ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第8話 相棒

 グレイ執行上尉の執務室は、相変わらず重厚な空気に包まれていた。簡素なデスクに整然と配置された書類、壁には惑星封鎖機構のエンブレムが掲げられ、余計な装飾の類は一切存在しない。

 

 621が車椅子を操作して室内に入ると、グレイ執行上尉は彼女を待ち構えていた。長身の彼は無駄のない動きでデスクの前に立ち、冷徹な視線を彼女に向ける。

 

「621。まずは負傷からの復帰おめでとう、しかし今回の件について話しておくべきことが多い」

 

 彼の声は冷静で抑揚がないが、その言葉には確かな威厳があった。621は無言のまま、端末を操作して「了解」の信号を送る。グレイはそれを確認し、軽く眉を動かした。

 

「まず、お前の功績だが、今回の戦闘での四脚MTを二体撃破。これはシステムが非常に高く評価している。あの機体を量産型で撃破するとは、普通のパイロットでは考えられないことだ」

 

 彼は端末を操作し、ホロプロジェクターに621の戦闘データを映し出した。四脚MTを撃破する際の無茶な動きが再生される。画面の中のSENTRYが自らの腕ごと武器をねじ込み、全身で敵を押しつぶすかのように破壊していく姿は、傍目には狂気的ですらあった。

 

「だが、ここで強調しておく。お前の行動は優れた戦果を生んだが、無茶だ。お前が壊れてしまえば、機体だけでなく、多大な戦力を失うことになる。惑星封鎖機構はお前にそんな無謀な犠牲を求めているわけではない」

 

 彼の厳しい声が響く中、621は微動だにしない。端末を操作し、「了解」と短い信号を送る。

 

 グレイは彼女の返事を見て、軽く溜息をついた。

 

「……だが、結果は結果だ。今回の功績を無視することはできない。よって、今後お前には擬似的に封鎖機構の隊員としての権限を与え、新たな機体を貸与する。これはシステムの判断によるものだ」

 

 そう言いながら、彼はデスク上に転送された電子データを621の端末へ送信した。作戦への参加権限、機体調達の優先権、そして一部の戦術的判断を委ねられる資格を示すものであった。

 

「機体は既に用意してある。次の任務までに確認しておけ」

 

 彼は端末のホロプロジェクターに別のデータを表示した。それは621に貸与されるLC機体の詳細なスペックだった。性能は明らかに量産MTであるSENTRYを上回り、彼女の戦闘スタイルに合致する柔軟な構造を持っている。

 

「だが、この権限と機体はお前に課せられる責務でもある。任務においてさらに大きな結果を求められるだろう。それを理解しているか?」

 

 621は淡々と端末を操作し、「了解」の信号を送る。その無感情な反応を見て、グレイは小さく頷いた。

 

「いいだろう。お前は戦場でその価値を証明した。これからはその価値に見合う働きを期待している。執行1級士長C4-621」

 

 彼は最後に軽く口元を引き締めた笑みを浮かべ、デスクに置かれたホログラフを切り替えた。

 

「話は終わりだ。なお、LCは基本的に2機1組で作戦に当たる、バディの情報を送信したので機体と併せて確認しておくように」

 

 621は無言のまま、ゆっくりと車椅子を動かして執務室を後にした。無機質な金属の廊下を滑る音だけが響く。彼女の頭の中には、先ほどグレイ執行上尉から渡された機体のスペックや新たな権限についての情報が渦巻いていた。

 

 LCパイロットとしての権限──それは名目上のものかもしれないが、戦場においては実質的に部隊の一員として扱われることを意味する。そして、新たに与えられたLC機体。これは惑星封鎖機構の主力量産機体であり、その性能は傭兵や企業が扱うMTは勿論、ACすら凌駕する。

 621は端末を操作しながら、機体データを再確認した。ブースターの推力、ジェネレーターの安定性、機体の応答速度──そのどれもが、今まで使っていたSENTRYを大きく上回っている。

 

「……」

 

 ハンガーに到着する直前、自然と車椅子のスピードを少し上げた。普段は冷静沈着な彼女の行動からすれば、これはかなり稀なことだった。

 

 ハンガーの入り口に差し掛かると、重厚な扉が自動的に開き、広大な空間が目の前に広がる。

 

 整備台に固定された新たなLC機体がその全容を現した。横一列に並んだ複数のカメラアイが光を反射し、機体全体が金属的な鈍い輝きを放っている。その広い肩部は、スマートながらもマッシブな印象を与え、下半身だけでも中量二脚型ACと同じ高さを誇る。その威圧感と精巧なデザインは、一目で高性能であることを物語っていた。

 

 621は一瞬だけその場で車椅子を止めると、視線をゆっくりと機体全体に這わせた。表情は変わらないものの、胸の奥で鼓動がわずかに早くなるのを感じた。この瞬間、彼女の無言のままの感情が、LC機体の洗練されたフォルムに踊らされているのは明らかだった

 

 整備士たちが周囲を忙しなく動き、各種の調整を進めている。621は車椅子を操作してゆっくりと機体に近づいた。

 

「おい、そんなに近づくな。整備中は不意な動作を予期して動けよ」

 

 不意に背後から声がかかり、621はそちらに視線を向ける。声の主はエリオット・ストラウス、彼はLCパイロット用のジャケットを肩にかけ、整備中の機体を見上げながら歩いてくる。その表情には、どこか呆れたような色が混じっていた。

 

「まったく、傭兵がLCのパイロットとはな。世の中どうなってるんだか。俺が苦労して掴んだ座だってのに」

 

 エリオットは621の横に立つと、整備台の上のLC機体を見上げた。その目には文句を言いつつも、自分の「後輩」に機体を説明する気が満々であることが隠しきれていない。

 

「ここに来る前は傭兵としてACに乗ってたんだろう。LCはACの比じゃないぞ、あんな寄せ集め2度と乗りたく無くなるぜ」

 

 エリオットはLC機体を見上げたまま、鼻で笑うように言葉を続けた。

 

「ACってのはパーツの寄せ集めだ。カスタマイズ性は確かに高いが、あれは器用貧乏だ。このLCは違う。惑星封鎖機構が本気で作り上げた『戦場の制圧者』だ」

 

 整備士たちが調整を進めるLC機体を見つめる彼の表情は、どこか誇らしげだった。

 

「見ろ、あの重厚な構造。下半身だけでACの全高と同じくらいあるんだ。これが戦場での安定性を保つ。お前みたいな無茶な動きだって、このLCなら耐えられるだろう」

 

 621は静かに頷くような仕草を見せ、端末を操作して「了解」の信号を送った。その一言にエリオットは微かに口元を歪める。

 

「おいおい、本当に感情ないのか? こんな高性能機体を前にして何も感じないのかよ」

 

 彼は冗談めかして言ったが、621は相変わらず無反応だ。ただ、その瞳は以前よりわずかに輝きを帯びていた、LCという新たな玩具を手に入れた子どもの様に。

 

 彼はちらりと621を横目で見たが、彼女は変わらずLC機体を見つめ続けている。その無言の態度に、エリオットはわざとらしく咳払いをして注意を引こうとした。

 

「さて、LCについてもう一つ教えてやる。これが重要なポイントだ。お前一人でどうにかできるACとは違って、LCはバディとの連携が前提だ」

 

 エリオットは指でLCを指し示した。

 

「こいつの性能をフルに引き出すには、相方の動きが鍵になる。バディが囮になることで敵を引き付けたり、逆にサポートに回ってお前の火力を最大限活かしたり。どんなに優れた機体だろうと、孤立無援じゃ限界がある」

 

 彼の口調はどこか得意げだったが、その奥には経験に裏打ちされた確信があった。

 

「で、誰がそのバディになるか気になるだろう?」

 

 エリオットはわざと間を取るようにして、じらすような笑みを浮かべた。621は端末を操作して短い信号を送る。「了解」それ以上の感情は含まれていない。

 

 その反応に、エリオットは少し肩を落としたように見えたが、すぐに大げさな仕草で手を広げた。

 

「お前のバディは……この俺、エリオット・ストラウス執行准尉が先輩パイロットとして、しっかり面倒を見てやる」

 

 

 そう言うと、彼は自信満々に胸を張った。しかし、その直後には少し不満げな表情を浮かべて、ぼそりと続けた。

 

「……まあ、正直なところ、傭兵相手にこんな役目を押し付けられるとは思ってなかったけどな。俺はもっと優秀な隊員と組む予定だったし、なんなら、そろそろHCに乗せてもらうはずだったんだが」

 

 エリオットは溜息をつきながら、621を見下ろした。

 

「でもまあ、あの戦場での無茶っぷりを見てたら、むしろ俺じゃなきゃお前を止められないって思えてきた。仲良くやろうぜ、相棒」

 

 彼の言葉に、621は再び端末を操作し、簡潔な了解の信号を送る。

 

 

 その返事を見て、エリオットは苦笑しながら整備台を軽く叩いた。

 

「やれやれ、どうなることやら。まあ、LCのバディ同士ってのは、信頼が鍵だ。お互い死なないようにしっかり連携していこうぜ」

 

 彼は最後に軽く拳を振り上げ、整備士に指示を出して機体を整備台から降ろさせる準備を始めた。

 

 621は静かにリフトに乗り込む準備をしながら、目の前のLCに再び視線を向けた。無感情な彼女の瞳には、しかし、何か新たな期待と決意のような光が宿っているように見えた。

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