ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

56 / 122
第56話 義理

 焚火の炎は、なお穏やかに揺れていた。

 

 傷ついた者たちが、言葉少なに囲むこの輪の中。緊張と緩和が、綱引きのように交錯していた。

 

 ミシガンは腕を組んだまま、焚火の奥──漆黒の夜空を見やる。

 

「……来たな」

 

 彼の呟きと同時、619が端末を操作する。光点がひとつ、画面に現れた。

 

「識別信号、確認。ベイラム所属のレスキュードロップシップ……レッドガン部隊所属員の回収目的と推定」

 

 静かに、そして確実に言い切られた言葉。

 

 イグアスがぴくりと肩を動かす。

 

「俺らの迎えか……」

 

 ヴォルタは立ち上がるが、表情は変わらない。ただ、工具を無造作にホルスターへ戻すと、焚火に目を落としていたイグアスに目をやった。

 

「名残惜しければ、最後くらい礼でも言ってこい」

 

「な……! う、うるせえ!」

 

 イグアスは赤面を隠すように立ち上がりかけ、すぐにバランスを崩して腰を落とす。

 

 621の横で617が、じっと火を見たまま呟く。

 

「……あいつのことを、どう思ってるかは知らんがな。俺は、まだ認めてねぇぞ」

 

 その言葉に反応したのか、621がわずかに焚火の炎から目を逸らし、彼らのやり取りを聞くように視線を送る。

 

 だが──何も言わなかった。

 

 ミシガンは立ち上がり、赤く染まる夜空の方角を指さす。

 

「お前ら、支度しろ。ベイラムの船は待っちゃくれねぇぞ」

 

 イグアスとヴォルタがそれぞれ、動かないACに向けて歩き出す。イグアスは最後まで振り返る素振りを見せなかったが、その歩幅はやや乱れていた。

 

 救助船は、赤い砂煙を巻き上げながら接近してくる。

 

 夜の静寂を割るように、低く重いエンジン音が地面を震わせていた。

 

 だが──その音に、ミシガンの眉がひくりと動いた。

 

「……あの野郎、何やって……」

 

 ミシガンはわずかに目を細めた。

 

 視線の先。ドロップシップの下腹部──そこに、本来この任務には必要のないはずの装備が備わっている。

 

 砲塔。電磁展開型の機関銃座。それも、今──ゆっくりと旋回し始めていた。

 

 ミシガンの目が鋭く光る。

 

「……チッ、やっぱりそうか……」

 

 焚火の輪に向き直ると、迷いなく口を開いた。

 

「ハウンズ、警戒を強化しろ!」

 

 その声は、先ほどまでの穏やかさを一瞬で吹き飛ばす、軍人としての号令だった。

 

 即座に反応したのは617。

 

「何があった」

 

「ベイラムの連中が火器を構えてやがる……“救助”にしちゃ物騒すぎるな」

 

 救助船は、なおもこちらに向かって降下を続けていた。

 

 だが──その挙動は明らかにおかしかった。

 

 619が通信端末を睨みつけながら呟く。

 

「……火器系統の起動信号を検出。セーフティ解除、照準センサー稼働中……これは、明らかに――」

 

「攻撃態勢だ」

 

 ミシガンが低く唸るように言った。

 

 その声音には怒気が混じっていた。

 

 621が、わずかに焚火から顔を上げる。

 

 イグアスもヴォルタも足を止め、ドロップシップを見上げていた。違和感に気づかぬほど、戦場を知らぬ者ではない。

 

 ミシガンはその巨体を一歩、焚火から離れ、低く唸るように言葉を吐いた。

 

「……なるほどな。上層部の馬鹿どもめ、勝手に決めやがったか」

 

 その声音には、確かな怒りが込められていた。

 

「俺にすら何も通さずに、ハウンズを“片付け”に来やがった……命令系統を無視して。レッドガンの、総長であるこの俺に、何の確認もなくな……!」

 

 拳を握りしめる肩が、微かに震えた。

 

 ヴォルタがわずかに眉をひそめる。

 

「合理的じゃねえか。AC乗りがACを使えないときに攻撃する、何も間違ってねえ」

 

 ミシガンはぐっと奥歯を噛みしめた。その怒りは、ただの戦術論では済まされない。

 

「道理の話をしている!!!休戦を持ち掛け、奇襲なんぞアーキバスの鬼畜でもせん!!!」

 

 ミシガンの怒声が荒野の静寂を裂く。

 

「全員、武器を取れ!岩陰に退避!非武装者は621を中心に防衛ラインを組め!!」

 

 617が即座に立ち上がり、腰のホルスターから拳銃を抜く。

 

「ハウンズ、配置につけ!620、621の護衛だ」

 

「了解」

 

 620が無言で立ち上がり、621の前に立ちはだかるように構えた。彼女はまだ松葉杖を握ったままぬいぐるみを抱えていたが、表情には動揺はない。かつてのように、ただ状況を受け止めるだけの目だ。

 

 619は通信端末を片手に、もう片方の手でリュックからサブマシンガンを引き抜いた。

 

「照準センサー完全稼働……距離、五百、四百、三百──警告、武装ドローンの展開シグナルを捕捉!」

 

「下がれ、後退しながら応戦しろ!」

 

 ミシガンの指示に、レッドガンの二人──イグアスとヴォルタも即座に動く。

 

「くそっ、マジでやるつもりか」

 

 イグアスは岩陰に身を滑らせ、即座に拳銃を抜いた。

 

 ヴォルタは無言のまま、大型のコンバットライフルを構えて岩場の上に登る。相変わらず寡黙だが、銃口の動きは正確そのものだった。

 

 ミシガンは振り返らずに叫ぶ。

 

「貴様らも配置につけ!今この瞬間だけは、レッドガンもハウンズも関係ねぇ!」

 

「……チッ、了解」

 

 イグアスが短く答えた。

 

 そして、ミシガンは巨体を反転させ、《ライガーテイル》へと向かって駆け出す。周囲の地面が震えるような音を立てて、彼の重い足音が砂を蹴る。

 

 AC《ライガーテイル》のハッチが開き、昇降リフトが降下する。

 

「まだイカれちまってねえだろうな……頼むぜ」

 

 ミシガンが機体内部へ飛び乗り、操縦席へ滑り込む。

 

 パネルが自動で起動し、緑の照明がコックピットを満たす。

 

《──AC《ライガーテイル》、メインシステム、戦闘モード起動》

 

「いい子だ」

 

 コックピットが閉じ、次の瞬間、《ライガーテイル》の四脚が地を踏みしめるように動いた。

 

 砂塵を巻き上げ、膝関節が駆動音を響かせ、ガトリング砲とグレネードユニットが戦闘態勢を取る。

 

 その巨体は夜空に浮かび上がる“偽りの救助船”へと、真っすぐに照準を向けた。

 

『こちらレッドガン総長G1ミシガン。ベイラム指令部に告ぐ──今からお前らの船を迎撃する。これは報復ではない、“忠義”の行使だ』

 

 通信は開かれたまま、ミシガンの指がトリガーにかかる。

 

『戦場の道理を忘れた者には、戦場の流儀で応じてやる──この俺を敵に回したことを後悔させてやる』

 

 ミシガンの怒気を孕んだ宣言が空電のように通信網へ放たれた、その直後。

 

 通信チャンネルに割って入るように、ノイズ混じりの音声が飛び込んでくる。

 

『っ……こちら、ベイラム戦術管制!ミシガン総長、待ってください!そのドロップシップは──っ』

 

 声は焦燥に満ちていた。明らかに、想定外の事態に直面している者の声音。

 

『攻撃対象は封鎖機構所属の“ハウンズ”のみ!レッドガン部隊への危害は一切計画されていません。回収作戦は予定通り進行中、総長とG4、G5は安全に──』

 

 その言葉を最後まで聞かず、ミシガンはコックピットの中で凄まじい怒声を上げた。

 

『ばかもん!!!』

 

 《ライガーテイル》のシステムが警告音を鳴らすほどの咆哮。

 

 ガトリング砲が、うなりを上げながら回転を始める。

 

『命令系統を無視し、救助船を偽装してまで攻撃を仕掛けるか……ベイラムはそこまで堕ちたか……!』

 

 その怒りには、組織の堕落に対する深い失望が滲んでいた。

 

『ハウンズは、確かに敵だった。だが今は違う。休戦中だ。俺が言葉を交わし、共に火を囲んだ人間だ──俺の命令で、武器を置いた連中だ!!』

 

 ミシガンは、胸元にぶら下げた識別タグを一度握りしめる。無言のまま、それを放すと、深く息を吐いた。

 

 そして、低く、静かに言った。

 

『あいつらに銃を向けるなら、まずはこの俺を倒してからにしろ。いいか、一発でも撃ってみろ、その瞬間……地獄を見せてやる』

 

 ──沈黙が落ちた。

 

 ミシガンの激昂が通信を押し流してから数秒。

 

 《ライガーテイル》のセンサーユニットが、ドロップシップ機体の腹部に異常な熱源と質量反応を感知する。

 

 《警告:艦底部より熱源複数展開中。予測進路、地表への急速降下》

 

 照準HUDにマーカーが複数表示される。まるで爆弾のように、金属の影が暗い空から放たれていた。

 

「──来たかよ」

 

 ミシガンは歯噛みするように言い、即座に《ライガーテイル》の頭部センサー群を蠢かせる。

 

 航行中の偽装救助船の構造情報が解析され、表示された。

 

《搭乗員:複数名確認 戦術管制ユニットおよび操縦士区画、生命反応あり》

 

「……チッ」

 

 舌打ち一閃。

 

 ミシガンはすぐさま主砲の照準をドローン群へと切り替える。ガトリングガンの旋回が、夜空を背に低く唸りを上げる。

 

 夜空から落下してきた複数のドローンユニットが、派手に逆噴射を吹かして減速、地表数十メートルでホバリング体勢を取りながら展開を始めた。

 

 無骨なプロペラ式の戦術ドローン。ベイラム製の制圧用機動兵器群。

 

 無数の砲口が、地表の岩場へと向く。

 

《敵対ドローンシグナル捕捉。武装確認:軽機関砲、誘導小型爆弾》

 

《敵性個体、総数:16》

 

「数で押す気か、ベイラムらしいな!くそ!」

 

 イグアスが悪態をつきながら岩陰に伏せ、拳銃を抜いて一発撃つが、ドローンは軽々と軌道を変えて弾を避ける。

 

「くそ、かすりもしねぇ!」

 

 ミシガンの《ライガーテイル》が地を踏みしめ、装甲を軋ませながら膝を屈める。

 

 狙いはドローン。目標を的確に絞り、被害を最小限に抑えるために。

 

 ミシガンの唸り声が、音声回線越しに響く。

 

『射撃を開始する!!薬莢に注意しろ!!!』

 

 そして、引き金が引かれる。

 

 閃光。轟音。

 

 《ライガーテイル》のガトリング砲が火を噴き、空中のドローン群へ弾丸の奔流が襲いかかる。

 

 空中で一機、二機──赤い閃光を残して爆発する。

 

『G5!G4!!側面をカバーしろ!ハウンズは621の後方に陣形を集中させろ!俺が正面を抑える!!』

 

「了解!」

 

「任せろ」

 

 ヴォルタのコンバットライフルがドローンの機動に合わせて正確に弾丸を放つ。

 

 火の粉を散らして爆発するドローン。その残骸が、炭化した瓦礫に音を立てて転がる。

 

 《ライガーテイル》は火線の中、なおも吼える。

 

『今だけは、命令も所属も関係ねぇ!死にたくなかったら死ぬ気で叩き潰せ!!!』

 

 雷鳴のような怒声と共に、戦闘が始まった。

 

 炎の照り返しが、ACと人々を照らし出す。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。