ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第73話 圧倒

 ルビコン3・バートラム旧宇宙港。

 

 薄曇りの空を仰ぎながら、バートラム旧宇宙港は沈黙していた。

 

 かつて物流の中心地であった巨大なドック群は、今や封鎖機構の臨時格納施設として再利用されている。強襲艦を含む戦力展開はすでに完了し、各艦の乗員・整備員・警備兵──あらゆる人員が待機状態に入っていた。

 

 空気は重く、緊張に満ちていた。

 

『観測班、再確認。高軌道にアーキバス艦艇の兆候は──』

 

『……ありません。ですが……通信帯域に、雑音が……!』

 

 警戒管制棟。灰色のモニター群が一斉に明滅し始める。

 

 次の瞬間、それは起きた。

 

『──通信妨害波、急速に拡大!』

 

『識別不能の帯域跳躍!衛星通信、ジャミングされました!』

 

ざわめきが走る。だが、直後に冷徹な声が制御室に響いた。

 

「想定通りだ。全機、戦闘態勢へ。対ジャミングモードに切り替え、戦術展開を優先しろ」

 

 その声の主は、バートラム旧宇宙港の管制指揮官である執行中尉だった。彼はコマンド端末を指先で弾き、旧港全域の防衛線を即座に再構築する。

 

『各隊に通達──コード15、繰り返すコード15。来るぞ』

 

 その言葉を合図に、旧宇宙港の各所で防衛網が動き始める。

 

 倉庫跡地からは重機関砲を備えた自走砲座が起動。滑走路端からはLC機体が数機、電磁推進の唸りと共に姿を現す。管制塔からは索敵ドローンが一斉に飛び立ち、曇天を裂くように上昇していった。

 

 そして──

 

『──高空より、熱源反応多数! 降下艇、急速接近中!』

 

『識別信号は──アーキバス!敵編成、軽量型高機動ユニットと推定!』

 

『地上にもサインあり!複数のMTを確認!降下中!』

 

『コード5!敵を発見!』

 

 戦端が、開かれた。

 

 灰色の空に、赤い閃光が交差する。静寂だった港湾区が、一瞬で炎と衝撃に包まれた。

 

 敵は、予測通りの手口を取ってきた。

 

 通信妨害による初動の混乱を誘発し、即座に複数ルートからの同時降下。軽量降下艇によるピンポイント制圧と、地上からのMT部隊投入による中枢部突入作戦──

 

『迎撃網、形成急げ!中央ドックは絶対に死守!強襲艦は順次発艦し航空優勢を確立せよ!』

 

滑走路上では、封鎖機構LC部隊が散開し、迫るアーキバスMTを迎撃していた。

 

 機関砲とレーザーの火線が交錯し、コンクリートの地面が抉れる。だが、それでも敵の波は止まらない。MT群は被弾を恐れる素振りもなく突貫し、時に自爆すら厭わず、旧宇宙港内部へと食い込んでいく。

 

 ──戦況は、拮抗していた。

 

 しかし、次の瞬間──

 

『主砲、斉射用意──カウント3、2、1……発射!』

 

 宇宙港上空に展開した強襲艦隊が一斉に火を吹いた。

 

 船体下部の大型レーザーキャノンから放たれた何十もの光条が、大気を裂いて降下艇を次々と叩き落とす。連続する爆発と熱波が港湾区の一帯を覆い、アーキバスの前衛部隊が一時的に壊滅状態へと追い込まれた。

 

『敵部隊、後退開始!押し返しています!』

 

『前進制限解除、各隊ドック前面まで掃討を継続!』

 

 封鎖機構部隊は勢いに乗り、被害を最小限に抑えながらラインを押し戻していく。戦況は、明らかに機構側に傾きつつあった。

 

 ──だが、その均衡は長くは続かなかった。

 

『……高反応、接近中。AC2機。傭兵支援システムALLMINDにて識別信号照合中……』

 

 オペレーターの声に、管制塔内の空気が凍りつく。

 

『識別完了!ヴェスパー部隊第4隊長ホーキンス、及び第7隊長ペイター!』

 

 濃紺の機体色が、爆煙の中から浮かび上がった。

 

 V.IVホーキンス搭乗機、四脚機体《リコンフィグ》──それはまるで戦場の異物のように、周囲の破片や爆風を物ともせず、重々しい質量をもって滑るように前進していた。機体左腕に携えたレーザーブレードが、振り下ろされる度に鋼鉄の壁を紙のように切り裂く。右手のプラズマライフルが放つ高出力の光束が、迎撃に出たLC機を一撃で焼き潰した。

 

『こいつ……!コード31C!被害甚大!指示を求む!コード31C!ヴェスパーの隊長格が──」

 

 防衛部隊の声が途絶える。肩部のレーザーキャノンが冷却音を鳴らし、続けて連装のプラズマミサイルが咆哮を上げる。ドック外周に展開していた自走砲台群が次々に爆散し、煙に包まれた滑走路が炎の海と化した。

 

 その混沌の中を、さらなる脅威が駆け抜ける。

 

 逆関節機体《デュアルネイチャー》。ペイターの駆る軽量ACは、まさに一閃の閃光だった。パルスブレードをなぎ払う動作は無駄がなく、ほとんど反応できぬまま機構兵器が斬り伏せられていく。跳躍からの急降下、短射程のパルスガンを密着距離で叩き込む動作──その一連はまるで“処刑”のようだった

 

『高速接近──!回避が……!』

 

『味方機、撃破されました──V.VIIペイター、侵入深度を上げています!』

 

 統制が乱れ始める。その混乱の中で、二機のヴェスパー隊長格は意図的に軌道を合わせ、港上空に展開していた強襲艦に照準を移した。

 

『ペイター君、後続部隊の進軍が遅れている。まずはあの艦から片付けようか』

 

『かしこまりました、第四隊長殿』

 

 《リコンフィグ》の脚部ブースターが炸裂し、鈍重なはずの四脚機体が大きく跳躍。その巨体が艦船の格納区画に取りつき、レーザーブレードが甲板を抉るように突き立てられる。装甲が一瞬で焼け落ち、内部機構へと侵入可能な空間が拡がった。

 

 そこにペイターの《デュアルネイチャー》が、電磁的なノイズの尾を引きながら突入する。

 

 パルスブレードが、艦内区画に待ち構えていた守備部隊を一閃で一掃し、彼の左腕から放たれるパルスガンがエンジンルームに斉射された。

 

 爆発。

 

 それは艦内で起こるにはあまりにも凶悪な熱量だった。主動力炉が直撃を受けたのだ。機体ごと巻き込まれたはずのペイターが、爆炎の向こう側から逆関節で甲板を滑るように跳び出す。

 

 続けて《リコンフィグ》が肩部のレーザーキャノンを船体中心に放つ。焼け爛れた艦橋が歪んだまま崩れ、艦体全体が傾き始めた。

 

『強襲艦、制御不能──墜落します!』

 

誰かの悲鳴のような報告が、戦術ネットワークを通じて断末魔のように流れた。

 

 次の瞬間、空を支配していた強襲艦の一隻が、炎と共に地表へと落ちていく──。

 

 重力に引かれるその巨躯が、旧宇宙港外縁の格納区画を巻き込みながら衝突し、濁った爆風を天へと巻き上げた。

 

 圧倒的な戦力差を象徴するかのように、ヴェスパーの二機はその爆煙の中でなお、静かに次の目標を探していた。

 

 バートラム旧宇宙港を揺るがす爆炎の余波がまだ地を這っていたその時、管制塔に緊急通信が割り込む。

 

『──こちら特務部隊指揮官、グレイ特務上尉。特務部隊の到着予定まで300秒。戦況の悪化を鑑みて《SOL 644》を先行展開』

 

『応答確認……先行?上空展開中の部隊と連携せずに単機先行とは──』

 

『判断は私が下した。問題なし』

 

 一瞬の沈黙の後、管制官の戸惑った声が響く。

 

『し、しかし現場にはヴェスパーの隊長格が二機活動中、単騎では──』

 

その瞬間だった。

 

 空が、音を失った。

 

 雷鳴のような衝撃波を引き裂き、《SOL 644》が雲間から姿を現した。

 

 赤黒く明滅するコーラルエネルギーの余剰反応が機体の輪郭を曖昧に染め上げ、その飛行軌道には軋むような空間の揺れが尾を引いていた。

 

それは、まさに魔王の降臨だった。

 

 《リコンフィグ》が次なる艦への斬り込み態勢に移ろうとした、その時──

 

 金属音が、虚空で炸裂する。

 

 何かが接触した。それも、常識ではありえない速度と力で。

 

『──ッ!?ペイター君、離れなさい!』

 

 ホーキンスの視界が、真紅に染まる。次の瞬間、視界が歪み、揺れ、視点がねじれる。

 

 頭部センサーモジュールが一気にブラックアウト。

 

 何が起きたかを認識する暇さえ与えられなかった。

 

 《SOL 644》の左腕が、《リコンフィグ》の頭部ユニットを正面から掴み──そのまま、捻り潰したのだ。

 

外装装甲が軋み、超精密なセンサー群が音もなく崩壊する。

 

『第四隊長殿!?なんだ、この機体は!』

 

 続くのは機体への制御フィードバック。ホーキンスの搭乗ポッドには激しい過負荷信号が殺到し、彼の神経に直結したフィードバックシステムが悲鳴を上げた。

 

『──な……っ、この……ッ!?』

 

 咄嗟に右腕のプラズマライフルを構えて反撃を試みようとするも、その意志より速く、エアが動いた。

 

 《SOL 644》の右腕が光の尾を引きながら一閃。

 

 プラズマライフルごと、右腕が根元から切断され、破片が空に散る。

 

 そして、音もなく続く声が通信回線に忍び込む。

 

『──V.IVホーキンス。抵抗は無駄です、大人しく投降してください』

 

 その声は、優しげでありながら冷酷で。戦場にいる誰もが、背筋を凍らせた。

 

 《SOL 644》の装甲を透かして見える微かな光の粒子が、紅く脈動する。

 

 それはまるで“命”を持った存在──そう、《エア》の本質そのもの。

 

 地上の兵士たちは言葉を失い、通信を聞いていた管制員すら、しばし言葉を発することができなかった。

 

『──認識更新。戦況、特務機動単機により再編中。敵隊長機《リコンフィグ》、制圧』

 

『──続けて、V.VII《デュアルネイチャー》へ対応を開始します』

 

 その言葉と共に、魔王のごとき紅い光が、再び空を切り裂いた──。

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