「α小隊! 何して、グァァァ!!!」
「撃てぇ! 撃てぇ!」
「Σ全滅! Σ全滅! 増援! 早く人集めろっ! 突破されるな!」
「キぃィィィヤぁァァァあああああ!!!」
「ツーちゃん二歩後退! ハーちゃん~?」
「支援します。」
前衛を任されていたのであろう小隊に突っ込み、食い荒らす。
先頭を走るツーちゃんが戦局を開きながら敵中央へと突っ込み、中盤の私が出来上がった道を維持しながら彼女に続き左右に広がった敵に爆弾やら弾丸やらをプレゼント。んで最後のハーちゃんがライフルで的確に私達を支援。完璧な連携だ。
(……いやまぁ連携というよりも、素の力で凌駕しちゃってるって言った方がいいのかもだけど。)
経験を積んだおかげかツーちゃんの戦闘能力と耐久力が無駄に上がっている気がするし、たまにウチのメイド狙撃兵に話を聞きに来てるハーちゃんの技量が意味わからんことになってる。
なんで高機動なせいで弾が当たらない上に当たったとしても逆に回復するっていう特性を得ちゃって、走りながらライフル撃って高機動戦闘してる私やツーちゃんに誤射らず相手の装備の隙間とか狙えるようになってるんですかね?
(まぁいいや! 撃て撃てー!)
にしても……。あはー! やっぱこれハマってるねぇ! 学園を運営する身分とすればちょっと不安ではあるけれど、ちゃんと彼女たちが成長しているのは見て取れる。というか何よりも、親友たちと考えた作戦がこうも綺麗に決まるのは楽しさしかないや! この後の生徒会長とのバトルでもバシバシ作戦決めちゃおー!
『ぽよぽよ!』
(はい! 見ててくださいね! もういっちょ行きますよー!)
ぽよ様の応援を頭の中で受けながら、トリガーを引く。いや~、戦闘訓練。順調だねぇ。
私の生活が通常業務に戻り始めてから数週間、羽川ハスミことハーちゃんと、剣先ツルギことツーちゃんの予定がちょうどフリーになっていたと言うことで私たちは『聖ワドルディ学園』へと殴り込みに来ていた。ま、早い話が模擬戦だ。一応、他の予定もあるしね~。
(にしても、マジ順調だな『学園』。)
なぜこうも上手く行ったのかは解らないんだけど……。この学園の“更生施設”という面は大成功している。生徒会長を任せた元正実の委員長、彼女の暴力が功を奏したのか。もしくは副会長を任せた元シスフの慈愛が不良たちの心を溶かしたのか。単純に衣食住が安定したから落ち着いたって線もあるけど……。とにかくこの学園に叩き込んだ子たちは、大体が穏やかになっている。
(各種職業訓練の成績は順調だし、“練兵”もまぁ順調だ。連邦生徒会から正式に認可を受けて各自治区から不良を収容しているわけだし、文化や思想面での衝突も心配してたんだけど……、杞憂でよかった。)
この学園はトリニティの資本、というか私のポケットマネーで動いているのだが、体制としては連邦生徒会側だ。
トリニティに寄っていることは否定しないけど、“お上”の顔を伺いながら運営している形になる。ま、民間とはいえ犯罪者の更生施設だからね。本来行政がすべきことをこっちが肩代わりしているんだからそれなりの恩恵はあるんだけど、だからこそ“更生施設”としての仕事だけは真っ当にしなきゃならない。面倒なこともあるけれど、トリニティやD.U.以外からも不良を送ってもらえるからね。割り切って頑張りましょうって感じ。
とまぁそんなわけで順調に運営されていた学園だったんだけど、元正実の生徒会長から相談を受けてね? なんでも学園内で訓練ばっかしてるせいで自分たち以外との実戦経験が全く足りてないらしいんだ。まぁ更生施設の名目で作ってるから気軽に外出できないし、そも内部でやってることが“こと”だから身内以外の人員をあまり入れたくないってのもある。私に相談が飛んでくるのは何も可笑しなことではない。
(一応、外に出れないわけではないんだけどねぇ?)
ちょっと色々書類申請が必要だが、『聖ワドルディ学園』の生徒会の認可さえあれば気軽に外出できるようになっている。ヴァルキューレと共同して見張りは付くが、完全な不自由ではない。けれど学園が運営され始めてから申請されたのは……。驚異の0回。そもそもお前ら申請のやり方把握してる? って聞きたくなるレベルだ。
まぁそもそもこの学園自体『ワドルディ』の名を冠していることから、こっちで思いつく限りの娯楽施設を叩き込んである。映画も見れるしゲームも出来るし運動も出来るし買い物もできる上に種類も豊富だ。……そのせいでなんか『出なくていいや!』、『ここすむー!』みたいな感じになってるみたいでさぁ……。こっちとしては嬉しいしありがたいけど元不良として色々とええんか?
と、そんなわけで私達がこっちまで“ご挨拶”しに来たってわけ。
私もハーちゃんもツーちゃんも、将来は正実に進むことを望んでいる、だから少しでも戦闘経験が欲しいんだよね。両者の思惑が合致したが故の模擬戦って感じだ。
(ナギサ様を巻き込んで今の正実と模擬集団戦させてみるって案もあったんだけど……。セイア様から止められちゃって、私達3人対ワドルディ練兵隊との戦いになったわけです。)
「マルコっ!」
「おっといけね。はいはーい!」
ツーちゃんの声で思考を取りやめ、彼女から任された敵集団。ショットガン片手に突撃して来た一個小隊と相対する。確か全員が私の手によって愛銃をもぐもぐされた人たちだ。
さぁさぁ、訓練でどこまで強くなったのか見せてもらうとしますか。
「懸かる上は上様、お手向かい致しまする! お覚悟ォー!」
「ぶっころしてやりますわぁ~~~!!!」
「ざーこ♡ ざーこ♡ よわむしけむし♡ 死んじゃえ♡」
「理事長が何だ! 我ら生徒あっての理事長ではないか! お命頂戴ッ!」
「〇す〇す〇す〇すッ!!!」
……キミらほんとに更生してるんだよね? まぁいいけど。
散弾を乱射しながら突貫して来る相手の攻撃をノーガードで受け止め、そのままこちらも距離を詰める。訓練で叩き込まれているのか、即座に防御態勢と周囲からの支援を受けられる位置まで後退する彼女。流れる様な動作、何度も繰り返し体に叩き込まれているのか、一切の無駄が見受けられない。
けれどまぁ、やっぱり私の方が速い。
即座に心の腑から“神秘”を汲み上げ、脚部へ。地面を陥没させながら全力で踏み締め、大地を蹴りつける。一瞬ブレた視界がすぐに切り替えられ、私の位置は敵の眼の前。後退しようとした彼女の真ん前に塗り替わった。単純な“踏み込み”でしかないが出力が違えば瞬間移動の様になる。ん~、やっぱ御大の神秘は強力だなぁ。
「んじゃ、歯を食いしばれ♡」
「ブッパなッ!?」
破れかぶれで引き金を引いたのだろうか。ほぼ0距離でショットガンを放たれるが……。既にこの身は神秘で満たされている。顔面でそれを全て受け止め。お返しとばかりに拳を叩き込んであげる。
勿論、場外まで。
「ぎゃぁぁぁああああああ!!!」
「た、隊長ォ!?」
「隊長が! 隊長が校舎に突き刺さってる!!!」
「え、衛生兵ーッ!」
「だから理事長に変なこと言わない方がいいって言ったんだよ小隊長ォ! 幾ら常人が狂人の真似しても本物にはなれないんだよォ!!!」
「あ、なんかの作戦だったの? まぁやる気は感じられるけど……。」
そういうのしたいんだったら士官教育プログラムも用意してあるからそっち受講してね~。あと最後の、君は後で理事長室に来るように♡
確かに普通の相手だったらある意味威圧になるだろうけど、講習開始時に提示された様に君たちの相手は最低で『各校の最高戦力』だから、声出すぐらいなら引き金引こうね~。私に負けてるレベルじゃ一生新兵で終わっちゃうよ? せっかく訓練受けてるんだから頂点まで目指してけ乙女!
というわけで次は君! 隊長ちゃんと同じようにお星さまになろう! それぱーんち!
「びゃぁぁぁぁ!!!!!」
「ひぃぃ!!! 生徒会長もイミフだけど理事長もやっぱ化け物ォ!」
「まぁ銃食ってるもんな。」
「……あれ、ちょっと待って? 私ら以外全員戦死判定受けてね?」
敵小隊の一人がそう言った瞬間。銃声が響き、その大半が地面へと叩きつけられる。
「キぃィィィ!!! 死ねぇぇ!!!!!」
「相変わらずいいシャウト♡ 結婚しよツーちゃん!」
「ふぇ!? け、け、け……、ッ! 戦闘中に変なこと言うな!!!」
おっと、こりゃ失礼。……多分これ、昨日そういうタイプの恋愛映画でも見たな。
いつの間にか敵陣を荒らしまくっていたツルギが戻ってきたようで、おそらく自爆特攻しようと手榴弾片手に突撃したのであろう敵を的確に処理していた。ショットガンで意識を消し飛ばしながら、抱えられた爆弾を一気に蹴り上げお空で大爆発。うーん、ワザマエ。
そして更に視線をずらしてみれば、ツルギを支援していたのであろうハスミが、戦死判定を受けているのにまだ動いて攻撃しようとしちゃってる子の背後に回り込み、当身を喰らわせていた。……というか、確かに後方からの支援がメインだけど、敵陣に突っ込んだのに一切被弾の跡がないのヤバくない?
「貴女たちに置いて行かれないように鍛えていますからね。」
「ギャハハハハ!!! あとはお前らだけだァ!!!!!」
そう言いながら、私の近くで恐怖に震えていた最後の生き残りの脳天に、銃弾が叩き込まれる。
そしてその直後に鳴り響くホイッスルの音。
どちらかの全滅による模擬戦終了の合図だ。
どうやら最初の方に戦死判定を受けていた子たちの中には気絶から回復していた子もいたようで、ひぃんひぃん言いながら立ち上がっているのが見える。
「お疲れハーちゃんにツーちゃん! どうだった、ウチの子たち!」
「えぇ。以前戦ったときに比べ格段に強くなっておられるかと。まぁ中1の私達に負けている様では少し心配なところもありますが。」
「だな。……それとマルコ。戦闘中に気が散ること言うな。冗談も程々にして。」
えー! そんなぁ!
……あと普通に冗談じゃないよ? 二人だったらぁ、もし告白されたら即OKするしぃ? お婿でもお嫁でもどっちだってなる準備あるしぃ? ……あ、ハネムーンはこの星の中でお願いね? 我々キヴォトス人が外宇宙に飛び立つには色々と早すぎるのです……!
「!? ……! ……!!!!!」
「何言ってるんですか貴女は。あとツルギも変な妄想しない。さ、私達も私達でおさらいしましょう。おそらくもっと早く制圧出来たはずです。まだまだ正実の先輩方には敵いませんから。」
「いいいいい、や。じゅじゅじゅ、十分すぐり、じゃない。過ぎるとおもうけどどどど……。」
「あ、会長ー! げんきー?」
そんな会話を親友たちとしていると、大きな体を小さく縮めてプルプルと震えながら近づいてくる女性が一人。
そう、この『聖ワドルディ学園』の生徒会長にして元正義実現委員会の委員長様だ。ん~! わざわざ用意した『学園』の制服! 白とオレンジのお洋服が似合ってるねぇ! あと一応幾つかベレー帽も制服として用意してたと思うけど、もしかして無くしちゃった?
「ううう、ん。ごめん、なさい、りりじ、理事長。」
「……あ、あの。マルコ? もしかしてこの方が? その、色々と記憶と違うと言いますか……。」
あ、そういやハーちゃんはこの状態の会長は初めてだったか。
確か小学生の時に全力戦闘している委員長時代の会長のことは一緒に見たと思うけど、確かにあの時と全然性格違うからねぇ。えっと、適当な銃器は……。あ! そこの! 私にサブマシンガン食べられた挙句ヘルメットも被ったままガリガリいかれた結果、性癖がひん曲がっちゃって『丸呑み』とか『捕食』に行っちゃったそこの君! ちょっと銃かしてー?
「へ、へぅぇ!? な! なんてこと言うんですか!?」
「いやだって君『丸呑み・捕食同好会』だっけ? そんな変なの作ろうとして申請出してたじゃん。許可出しといたよ? あぁそれと、もしアレだったらこの後頭から口に含むぐらいはやってあげよっか?」
「あ゛り゛が゛と゛う゛ご゛ざ゛い゛ま゛す゛!!!」
「マルコ、良いんですかアレ。変態ですよ?」
「……消すか?」
「いやウチは寛容だし大丈夫。というかまぁ珍しいけどよくある性癖でしょ?」
え? キヴォトスじゃ異常性癖? まぁ確かに“死”が珍しいせいかそういうのは忌避されてる感じはするけれど……。前世じゃ色々あったからねぇ。ちょっとそう言うサイト漁るだけで沢山出て来たし。流石変態の国ジパング。っと。会長に銃器持たせるんだったよね~。
「はいどーぞ。」
おそらく特殊な神秘を抱えているだろうウチの生徒会長は、面白いことに銃を握ると性格が激変するという特性を持っている。どこかのバイク乗りの警官さんみたいな感じ。普段は内気でお家から出たくなくて人と話すのも苦手な方なんだけど……。武器を握ると頼れる姐さん気質の大人なレディになってくださるのです。
そんな感じで銃を持たせてみればあら不思議。ずっと震えていたその体がピンと姿勢を伸ばし、目元が見えない程に伸びていた頭髪を大きくかき上げオールバックに。びしっと決まった会長様の完成ってわけだ。私は普段の方も好きなんだけどねぇ? あっちだと一つの話題消費するのに凄い時間かかっちゃうから……。
「んでどったの会長? 十分過ぎるって。」
「あぁ、その話か! いやすまんな、なんか気落ちしてしまってよ! んで本題だが、まぁお前さんらの強さが既に正実でも上澄みって言いてぇのさ。たぶん2年相手でも十二分に戦えると思うぞ?」
ま? そりゃ嬉しいねぇ! ……ちな会長相手だと?
「2秒。」
あ、スッゥゥゥゥ
「ハーちゃんにツーちゃん! このまま頑張ろうねッ!」
「私の知ってる委員長……っ! っと失礼。ですね、頑張りましょう。」
「あぁ、いずれ追いつき、追い越す。会長、それまでご指導お願いします。」
「もちろんッ! ……っと、そうだ理事長。ウチの副会長……、元シスフの奴が呼んでたぞ? なんか連邦法関係の解釈? ってのとヴァルキューレとの連携云々って言ってたが。」
「ぽえ? なんだろ。急ぎかもしれんしすぐ行った方がいいか。ごめん会長、この後の模擬戦とか一旦午後に回して、二人に学園案内してくれない? 技術部のあたりで集合な感じで! まだ早いかもだけどちょうどいいっしょ!」
「ん? あぁアレか。おう、了解だ!」
◇◆◇◆◇
(……上手くいけたが、まだまだ頂には遠い。頑張らないと。)
とっとこと校舎の方へと走って行くマルコの姿を眺めながら、ツルギはそんなことを考えていた。
先ほどの模擬戦の結果は完勝。用意していた策とずっと一緒に過ごしてきたからこそ出来る息の合った連携。自分たちの力が既に普通の生徒よりも強くなっていることは否定しないツルギだったが、同時に“次は同じように勝てない”とも思えるような戦いだった。
確かに今回は勝てたが、次に戦うときは相手もこちらの戦い方や戦略をより理解して勝負を仕掛けてくるだろう。押し込んでいたはずの勝負が小さなきっかけによって全て瓦解するのはよくある話。“正実”に進むのであればもっと高い実力を。友たちに置いて行かれない力を、求めなければいけない。
けれどまぁ、まだツルギも中1。様々なことに興味があるし、ささやかな趣味もある。
他の子に比べ多少訓練の時間が増えるだけで、暴走まではしない。というか暴走でもしたらハスミが真っ赤になって頬を膨らませながら止めに来るだろうし、マルコはふざけて誰が暴走していたのを忘れてしまうぐらい大きなやらかしをしでかしそうだ。
(……いい、友達。)
「っと。まだ気絶してる寝坊助どもを叩き起こさねぇと。衛生兵ー、模擬戦終わったから仕事しろー。」
そんなことを考えていると、自分が超えるべき一つの目標である“会長”が声を上げる。すると……、マルコが消えていったのとは別の校舎から、なにやら不思議な1頭身の存在が湧き出してきた。数は12ほど、ちっちゃな足をぱたぱたと動かし、救急箱を頭に乗せている。
「……かわいい。」
「え? え!? な、何ですかアレ!? ひ、人ですか!? ならなぜ裸!?」
「ん? あぁ『ワドルディ』だよ。ほら私らの制服にマークついてるだろ? コレの元ネタらしい。」
そう言いながら、自分の制服。胸ポケット辺りに刻まれた校章を見せてくれる会長。
ハスミは顔を真っ赤にしながら全力で手で眼を隠しているが、どうやらあの姿が彼らにとっての正装のようだった。まぁ確かにどこからどう見ても洋服らしい洋服は着ていないし、2、3頭身ぐらいの獣人の人たちのことを知っていると、1頭身でも服を着ていないのは違和感があるが……。他の生徒たちも“そういうもの”として受け入れているようだし、慣れるしかないのだろう。
キヴォトスでは初めて見る存在だし、独自の文化を持っている可能性が高いのだ。互いに尊重し合って共存するのが一番だろう。
「わにゃわにゃ。」
「あ、消毒ありがとー! えっと、わにゃにゃ?」
「わにゃ!」
「おーい、誰か重機持って来てくれー! 校舎に突き刺さった奴が取れん!」
「上様! 上様ァ! お助けぇ~!」
「わにゃ!」
「……違う言葉を、話すんですね。」
「あぁ。まだちゃんと意思疎通できる奴は少ないがな? 一応ウチのプログラムで……、ではないんだが言語学担当の教授さんが頑張って翻訳表とか作ってるからなぁ。まだ教授が満足してねぇせえで正式な授業として単位は出ねぇが、第2言語って体で学んでる奴多いぞ。」
「あ、あの。会長さん? 同じ単語しか聞こえないのですが。」
「なんか圧縮言語の類らしくてよぉ。一応私も話せるんだがほぼ感覚に近い。だが結構便利だぞ? 戦場とかで一言二言で複雑な指示出せるようになるからな。」
「わにゃ!」
「ん? おー! どうした! わにゃ、わにゃにゃ。」
「わにゃー!」
そんな会長の説明を受けていると、一人の“ワドルディ”と呼ばれた存在が、会長の元へと走り寄って来た。
ツルギもハスミも、全く何を言っているのかは解らなかったが……。どうやらマルコが校舎に突き刺した生徒救出のために、クレーン車の利用を申請しに来たようだった。一生懸命わにゃわにゃと喋るワドルディという存在に、長身なためかしゃがみこみ視線を合わせて会話する会長との光景は非常に絵になっていたのだが……。どうやら許可が下りたようで、ガレージの方に小さな彼が走って行くことで、途切れてしまう。
……というかクレーン車運転できるの? あの体格で?
「アイツらマジで何でもできるぞ? 掃除洗濯、料理に戦闘。あのちんまい体で小隊程度なら簡単に抑えられるんだからびっくりだよ。まだ弱いのは確かだが、人数差をあの体格で覆せるからなぁ。……ま、あいつらの故郷じゃ最弱の存在に近いらしくて、自分たちが勝てたことにとんでもなく驚いてたが。とにかく気のいい奴らだよ。」
そう言いながら2人についてくるよう手で指示を出す会長。
先ほど言っていた学校案内だろうとあたりを付け、そのまま彼女についていく私達。トリニティ以外の自治区に行くことは少ないし、そも親友のマルコが作り上げた町のような場所がこの学園だ。ハスミが興味深そうに視線を動かしているのと同じように、私も興味を抑えられそうにない。
「パンフ渡すし、後で時間もあるだろうから今は適当にな。さっきウチの理事長が入って行ったのが本校舎で、生徒会とか教室とかはあっちに集中してる。一応一階に購買とか食堂はあるから、腹減ったら寄っとくといい。大体トリニティと同じだが、別自治区の料理も出てくるから面白いぞ。んでその右手にあるのが……。映画館だな。」
「え、映画館。ですか?」
「あぁ。実は校舎よりも先に完成しちまったから、最初の内はあそこが生徒会室みたいなもんだった。外でやってる映画は必ずあるし、申請したら好きなのも流してくれる。タダだしお前らなら……まぁ出入り自由だろうし映画見るんだったらここに来な。」
タダ……。
一瞬ちらっと飾られているポスターを視界に入れ、お目当ての恋愛映画を発見するツルギ。いくら子供料金で見れるとはいえ、子供にとって映画を見るという娯楽は中々に値が張る。ツルギの頭の中にそろばんが出現し、今後この映画館を使用した場合による生じる余剰資金が計上。かなり余裕が出ることが判明する。
これで漫画や小説にお金が回せると思っていると……いつの間にか別の地区に移動していたようで、景色がガラッと変わっている。
「この辺りは娯楽と食関係が集まってるエリアだな。基本ここでなんでも手に入るし、何でも食える。バイトも出来るが……まぁお前らには関係ねぇか。理事長が思いつく限りぶち込んだらしいから、トリニティでない様な専門店もあるから気になったら覗いてみるといい。」
「へぇ……。ぅわサイレンサーの専門店ある。珍し。」
「だろう? おすすめはちょっと裏通りになるがさっきのワドルディたちが経営してる店だな。アイツら申請出さねぇせいで未だに非公式な店になっちまってんだが……。」
「え、いいんですか?」
ハスミの問いに、答える会長。
どうやらワドルディたちの価値観では土地は皆で分け合うものであり、“所有権”という概念が薄いのだという。そこに家や建物があって持ち主がいれば『そこは○○の場所』と理解してくれるようだが、誰も利用していない土地や隙間があると、勝手に建物を作ったり拡張してしまうのだという。
現在は付近の土地を無理矢理買い上げることで対応しているようだが、この学園の敷地も当初の予定より12%ほどワドルディたちのせいで拡張しているらしい。
「基本いい子なんだが文化の違いがなぁ? いくら説明してもなんか伝わってねぇんだよ。たぶんアイツらの言葉の中でこっちが理解できない単語があるみたいだし、逆もあるんだろ。でも寄合とかは絶対参加してるし、『カンパみたいなもん』って説明すれば進んで土地代も出してくれるんだが、書類上は違法って扱いでさぁ。ちょっとこの辺り生徒会でカバーしていいか理事長に提案する予定だ。っと!」
この学園独特の悩み、生徒会だからこそ対応しなければならない話などを聞いていると、いつの間にか目の前に巨大な建物が見えていた。視界端に見える看板から、マルコが去り際に言っていた『技術部』がここなのだと推測できるのだが……。明らかに大きすぎる。
校舎よりも大きい建物に、トレーラーでも収めているのかと思うような大きなガレージがいくつも並んでいる。ここだけで何か秘密の軍事研究施設なのかと思うほどだ。
「本来外部の奴には見せちゃいけねぇもんばっかなんだが……。ま、ここよりもいい技術屋が揃ってるのはミレニアムの中央ぐらいだろうからな。装備に困ったら寄ってけ。だがどこにもバラすなよ?」
理事長も親友ぐらいには自慢したいんだろうなぁ、なんて会長は言いながら。近くで警備していた生徒の一人に学生証を見せ、ゆっくりと建物の中の一つ。一際大きなガレージの中に入るよう指示を出してくれる。
そこに、鎮座していたのは……。
「これは……。」
銀色の、二羽。
トリニティどころかキヴォトスでは見たことのない、空の覇者。
人が生み出した鉄の鳥であり、人よりも何倍も大きなソレ。塗装は一切されておらず、装甲は金属そのものの色。そして開かれた内部からは基盤やコードを覗くことができる。
(戦闘、機)
未だ製作途中であることは解る。けれどその威圧感と言うべきか、込められた“強い”意志が私達の視線を掴んで離さない。ただそこにいるだけの覇者に圧倒され、口を開くことしかできなかった私達。
そんな時、聞こえる足音。
音の方に目を向けてみると、ミレニアムの学生章を胸に付けた黒髪の少女が、そこにいた。
「誰かしら。……あぁ、マルコの。いらっしゃい御三方。」
「ようリオ! あのマッドどこ行った?」
「エンジンの調整と言って自分にジェットエンジン括りつけてどこかに飛んでいきました。これ、発信機です。」
「ま、またかよあの馬鹿。わりぃ二人とも! ちょっと待っててくれ!」
その理解できないやり取りで、一気に現実に戻される。
何か意味の解らない言葉が聞こえたような気がしたが、おそらくここでは日常茶飯事なのだろう。エンジンを体に括りつけて空を飛ぶなんて本当にマジで理解できないが、世の中には人とは別の価値観を持って行動する者が多くいる。もう受け入れるか聞き流すしかない。
学園の外に落ちてなければいいが、と言いながら飛び出していく会長を見送った後、自然と生まれる空白。
ガレージの奥から出て来た彼女は初対面で、しかも別自治区の存在。自分たちの親友であるマルコから『ミレニアムから出向している子もいるよ!』と聞いていたため疑問は無いが……、気まずい。
それに耐えかねたのだろう。私よりも会話を得意とするハスミが、率先して口を開いてくれた。
「あ、あの。これは貴女が?」
「いいえ。この2機は先輩……、さっきここの生徒会長から“マッド”と呼ばれている彼女が設計したものよ。私の担当はもっと別。……まぁ、色々と手伝っているから思い入れがないわけではないけれど。」
そう言いながら、少し愛おしさを感じさせる表情で、機体の外装に触れる彼女。設計やメインの開発はそのマッドという人が担当しているのだろうが、彼女も計画自体には参加しているのだろう。頬に少し機械油のような汚れがあることから、さっきまで何かの作業をしていたのかもしれない。
「あぁ、ごめんなさい。私は調月リオ。羽川ハスミと、剣先ツルギ、だったわよね? 出資者である桃玉理事長からはよく話は聞いているわ。私はミレニアムからの出向組だけど……。年は同じだから気にかけてくれているのでしょうね。」
先ほどまでのどこか冷たさを感じさせていた顔を解き、柔らかい笑みを浮かべる彼女。
「それにしても……。ちょうど良かったわ。実は今日、この子たちの初めての飛行テストなの。『DRAGOON』と『HYDRA』。私たちが世に送り出す、初めての決戦兵器。プロトタイプですらないけれど……。楽しみだわ。」
〇わにゃわにゃ
確実にキヴォトスでの生活圏を確立しているが、『聖ワドルディ学園』から出ないため特に問題は起きていない(勝手に学園を拡張していることを除けば)。一応法治国家群であるキヴォトスとワドルディたちの相性はそこまで良くなく、文化の違いからすれ違いのような物が幾つか発生している。
そのため今後生徒会がワドルディ専用制度などを生み出していく予定。なおマルコには『そう言う申請とか法律が苦手な子が多くいまして、生徒会で補助してもよろしいですか……?』としか聞かれなかったので、普通に許可を出したし存在を知覚できなかった。現在『秘密のお茶会』で認識しているのはリオだけだが、“そういうもの”として扱っているためまだ発覚には至らないだろう。
なお学園の生徒数増加に伴い、ワドルディの人口も増加しているため自然と『わにゃ語』が第2言語として扱われ始めており、よくわにゃわにゃ言い合う生徒とワドルディの姿が確認できるとのこと。見ているだけで癒されるね!
〇丸呑み・補食同好会
何故か理事長から承認されてしまった同好会。マルコに認知されたことで脳が耐えきれず爆発しワドルディに緊急搬送されてしまった子が創設者。意外と参加者は多く、元ヘルメット団の割合が多い。
実はマルコが不良たちを成敗していた時に、『ヘルメットにも神秘宿ってるんじゃね? でもわざわざ引きはがすのめんどいな……、せや!』ということで動けなくなったヘルメット団を抱きかかえながらヘルメットをバリバリするという凶行を行っていた。その結果、疑似的に補食されるという経験が刺激的過ぎて色々ねじ曲がってしまった子が多数存在している。この同好会はそんな同志たちへの救いの場所。
ちなみに現在のマルコは扱える神秘量が増加したことで口に含められる容量が増加している。そのためちょっと無理すれば頭部だけをぱくっと口に収め、ヘルメットだけを綺麗に引ん剝くことが可能。本人はファンサのノリでしてあげてもいいよ、と言ったが更に脳破壊が進み創設者は二階級特進した。
次回からは時間が大きく進み、高校1年生。“雷帝”の時代に突入するようだ。というわけでよろしく頼むよ、観測者諸君。