ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第97話 吶喊

 戦況は悪化の一途を辿っていた。

 

 特務機《エクドロモイ》十二機によるザイレム内部侵入、基地後方に現れた支援砲撃艦隊。ザイレムの主砲とCIWSは休みなく稼働し、随伴ドローンによる迎撃も全力で行われていたが、それでも敵の火力と機動は質・量ともに圧倒的だった。

 特に、支援砲撃艦隊が空間転移の冷却を完了し、砲撃を開始したならばザイレムはひとたまりもないだろう。

 

 だが、ここで止まるわけにはいかない。

 

「このままじゃ、ジリ貧だな……」

 

 ミシガンが腕を組んだまま、艦橋の観測窓に映る衛星軌道基地を見据える。

 

 ザイレムが強襲揚陸を行うには、あまりにも不向きだった。この艦には投射艇もランチャーポッドもない。あるのは都市級の質量と、艦体全体を包む強大な防護フィールド、そして――極端な話、“押しつぶす”ための質量兵器としての能力だけだ。

 

 だが、ミシガンは口の端を歪めた。まるで獲物に飛びかかる猛獣のように。

 

「だったら、叩きつけてやるだけだ」

 

 艦橋が静まり返った。

 

「……叩きつける?」

 

 カーラが聞き返す。

 

 ミシガンは指揮卓に乗り出し、ザイレムの機関部に指示を飛ばす。

 

「ザイレムの推進軌道を微調整しろ。衛星軌道基地の“すぐ脇”をかすめて突っ切る形に持っていく」

 

「待ちなミシガン!?なんのつもりだい!」

 

「艦首に防護フィールドを集中させろ、艦隊の砲撃が始まるまでがタイムリミットだ」

 

 カーラの顔色が変わる。

 

「フィールドを偏らせる……!?それは艦全体の防御を捨てるということだよ」

 

「構わん!この一撃に賭ける。いいか、艦首部を“鈍器”じゃなく“盾”にするんだ。その内側に、揚陸部隊を全て詰め込む」

 

 ウォルターが低く呻く。

 

「……まさか、艦首で掠め飛行して、そこから強引に艦内から侵入させるつもりか?」

 

「そうだ。艦首部分をエネルギーの盾で包み、その中に戦力を集めて“かすらせる”。掠めた瞬間、強制的に内部へ叩き込む。ACもMTも全部だ!」

 

「それ、突入じゃなくて“打ち込み”じゃないのか……」

 

 オキーフが呆れたように言い放つ。だが、ミシガンは構わず吼えた。

 

「今さら上品な手段に頼れるか!このザイレムにあるのは《質量》と《火力》、そして《意志》だ。そいつをぶつける!」

 

「馬鹿げている……が」

 

 スネイルが端末を見ながら唸った。

 

「軌道計算上、十分に可能性はある。だが一歩でもズレれば、衛星軌道基地そのものを破壊する危険性も……」

 

 ミシガンが吼え、腕を振り上げる。

 

「上等だ!全員聞け!これより《ザイレム・強襲揚陸作戦》を実施する。全AC・MTは艦首格納区画に集結、フィールド展開内にて待機!直掩機の護衛は最小限、全火力を艦首へ向けろ!」

 

 響き渡る命令に、艦橋が慌ただしく動き出す。

 警報が転じ、今度は希望を宿す咆哮となった。

 

 《ザイレム》の艦首に数十機のACとMTが集結していく。

重力制御フレームが船体の角度を微調整し、緊急投下用に用意されたパージハッチが開放される。

 

 直後、艦首部に巨大なエネルギーが集約され、濃密な防護フィールドが形成された。

 

「艦首防御圏、完成!揚陸部隊、配置完了!」

 

「目標軌道、修正完了!予定接触まで――五分!」

 

 轟音と共に、ザイレムが加速を始めた。

 

 艦全体が震え、装甲が軋み、ジェネレーターが赤く警告を点滅させる。だが、止まる者はいない。

 

「全機、耐G体勢を取れ!このまま突っ込む!」

 

「ちくしょう!なんて無茶苦茶な作戦なんだ!」

 

 艦橋でミシガンが叫び、揚陸部隊のパイロットたちが一斉に咆哮を上げる。

 この瞬間、ザイレムは都市でも艦でもなく、一つの巨大な《槍》となった。

 

 その異様な加速を感知した敵防衛システムは、瞬時に作戦の意図を読み取った。

 

 この瞬間、ザイレムの艦首とは別の位置に位置する《動力炉ブロック》に向けて、敵の特務機部隊が再配置された。《エクドロモイ》が、一斉に推力を吹かして接近してくる。

 

 その目標はただひとつ――ザイレムの心臓を撃ち抜くこと。

 

「敵特務機、艦後方動力セクションに殺到!数十二!」

 

 オペレーターの報告に、ウォルターが即座に指示を飛ばす。

 

「察しの良いことだ。ドローン全機、動力部へ迎撃指示!CIWS連動!固定砲台を再展開!奴らを近づけるな!」

 

 ザイレムの後方部に設けられた防衛システムが次々に起動する。艦体表面を覆うように展開されたドローン網と、格納されていた多連装ガトリング、レーザー、ミサイルユニットが咆哮と共に火を噴いた。

 

 敵特務機は命を惜しまず、次々とザイレムの装甲へ突貫する。いくつかは爆散したが、数機が艦の最下層に取りつき、ジェネレーター周辺を攻撃し始めた。

 

「推進制御、損傷率3%……5%……警告、冷却システムに異常!」

 

 船体がきしみ、艦橋の計器が赤く染まる。

 

 しかし、ミシガンは動じなかった。

 

「構わん。全推力維持。前進を続けろ」

 

「ですが、このままでは推進炉が——!」

 

「吹っ飛ぶ前に掠めりゃいい!全推力維持!動力ブロックについては揚陸後に対処する!」

 

 ザイレムの主機関が、今まさに悲鳴を上げていた。だが艦は、なお加速を続けている。艦首部の防護フィールドは臨界寸前にまで増幅され、まるで黄金の槍のような輝きを放っていた。

 

「目標接触まで、20秒!」

 

 艦内各所の格納区画では、AC・MT・ポッド群が出撃待機を完了していた。

 

 621たち、機体を持たない強化人間も、装甲カプセル状の防護ポッドへと乗せられている。その外殻には制御装置と重力緩衝が組み込まれ、両脇にはMT部隊が「荷物」としてそれらを抱えて控えていた。

 

『待たせたな野郎共!パージ信号確認次第、衛星軌道基地に揚陸!先鋒はG6!G3!G2!』

 

 ミシガンの怒声と共に、ザイレムが――接触した。

 

 衛星軌道基地の外壁が、地鳴りのような摩擦音を立てながら艦首に掠れる。装甲を軋ませながら、ザイレムが防護フィールドを前面に展開する。装甲表面の摩擦熱と荷電粒子が閃光を放った。

 

『接触開始!投射ウィンドウ、15秒!』

 

 その一瞬の中で、格納口が解放される。

 

 内部リニア投射装置がACとMTを打ち出し、直に艦体を横滑りさせながら、“滑り込むように”衛星軌道基地へ揚陸が始まった。

 

『全機、投射!揚陸開始!!!』   

 

 凄まじい慣性と摩擦熱を伴いながら、揚陸部隊は次々と衛星軌道基地の表層部へ投射された。

 

 機体によっては脚部のサスペンションが吹き飛び、緊急制動の痕を煙にして撒き散らしながら滑り込む。MTは着地と同時に膝を突き、担いでいた強化人間ポッドを慎重に下ろす。ACは降下の衝撃に耐えながら、そのまま即時の射撃モードに移行する。

 

 すでに基地は迎撃体制を敷いていた。

 

 揚陸部隊の出現位置には無数の無人戦闘兵器群が集結し、濁流のように押し寄せてくる。

 

 固定砲台、ドローン、スウォーム型の小型自爆機、二脚MTのような量産機。ALLMINDのコントロール下と推定される無人機の波が押し寄せて来る。

 

 ――だが、それを迎え撃ったのは、地獄を潜り抜けてきた歴戦の獣たちだった。

 

『防御陣地形成!G6レッド、敵機迎撃の指揮を取れ!』

 

『Yes sir!』

 

 電子音が交錯する中、鋼鉄の床を響かせながら、モスグリーンの機体が着地する。

 

『陣地形成を開始する!MT小隊三角陣!間隔を取りすぎるな、互いの死角を埋めろ!G3五花海、左舷側の高所を制圧し、射線構築をお願い出来るでしょうか!』

 

『ええ、勿論です』

 

 レッドのオーダーに即応したのは、G3五花海。重四脚AC《リーロン》が地を這うように敵スウォームの波へ飛び込み、分裂ミサイルを放つ。空中で花火のように拡散したミサイルが、数十機の小型自爆機を粉砕し、爆風が二層フロアに広がった。

 

『よし!引き続き高所からの迎撃をお願い致します!』

 

 G6レッドの命令は、教範そのものだった。

 

 ベイラム戦術教本『近接戦闘域における陣地防衛』では、曲面構造内における陣地防衛において、静的よりもむしろ動的迎撃線の維持が重要であると謳われている。

 

 彼の脳内では、既に理論的陣地図が完成していた。施設構造、視界死角、フロア高低差、無人兵器の侵入口と攻撃傾向。すべてがデータとして整理され、命令へと変換される。

 

「各小隊、持ち場を死守せよ!MTは決して単独行動をするな!隊列は三機一組、1秒単位で交代しろ!撃って、引いて、補充して、再び撃て!』

 

 その声は、機械のように冷静で、だが芯には“命を預かる者”の決意が宿っていた。

 

『第1分隊、火力過多だ!右に射線をずらせ!第2分隊、交戦圏にスウォーム!集中火力で掃討しろ。損耗の激しい第5分隊は後退!後詰はこのG6レッドと《ハーミット》が抑える!』

 

 言葉通り、レッドの《ハーミット》が移動。敵陣の一角に立ちはだかり、ハンドガンで接近機体の関節部を撃ち抜くと、反転してバズーカを放つ――一撃で中型無人機二機を纏めて爆散させ、その爆風を利用して味方陣形を展開させた。

 

 それはまるで軍事演習のような――“軍人”による無感情の芸術だった。

 

 現場のMT兵たちは、その戦場の構築に戦慄すら覚えていた。恐怖ではない。尊敬と、安心だった。

 

  だが、戦局はそれでも安定していたとは言い難い。

 

 G6レッドの指揮の下、陣地は完璧に形成されつつあったが――問題は、それが「戦場の一角」でしかないことだった。

 

 衛星軌道基地は広大であり、ザイレムからの揚陸部隊はあくまで局地的な橋頭堡を築いただけにすぎない。敵の流入は止まらず、さらに別の区画からは、依然として膨大な兵力が押し寄せているという報告も届いていた。

 

 そして決定的だったのは、「味方機体の奪還」が未だ果たされていないという事実だった。

 

 ――格納庫を制圧しなければ、反撃の決定打にはならない。

 

 G2ナイルは、陣地後方で通信端末を見つめたまま、深く息を吐いた。

 

「……守りに徹していては、いずれ陣地ごと潰される」

 

 彼は静かに言った。

 

『こちらから“取り返し”に行く必要がある。使える手駒は、全て使うぞ』

 

 即座に複数のウィンドウが開き、ヴェスパー、解放戦線、封鎖機構の中から機体回収可能なパイロットと部隊が選抜されていく。戦力予測に基づき、最も機動力に優れ、浸透突破に適した兵装を持つ者が優先された。

 

 その中で、最初に通信に応じたのは――

 

『出番か』

 

 シュナイダーマン。

 無骨な仮面越しに、人工音声が響く。

 

『お前に先鋒を任せる。目標は機体格納庫の奪還と、鹵獲されたAC・特務機体の再起動。以降は増強された戦力を以て、封鎖衛星管制システムを破壊。やれるな、ご存知の通り時間は限られている』

 

『問題ない。戦闘ログは確認済み。敵は対AC戦仕様ではない。多少の迎撃網はあるが、突破に支障は無い』

 

彼の機体――仮称《NACHTREIHER》が起動音を上げ、関節部に蒼い冷却蒸気を噴き出した。軽量かつ高出力の推進系が、直線加速に特化した運動制御へとシフトする。

 

『シュナイダーマン、《NACHTREIHER》……出る!』

 

 《NACHTREIHER》が弾けるように跳ね上がった。

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