゴースト船か?それにしては速すぎる」

 

 航跡データが瞬く間に更新される。

 加速率、常識外れ。通常ブースター規格を明らかに逸脱した推進反応。

 

「機体形状判明。旧型の民間輸送船です。しかし……」

 

 

「異常な加速パターン。外部改造……もしくは、違法チューニングか」

 

 ──沈黙。

 

 次の瞬間、警告レベルが赤に跳ね上がる。

 

「進路直進。回避行動なし。通信応答なし。基地との推定衝突まで90秒。撃墜の可否を司令部に――」

 

「いい、もう遅い。規定通り、対軌道迎撃レーザーを稼働させろ」

 

 戦術AIが自動算出した迎撃ポイントが、ディスプレイにマークされる。

 警告と共に響くのは、乾いたシステム音。

 

 《迎撃フェーズ、開始》

 《宙域G-07──標的照準、確定》

 《レーザー砲台14・15・16、起動完了》

 

 その瞬間、外縁の静かな宙に、三条の光線が走った。

 

 数秒遅れで、視認できる閃光。

 船体中央、推進部、そしてコックピット部分に正確に命中した。

 

 民間船は消滅。

 

 機体は粉砕し、軌道に沿ってばら撒かれた断片が、ゆっくりと無重力の中で回転する。

 光の尾を残したパーツの破片が、星の瞬きに紛れ込むように広がっていった。

 

 ――しかし、終わりではなかった。

 

 爆砕された宇宙船の残骸の中で、何かが“動いた”。

 

 監視官のひとりが息を呑む。

 

「……ッ、これは……!」

 

 高解像度スキャンに浮かび上がった、三つの影。

 

 そのうちの一体が、回転する外殻を蹴って姿勢を制御。

 外部装甲を焼き切るようにして、灰色の機体が現れる。

 

《新たな反応確認。識別コードを傭兵支援システムALLMINDに送信、照合開始──》

 

 オペレーターが凍りついた。

 

「レイヴン……?シャルトルーズ!キング!?」

 

「アリーナの上位傭兵が2人、1人はランク圏外だが……油断するな」

 

 オペレーターの読み上げた名は、どちらま戦場に身を置くものが一度は聞いた方のあるビッグネームだった。

 

 シャルトルーズは圧倒的な火力から《見つめ合えば死ぬ女傭兵》と、キングは作戦成功率89.6%という優れた任務遂行率から《完成された傭兵》と、それぞれ恐れられていた。

 

 封鎖機構の戦術AIが判断した脅威度は最大、ディスプレイに各傭兵のデータが映し出される。

 

「クソ、特例上位ランカーがなんだってこんなとこに……!」

 

 外壁モニターの映像が揺れた。

 灼けた船体の破片を突き破って、三機のACが一斉に現れる。

 

 各機は宇宙空間活動用の大型ジェットパックを背負い、全身に突撃仕様のラムアーマーを装備。

 そのまま、コクピットが加熱されるのも顧みず、急加速のまま基地外壁に突入してきた。

 

『衝突警報。外壁D-17、E-08、F-03──圧壊!』

 

『内部エアロック遮断不能。AC侵入を確認!』

 

施設内部の警報が鳴り響く。

 

 ――ガガガガガガガガ!!

 

 金属を削る衝撃音が響き、ラムアーマーの突撃角が床を滑るように突き破る。

 

 居住区から遠くない、機関維持ブロック。

 そこに、最初の一機が着地した。

 

 《完成された傭兵》キング、そして金青色の艶消したフレーム。

 全戦闘距離対応重装四脚AC《アスタークラウン》。

 

 《Branch-01 “King・ASTER CROWN”》

 《対軌道構造戦仕様:展開完了》

 

 二機目が追って姿を現す。

《見つめ合えば死ぬ女傭兵》シャルトルーズ、そして黄金に輝くフレーム。

 超火力要塞型AC《アンバーアックス》

 

 《Branch-02 “Chartreuse・UMBER OX”》

 《通信撹乱ビーコン、起動》

 《内部ネットワークへ侵入中》

 

 三機目は静かに、音もなく二機の後に続いた。

 《レイヴン》唯一アリーナに戦闘記録が残されていない、無名の独立傭兵。

 

 三機のACが衛星軌道基地内部へと突入した直後――

 

 金属を裂く衝撃音と共に、無数の火花が廊下に散る。

 

 大型ジェットパックが、一機、また一機と機体から射出されるように切り離されていった。

 

 着地の衝撃を吸収していた補助推進ユニットが、床に激突し火花をまき散らす。突入時の超加速を可能としたそれは、もはや役目を終えた”飛翔の殻”だ。

 

 続いて、AC各部の前面を覆っていたラムアーマーが、内側から自動展開され、パージされる。

 

脱ぎ捨てられた外装は、人工重力に引かれ床へと落ち、鈍く響く。

 

 全機が戦闘態勢へと移行した合図だった。

 

 キングが、ラムアーマーの余熱が残るコクピット内で、わずかに顎を引く。

 

『シャルトルーズ、首尾はどうだ』

 

『ビーコン散布完了。1分以内に制御ブロックへのハッキングが完了するわ』

 

 シャルトルーズの声が、艶やかな冷笑を帯びて返ってきた。

 

『優先順位は分かっているな。封鎖衛星を停止させ、一時的にでも惑星封鎖に穴を開ける事が出来れば、それで依頼は達成だ』

 

『相変わらずだね、キング。その偉そうな口ぶり、友達なくすよ 』

 

 ――これは、宣戦布告だ。

 惑星封鎖機構への、たった三機による戦争の始まりだった。

 

『さて、火を点けよう……踏み消された燃え滓に』

 

 

 

 

 

 

 時は少しだけ遡る――

 

 衛星軌道基地、居住区画。

 621の専用区画に割り当てられたその部屋は、白と灰の無機質な壁に囲まれていた。

 照明は24時間のうち12時間が“夜”として設定され、現在はその半ば。

 

 だが、621の内側に“夜”は訪れなかった。

 

 彼女は――ベッドの上、毛布を乱雑にかけたまま横たわっていた。

 

 視界が、揺れる。

 

 光が、落ちてくる。

 

 光。

 全てを貫く。

 灼けるような――あの衛星砲の光だ。

 

 何度も見たはずだった。だが、それでも逃れられない。

 脳裏に突き刺さる閃光。骨まで焼き尽くすような咆哮。

 そして、その光の中で――《スティールヘイズ・オルトゥス》が吹き飛ぶ瞬間。

 

『──君は本能を失った、猟犬失格だ』

 

 その声が、耳元で囁く。

 生き残ってしまった己を、罰するように。

 そして次に来るのは――あの目。

 

 エリオット。

 

「っ……!」

 

 呻くような声が漏れた。

 

 全身が震えていた。

 汗で濡れた手が、額を押さえる。

 

 しかし、止まらない。

 記憶は、視界を焼く映像として何度でも再生される。

 

 耳鳴りがする。

 息が浅い。

 視界が暗転しそうになる。

 

 ベッドを飛び起き、スリープモードのロッカーを叩きつけるように開く。

 投薬管理装置。そこに仕舞われていた、処方された精神安定剤。

 

 621は震える手でカプセルシートを引きちぎり、数錠を無造作に口へ――

 

 喉を焼くように薬剤が流れていく。

 効果の即時性など、621は何度も説明されて分かり切っていた。

 それでも、今すぐ“消したかった”。

 

 ――621!落ち着いてください!

 

 ――深呼吸を、吸って、吐いてください……落ち着いて。

 

 それでも621は、耳を塞ぐように両手を頭に押し当て、毛布に身を潜り込ませた。

 重たい布が、現実と過去の境界線になることを、無意識に願うように。

 

 毛布の中で、621の肩が細かく震えていた。

 呼吸は浅く、不規則で――それでも、次第に波打つように落ち着いていく。

 

 薬剤が、神経を鈍らせていく。

 身体の隅々にまで広がっていく、鈍い麻酔のような重さ。

 脳の中に漂っていた焦燥と緊張が、まるで霧のように遠のいていく

 

 ――大丈夫です。私はずっと、ここにいます。

 

 エアの声が、優しく反響する。

 鼓膜の奥ではなく、まるで胸の中から響いてくるような、穏やかな音。

 

 ほんの少しだけ、毛布の隙間から漏れた621の息が、静かになる。

 

 621の瞼が閉じられている事を確認したエアが、安心したようにそっと寄り添った。

 

その時。

 

――揺れた。

 

 金属が軋むような衝撃が、部屋全体を震わせた。

 

 次の瞬間、毛布の中にいた621の耳を貫いたのは、甲高い警報音だった。

 

《警戒レベル:アラート・レッド》

《外部侵入者確認。全戦力、戦闘配置へ移行せよ》

 

 

 唐突な現実の襲来に、621の目が開かれる。

 瞳孔が、収縮する。

 

 警報ランプの赤が明滅するたび、視界に“あの光”が蘇る。

――まるで、衛星砲がまた落ちてくるかのように。

 

「……!」

 

掠れた喉が、言葉にならない音を漏らす。

 

 腕が震えていた。

 全身の神経が、麻酔を振り払うようにざわめいている。

 

 耳鳴り。視界の歪み。まだ完全には薬が抜けていない。

 それでも、目を覚ましていられたのは――

 戦場の音が、彼女の本能を叩き起こしたからだった。

 

 エアの声が響く。

 

 ――621!聞こえますか、基地が襲撃されています!

 

 ――敵AC三機、侵入!制御ブロックを目指して進行中です!

 

621は呆けたまま、身を起こす。

 

 ベッドの脇に設置された端末が、自動で立ち上がり、赤い文字列が次々と表示されていく。

 

 ――そんな、こんな状態の621に出撃命令を?

 

 ――危険です、621。すぐに退避を。

 

 カプセル剤の苦味がまだ舌に残っている。

 だというのに、指先は勝手に――端末の出撃確認ボタンに伸びていた。

 

 それが、621という“猟犬”の生存理由だった。

 

 

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