ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第96話 集結

 ザイレム艦橋では、兵装ユニットの稼働状況が次々と確認されていた。

 

 艦底部に展開されたレーザー群、側面軌道に沿ってスライド展開する対空砲台、衛星砲の直撃を何度も防いでみせた防護フィールド……その全てが、ただの洋上都市ではない“戦う艦船”の存在を物語っている。

 

 技術者たちの報告を受けながら、カーラは目を細め、端末を操作する手を止めなかった。その隣ではウォルター、ミシガン、スネイルといった前線指揮官らが作戦全体の航行軌道を再確認し、621たちは周囲の様子を見つめていた。

 

そのとき――

 

「失礼する。ミシガン総長はおられるか」

 

 艦橋後方、二重隔壁の外から低く太い声が響いた。

 

 振動を帯びた機械音のドアがスライドし、黒い巨躯が現れる。

 

 G2ナイル──その威圧的な体躯が現れた瞬間、艦橋内の空気が一変した。鋼鉄の塊のような肩をいからせ、重い足取りで中央へと進み出る彼の後方に続くのは、数十名の戦闘服に身を包んだ兵士たち。レッドガン残存兵力の全てであった。

 

 ナイル率いるレッドガンの残存兵力は、艦橋中央にて腕組みして立つG1ミシガンの前に立つと、敬礼してから短く声を張る。

 

「報告します」

 

「レッドガン部隊生存者四十一名、内番号付きについてはG2、G3、G6。戦闘可能なAC3機、MT38機、全機ザイレムへの搬入を完了し、即時出撃態勢にあります」

 

 ナイルは報告を敬礼で締めくくり、ミシガンと硬い握手を交わす。

 

「生きてたか、総長。上層部はお前が機構に殺されたと触れ回っていたぞ」

 

 しばし無言だったミシガンが、鼻を鳴らして答える。

 

「信じたバカはおらんだろうな。いるならザイレム外縁を10周だ!」

 

 艦橋に、わずかながら笑いがこぼれた。だがその余韻はすぐに引き締まり、ミシガンが再び前を向いた。

 

 ミシガンの目には確かな誇らしさが宿っていた。視線を一人ひとりに送る彼のまなざしは、戦友であり、愛弟子である者たちへの、無骨な敬意そのものだった。

 

「ナイル。お前こそよく生きていた。お前がいたなら、戦術面は安心だ」

 

「総長は雑だからな。雑事は任せろ」

 

ナイルの短い返答に、ミシガンはうむとだけ頷いた。そのやり取りを少し離れた場所から見守っていたウォルターが、ゆっくりと歩み寄る。

 

「……ミシガン。共に戦える事を、心から嬉しく思う」

 

 その声は低く、しかし確かな温度を宿していた。

 

「この船には、我々の“全て”が詰まっている。過去も、犠牲も、そしてこれからの意志もだ。どうか共に戦ってほしい」

 

艦橋の床を重く踏みしめ、彼は大きな声で言い放つ。

 

「任せておけ!無敵のレッドガンの力をクソ機械野郎に見せつけてやろう」

 

 「上等だ」とナイルが応じ、レッドガンの隊員たちからも声なき共感の気配が立ち上がる。

 

 その中で、ただ一人、居心地悪そうに目を伏せていた青年がいた。

 

 G6レッド――その実直そうな瞳が、一瞬だけ艦橋の一角をかすめ、すぐに逸れる。

 

 その先にいたのは、621だった。

 

 車椅子に腰掛け壁際に待機していた彼女は、表情一つ動かさず、ただ彼を見つめ返していた。だがその無表情の奥に潜む沈黙と、わずかに揺れた視線は、まぎれもない「問いかけ」のように感じられた。

 

 レッドはその視線を正面から受け止めきれず、肩をすくめて視線を落とす。あまりにも長く信じていた“仇”が、そこに居た。それも、“魔王”として恐れられていたはずの怪物は幼く、儚い少女だった。

 

 それに気づいたのは、ミシガンだった。

 

 「……G6」

 

 低く、だが鋼鉄のように重い声が響いた。振り返った彼に、ミシガンは一歩近づくと、まっすぐに言い放つ。

 

「てめえ、まさかとは思うが――俺が死んだとかいうベイラム上層部のアホなプロパガンダ、信じてやしねえだろうな?」

 

 レッドは言葉を返せず、僅かに口を開きかけたが、何も出ない。

 

 ミシガンは鼻を鳴らし、怒気を孕んだ声で続けた。

 

 「いいか、よく聞け。仮にだ――仮に俺が死んでたとしてだ。どんな形であれ、誰も恨むな。戦場の罪が全て帳消しになるとは言わんが、追及し始めたら最後、終わる事のない復讐の連鎖しか残らない……それは、レッドガンの漢の流儀に反する行為だ」

 

 レッドは歯を食いしばり、苦しげに目を伏せる。その肩が小さく震えていた。

 

「……でも……でも俺は……!」

 

「言い訳は要らん!!」

 

 ミシガンは一歩踏み出し、彼の肩に手を置いた。重く、厳しく、そして――温かい。

 

「俺が死んでたら、転んで頭ぶつけて死んだと思え。それでいい。どこにも仇なんていねえ。いるとすりゃ、そいつは“戦場”そのものだ。俺の伝記にも、そう記せ」

 

 

 レッドの顔が歪む。何も言い返せなかった。だがその瞳の奥で、何かが崩れ、そして再び形を成しつつあった。

 

 「分かったら……頭を上げろ」

 

 しばしの沈黙の後、レッドはゆっくりと顎を上げ、621を見据える。

 

 彼女は変わらぬ無表情のまま、しかしその瞳にほんのわずかな緊張の緩みが見えた。

 

 レッドが口を開きかけるも、その言葉はまだ見つからず、代わりにそっと目を伏せた。

 

 だが、その姿勢は、もう以前のような敵意に染まってはいなかった。

 

 ミシガンは腕を組み、満足そうに鼻を鳴らす。

 

「上等だ。お前たち、ここからは“同じ艦の乗組員”だ。所属も、過去も、関係ねえ。今この瞬間だけは、全員が“戦士”として並び立つ」

 

 その言葉に、艦橋の空気が再び引き締まる。

 

 レッドガンとの再会がひと段落した直後、艦橋後方の警告灯が再び点滅した。

 

「次の接近信号、ヴェスパー部隊です。識別コード、全員一致。入室許可を求めています」

 

 警備兵の声に、スネイルが顔を上げる。

 

「……来ましたか。開けなさい」

 

重々しい二重隔壁が開き、薄暗い通路から整然とした一団が現れた。

 

 先頭に立つのは、髪を編み込んだ小柄な女性。軍用コートの裾を丁寧に整え、背筋を真っすぐに伸ばしている。ヴェスパー第5隊長、メーテルリンクである。その後ろには無言で整列した数十名の隊員たち。そして列の中ほどからやや遅れて入ってくる長身の男――第3隊長、オキーフ。

 

「ヴェスパー部隊、到着いたしました」

 

 メーテルリンクは規律正しく立ち止まり、スネイルの前で右足を引いて深く一礼する。

 

「V.Vメーテルリンク以下、生存者四十四名。戦闘可能なAC3機、支援MT41機。全ユニット、ザイレム第六格納区画への搬入を完了しております」

 

「スネイル閣下、ご無事でなによりです。機構に単身乗り込み、ALLMINDの反逆に遭遇したとお聞きした時は心臓が止まるかと思いました……」

 

 その声音は張りがあり、周囲にもしっかりと聞こえるよう調整されていた。彼女に続いて部隊員たちも、一糸乱れぬ敬礼を見せる。

 

 だが当のスネイルはと言えば、端末操作の手を止めることなく、面倒そうに片手だけをひらひらと振った。

 

「ええ、よく集まってくれましたね。ところでフロイトは何処に?データでは乗船しているとありますが」

 

「あ、はい……第1隊長殿は格納庫にて休養をとっておられます、必要とならばお呼びいたしましょうか」

 

「はぁ……いいえ結構。適当にその辺で待機しておくように」

 

 一瞬だけきょとんとした顔を見せたメーテルリンクだったが、すぐに首を垂れ、律儀に一歩下がって静かに控えの位置に立った。どこか忠犬のような仕草に、隣の隊員が苦笑している。

 

 その様子を見ていたオキーフが、やれやれといった風にため息をつきながら、無造作に前へ出た。

 

「まったく……もうちょっと労わってやったらどうだ。スネイル。あんな健気な忠臣そうそういないぞ」

 

「充分忠義には報いているつもりです。なにより今は人類存亡の危機、下らない感情論に割くリソースはありません」

 

 オキーフは「まったく、君らしいな」と呟きつつ、艦橋全体を眺め回した。

 

「それにしても……ここが艦橋か。まるで都市そのものが艦になったみたいだ。俺たちが地表でチマチマやってた間に、随分と化け物じみたことになったな」

 

「生存のためだ。ALLMIND相手に生き残ろうと思ったら、切れるカードは全て使い切らなければならない」

 

 ウォルターが静かにそう告げると、オキーフはわずかに眼を細めた。

 

「ハンドラー・ウォルター……そうか。なら、ヴェスパーもこの怪物に乗せてもらうとしよう」

 

「歓迎しましょうオキーフ、メーテルリンク。フロイトを連れて来てくれた事には感謝しています」

 

 スネイルがようやくまっすぐにメーテルリンクへ視線を向けると、彼女は小さく頬を染めながら一礼した。

 

「いえ、スネイル閣下のもとに参じるのは当然のこと。共に並び戦える機会に恵まれて光栄です」

 

「……あー、ええ。私も光栄ですよ」

 

「は、はいっ」

 

 真っ赤になって直立するメーテルリンクに、周囲の空気がわずかに和む。

 

 《ザイレム》は、静かに、だが確実に軌道遷移を完了していた。

 

 全長数十キロにもおよぶ船体が低周波の震動を伴って徐々に姿勢を制御し、慣性スラスターを吹かしてゆるやかに加速する。軌道妨害ドローンは既に排除済みで、衛星砲の射角からも脱出済み。もはや軌道上からの撃ち下ろしを受ける心配はなかった。

 

 だが、それでも《ザイレム》が無傷のまま接近できる程、ALLMINDは甘くない。

 

 艦橋が、沈黙に包まれる。

 

「目視確認まで、あと三十秒。映像転送を開始します」

 

 

 技術士官の声が響き、主観測窓の外壁が収縮するように動く。重厚な装甲シャッターがスライドして開かれ、その先にあった漆黒の宇宙が、徐々に光を帯び始める。

 

 通信管制のカーラが、艦首部のカメラを軌道方向へと固定し、外部映像を拡大。

 

 そして次の瞬間――

 

「衛星軌道基地、目視確認」

 

 重力が存在しないはずの空間で、全員の心臓が一瞬だけ沈んだような錯覚が走る。

 

 銀白色に輝く巨大な輪郭が、ゆっくりと視界の中央に浮かび上がっていく。

 

 《惑星封鎖機構 衛星軌道基地》

 

 それはもはや、建築物というより要塞そのものだった。直径数百メートルに及ぶ環状構造の中央に巨大な演算塔がそびえ、その周囲には複数の発着ドック、兵装ブロック、電磁アンカー、周囲には数十基の固定砲台と、無人防衛衛星が宙に浮かび、既にこちらの動きを追尾していた。

 

「高速物体接近――!」

 

 警戒警報が艦橋を満たした。主観測スクリーンが自動で切り替わり、拡大された外部映像には、十二の碧い光が等間隔で出現していた。衛星軌道基地より、まるで矢のように吐き出された十二の影。

 

「識別波形……旧評議会制定コード。……っ、特務機体エクドロモイです!」

 

 技術士官の報告に、ウォルターとグレイが同時に顔を上げる。

 

「惑星凍結に伴い要請されていた追加戦力か。今思えば、我々を封じる為の戦力だったようだな」

 

 放たれた十二機の特務機体は、特定目標の排除を目的とした封鎖機構の高機動特務機体《エクドロモイ》であった。

 機構の主戦力であるLC・HC機体を凌駕する機動性能を持つ特務機体が十二機、散開してザイレムへと突っ込んでくる。

 

「エクドロモイ全機、高速で接近中……ザイレムを標的に――!」

 

「対空砲台、照準開始。防護フィールド、臨界範囲最大へ展開!」

 

 カーラの指示と共に、ザイレムの側面装甲が瞬時に変形。複数の連装ビームキャノン、CIWS群、垂直ミサイルベイが姿を現し、迫る敵影へ一斉射撃を開始した。

 

 艦橋が震える。

 

「迎撃弾発射!しかし、敵機損耗確認できず!回避行動と推力限界を超えた接近軌道、完全に……射線を読み切られてます!」

 

 ビームが空を貫き、ミサイルが爆裂する。しかし、十二の特務機はその全てを、異常な機動で回避した。慣性を無視したような斜行と収束、制動と加速。まるで意志を持つ獣のように、死角を縫って突き進む。

 

「全機、ザイレム外郭に着弾!」

 

 機体群は側面装甲部、各砲台基部、エネルギー供給ノード付近に突入。瞬時に装甲が抉れ、内部への侵入が始まった。

 

「敵機、船内進入確認。複数区画にて警戒網突破!」

 

「AC部隊は速やかに防衛体勢に移行!」

 

艦内に警報が鳴り響き、出撃デッキではACが次々と起動を始める。迎撃態勢へ――。

 

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 

「新たに重力異常を感知。これは……ワープアウト反応!?」

 

「何っ……?」

 

 カーラの手が震える。観測波形が崩れ、次の瞬間、広域モニターの一部に複数の巨大影が転移する。

 

「艦隊群です――識別コード確認。旧評議会設定艦隊、支援砲撃艦隊及び随伴艦多数!」

 

「……驚く事はない。評議会の決定した追加戦力は全てALLMINDの掌握下と見ていい」

 

 衛星軌道の裏側に、惑星封鎖機構のエンブレムが刻まれた巨艦が次々と出現する。

 惑星凍結━━惑星に存在する全文明と人口を無に帰す強制執行措置、その為に召集された戦力が人類に牙を向いた。

 

「確認されたのは主力砲撃艦三、ミサイル巡航艦六、随伴艇二十七。すべてザイレムへの攻撃軌道に入っています!」

 

「マズイね、いくら《ザイレム》でも現行主力艦隊の火力投射は防ぎ切れない」

 

 カーラが叫ぶように言い放つ。

 

ミシガンが鼻を鳴らした。

 

「上等だ。奴が機構総力なら、こっちは“人類”総力で応じるだけだ。機関を最大出力に!ジェネレーターが焼き付いても構うな!」

 

「レッドガンの流儀をブリキ野郎に叩き込んでくれる!レッドガン部隊総員出撃準備!強襲揚陸作戦を実施する!愉快な遠足の始まりだ」

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