ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第5話 特攻 

 四脚MTの砲撃が激しさを増し、周囲の瓦礫をさらに吹き飛ばしていく。その巨体が動くたび、地面が軋み、威圧的な存在感が戦場を支配していた。増援の四脚MTの存在も確認され、戦況はますます厳しいものとなっている。

 

『621。チャンスは必ず訪れる、観察を怠るな』

 

 ウォルターの声が響いた。621は微かに頷き、紅い瞳は、モニター越しの四脚MTを捕らえたまま動かない。

 

 四脚MTの旋回に合わせて、621は機体を再加速させた。ブースターが火花を散らしながら限界まで稼働し、側面に回り込む。四脚MTの腕部装備──大口径の機関銃が火を吹いた、周囲の瓦礫を粉砕するが621の動きは一瞬の迷いもない。

 

 緻密な操縦を行いつつも、彼女は装甲構造を冷静に分析していた。装甲そのものを貫くことは不可能だが、脚部の関節部や胴体内部への接続部にこそ脆弱な部分が存在する。それを狙うため、621は危険な賭けに出る。

 

 HUDに表示されたロックオンアラートを無視し、彼女は機体の右腕に装備されたEN兵器を手動操作で調整する。そして、リミッターを完全解除。ジェネレーターが悲鳴を上げ、銃身が高熱で赤熱化していく。

 

『621、チャージ射撃を行えば数秒は冷却の為射撃不可能となる。タイミングを見定めろ』

 

「了解」と信号を送ると同時に飛び込んだ。次の瞬間、621は搭乗するSENTRYの右腕がEN兵器ごと無理やり四脚MTの胴体関節部にねじ込まれる。装甲が軋む音がコックピットに響いた。

 

 常人なら耳を覆いたくなるような甲高い金属音の中、眉一つ動かさずに621は射撃を開始した。

 

 オーバーチャージされたEN兵器が高熱のエネルギー弾を内部に向けて乱射する。銃身が次第に焼け、装甲の内側から次々と火花が散る。四脚MTは激しく振動し、抵抗しようとするが、その動きが徐々に鈍くなっていく。

 

『621、離脱しろ! 銃身が……』

 

 ウォルターの声も届かない。621は射撃を続け、内部から破壊を試みる。その様子は、まさしく獲物に噛みつき、引き裂く猟犬そのものだった。

 

 共通無線がざわめき始める。

 近くで621の戦いを目撃したSENTRYパイロットたちは、彼女の戦いぶりに恐怖を覚えていた。

 

『あの動き……猟犬だ、本物の──』

 

『味方……なのか? 俺たちまで巻き込む気じゃ──』

 

 だが、621はそんな声にも無関心だった。焼け落ちる銃身から発生する高熱がセントリーの装甲を焦がし始める。機体は限界に達しつつあったが、彼女は射撃の手を止めない。

 

 ついに、四脚MTの胴体関節部から爆発音が響いた。内部で連鎖的な破壊が起こり、巨大な機体がぐらりと揺れる。四本の脚が崩れ落ち、その巨体が地面に沈み込んでいく。

 

『やった……!』

 

 共通無線に歓声が上がる。しかし、621の機体はすでに限界を超えていた。右腕はEN兵器ごと完全に焼け落ち、ジェネレーターも無理な稼働により異音を放っている。背部の冷却機構から、もうもうと蒸気が吹き上がり続ける。

 

『621……無茶な戦いだったが、よくやった。すぐに後退し、増援をまて』

 

 ウォルターの心配そうな声が響く。

 しかし、621は疲弊しきった機体を無理矢理動かし、次の目標に向けて動き出した。

 

『621、戻れ。それ以上は機体がもたない』

 

 ウォルターの冷徹な声が耳に響く。しかし、621の赤い瞳はHUDに点滅する複数の敵機反応を見つめ続けていた。

 

 主兵装であるEN兵器は焼け落ち、誘導ミサイルの残弾数も心許ない。右腕は肘関節から先が損失、ジェネレーターは無理な機動を強要した結果、異音を放ち出力は不安定となっていた。  

 

『621、聞け。お前はここで無理をするべきじゃない。撤退すれば機体を補充できる』

 

 ウォルターの声は冷静さを保とうとしていたが、その奥には焦燥が滲んでいた。

 

 しかし、621は一切応答せず、代わりにHUDを操作し、誘導ミサイルのシステムを完全手動モードに切り替える。次の瞬間、肩部ミサイルポッドを開き、中の残弾数を確認した。残弾はわずか数発。

 

『まさか……それを手動で……! 621、それは狂気だ!』

 

 ウォルターが声を荒げた。だが、621は静かに「問題なし」と信号を送る。

 そのままブースターを起動し、次の戦場に向けて駆け出す。後には、呆然と立ち尽くす味方部隊が残されていた。

 

 

 

 

 

 621は廃墟の瓦礫に隠れ、戦場中央で暴れ回る四脚MTを一瞬の隙間から観察する。新たに現れた四脚MT同系統機であり、脚部関節部と胴体接続部の装甲が薄いことを確認した。

 

 彼女は操作を慎重に行い、ミサイルポッドから誘導ミサイルを全て取り出す。残った左腕で全てを抱え込んだ。腕部の肘関節より先を強制的にロックし、誘導ミサイルが溢れない様に確実に固定する。

 

 即席の特攻兵器の出来を確認すると、621はブースターを起動して瓦礫から飛び出した。

 

 四脚MTが621の存在に気が付き、肩部のグレネード砲を放つ。火線が瓦礫を粉砕し、機体をかすめるが、彼女は迷いなく加速を続ける。戦場で暴れ回る四脚MTの脚部関節に接近し、驚異的な機動力で跳び込んだ。

 

 まさか、量産MTが単騎で突っ込んでくるなんて予想が出来るはずも無い。思考の合間を突かれ、四脚MTの機体操作に一瞬の隙が生まれる。

 

 その瞬間、621は左腕を操作し、誘導ミサイルを全て関節部の隙間にねじ込む。その様子はまさに、獲物に食らいつき、喉元を引き裂こうとする猛獣そのものだった。

 

『621! やめろ! お前まで……』

 

 ウォルターの声が無線に響くが、彼女の動きは止まらない。最後の一本を突き刺し終えたと同時に、左腕を操作して即時起爆のプログラムを実行した。

 

 ──誘導ミサイル、即時起爆プログラム起動──

 

 警告音がHUDに鳴り響き、視界が一瞬、激しい閃光で覆われる。直後、関節部からミサイル全弾の爆発が連鎖的に発生した。

 

 ドゴォォォンッ!! 

 

 轟音が大地を揺るがし、爆発の衝撃波が廃墟にこだました。四脚MTの脚部が一本、二本とねじ切られ、巨大な機体が揺らぐ。その爆炎は一瞬にして戦場の中心を覆い尽くし、周囲の瓦礫や廃材が激しく吹き飛ばされた。

 

 621のSENTRYは爆発の余波を至近距離でまともに受ける事となった。左腕を完全に固定したまま、彼女の機体は瓦礫の山を突き抜けるように後方へと弾き飛ばされる。

 

 激しい振動と衝撃がコックピットを襲い、警告音が鳴り止まない。瓦礫の中を滑るように飛び、何度も転倒と衝突を繰り返す。モニターには機体各部の損傷警告が次々と表示されていく。

 

 ──左腕部完全喪失、姿勢安定装置機能停止……ジェネレーター損壊、強制停止──

 

 光学センサーが割れ、HUDが断続的にちらつく中、621は両手で操作桿を握り締め、衝撃に耐えていた。ブースターは完全に停止し、冷却装置からは蒸気が吹き上がる。セントリーの装甲は爆発の熱で歪み、黒く焦げ付いていた。

 

 対して、無謀な自爆攻撃を受けた四脚MTが膝をつくように崩れ落ちた。脚部関節から内部構造が露出し、そこから炎と煙が噴き出している。巨体を支える脚を全て破壊された四脚MTは、その重みに耐えきれず、地面に沈み込んだ。

 

 ズゥゥン……

 

 巨大な機体が大地に叩きつけられる音が戦場に響き渡り、振動が周囲の瓦礫を揺らした。装甲の隙間から漏れる火炎と煙が、まるでその最期を物語るかのように立ち上る。

 

 共通無線に一瞬の沈黙が訪れた後、味方の歓声を上げる。

 

『やったぞ! 猟犬がまた……四脚MTを倒した!』

 

『……信じられない。あれは人間の操縦じゃない……』

 

 歓声と恐怖が入り混じった声が交錯する中、621の機体はなおも地面に伏していた。

 

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