ARMORED CORE VI The Warden of Rubicon 〜もしも、惑星封鎖が完遂しハウンズが惑星封鎖機構に入隊していたら〜   作:助兵衛

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第98話 離脱

 ザイレム艦首部より投射された別動隊は、火花を散らしながら衛星軌道基地の複合装甲を滑り抜け、数多の無人兵器を蹴散らし、目標地点――格納区画へと向かっていた。

 

 先頭を行くのは、仮面のACパイロット《シュナイダーマン》。

 

 彼の駆る機体、仮称《NACHTREIHER》は、脚部制動をほぼ無視する加速重視の調整が施されており、降着と同時に低姿勢で前進を再開。左腕部に備えられた《レーザースライサー》が青白い光線を軌跡に残しながら点滅する。

 

『接敵、10秒以内。格納庫まで、直線残距離640メートル』

 

 HUDに表示された自機データを確認する間もなく、前方の通路で光が閃いた。

 

 ALLMINDの兵器が、待ち構えていた。

 

 黒鉄色の装甲を纏う、通路を埋め尽くす程の無人兵器群。

 

 だが、シュナイダーマンは怯まない。

 

『排除する。後続は射線に入るな』

 

 次の瞬間、彼の機体が跳ねた。

 

 空間を引き裂くような急加速。レーザースライサーが空気を焦がし、光条が無人機の懐に潜り込むと同時に薙ぎ払われる。時間にして0.6秒――衝撃も反撃も許さず、無人機の群れは真っ二つに分断され爆裂四散した。

 

『無人機撃破。継続して進撃する』

 

 レーザースライサーを一振りし、粘液状に崩壊する残骸を避けるように、彼は再び前進する。

 

 その背後では、護衛MT小隊が輸送防護ポッドを抱えて随行していた。

 

 それらのポッドは、人員を収容する特殊カプセル。621もその一つに格納されていた。

 彼らを自機の元に送り届ける必要がある。

 

『どうだ、振動は収まっているか』

 

 621の回線に低く、人工的な声が入る。

 

 それは、シュナイダーマンからの個別通信だった。

 

『安定、問題なし』

 

621の応答に、しばしの沈黙。そして、ごく短い一言。

 

『……そうか』

 

 それだけを告げ、彼は再び前方へ跳ねる。

 

 十数機の無人機が一斉に出現し、バーストライフルとによる迎撃態勢を取るが――遅い。

 

 シュナイダーマンの機体が走るたび、蒼白の軌跡が空間を切り裂き、無人機の装甲を断つ。スライサーのエネルギー刃が骨のような異形機構を断ち、即座に反転。残った敵が振りかざす近接武装を肩のブースターで受け流し、バックスラッシュで斬り伏せる。

 

『引き続き前進する』

 

 彼はあくまで最前線に立ち続けながらも、その合間に護衛隊の状態を逐一確認する。

 

『4番MT、ポッドに傾斜をつけるな、揺れ修正を実施しろ。621のポッドだ』

 

『す、すみません!了解、姿勢制御を補正します!』

 

 無機質な戦場の中に、確かな“配慮”があった。

 

 彼は任務遂行に忠実であるがゆえに、それを可能にする条件――味方の無事を何よりも優先する。ことに《621》については、何らかの特別な“価値”を見出している節があった。

 

 格納庫まで、あと300メートル。

 

 621は、防護カプセル内の薄暗い視界で、その戦闘ログを見ていた。

 

 無感情な仮面。その機体が、まるで“目”のように――いつも自分を探している気がした。

 

 だが、621は一旦思考を止める。

 

 今は戦場。生き延びることが最優先だ。

 

 薄暗いポッドの中で、仮面の男が振るうスライサーの輝きだけが、なぜか安心を与える光だった。

 

『格納庫目前。敵反応は無いが、油断するな』

 

 《NACHTREIHER》が、格納庫目前の通路に立つ。

 

 格納庫扉の装甲は厚く、また防衛機構の連動によって一斉に封じられていたが――

 

『開く』

 

 シュナイダーマンの一言と共に、高出力のレーザースライサーが過加熱状態で点滅し、彼のAC《NACHTREIHER》は扉を横薙ぎに一閃――。

 

 

 厚さ数十センチの複合装甲が、悲鳴のような火花を散らして崩れた。

 

 背後から展開していたMT部隊が防護ポッドを抱え、直線通路を一気に駆け抜ける。衝突音の残響が鳴り響く中、彼らは連携して即座に扉両脇を制圧。後方から制圧用無人ドローンも追従し、残存する迎撃兵器の一掃に入る。

 

『……格納庫への突入、完了』

 

 シュナイダーマンの報告が、静かにザイレム側へ届いた。

 

「……これは」

 

 格納庫内にいた者たちが、息を呑む。

 

 そこには、完全に無傷で鎮座する――全AC、特務機体が揃っていた。

 

621の《バルテウス》、G1ミシガンの《ライガーテイル》、ヴェスパー機、レッドガン機、その全てが、静かに電子ロック状態で固定されている。

 

 ただし、そのすべての傍らに、不可解な“箱”が並んでいた。

 

 黒いキューブ状のデバイス。それは機体のコア部に接続可能なよう設計されており、各機体のコックピット・シートの前に、冷ややかな無人操作用インターフェースとして置かれていた。

 

『無人コアブロック……か。接続までは至っていないようだが』

 

 MTの一人が低く唸る。別の整備兵が端末を確認し、表情を強張らせた。

 

『コード保護が施されている。このプロテクト……初めて見る形式だが、かなり強固に守られている。我々の操作は受け付けるようだ』

 

 解析を行っていた技術兵が声を上げる。

 

『これがなければ……敵側のAIが全機体を奪っていた。あと数分遅れていれば、こいつらは――俺たちの敵になっていたかもしれない』

 

 その場の空気が、瞬時に張りつめる。

 

 整然と並ぶ自軍機。まるで自我を失うその寸前まで、冷静に“奪還”を待ち続けていたかのように。

 

 格納庫の空気が、わずかに揺れる。

 

 警戒を解かぬまま、各部隊のパイロットたちは自機へと急いだ。MT部隊は各ACに装備品と稼働用資材を運搬し、整備班は応急のエネルギーチャージと起動モジュールの再接続に走る。

 

 ガスが抜けるような音と共に、次々とコクピットが開き、格納されていたパイロットたちが装甲ポッドから搬出されていく。

 

 

 C4-621もまた、自身の《バルテウス》のもとへと歩みを進めていた。

 

 その表面はまるで深海のような鈍い光沢を湛え、重厚な装甲の隙間から微かに熱を帯びた光が漏れている。彼女が歩み寄ると、機体側が彼女の認証波形を感知し、自動的に機体後方のコアブロックが開いた。

 

 搭乗スロープが展開され、621は無言のまま内部へと進む。

 

 座席に収まり、接続ケーブルが背中の神経接合部へと結合する。視界にHUDが浮かび、認証が次々とクリアされていく。

 

『バルテウス、認証完了。起動準備フェーズへ移行』

 

 システム音声が淡々と起動手順を進めていくが――その時だった。

 

 ――ガシャンッ!

 

 格納庫の奥、重機資材用の隔壁ブロックの向こうから、鉄骨を叩くような異音が響いた。

 

 続いて、またも――ガシャン、ガシャンッ!

 

 明らかに何かが「暴れている」。

 

 621は機体を起動させかけたまま、HUD越しにその方向を見やる。

 

 現場の整備員たちも足を止め、同じく振り向く。

 

『あそこ……搬入ブロックか? 誰か残ってたのか?』

 

『いや、あれは――』

 

 621は、ふらりと降機し、その音のする方へ向かった。

 

 格納庫の最奥、分厚い装甲壁の隙間にある監理区画。その先に、もうひとつ、独立格納用のリフトが存在する。

 

 彼女がその先へと進むにつれ、音はますます激しくなる。金属が軋み、束縛された何かがもがくような、不自然な振動。

 

 リフトの先――開け放たれた隔壁の内側に、それはいた。

 

 《SOL 644》。

 

 エアの乗る、あの真紅に輝くC兵器が、そこにいた。

 

  ……いや、正確には“繋ぎ止められていた”。

 

 その機体は、まるで猛獣を閉じ込める檻のように、数十本もの太い電磁拘束ケーブルと、油圧式アームによって床と天井、壁面に拘束されていた。

 

 腕部の駆動部には回転抑制ロック。脚部には振動検知式のスタビライザー。頭部には、視界制御用の遮断装置まで施されている。

 

 そして、その全てが、今――軋み、千切れかけていた。

 

『━━ぐおぬぬ……早く抜けないと……』

 

『━━あっ、621!ごめんなさい、すぐに抜けますから!』

 

 《SOL 644》が暴れるたび、格納区画の床が軋み、壁面の照明が一瞬だけ明滅する。

 

 拘束ケーブルが軋みを上げ、抑え込み用の油圧アームが耐えきれずに亀裂を生じていた。異常波形の警告が格納庫内のインターフェースに連動し、警報が鳴り響く。

 

『……待ってて』

 

 621はそう呟きながら、再び《バルテウス》に飛び乗った。

 

 自動接続の確認音が響き、機体のエネルギーラインが瞬時に循環を再開。機体全体が仄かに発光する。

 

『《バルテウス》起動、これよりSOLの拘束を破壊する』

 

 通信回線に最低限の報告を流し、バルテウスは重たい格納扉を蹴破るようにして前進した。機体が生み出す慣性が空気を割き、格納庫内の床面がわずかに焦げつく。

 

 ――接近。

 

 拘束され、身じろぎできない《SOL 644》の目前に立ち塞がるように、バルテウスが仁王立ちした。

 

 機体背部の武装・推進ユニットが高周波の音を発し、断続的に輝く。

 

 蒼白の光輪を描きながら、帯状マルチプルパルスランチャーが連続刃を形成━━パルスチェンソーが形作られた。

 

 621は操作桿を一閃。

 

 まずは、肩部の電磁拘束。切断音とともに火花が舞い、強化繊維のベルトが千切れる。

 

 続けて、背部アーム、胸部リブ拘束。バルテウスが機体をずらしながら的確に斬撃を加え、破砕していく。

 

次々と拘束が解かれるたびに、《SOL 644》はびくりと身体を震わせる。その振動は機体の構造限界すれすれで制御されており、まさに寸前だった。

 

 最後に残ったのは、両脚部の固定杭。

 

 そこに、バルテウスは軽く身をかがめ、真下からパルスチェンソーを突き立てた。

 

 ズゥンッ!

 

 振動が格納区画全体に広がる中、残る拘束が粉砕される――その瞬間だった。

 

 《SOL 644》が、跳ねるように前へ出た。

 

 まるで、解き放たれた命が一気に走り出すかのように。

 

 《SOL 644》はそのまま、《バルテウス》へと――

 

 ――飛びついた

 

 ぎしり、と金属音が鳴る。

 

 細く鋭利なアームが、装甲の隙間を求めるように《バルテウス》の胸部を掴む。

 

 膝部ユニットが抱きつくように曲がり、機体の体幹が接触する。

 

『友軍機同士の物理接触は非推奨』

 

 高出力のフレームが衝突し、火花が四方に飛び散った。

 

 ――それは、まるで人間同士が「抱きしめ合う」ような動作だった。

 

『……621、こわかった……でも、来てくれて、うれしい……』

 

 ようやく穏やかな通信が返ってくる。

 

 エアの声だった。

 

 それは機体ではなく、魂が語るような温度を持っていた。

 

『……』

 

 621は抗議の文を送信しようと端末を叩くが、呆れたよう端末から手を離し、同じように抱き返した。

 

 無骨なACが、もう一機のACを抱きしめる。そんな、戦場ではあり得ないはずの“光景”。

 

 それが、この格納庫にだけ――確かにあった。

 

 そして――。

 

 全ての拘束が解かれ、ふたりのACが静かに“抱き合って”いたその時だった。

 

 ――ドウウウウウン!!

 

 鈍く腹の底に響くような轟音。

 

 次の瞬間、格納庫全体が突如として大きく揺れた。床が跳ね、装備資材が倒れ、警報が一斉に鳴り響く。

 

『なに!?地震か!?』

 

『そんな訳あるか!衛星軌道だぞ!これは――着弾震動!?』

 

 防護ポッドに残っていた整備兵の叫びと同時に、天井の装甲板が軋み、断続的な衝撃波が複数回、鋭く突き抜けていく。

 

 ――ドオォン!ドオォン!ドオォォン!!

 

 今度は連続だ。あらゆる方角から、基地を丸ごと揺さぶるかのような圧力が押し寄せる。

 

『着弾地点、軌道外壁!多数の高出力エネルギー反応!』

 

『識別信号なし――これは、ALLMINDの呼び寄せた支援砲撃艦隊だ!』

 

 MT兵が通信端末を叩き、表示された宙域マップを見て絶句した。

 

『全艦、空間転移装置の冷却完了と同時に座標指定による一斉射撃を開始……基地諸共に、我々を焼く気だ!《ザイレム》は今どこに居る!

 

 衝撃の波がまだ残る中、通信ラインに別部隊の報告が流れ込む。

 

『《ザイレム》旋回中!基地との再接触まで80秒!』

 

『急いで揚陸地点まで戻るぞ!ACなら多少の無理が効く!すれ違い様に飛び乗って離脱する!パイロットのいない機体はオートパイロットをオンにして追従させろ!』

 

 その瞬間、格納区画の高周波センサーが再点滅し、緊急システムが機体のエネルギー循環を強制加速させた。

 

『621、急げ!ザイレムが再接近中!乗り遅れたらお終いだ!』

 

 格納庫の床面が再び傾ぎ、外部からの衝撃波が波のように押し寄せる。外装に張り巡らされた複合装甲がすでに数ヶ所、内側から破断音を立てていた。

 

 《SOL 644》は身を起こし、《バルテウス》からそっと離れる。2機は即座にブースターを点火し、揚陸地点に向かうべく格納庫を飛び出した。

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