ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第6話 発光

 

 爆発の余韻が戦場に広がり、瓦礫と煙が舞い上がる中、621の機体は地面に倒れ込んだままだった。ジェネレーターは停止し、冷却装置も限界を超えた熱で作動不能。装甲は激戦を物語るように焦げ付き、歪み、右腕と左腕のどちらも失われていた。

 

 コックピット内は警告音の嵐だ。酸素供給と生命維持装置はかろうじて作動しているものの、全てが停止寸前の状況だった。しかし、621はモニターに映る戦場を見据えたまま、操作桿を握り続けていた。

 

 621は無理やり機体のシステムを再起動させようと試みた。緊急モードに切り替え、予備動力で機体を動かそうとする。その動きは鈍く、ガリガリと金属が擦れる音を立てながら、SENTRYがゆっくりと起き上がり始める。

 

『621……何をしている。もう戦闘は終わった、救出を待て』

 

 ウォルターの冷静な声が耳に届く。彼の声には明確な苛立ちと心配が混じっていた。しかし、621は一言も返事をしない。ただ操作を続け、完全に停止したHUDを再起動させようとする。

 

 脚部がぎしぎしと音を立て、わずかに動き出す。歪んだ装甲が光を反射し、まるで立ち上がる意志そのものを体現しているかのようだった。

 

 その時、共通無線に執行上尉グレイの冷徹な声が響いた。

 

『621、機体を停止しろ。我々は解放戦線の撃退に成功した』

 

 彼の声は威圧的で、命令に従わない選択肢など許さないという確信に満ちていた。だが、621はその言葉を無視し、わずかに動く機体をさらに前へ進めようとする。

 冷却システムが限界を超えて停止し、蒸気が吹き上がる中、621は操作桿を握り締めたまま再起動を試みていた。機体はほとんど機能を失っていたが、彼女の手は決して止まらない。その様子にウォルターは眉をひそめ、沈黙の中で何かを感じ取っていた。

 

『621……なぜだ。なぜ、そこまでして動こうとする?』

 

 彼の声は静かだったが、答えを求める強い意志が込められていた。しかし、621は無言のままだった。操作を続ける彼女の赤い瞳は、HUDに点滅するある一点──ウォルターが密かに指示した隠された目標地点を捉えていた。

 

『……まさか……』

 

 ウォルターは短い沈黙の後、ハッとしたように気づいた。621がここまで無茶をしてでも動こうとする理由。それは彼自身が与えた密命──一般の部隊には共有されていない目標地点のデータ収集──を完遂しようとしているからだった。

 

『そうか。お前はまだ、あの任務を諦めていないのか』

 

 彼の声には、驚きと同時に深い後悔が混じっていた。彼は冷静さを取り戻し、すぐに続ける。

 

『621、聞け。その任務はもう中止だ。状況が変わった。お前の命を危険にさらしてまで遂行する必要はない』

 

 しかし、621は応答しない。彼女の指は操作桿を動かし続け、機体へわずかな力を送り込んでいた。

 

 執行上尉グレイが再び無線を介して割り込んでくる。同時に、上空から彼の乗ったHC機体が地表に降り立った。

 621や他部隊員が乗る量産機体では無い、真のエースパイロットにのみ貸与される惑星封鎖機構の主力機体──AA22 HEAVY CAVALRY、通称HC機体、又はHC型執行機。

 彼もまた、すでに数機の四脚MTを屠った後の様だった。

 

『ウォルター、猟犬が命令を聞かないようだな』

 

 彼の声は冷ややかで、次の行動を決めているかのようだった。彼のHC機体は621の眼前にまで接近し、巨大なアームを用いて621の機体の動きを完全に制止した。

 

『621、もういい。お前の仕事はここで終わりだ』

 

 グレイは淡々とした声で言葉を続ける。

 

『これ以上の無茶は機体の損失だけでなく、戦場全体の混乱を招く。お前を強制的に停止させる』

 

 HC機体のアームがSENTRYのジェネレーター出力ラインを直接押さえ込み、完全に動きを封じる。

 

『待て、上尉──』

 

 ウォルターが制止しようとするが、グレイは耳を貸さない。

 

『ハンドラー・ウォルター。猟犬には躾が必要だ、お前はそれを怠った』

 

 コックピット内で、621はなおも操作を続けようとしていた。だが、ジェネレーターの停止とHC機体の拘束により、機体は完全に動けなくなる。

 

『621、もういい。この任務は俺が責任を持って引き継ぐ、だから今は、とにかく自分の命を優先しろ。これは命令だ』

 

 ウォルターの命令、という言葉に621が微かに反応する。警告音が鳴り響くコックピットの中、彼女はようやく操縦桿から手を離した。

 

 

 

 

 

 数時間、輸送機のローター音が低く響き渡る中、621の機体は瓦礫と煙の中から引き上げられ、機体ごと輸送機に搭載されていた。焦げた装甲、焼け落ちた腕部、漏れ続ける蒸気──その姿は戦場での熾烈な戦闘を物語っていた。

 

 コックピット内、621は無言でモニターのちらつく映像を見つめる。全身に刻まれた疲労を感じながらも、心の奥では未だ任務が終わっていないことを知っていた。

 

「…………」

 

 輸送機が市街地を離れ、戦場の荒廃した瓦礫の海が視界の彼方へ遠ざかっていく。焔と煙の覆う大地に別れを告げる中、621の目がふと奇妙なものを捉えた。

 

 それは、廃墟と灰色の地表にぽつんと存在する、不自然な輝きだった。薄暗い瓦礫の間で、柔らかく紅い光がわずかに瞬いていた。コックピットのモニター越しにそれを見つけた621は、わずかに目を見開く。

 

 その光は、まるで彼女を呼び止めるかのように輝き続けていた。それはほかの誰にも見えないようで、輸送機のパイロットや他の部隊員たちがそれについて口にすることは一切なかった。

 

「……」

 

 621はその光から目を離すことができなかった。モニターに映る輝き──それがウォルターから密かに指示されていた目標地点と完全に一致していることに気づいた瞬間、胸中に重い鼓動が響いた。

 

 だが、彼女が見ている間、輸送機のパイロットたちはその光に一切気づいていない。

 

『目標地点到達まで10分。現在まで異常なし』

 

 淡々と報告するパイロットの声が機内に響く。輸送機は定められたルートを進み、戦場を後にしていく。その中で、621だけがこの奇妙な光を見ていた。

 

 輸送機はやがて高度を上げ、光が徐々に地表に沈み込むように視界から消え始める。その瞬間、621の心には強い衝動が湧き上がった──降りて確認しなければならない、任務を達成しなければならない、と。

 

 彼女の手が無意識に操縦桿に触れ、機体のシステムを再起動しようとする。しかし、SENTRYは完全に拘束され、ジェネレーターは停止している。動かす術は残されていなかった。

 

『621、どうした? 何か見えたのか』

 

 地表の発光をマーカーで指し示そうにも、メインシステムは生命維持装置や酸素供給装置を除いて完全に停止しており、どうする事も出来ない。報告しようと口を開き、声を出そうとするも、鋭い痛みだけが喉に走った。

 

『何か見たようだな。報告は帰ってから聞こう、621』

 

 621の目は諦めることなく地表を見つめ続ける。輸送機がさらに遠ざかり、あの奇妙な光が完全に視界から消えた。

 

 光が完全に消えた後も、621の目にはその残像が焼き付いていた。それは何かを示唆するかのように、彼女の心をかき乱す。

 

 コックピット内、621は赤い瞳を伏せた。だが、その胸中には、あの光に秘められた真実を確かめたいという執念が燃え続けていた。

 

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