ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

67 / 122
第67話 仇討

 ザイレム中央の一帯に、戦闘初期とは明らかに異なる緊張が満ちていた。

 それは明確な前兆のない変化だった。だが、誰もが体感的に悟る。

 何かが降りた。

 何かが始まった。

 

 ベイラム軍所属のMTパイロット――識別コード「BRM-44」は、制圧部隊の一員としてザイレム広場周辺に展開していた。

 

 作戦当初は順調だった。

 中央構造物への火力投射は成功し、解放戦線及び封鎖機構の応戦も断片的だった。

 複数のACを視認し、交戦ログも得ていた。優勢。それが部隊の共通認識だった。

 

 だが。

 

 突如、IFF未登録の異形機が空から降り立った。

 

 紅の粒子を纏ったそのシルエットに、戦術AIが反応しない。味方でも敵でもない。だが“排除対象”と認識された。

 

そして、同時にザイレムの地中から防衛砲塔がせり上がった。

 自動照準、自動選別。

 だが、その選別は敵味方を問わず、“存在”そのものを対象とするものだった。

 

 一機、上空で爆発する。

 別の一機が構造体ごと貫通され、火球と化す。

 閃光と振動が連鎖的に起こる。

 

 BRM-44のHUDが赤一色に染まり、次々と味方のIFF信号が消えていった。

 

 混乱。

 後退指示は出ず、命令系統は断絶。

 各機は散開し、構造体の陰に退避を始める。だが、砲塔は逃さない。

 上空の航空ユニットが撃墜され、地上では複数のMTが機体ごと焼き尽くされる。

 

 BRM-44の機体も、側面に被弾した。

 左脚部ブースターが損傷。姿勢制御が不安定になり、瓦礫に機体を横たえた。

 

 それでも、彼は生きていた。

 まだ、見えていた。

 

 仲間の機影が焼ける。

 目の前の瓦礫が黒く融ける。

 そして、その向こうに立つ、異形の“何か”。

 

 識別できない。戦術データベースに記録はない。

 それなのに、圧倒的な存在感。

 浮遊し、粒子を帯びながら空間を滑るように移動するそれは、戦場においてあまりに異質だった。

 

 彼は理解した。

 

 あれは兵器ではない。

 理屈も、優劣も、布陣も関係のない“災厄”だ。

 

 ──通信が回復したのは、BRM-44の機体がすでに火点の中に埋もれかけていたときだった。

 

 ノイズ混じりの帯域に割り込むように、強烈な金属音声が響く。

 

『レッドガン部隊、こちらG6!コールサイン・レッド!残存部隊、こちらへ集結せよ!』

 

 その声には、異常なまでの力があった。

 高圧的でも命令的でもない。ただ、絶対的な“信念”が宿っていた。

 まるで、自分の声で戦場を押し返そうとするかのように。

 

同時に、遠方から滑り込む様にモスグリーンのACが現れる。

 ベイラムの制式ラインを意識した、実直な中量二脚機体。

 レッドガンのエンブレムに刻まれた番号──**《06》**。

 

 《G6レッド》──彼が来た。

 

『恐れるな!俺たちは軍人だ!ここで逃げたら、誰が道を示す!?』

 

 炎上する友軍機の前に、レッドは堂々と着地し、その機体を盾にして砲塔からの火線を逸らす。

 MTたちが、次々に応答し始める。

 

『……こちらBRM-09、脚部破損だが、まだ動ける!』

『BRM-44……音声通信にて応答、視界確保、戦闘継続可能!』

『コールサイン確認! レッドガン……来てくれたか!』

 

 各機が、死線の縁から意識を引き戻されるように集まり始める。

 レッドの機体が先導し、砲塔の死角へと誘導する形で動き出す。

 

 

『各機、散開しても各個撃破されるだけだ! 構造体の遮蔽位置へ移動、そこで防御陣形を取る!』

 

 まるで、軍の教本から抜け出したかのような指揮。

 だが、その言葉には不思議な説得力があった。

 レッドは、誰よりも真っすぐで、誰よりも命令を信じていた。

 そして、誰よりも総長を、ミシガンを信じていた。

 

『立て!レッドガン!ミシガン総長の仇を、あの憎き猟犬共を必ず討伐するのだ!』

 

 残存MT十数機が、一斉に前進する。

 それはもはや、寄せ集めでも烏合の衆でもなかった。

 生き残った意志の結晶だった。

 

 遮蔽物の陰に陣取ったMT部隊のレーダーに、2つの高熱源反応が急接近する。

 

「識別応答あり……IFF照合、AC二機……シャルトルーズ機、キング機……!」

 

 報告が上がると同時に、空中を引きずるような爆音と、鉄が捩れたような轟音が鳴り響いた。

 爆煙を割って突っ込んできたのは、ボロボロに損壊した《アスタークラウン》と《アンバーオックス》。

 

 どちらも、かつての凶悪さを微塵も感じさせない。

 推進器は火花を吐き、外装は融け、脚部関節は軋みを上げている。

 戦闘継続など到底不可能な状態だった。

 

『……また、傭兵か』

 

 G6《レッド》は忌々しげに吐き捨てた。

 戦場をうろつく独立傭兵──軍でもなく、指揮下にもなく、だが“味方”と呼ばねばならない存在。

 信用に値せず、命令も通らず、命を賭ける価値もない。

 

『MT部隊!あの2機を遮蔽に押し込め!まだ死なれては困る!』

 

 MT数機が躊躇いながらも動き出す。

 焼けた《アンバーオックス》がバランスを崩し、その場に膝をついた。

 《アスタークラウン》も、かろうじて姿勢を保つのがやっとだった。

 

『……くそ……』

 

 キングの通信は、ほとんど咳のようなものでしかなかった。

 だが、それ以上の言葉はなかった。命令系統外の存在に、言葉を交わす意味はない。

 

 通信帯域に、短い咆哮のようなノイズが走る。

 

次の瞬間だった。

 

 視界の前方、黒煙と熱波が渦を巻くように膨張する。

 

「なに……?」

 

 MTの一人が漏らした。

 

 その爆煙の中から──

 

 異形の影が、ゆらりと現れた。

 

 パルススラスターが、音もなく再点火される。

 環状装甲の間から放たれるENの放熱。

 コクピットから伝播する、重い存在圧。

 

 《バルテウス》。

 

 強化人間C4-621の駆る、封鎖機構特務機体。

 

 煙をまとったまま、その巨体が姿を現す。

 火の粉が散る。無音だった。全てが静まり返る一瞬。

 

『621……機構の、死神め』

 

 レッドの言葉に、背後の部隊が息を呑む。

 それはまるで、死の到来だった。

 

 だが、レッドの声は震えていなかった。

 彼は睨み据えた。恐怖すら、意志で押し潰すように。

 

『MT部隊、態勢維持。キング、シャルトルーズ、火器管制は稼働しているな?無理でも、マニュアルで固定砲台くらいにはなってもらうぞ!』

 

 そして、短く言い放つ。

 

『こいつが、総長を殺した猟犬か──なら、なおさらだ。ここで殺す。軍人としてな』

 

 《バルテウス》は無言で迫っていた。

 

 ザイレム広場の地面が振動し、残存するプラットフォームの破片が落ちていく。

 全火器は沈黙したまま。

 だが、その沈黙こそが、殺意を孕んだものだった。

 

『全部隊、射撃開始!!!』

 

 レッドの咆哮が、爆ぜるように全帯域へ走る。

 

 次の瞬間、遮蔽から一斉に砲火が吐き出される。

 MTの主砲、キャノン、ミサイル、榴弾──生き残ったすべての火力が《バルテウス》に収束する。

 

 《バルテウス》はその中央に、ただ静かに立っていた。

 

 衝突の直前、機体外装にパルスシールドが瞬間展開され、閃光と爆煙が視界を塗り潰す。

 だが、砲火を通しても分かる。──止まっていない。

 

 MT隊の一機が警告を上げる。

 

『接近、接近!向こう、突っ込んでくるぞ!』

 

『怯むな!奴は獣に過ぎん!総長の仇を討つのだ!!!』

 

 レッドは自ら火線の中心に立ち、バルテウスへ向けて全火器を展開した。

 スラスターが鳴る。バルテウスが、真正面から加速する。

 

 その後方。

 

 《アンバーオックス》と《アスタークラウン》は、ひどく静かに、砲撃ラインの後方で停止していた。

 パージ済の武装から流れる熱量は乏しく、彼らの火器はほとんど“飾り”と化している。

 

『……撃てはする。あんたの言う“固定砲台”くらいにはな』

 

 キングが口の中でつぶやき、キャノンを地面に固定する。

 

 シャルトルーズもまた、崩れかけたブースターを物陰に伏せるように押し込み、サブアームのグレネードを一発だけ発射した。

 それは弾幕の“形”をとる、戦意なき支援射撃だった。

 

『……これ以上は無理ね』

 

『ああ。生き残る気があるなら、戦場を切り上げるべきだ』

 

シャルトルーズのHUDに、再構成された暗号通信帯が浮かぶ。

 キングが静かにアクセスを開始していた。

 

『レイヴン、応答せよ。こちらキング。まだ生きてるか?現状こちら戦闘継続困難。離脱ルートを再評価中』

 

 わずかな沈黙の後、返答はなかった。

 だが、そのノイズの向こうから、かすかな環境音──爆発音と、刃が空を裂くような高周波が聞こえていた。

 

『まだ交戦中か……C兵器相手ではレイヴンも苦戦は免れまい』

 

 遠方でまた、砲火が爆ぜる。

 だが二人のACは、もうその音を意に介していなかった。

 

『レッドの奴……ミシガンが死んだってのは、本気で信じてるらしいな』

 

『まあ、真偽は関係ない。アレはもう、怒りが燃料なんだよ』

 

 《バルテウス》がMT部隊へ突撃を開始した。

 火線を裂いて現れたその巨影に、いくつもの火器が弾け飛ぶ。

 レッドの咆哮がまた、戦場を震わせる。

 

『こいつがミシガンを殺した猟犬なら──! ここで俺たちが討たねば、軍人の誇りが泣くぞォォ!!』

 

 命を賭ける覚悟と、使い潰される予感。

 それが、今のベイラムだった。

 

 そして、その中で──

 

 二人の独立傭兵は、次の戦場を睨みながら、あくまで“今”を切り抜けようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。