ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第47話 滑稽

 赤く染まった格納庫の天井が、警報灯の点滅でさらに明滅する。床には破壊されたMTの残骸、瓦礫、黒煙、そしてわずかに残る未燃の燃料が広がっていた。

 

『補給路、破壊完了。敵の応援は見込めない』

 

C4-619の報告。重火器によって瓦解した補給リフトの奥では、もはや物資の搬送も人員の往来も不可能となっていた。

 

『通信中枢も沈黙。監視網は無力化』

 

 C4-620の声に重ねるように、621のセンサーにも“沈黙”が記録されていく。熱源なし。信号なし。電子音も、騒音もない。

 

──全てが、壊れた。

 

『全機、作戦第一段階の完遂を確認』

 

 C4-617が静かに宣言する。その声は、淡々としたものだったが、どこか確かな達成感と警戒心の交じる色を帯びていた。

 

 格納庫内は爆炎と排煙の余韻に包まれ、警報は完全に沈黙していた。

 

 621は《バルテウス》のセンサーを中枢方面へと再スキャンしながら、低く呟く。

 

『……スウィンバーンは?』

 

 応答はなかった。誰もが、それを問いかけたかった。

 

 だが、その瞬間だった。

 

 基地外──格納庫の天井越し、はるか上方から突如として爆音が響き渡る。

 

 振動。連続する砲撃音。まるで雷鳴が地表に叩きつけられたような、衝撃波。

 

『……外か』

 

 C4-618が呟いた。

 

『621、映像補足可能か』

 

『試みる。センサー拡張──高空赤外波形、補正開始』

 

 621の操作に応じて、バルテウスの高性能センサーモジュールが駆動。破壊された天井越しに、薄い空の帳を透過して高空の熱源を補足し始める。

 

 ──映る。

 

 青白いスラスター光、夜闇に溶けるような濃紺の流麗なフレーム。

 

『コード5。機体確認──ヴェスパー第6隊長スウィンバーン、及び搭乗機、《ガイダンス》』

 

 ――彼は、逃げていない。

 むしろ、待っていた。

 

『基地の外で、誰かと戦ってる……?』 

 

 621の解析により、彼が別勢力と交戦していると判明。

 おそらく先ほどから続いていた基地外の砲撃は、スウィンバーンとその“相手”によるものとハウンズの面々は推論を行う。

 

『ならば……こちらが介入する』

 

 C4-617が静かに告げる。

 

 その一言を合図に、ハウンズの全機がスラスターの出力を一段階引き上げた。破壊された格納庫の天井、吹き抜けの開口部を通じて空へと飛翔していく。

 

 621の《バルテウス》が真っ先に浮上。続けて《LOADER1》から《LOADER4》までのACが煙の帳を切り裂きながら舞い上がる。

 

 上空はまさに戦場だった。

 

 夜空を昼の様に照らす大型グレネード弾が交差し、砲撃の残響が岩壁に反響する。スウィンバーンの機体、《ガイダンス》が高速回避を繰り返しながら空中戦を展開していた。

 

その対峙する相手は――

 

『……っ』

 

 621がわずかに息を呑む。

 

 映ったのは、かつて彼女が“友”と呼んだ存在。

 

 ルビコン解放戦線の戦士、リトル・ツィイーが、621自らが改造を施したACユエユー・ユエロンに搭乗し戦場を駆けていた。

 そしてその僚機には、同じく解放戦線のネームドACパイロット六文銭。

 

『識別信号確認──ツィイーおよび六文銭。どちらも解放戦線所属』

 

『敵か味方かは不明……だが、交戦中』

 

 C4-618が短く告げた。彼らにとっては、ツィイーも六文銭も“任務対象外”だ。

 だが、621は知っている。

 ツィイーは、この星を想い、戦っている。

 

 その一瞬の逡巡の中で、スウィンバーンのAC《ガイダンス》が姿勢制御を最小限に抑えながら旋回、肩部から展開された大口径グレネード砲が閃光を帯びて炸裂した。

 

――狙いは、ツィイー。

 

『っ……!』

 

 621の胸がざわつく。

 

 スウィンバーンの射線が、彼らを殺しにきている。

 ツィイーも六文銭も、今はスウィンバーンという“同じ敵”と戦っている。

 

 それだけのこと。

 それだけの――はずだった。

 

 それでも、彼女の指は、すぐには動かなかった。

 コクピット内で、視線が彷徨う。敵でもない、味方でもない、かつての“友”が戦っている。

 

 迷いが生まれた。だが。

 

 次の瞬間――ツィイーの機体が、グレネードの爆風に巻かれ姿勢を崩す。

 

 火花が走る。装甲片が飛び散る。

 

『……!』

 

『621、動くな。状況判断が――』

 

 C4-617の静止を、621は無言で断ち切った。

 

『スウィンバーンは、こちらの標的。それに変わりはない』

 

 短く冷徹に言い切る。

 感情ではない。任務の継続。それ以上でも以下でもない。

 そう自分や兄らに言い聞かせるように。

 

『621、敵に交戦中の者がいることに問題はない。支援行動を取り、一時的な共闘は有効だ』

 

 C4-618が、静かにその選択を支持した。

 

『……一理ある。了解した、ハウンズは解放戦線と一時共同しスウィンバーンを討つ』

 

『了解』

 

 咄嗟の状況判断に、617は考えを柔軟に改めた。

 別の言い方をすれば、妹の珍しい我儘に付き合ってやる覚悟を決める。

 

 

 問答の直後、《バルテウス》のスラスターが唸りを上げ、青白い光を纏って突進する。

 

『おい貴様、持ち場を離れるな。襲撃者ならこの私が……』

 

 スウィンバーンの状況を飲み込めていない無線を無視し、彼女が選んだのは、中間位置からの切り込み。

 ツィイーと六文銭の側面を抜けるようにスウィンバーンの機体に接近し、射線を遮る形で強引に割り込んだ。

 

『!?なっ、何者だ!?待て!部下を装って近づくとは、なんという卑劣……』

 

『は?って……あなた、621ちゃん……!?』

 

 ツィイーとスウィンバーンそれぞれの驚愕の声が、通信に乗って届いた。

 しかしそれに答える暇はない。

 《バルテウス》のパルスアーマーが展開され、スウィンバーンの次射軌道を遮断するように閃光を走らせた。

 

『標的補足――V.VIスウィンバーン』

 

 淡々と発せられるその音声は、あくまで機能の一部であり、決意の言葉ではない。

 

 だが、彼女の中でははっきりと線が引かれていた。

 

 ツィイーと六文銭は、今は敵ではない。

 そしてこの場において――スウィンバーンは確実に、討つべき敵だ。

 

『ハウンズ、戦闘隊形──前衛二、側面展開』

 

 《LOADER1》、《LOADER2》、《LOADER3》、《LOADER4》。

 四機のACが、岩のように重い無音の跳躍をもって、空中に陣を張る。

 

『了解』

 

 返答は短く、内容に飾りはない。だが全員の行動は、極限まで練られた訓練の成果を証明するかのように、完璧だった。

 

 スウィンバーンの《ガイダンス》が、突如として増えた複数の敵影を確認し、姿勢を崩す。

 

『な……!なんという卑劣!7対1とは……誇りを知らぬ愚か者か!』

 

ツィイーの《ユエユー・ユエロン》は、追撃の姿勢を取らず空中で静止していた。通信回線が一瞬だけノイズを孕み、621の耳に彼女の声が届く。

 

『なにが……どういうこと? あなたたち、どうして──』

 

 だが、621は答えなかった。答える時間も、余裕もない。

 

『照準、《ガイダンス》。全火力を一点集中』

 

 C4-617の冷徹な一言と共に、戦場の空気が変わる。

 

 621がパルスランチャーを構え、617がガトリングを回転させ、619の重火器が再装填完了のチャージ音を鳴らす。620と618は既に両翼の高空から奇襲のための回り込みを開始していた。

 

『――開戦』

 

 その言葉と同時に、爆発が起きた。

 

 ハウンズの一斉攻撃が、スウィンバーンの《ガイダンス》へと降り注ぐ。グレネード、パルスランチャー、ミサイル、斬撃、ガトリングガン――あらゆる攻撃が、敵一機を討つために編成されていた。

 

『おあーー!』

 

 爆炎の中、スウィンバーンの《ガイダンス》がくるくると旋回を繰り返しながら、信じられない機動で弾幕をかいくぐる。さながら空中バレエ。だが飛び散る火花と装甲片が、彼が“すでに傷を負っている”ことを告げていた。

 

『あの弾幕を搔い潜るか』

 

 617の微かに驚愕を含んだ声が無線に漏れる。

 

『馬鹿な、この私が!ヴェスパーが!』

 

『敵AC、逃走経路を模索中。だが……明らかに不自然』

 

 C4-620が冷静に分析する。

 

 スウィンバーンの咆哮と共に、《ガイダンス》が急降下。着弾を伴いながらも、その進路は精密だった。まるで爆発すら計算に入れているかのように、煙幕と衝撃波の中で翻る。

 

 《ガイダンス》の機体が岩陰を利用しながら、今度は《LOADER3》、619の重火器に接近。その懐へ、まさかの体当たりを敢行する。

 

『!?接触!?これは……』

 

 熱風と火花。だが、接触と見せかけての急旋回――直撃を回避しつつ、爆風を利用して間合いを離脱。高空へ跳躍、再び制空権を取る姿は、まさに老獪な戦士。

 

『動きが読めん。滑稽だが……流石はヴェスパーか』

 

 C4-620の声に、他の兄弟たちも同意の沈黙を返す。

 

 煙と爆発の隙間を縫うように、《ガイダンス》がスラスターバーストを吹かしながら急制動。機体は一瞬だけ静止し、その間にスウィンバーンの声が通信チャンネルに走った。

 

『くそっ……全く!なぜ私ばかりがこうも狙われる!?これだから真面目に勤務している者が損をするのだ……!』

 

 音声に含まれるのは明確な焦り。だがその背後で、複数の制御パネルが叩きつけられるように操作され、セカンダリ回線が一つ、開かれる。

 

『──こちらV.VIスウィンバーン!至急応答願う!どこかで暇をしているのでしょう!?そちらはとっくの昔に片付いているはずでは?!』

 

  一斉に飛来する誘導ミサイルの直撃を回避しながら、彼の《ガイダンス》は垂直上昇。追尾ロックを強制解除し空中旋回。だが、被弾の痕はすでに機体の左肩と右脚を焦がしていた。

 

 通信は続く。

 

『ええい!以前の監査を根に持っておられるのですか!?他社パーツを買い漁る貴方が悪いのでは?!』

 

 敵味方の境界を忘れたような、嘆願と怒号の入り混じった叫び。

 

『どうか救援を!至急援護を!一体何処で何をしておられるのか!?』

 

 621の《バルテウス》内部、通信を傍受していたエアが小さく呟く。

 

 ――おそろしく……うるさいですね。

 

 ――しかし妙です。過去のループでは、追い詰められると、すぐに命乞いをしていたはずですが……

 

『ほら!ほうら!現在戦闘ログを送信いたしました!解放戦線のネームド二機、封鎖機構の特務部隊……なにより、例のバルテウスが……!これを見て、来られずにはいられないでしょう!』

 

 ──通信、応答あり。

 

 空域外周、軌道上から侵入する一つの熱源。明らかに、スウィンバーンの叫びに反応した何かが、彼の元へ向かっていた。

 

『やれやれ……心底、肝を冷やしましたぞ……第1隊長殿』

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