ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第44話 開戦

 《神経同調、完了──》

 

 モニターが明滅し、警告表示が次々と緑に変わっていく。

 

 《機体稼働率──安定》

 《武装システム全系統、再接続》

 《戦闘行動、可能》

 

 《メインシステム、戦闘モード再起動》

 再起動の処理が完了した、その直後。

 

 通信ウィンドウが割り込むように展開された。

 接続経路は秘匿回線──送信元、《ハンドラー・ウォルター》。

 

『621、先程機体の再起動を確認した』

 

 聞き慣れた、低く落ち着いた声。だがその声色には、かすかな揺れがあった。

 

『……良いんだな』

 

 コックピットの中、621の喉が静かに鳴る。

 言葉は出なかったが、通信回線には神経伝達波形の変化が微かに乗る。イエス──その意思は、確かに伝わっていた。

 

『……そうか』

 

 ウォルターの声に、わずかな笑みが混ざる。

 

『よく戻ってきた、621。お前の選択を、誇りに思う……』

 

 《HUD更新:戦況解析開始──味方戦力優勢》

 

 バルテウスの戦術支援モジュールが、格納庫内の交戦データを解析し、立体マップが浮かび上がる。

 

 ――そこには、四機の味方ACが並び立ち、金青の巨躯《アスタークラウン》を囲む姿。

 

 まさに“猟犬の群れ”。それぞれの行動は大胆かつ緻密で、隙を生むための攻撃が、確実にキングの行動を制限していた。

 

 《C4-617》が厚いガトリングの弾幕で進路を塞ぎ。

 《C4-618》が機動と接近戦で撹乱し。

 《C4-619》が誘導ミサイルで追い立て。

 《C4-620》が要所を鋭く突いて、確実に装甲を削っていく。

 

 すべては、誰かが”一撃を入れる”ための布石。

 

『彼らの戦闘が見えるな、621。彼らはお前と同じラボで生まれた、第4世代強化人間……お前の、兄達だ』

 

 彼らはかつて同じラボで生まれた強化人間たち。

 血の繋がりは無くとも、同じ“第4世代”という業を背負い、過酷な訓練と戦場を潜り抜けてきた存在――621の、兄たち。

 

『彼らは先んじて降下し、執行部隊としてルビコン地表での活動を行っていた。増援が遅れてすまない、以降、彼らと共に独立傭兵の対処に当たれ』

 

――621、通信切断。

 

 ウォルターの声が途切れると同時に、戦場の音だけがコックピットに満ちた。

 

 爆音、振動、焼け焦げた空気の揺れ。それらすべてを通して、621は“戻ってきた”ことを自覚する。

 

『前進。制圧射撃継続』

 

 617のガトリング弾幕が火線を引き、格納庫の空間を切り裂いていく。キングの《アスタークラウン》が咄嗟にパルススクトゥムを展開し、それをいなす。

 

 だが、次の瞬間には《C4-618》が滑り込む。

 

 タービンの駆動音も鋭く、接近戦用のパルスブレードがスクトゥムの裏を狙って突き込まれる。キングが回避運動に出るが、それに合わせて《C4-619》のミサイルが包囲するように炸裂。金青の四脚機体が一瞬、体勢を崩した。

 

 そこへ――

 

『狙撃完了。右後脚部に命中』

 

 無言の精密射撃が、アスタークラウンの可動部を貫いた。パルススクトゥムの隙間を突いた見事な一撃。機体の挙動がわずかに鈍る。

 

 621はスラスターを吹かし、滑るように側面へ展開。

 

 モニター上で味方機の軌跡が交差し、動きの意味を即座に理解する。

 

 ――連携が、誘導している。

 

 四機の動きは、あらゆる反撃の芽を摘みながら、確実に“狩り”へと至る経路を作っていた。

 

『この……俺を狩るつもりか!猟犬共!』

 

 《バルテウス》の帯状マルチプルパルスランチャーが展開される。火線が次々と交差する中、621の照準が定まった。

 

 ――撃てば終わる。

 

 そう思った瞬間だった。

 

 格納庫の天井、破損した支柱のさらに上。煙に紛れていた空間を突き破るように、落雷にも似たEN放電が走った。

 

 次の瞬間、鮮やかな黄金の閃光とともに、これでもかと重火器を詰め込んだ機体が格納庫の上層から舞い降りる。

 

《警告:機体反応接近。識別──シャルトルーズ/AC アンバーオックス》》

 

 621のHUDが自動的にアラートを鳴らし、識別ウィンドウが開いた。

 

 シャルトルーズ――《見つめ合えば死ぬ女傭兵》。正面突破と火力集中の技能においてはキングすら上回る、要塞のようなACを駆るパイロット。

 

『お待たせ、キング』

 

 通信は、飾り気のない声で。だが、そこには確かな余裕があった。

 

『封鎖衛星の制御系は掌握済み、後は引き上げるだけ。執行部隊は彼が独りで抑えてくれている』

 

 《アンバーオックス》の肩部武装が駆動し、二つの巨大な砲門がハウンズらに向けられた。

 大型の拡散レーザーキャノンと大口径グレネード砲、それぞれの砲口が冷たく輝く。

 

『――視界、全部塞いじゃおうか』

 

 格納庫に残る構造体も整備機材も、区別なく粉砕するように、怒涛の面制圧射撃が放たれた。

 

 爆発。閃光。蒸気と熱風が空間を支配し、バルテウスのセンサーが一時的にホワイトアウトする。

 

 《注意:視界不良/照準再取得困難》

 

 迎撃を試みようとしたC4-617のガトリングが火を噴くが、散乱するデブリと乱気流に弾道が乱され、決定打には至らない。

 C4-619が火線の隙を縫って誘導ミサイルを発射するも、濃厚な弾幕による金属片が妨害を強め、ロックオン精度が乱れる。

 

 《アンバーオックス》の前面には、まるで“進入不可”とでも言うかのような、圧倒的な火力の壁が形成されていた。

 

 その背後で、《アスタークラウン》が身を翻す。

 

『援護、感謝する』

 

『生きて帰ってよ、キング。次の依頼が控えてるわ』

 

 短い、だが親密なやり取り。

 

 《アスタークラウン》が再点火したブースターで跳躍し、崩れかけた天井の開口部を突破する。

 

 直後、《アンバーオックス》が残った武装である中型バズーカを床に放ち、後退用の煙幕とするように爆炎を広げた。

 

 ――621、敵機《アスタークラウン》および《アンバーオックス》、離脱行動開始。

 

 ――追撃は推奨できません。基地構造体へのダメージが深刻です、これ以上の戦闘は基地の崩壊の恐れがあります。

 

 621の視界には、跳躍してゆく敵影と、その軌跡に広がる残火の帯。

 

 追撃は可能。だが、格納庫の被害は大きく、味方の損耗も進んでいる。

 

 ――敵機、視界外へ。目標は撤退を完了。

 

 《ハウンズ》の機体群が動きを止める。

 

 621の視線が、格納庫上部の空へと向けられた。

 

 そこには、無数のデブリの間をすり抜けるように逃走する2機のACの光跡。

 シャルトルーズの言葉が、胸に残る。

 

 《封鎖衛星、掌握完了》

 

 戦況がまた大きく変わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 数時間後、衛星軌道基地・ブリーフィングルーム

 

 蒸気のまだ抜けきらない空調が重たく唸りを上げる中、ブリーフィングルームには戦闘ログと衛星データのホロウィンドウが次々と立ち上がっていた。

 

 部屋の中央、戦術卓の前に立つのはグレイ執行上尉。制服の上から巻かれた包帯は何重にも重ねられ、左肩から胸元にかけて血の滲みが広がっている。

 

 右手はかろうじて動くようで、手元の端末を操作してスクリーンの表示を切り替えていった。

 

「……全員、聞け」

 

 その声は掠れていたが、命令を受ける者の背筋を正すような力強さは健在だった。

 

「今回の戦闘について、現時点で確認できた情報を共有する」

 

 スクリーンに、衛星軌道上のマップが展開される。そこには“LOSS(喪失)”とマークされた複数の封鎖衛星の制御ノードが点滅していた。

 

「敵は封鎖衛星中枢ネットワーク》への潜入と干渉に成功した」

 

 次いで表示されるのは、脱出するキングとシャルトルーズ、そして上層から侵入したもう一機──未確認の機体情報。

 

「キングとシャルトルーズの動きは“陽動”に過ぎなかった。真の狙いは、衛星の支配系統と、それを用いた監視網の麻痺」

 

 グレイは、わずかに咳き込み、胸に手を当てる。誰も声をかけない。

 

 「我々執行部隊は……予備戦力を含めて損耗率67%。前線の再展開は困難と判断する」

 

 映像が切り替わり、《ハウンズ》の作戦行動ログが再生される。格納庫での包囲戦。撤退する敵機。爆発、煙幕、そして喪失した機材と人員の数々。

 

「だが、C4ー621と臨時編成特務部隊、《ハウンズ》は健在だ。これは我々が維持した数少ない戦力の核になる」

 

 そこで、グレイは視線を621に向けた。包帯の隙間から覗く片目が、静かに621を見据える。

 

「特務准尉C4-621を《ハウンズ》へ編入、以降は部外戦術顧問……ハンドラー・ウォルターの指揮下に入れ」

 

スクリーンに映し出されていた作戦概要がフェードアウトし、戦術卓の照明が落ちる。

 

 グレイ執行上尉は深く息を吐き、背後の端末に手を伸ばす。別回線から送られてきた暗号ファイルを復号し、次のウィンドウを開いた。

 

「……これから話すのは、機密中の機密だ。外部への情報漏洩は一切許されない」

 

 そう前置きした上で、グレイは淡々と告げる。

 

「今回、封鎖衛星の掌握という暴挙を可能にした支援網……その出自について、情報部が解析を進めていた。現時点での結論は一つだ」

 

 星外複合企業──アーキバス・コーポレーション。

 

 複数の系外宙域にて軍需開発と戦争ビジネスを展開する大企業。

 

「……星外企業、アーキバスが資金・技術の両面から、今回の傭兵部隊を支援していた可能性が極めて高い」

 

 誰かが息を呑む音が聞こえた。

 

「衛星掌握に必要なコードの一部は、アーキバス系列の衛星通信プロトコルを応用したものだ。さらに、《ブランチ》の使っていた輸送船の増設ブースター及び、突撃用ジェットパック等の装備にはアーキバス傘下企業の技術が用いられていた」

 

そしてグレイの指が、ディスプレイに浮かぶ封鎖衛星群の一つを指し示す。

 

「彼らは封鎖を解くことで、ルビコンを“外”に開こうとしている。再び、この星を“商品”にするつもりだ」

 

 少しの間、沈黙が落ちた。

 

「このまま放置すれば、数週間以内に彼らの主力が“星系外”から本格的に侵攻してくる可能性がある。現に、封鎖衛星の麻痺とほぼ同時にいくつかの未登録船がルビコン3に侵入したとの報告も挙がっている」

 

 戦場が広がる。脅威が膨らむ。だが同時に、明確な“敵の姿”が見えた。

 

「併せて、捕虜として我が基地にいたレッドガン部隊G5イグアス、ルビコン解放戦線のツィイーの行方が分かっていない、どさくさに紛れて地表に降下したと思われる、死んだとは考えにくい。奴らがどこまで連携していたかは不明……」

 

 グレイは椅子に深く座り直し、肩の傷を押さえながら言った。

 

「……どちらにせよ、戦況は大きく変わった」

 

 彼の目が、最後に621を、そしてハウンズの面々を見渡す。

 

「現有戦力は不足している、しばらくは補給もままならないだろう」

 

 画面が落ち、部屋に静寂が戻る。

 

 この瞬間、全員が覚悟を新たにした。

 

 これは歴史を左右する、“戦争”だ。

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