ピンク玉の神秘   作:サイリウム(夕宙リウム)

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14:きっく!

 

『ドラグーン1から各機へ、状況知らせ。』

 

『こちらドラグーン2。問題なし。作戦空域外縁を旋回中。』

 

 

大空を駆る、巨大な鉄の塊。

 

音速を優に超えた速度で動くソレ。『学園』が持つ機密の中で最上位に位置する飛竜はアビドス砂漠をまるで我が物の様に滑空していた。

 

 

(異様に本格的だったが……、アレが現実になるとはな。)

 

 

ドラグーン1の識別コードを与えられた彼女は、数年前に学園内に設置されたとある筐体を思い出す。

 

聖ワドルディ学園のゲームセンターに設置されたとあるゲーム機。その名も『エアライド』。

 

実際の操縦席と同じものへと乗り込み、大空を翔ることが出来るその娯楽機。学生証がセーブカードとなっており、自分だけの機体をカスタマイズ。課せられたミッションを一人で、もしくはみんなでこなし、その点数を競う。学園の生徒会から『無料でプレイでき、スコアに応じて賞金も出す』という触れ込みもあったことから、数多くの生徒たちがハイスコアを目指し乗り込んだのだが……。

 

“彼ら”が参加したことで、ランキングがわにゃたちで埋ってしまったのは強く記憶に残る事件だ。

 

けれどそんな『神秘に塗れた』存在を。空想の世界とはいえ、打ち負かす者がいた。

 

 

学園に極秘裏で設立された『航空部』、そのエースたちである。

 

 

ゲーム機は仮の姿、学園技術部によって用意されたシミュレーターにして適性検査機の役割を担ったそれは十全に仕事を果たし、素質ある者たちを見つけ出した。

 

そも現在開発中の戦闘機は、プロトタイプで発展の余裕を残す機体であったとしても『キヴォトス内外すべての戦闘機を置き去りにした』と評される程の決戦兵器。そのせいか生身の人間では乗りこなすことが出来ず、ヘイローを持つ人間ですら現時点の最高速に耐えきれない。そしてそんな音速の世界に於いて求められる空間把握能力や対G能力。その他多くの非常に高い能力が求められていたのだが……。

 

彼女たちはその素質を今日この日まで伸ばし続け、その座席へと腰を下ろしていた。

 

 

『機器の調子はどうだ、ドラグーン2。』

 

『万事問題なし。……やっぱり、奴さん。わにゃ語は学んでないみたいだね。何度かハッキング受けてるみたいだけど全部跳ね返してる。』

 

『だろうな。教育を受けた私達でも読解不可能だ。いくら相手が神様みたいなAIでも、“わにゃ”で全て完結する言語を読解するのは無理だろうよ。』

 

 

未だプロトタイプを抜け出せない機体ではあるが、キヴォトスにおける初の高機動マルチロール機。『PROTO DRAGOON』に乗り込んだ彼女たちは、そんなことを口にする。

 

この機体を生み出す際に技術部が苦悩した点として、『いかにデカグラマトンやその他の脅威たちのハッキングに対応するか』という点が挙げられる。

 

現在における戦闘機はそのすべてを人の手で動かせていた時代から大きく成長し、物理的に人一人の能力では操作不可能なレベルに至っている。レーダーの使用やロックオンシステムの運用、各機との通信や細かい姿勢制御プログラム。単座戦闘機であることを求められた『DRAGOON』のみならず、複座として生み出された『HYDRA』も抱える問題。機械の助けを借りずその性能を発揮するのは不可能であった。

 

そんな必要不可欠の“防御”を薄くするわけにはいかない。何せそこをハッキングされ奪われてしまえば、決戦兵器はただの棺桶に成り下がる。そして相手がこちらよりも強大であった場合、味方の勝利を手繰り寄せるために生み出された彼らは、絶望を振りまく機体になってしまう。

 

かといって戦闘機という『重さ』や『スペース』の問題が伸し掛かる存在に大量の演算領域を持たせるのは不可能だ。コンパクトに纏まりながら敵のハッキングを跳ね返すものが、求められていたのだ。

 

『秘密のお茶会』のメンバーであるリオも参加したこの開発、敵の能力値を『最悪で想定したものの倍』と置いたせいか、年単位で難航していたのだが……。とある一頭身の一言が、劇的に開発を加速させる。

 

 

「わにゃ。」

 

 

そう、プログラム言語自体を超圧縮言語である、ワドルディ語にしてしまえばいいのだ。

 

言ってしまえば、たった“一語”ですべてが完了するプログラム。姿勢制御も、味方との通信も、ハッキングの対応すらもコンピュータが『わにゃ』と唱えるだけですべてが終了する。何せその一言に数千、数万、数億の意味が込められているのだから。

 

もはや開発者たちどころか話者であるワドルディたちも数日頭を捻らなければ解読できない程に複雑化されたソレ。何かもっと大きなものに“引っ張られる”かのように性能を伸ばしたその機体たちは、『開発者が原理を理解しきっていない』という特大の問題を抱えながらも、『なんかいける』という理由で、運用されていた。

 

ちなみにワドルディたちによると、この戦闘機たちは『とってもいいこ! なかよし!』であるという。なら大丈夫だな、ヨシ!

 

 

『こちらハイドラ1。全探査機の射出を完了した。これよりそちらに合流する。』

 

『ハイドラ2も終わりましたっす。このまま帰ってリジチョのおしりを観察してもいいっすよね?』

 

『ドラグーン1からハイドラ2へ。貴様の性癖は自由だが、作戦行動に従わないのなら理事長に報告する。無論減給処分を受けたいのなら別だが。』

 

『……仕事するっす。』

 

 

そんなドラグーンたちの会話に入り込むように、連絡を入れる『PROTO HYDRA』のパイロットたち。少々関係のないことをしている者もいたようだが……、本作戦の『分析』に必要な探査機をアビドス砂漠全域に落すという作業を、完了させたようであった。

 

『DRAGOON』をマルチロール機、すべての役割を十全にこなしながら“空の絶対王者”となることを求められた機体とすれば。『HYDRA』は“大地へ悪夢を齎す覇者”として設計、開発された対地大型攻撃機だ。

 

流石に『DRAGOON』には劣るが、現行の戦闘機を凌駕する空戦性能を持ちながら、残る余力を全て対地制圧能力に振り切った機体。機体の大型化により大量のミサイルと大口径機銃を複数持つことが出来るソレ、今日は非武装化されているためその圧倒的火力を見せつけることはないだろうが、プロトタイプの段階で『10機もあれば3日でトリニティを火の海に沈められる』程度の破壊力を保有している。

 

敵に対空能力がなく、補給が無限である前提での想定。しかも予算で各機2機ずつの運用しか出来ないという問題はあるが、大地を耕すのに十分すぎる力があるのは理解して頂けるだろう。

 

 

『でもまぁ、仕事っていってもこっちで収集した情報を本部に送るだけっすよね? 隊長。』

 

『まぁな。だが任務は任務だ。あの“デカブツ”に色々とぶち込めないのは残念だが……、ん?』

 

 

ハイドラ2の通信手が、航空部の部長にして彼女たちの隊長であるドラグーン1にそう問いかけたが……。眼前にある基盤が光点を示したことにより、返答が止まる。

 

彼女たちの理事長であるマルコから作戦開始の発令から120秒の経過。既に作戦領域からは敵以外のすべてが離脱していなければいけないのだが……。砂漠に散りばめた探査機が伝えてくるのは、未だ退避しきれていない“偵察隊”の反応。

 

 

『ハイドラ1。』

 

『格納に空きはあるが偵察小隊全員の格納はハイドラ2と合わせても不可能だ。そも砂浜ではこいつらでも着陸できても離陸できん。情報は既に地上の戦車隊に共有してある。……私たちは眺めるしか出来ないよ。』

 

『……了解した。だが仲間の命には代えられん。全機、偵察隊の後方まで回り込め。エネミーの気を引き理事長の到着まで時間を稼ぐ。悪いが全員始末書は覚悟してもらうぞ。』

 

『ドラグーン2、Wilco。』

 

『そう来なくっちゃ、ハイドラ1了解。』

 

『今週18枚目なんすけど……。ハイドラ2、らじゃっ! こうなったら全員助けて代筆してもらう……。』

 

 

ハイドラ2が企みの計画を口にしようとした時、彼女たち以外の通信が入ったようでその口を閉じる彼女。隊を任されているドラグーン1からすれば注意したいところだったが、重要な連絡が飛んできたのならば邪魔をするのはまずい。少しため息をつきながらも、次の言葉を待つ。

 

 

『ありゃ、リジチョ? ……あ、りょっす! はいはい! なら始末書は無かったことに……、あぁいや! こっちの話っす!  はいー! 伝えますっす! ……隊長ー! リジチョがおよびみたいっすよ! 超特急!』

 

『了解、急行する。』

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「小隊長ぉ! エンジンいかれました! 動きません!」

 

「これだから砂は嫌いなんだよッ! 総員下車! 装備も銃も捨てて逃げるぞ! あの蛇こっちに向かってるッ!」

 

 

場所は代わり、敵発見により設定された作戦領域の中。

 

彼女たちに与えられた『ビナーと呼ばれる巨大な砂蛇』の探索は無事終了した。この広大な砂漠を移動中であった敵を発見し、本部へと通達。これで彼女たちの役目は終わりだったのだが……。情報を送るための“通信”が良くなかったのだろう。

 

謎の多い存在ではあるが、デカグラマトンという神を生み出すために創り出されたAIと、それに感化された者たちだ。機械の体を持ちながらも、その本質は電子の世界にある。そんな世界に精神を置く存在なのであれば、電子を介する通信など傍受できぬわけがない。

 

自身の領域を荒らす偵察隊を発見したビナーは、即座に作戦領域全てを覆い尽くすほどの砂嵐を発生させる。まるで縄張りに紛れ込んだ不埒者を食い殺さんとする様に。自然現象を大きく超えた風速を放つそれは、ただの砂嵐を凶器へと変貌させ、彼女たちに襲い掛かったのだ。

 

幾ら防塵装備で固めていたとしても、砂の風を越え砂の壁が叩きつけられるような状況に陥れば、何の意味もない。つい先ほどまで動いていたはずの車両は大きく横転した後に動かなくなり、逃げるために車を飛び出したとしても、踏ん張らなければ立つこともままならない。走ることが出来ないわけではないが、その速度は通常時の歩行よりも遅くなってしまうだろう。

 

 

(砂のせいで何も見えないけど、足裏からの振動が教えてくれる。このままじゃ追いつかれて全員死ぬ! だったら少しでも……!)

 

 

小隊を任されていた彼女は即座に判断し、実行に移す。

 

身を隠し体を守るために着ていた重い装備を全て脱ぎ去り、防塵ゴーグルとマスクだけ残す。靴すらも放り投げてしまったため残っているのは下着程度なものだが、軽さを意識すればこれ以上はいらない。視界と呼吸、そして足裏から振動という情報を得られればそれでいい。

 

そして最後に、“彼ら”からもらった青いバンダナを頭部へと巻く。

 

 

「た、隊長! どこいくんすか! にげますよ!」

 

「うるさい! お前らはとっとと逃げろ! 私は……、殿だっ!」

 

 

近接装備の一つとして配給された槍、自身の給料をつぎ込んで限界まで強化したソレを手にとり、こちらに向かって進んでくる“地響き”に向かって走り出す彼女。

 

 

(怖い、逃げたい、なんで私がこんなところに。……でも全部、雑念だ。こんなもんいらん。)

 

 

邪魔な感情を振り払いながら、自分が戦う理由だけを思い出していく。

 

ほんの少し前までなら仲間なんか見捨てて自分だけが助かろうとしていた少女だったが……、今は違う。ともに過ごす友たちの為なら命を張れるし、そもそも小隊を任された責任。そして自分たちの居場所を作ってくれた“あの人”への大恩がある。

 

何もなかったはずなのに、気が付けば戦える理由だけが増えていた。

 

 

(あのままヘルメット団やってても、どうせどっかで飢え死にしてた。奪うだけじゃどうせどっかで死ぬってのは理解してた。でもそれしかなかった。……そんなとこから拾い上げてくれた人に任された仕事一つ熟せなくて、何になるんだ。仲間守れなくて、何になるんだ。)

 

 

もう飢えることはない、ちゃんとした家で、ちゃんとした教育を受けて、ちゃんとした服を着れる。周りには自分と同じような境遇の奴もいて、過去を話せば同じような経験があちらからも返ってくる。自然と距離は縮まり、友という関係となり、仲間という掛け替えのないものになって行く。

 

そんな場所を作ってくれた人に何か返したいと思うことは自然なことで、彼女は銃を。そして槍を掴み、戦うことを決めた。確かにつらいこともあったが、昔に比べれば屁でもない。そんな充実した日々が、脳裏にしっかりと刻み込まれている。

 

 

簡単に死を与えてきそうなあの存在が、怖い。

 

 

けれど何も為せないことが、友を守れないことが、仲間を助けられないことが、もっと、何よりも怖い。

 

だったら、前に進むしかない。

 

恐怖など、ただの雑念。いやもっと下の何か。綺麗で掛け替えのない記憶と守りたいものに比べれば、そんなものへっちゃらだ。

 

 

 

そんな彼女の背を押す様に、青いバンダナが少しだけ光を灯す。

 

 

 

彼女が頭に巻いたのは、ワドルディたちにとって特別な証。

 

大きな勇気を示す青いバンダナ、手渡された時はお守り程度にしか思っていなかったが……。

 

“彼ら”の鼓動が。大きな力が、湧いてくる。

 

もう誰も、一人じゃない。

 

 

「ㇱッ!」

 

 

視界に映った、“境界”の印。

 

声を出し全身を引き締めるとともに、大きく前へと踏み出す。

 

まるで何かを選別するかのように吹き荒れていた砂嵐が、ほんの少しだけ弱まった空間。

 

そこに足を踏み入れることでようやく、視界が晴れる。

 

 

「ッ! これが、ビナー……ッ!」

 

 

白く、大きな大蛇。

 

第三の預言者が、愚かな人間を滅ぼすために、咆哮を上げる。

 

 

「上、等ッ!」

 

 

打ち払う様に声を上げ、槍を振るうことで“キー”を外す彼女。

 

その動作によって即座にスピアに内蔵された非殺傷モードが解除され、刀身が解き放たれる。ミレニアムが誇る技術がトリニティの資金力によって大幅に強化されたその装備は、蒼き稲妻を迸らせる必殺の槍。高圧電流によって全てを焼き切り『生徒にすら致命傷』を与えることが出来る代物。

 

普段ならば振るうことすら躊躇われるが……、化け物退治にはこれ以上相応しいものはない。

 

 

(まぁこれでもちょっと装甲を切れる気がしないが……、ッ!)

 

 

足裏から伝えられる振動と、頬を焦がす様な熱。視界が一瞬白く染まりそうになった瞬間、彼女は全力をもって横に飛んだ。そしてその直後、先ほどまでその身があった場所に降り注ぐのは、全てを焼き尽くす熱線。

 

これが神の光だとでも言う様に、砂を焼き飛ばし、焼き尽くし、結晶化させていく。

 

 

(ば、ばけもの……、そのまま動けるのかッ!)

 

 

再度振動を感じ、全力でその場から走り始める少女。

 

それと同時に、彼女の肉体を追尾するように、ビナーが首を動かす。その口から放たれる熱線の光量は、一切留まることを知らない。そして何よりも、まだ“余力”を残しているような気さえする。

 

 

(なら近づくまでッ!)

 

 

回避するだけじゃ何も意味がない。殿をするのであれば、目立って目立って目立ちまくって、相手に“無視できない”と思わせなきゃならない。ならば少しでもダメージを与えるために、接近し、槍を当てなければならない。

 

通常の生徒では出せぬような速度で、身を低く落としながら地を掛ける少女。ビナーに比べれば砂粒ほどの大きさでしかないが、足を進めれば進めるだけ距離は詰まり、大きく大地を蹴ることで迫りくるレーザーを紙一重で回避することができる。

 

その体格差を生かせば、体を振るうだけで肉塊とすることが出来るビナーであったが……、煩わしく思ったのだろうか。体表の側面部から、多数の突起が飛び出し、少女に向かって飛来し始める。ミサイルだ。

 

 

「それは悪手じゃねぇのか、なッ!!!」

 

 

迫りくる弾頭目掛けて、全力で槍を振るう。

 

爆炎と熱によって一瞬ビナーのセンサーから消失した彼女であったが……、更に発射されていたミサイルを“足場”として、上空へと飛び上がる少女。

 

狙うは、脳天。

 

 

「もらッ、たァ!!!」

 

 

全身の力、輝き始めた神秘の全力をもって、その槍を叩き込む。

 

けれど。

 

 

 

 

甲高い、金属音。

 

 

 

 

弾かれた。

 

 

 

「クソッ、……ィギっ!!!」

 

 

 

その肉体には、かすり傷すらついていない。それどころか全く、意に介していない。

 

まるでコバエでも払う様に、その首を動かすビナー。

 

自分よりも何倍も大きな存在に叩きつけられてしまう少女であったが、何とか胴体を槍と腕を盾にすることで、致命傷を避ける。けれど彼女の鼓膜を震わすのは、何か“粉砕”されるような音。槍どころか、腕を持っていかれた。繋がってはいるが、もうこの戦闘では使えない。

 

そして未だその肉体は空中、攻撃を受けてしまったことで、その軌道を変えることは独力では不可能。

 

 

(ッ! 熱源!)

 

 

彼女の視界に見えるのは……

 

再度その口部にエネルギーを集中させ始めた、大蛇の姿。

 

 

(ここ、までか。)

 

 

思考が高速化し、流れる時間がゆっくりになっていく。生き残る術を探すためか脳裏にこれまでの光景が高速で流れ始めるが、何を思い付こうが空中で取れる手段などない。

 

徐々にビナーが放つ熱量が上がって行き、口から漏れ出る光が強くなっていく。

 

少しでも仲間の逃げる時間を作ることが出来たのだろうか、少女はそんなことを考えながらゆっくりと瞳を閉じて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンクの悪魔が、舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

「ウチの子に何してんだてめぇぇぇええええええ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

さっきまで掴んでいた『PROTO DRAGOON』の取っ手から手を放し、同時にその脳天に踵を叩き込む。

 

いくらかエネルギーを溜め込んでいたようだが、そんなもん関係ない。全力で神秘を足に叩き込んで、全力で振り抜く。体重差はあるが……、デカいだけの敵なんかぽよ様の力をお借りする私の敵ではない。むしろ大得意だ。

 

奴の装甲と私の足が接触した瞬間、少しだけ抵抗されるが、即座にビナーの装甲が凹み、返って来る反応が薄くなる。どうやら攻撃にビビったか、システムがエラーを吐いたのだろう。普段の私であればそこで勘弁してやるが、今日は別だ。完膚なきまでに消し飛ばしてやる。

 

 

「だらァッ!!!」

 

 

叩き込んだ踵を更に押し込んで、全力でその頭部を地面へと叩き込む。

 

その衝撃で口に溜めていた熱線が暴発したようだが……、今はそれよりも彼女のことが先だ。少しずつ落下しながらも、空を蹴り空気を簡易の足場とし、未だ吹き飛ばされている彼女の元へと急行する。

 

 

「小隊長ちゃん! だいじょ……」

 

「りじ、ちょ、う」

 

「……ごめん、痛かったね。ちょっと待ってて。」

 

 

動かなくなった彼女の腕が、眼に入る。

 

彼女もヘイローを持つ生徒だ。適切な処置をすれば元通りの体に戻れるだろう。けれどそれが今彼女を襲う痛みを軽減するわけではない。ドラグーンたちからの通信で飛び出して無理矢理拾ってもらったが……、こんなことなら救護班の子から装備貰って来ればよかった。

 

応急処置として着ていた服をちぎり取り、これ以上崩れぬように包み、軽く縛る。

 

 

(このまま後方に……、ん?)

 

 

「隊長! 小隊長!!!」

「理事長ー! ここですー!」

「棒と布切れ、いやもう服だ! 脱げ脱げ! 担架作るぞ!」

 

 

小隊長ちゃんを抱きかかえながら落下していると、視界の端でこの子が指揮していた偵察小隊の彼女たちが走り寄って来るのが見える。どうやら殿として小隊長ちゃんが飛び出したようだが……、それを追いかけてしまったのだろう。“兵士”としては間違っているが、“生徒”としては花丸百点。そして今この状況では酷くありがたい。

 

足に神秘を再度押し込め蹴ることで方向を変えながら、振動を起こさぬように彼女たちの元へと降りていく。

 

 

「おーらい! おーらい!」

「た、たいちょー! 腕が!」

「私も、私らも連れて行ってくださいよぉ!」

 

「おま、えら……。」

 

「良い仲間だね。……降ろすから、少しだけ我慢して。」

 

 

落下の勢いを殺すため、一気に着地するのではなく何度も小分けに足を動かしながら、彼女たちの元へと向かう。先ほどまで着ていた服に棒を通し即席の担架にしたのだろう。他の子たちが集まる中継地までまだ距離はあるが、学園の航空部の子たちが連絡を入れてくれてるはずだ。少し頼りないのは確かだが、車両が来るまでの代わりと考えれば十分。

 

ゆっくりとその上に彼女を乗せ、偵察小隊の子たちに任せる。

 

簡単な応急処置は頭に入っているが、専門的な知識はない。幸いなことに小隊に看護兵も同行していたようだし、彼女に後を任せて私は私の仕事をすることにしよう。

 

 

「処置はしたけど、一応そっちで確認して。それが終わればすぐにこの場から引くこと。救護車両と装甲車が向かってるはずだから、それに拾ってもらってね。私は……」

 

「ま、って。」

 

 

言葉を紡ぎながら地面に叩き込まれたというのに未だ立ち上がろうとするクソ蛇。そちらに視線を移そうとすると……、背後から聞こえる小さな声。小隊長ちゃんだ。

 

振り返って見てみれば、無事だった方の手を、こちらに伸ばしている。

 

 

「おねがい、します。」

 

「うん、まかされた。」

 

 

弱弱しく震える手。それを両手で包み込みながら、彼女の目を見てそう言う。

 

大丈夫、マルコちゃんって強いんだよ? トリニティどころかキヴォトスでも上から数えた方が早い!

 

 

「お見舞い行くから楽しみにするように! ……あぁ、それと。“バンダナ”、似合ってるよ。」

 

 

そう言いながら再度心臓から神秘を汲み上げ、脚部に送り込み、地面を強く蹴ることでその場から離れる。

 

あの目は、まだ折れていない。確かに弱く消えそうな程衰弱していたが、そこに彼女の意志があった。時間をかけ療養し周りに友達がいればすぐに元気に成ってくれるだろう。彼女のためにも、痛快なお話も持って行かなければならない。デカグラマトンだかビナーだか預言者だか知らないが、敵は敵だ。ぽよ様の信念と同じように、そこに悪いのがいれば、とっちめてやるのみ。

 

それに、相手さんはデカグラマトンの中でも最大の防御力と体力を持つ野郎だ。遠距離攻撃のレーザー砲もあるし、ミサイルもある。タフな上に遠くからちくちく攻撃できる奴にあの子たちを狙われるわけにはいかない。距離を詰め圧力をかけるのが最適だろう。

 

にしても……。

 

 

(まだ薄いけど、確かにあの子から“あっちの世界”の神秘を感じた。学園の名前からしてそういう子が産まれればいいなとは思っていたけど……。ふふ、今後がちょっと楽しみかな?)

 

 

バンダナとか、スピアとか。まんまだしねぇ。復活したらちょっと一緒に訓練することにしよう。

 

……私にとって、学園の子たちは既に身内扱いになっている。最初は単なる戦力としてしか見ていなかったけど、彼女たちにも個性があって、性格があって、好き嫌いがある。まぁ理事長だからね? 定期的に顔見に行って一緒にはしゃいでいれば仲良くもなるってコトよ。たまーに変な視線を感じることもあるけど、私を実験台にしようとする元ミレニアムのマッドたちに比べれば可愛いもんだ。

 

ま、そんなある意味“家族”みたいな子たちの腕をさ。

 

粉々にしてくれちゃったお前はさ。

 

 

「もう殺す以外、できなくなっちゃったじゃん。」

 

『ぽよ!』

 

 

御大から送られてきた神秘を全身へと流し込み、肉体の細胞すべてに行き渡らせていく。頭上に浮かぶヘイロー、その中央に浮かぶ星が回転をし始め、その周囲に浮かぶ小さなぽよ様も動き始めていく。

 

まだ完全ではないし、そのすべてが灯ったとしても御大と比べればとても小さな存在が私だ。

 

けれどポップスターに比べ格段に神秘の薄いこのキヴォトスでなら。

 

欠片でも“星の戦士”の力を扱えるのなら。

 

 

 

「今この瞬間だけは、私が一番強い。」

 

「ーッッ!!!」

 

 

ビナーと私の視線が、交差する。

 

ようやく復帰したのだろう。その無駄にデカい顔をようやく上げ、こちらに向けるその喉元に光る光弾。レーザーのエネルギーを集約させ始めているのが見える。どうやら私のことを警戒すべき対象、全力で戦わねばならない対象としたようだ。全身のミサイル発射口が全て開き、視界を覆う砂嵐がどんどんと濃くなっていくのが理解できる。現在チャージ中のビームも、さっきとちょっと色が違う。感じる熱もさっきより上だし、明らかに威力は上だろう。

 

たしか……難易度TORMENTとかだっけ? まぁなんでもいいや。

 

 

「殴れば万事解決って、ねッ!!!」

 

 

全力で大地を蹴り上げ、奴との間合いを詰める。

 

即座にビナーも行動を始め、口部からの熱線。ミサイル。砂嵐による妨害と攻撃が私を襲い始める。視界が真っ白に染まり、爆炎が私の体を包み込み、砂が確実に蝕んでいく。

 

けれど、避けない。

 

避ける必要などない。

 

 

 

「『ぽよ!』」

 

 

 

ねー! 今は私が一番強いって言ったもんねー!

 

大きな一歩、大空を跳ねるように前へと確実に距離を詰めていく。ただまっすぐ、最短距離を。

 

何故かあちらから焦りのような感情を感じ、私を焼き尽くさんとするレーザー光線の威力がまた上がったような気もするが……。“神秘”に包まれた私に攻撃を通したいのならば、ポップスターに3年くらい研修に行くべきだったね。ま、すぐに消し飛ばされるだろうけど。

 

 

「ほい、足元ォ!!!」

 

 

0距離まで接近し、全力でビナーの胴体を蹴り飛ばす。

 

ぶち当たった部分が大きくひしゃげ、装甲に多大なダメージを与えるが……。流石預言者の中でも一番タフな敵と言うべきなのだろうか。内部はグチャグチャだろうが、完全に断ち切るまでには至らなかった。このまま延々と蹴ったり殴ったりして、地下奥深くに逃げようとしたら引っ張り出して攻撃し続ければ倒せはするんだろうけど……。

 

 

「インパクトに欠けますよね、御大。小隊長ちゃんのお土産話にはちょっと足りないかも。いいアイデアあります?」

 

『ぽよ?』

 

 

ありゃ、ぽよ様はこのまま続ける派か。まぁ御大って基本的に敵には容赦ないですもんね。倒し方とかも考えずに、とりあえずやっつけちゃうというか。そんなんですし。でもそれじゃちょっとね、私が満足できないというか。可能ならもっと残虐な死に方して欲しいというか……。あはは、身内に手を出されたんでね。ちょっとそこは許しちゃおけないんですよ。

 

……あ、そうだ! いいこと思いついちゃった! まんまる様ー! もっかいパワーお願いしますー!

 

 

『はぁ~い!』

 

 

彼から送り出されてきた大量の神秘を更に肉体に送り込み、身体強化を行う。

 

未だ御大が持つ無限の可能性、コピー能力には欠片も至っていないが……。その真似事は出来る。神秘の分配は、両足と右腕を中心。先ほどの蹴りでこちらに恐怖を覚えたのか、撤退しようと動き始めたビナーの顎を狙う。

 

 

「疑似コピー! ファイター! からのォ、『ライジンブレイク』ッ!!!」

 

 

大きく飛び上がり、神秘を纏い光を放つ拳を叩き込む。

 

その衝撃によって敵の装甲が破散し、吹き飛んでいく。そして勢いは装甲にとどまらず、その中身も。ジャンプの勢いと振りぬかれた拳、そのふたつの力を叩き込まれたビナーの頭部は、かち上げられてしまう。

 

明確な、隙。

 

押し込みどころだ。

 

 

ねぇねぇビナー君。そのお口についてるビーム発射機構だけどさ……。お口の中だし、装甲付いてないから弱いよね? ちょっとそこから全身貫かせてもらうよ!

 

 

飛び上がった勢いそのままに、空中で回転し、蹴りの構えを取る。ぽよ様も私の意志を感じ取ってくれたようで、また大量の神秘を送って下さった。ちょっと量が量でまた体が悲鳴を上げ始めているけれど……。その分こいつに叩き込んであげればいい。

 

“無限の可能性”に祈るのは、強い推進力と全てを貫き破壊する蹴り。

 

この身を焼き尽くす様なエネルギーが脚部を中心に巻き起こり、本来“ショット”として扱われる技を、“キック”に変換し叩き込む。

 

 

 

「『メガパワーキック』ッッッ!!!!!」

 

 

 

ぽよ様と一緒に、それを叫んだ瞬間。私の足がビナーの口へと突き刺さり、貫いていく。

 

その内部をことごとく破壊しつくし、より奥へ。宣言通りその機械の肉体全てを消し飛ばし、厚く砕けなかったはずの装甲まで溶かし、壊していく。

 

そして足に込めたエネルギーが消えようとした瞬間、肉体に残った最後の神秘を使い、大きく横薙ぎの蹴り。ビナーの腹部に当たる装甲を内側から消し飛ばし、外への道を確保する。

 

 

「とっ!」

 

 

勢いよく彼の体内から飛び出し、外へ。

 

そして振り返ってみれば……。確実に沈黙しその命を終わらせた、ただの機械屑が。ゆっくりと地面に横たわろうとしていた。

 

 

『ぽよ! ぽよよ!』

 

「ですね! んじゃ……、やりますか!」

 

 

 

 

 

 

 

デデデーデ デデデ!

 

 

デデデーデ デーデ!

 

 

デデデーデ、デデドンドン! デデーデデデ!

 

 

 

 

「『ぽよ!!!』」

 

 

 

 

 

う~ん、これにて一件落着で「『ぐりゅぅぅぅぅうううう~~~!!!!!』」……え、何の音? 化け物の咆哮?

 

 

『は、はぁ~ぃ……。』

 

「あ、お腹減った……。って今の私とぽよ様のですか!?」

 

 

い、いや確かに言われてみればめっちゃ腹ペコですけどここまで大きな音……。まぁ出るか。ぽよ様ですしおすし。……おすしたべたい!!!

 

 

「ごはん行きましょごはん。一緒のテーブルでは無理ですけど、タイミングは合わせられますもんね!」

 

『ぽよ! ぽよぽよ!』

 

 

え、大王様の所に今から行くんですか? い、いや止めませんが……。とりあえず祈っときますね。お許しを大王様、私は御大を止めることなどできませぬ……!!!

 

 

 

 






〇バンダナ

青くて不思議なバンダナ。ワドルディたちが、とある生徒にプレゼントしたもの。もしかしたらとっても大事な物かもしれないし、普通のなんでもないバンダナかもしれない。でも身に着けていれば、いつでもいっしょ。新しい世界での、お友達にあげた大切なプレゼント。


〇疑似コピー能力

ぽよ様の様に汎用性や発展性がないもの、感覚的には『月牙天衝!』と叫びながら普通の子供が木刀を振るっているような感じ。けれどキヴォトスはポップスターに劣ると言えど神秘に溢れた世界。空想を現実に落し込むのに必要なエネルギーさえあれば、部分的にはなるが再現することは出来る。

ただ無から何か生み出したりとか、『フェスティバル』のようなあんまり原理がよく解っていない能力は再現できず、またそもそもの消費神秘量がとても高い。

今回マルコが使用したコピー能力は『ファイター』で、その中の技である『ライジンブレイク』(昇竜拳みたいなやつ)と、『メガパワーショット』(波動拳)を足に纏わせて空中キックするとオリジナル技『メガパワーキック』を使用した。

頑張ったマルコもぽよ様もとってもお腹がへったので、たくさんたくさん、とぉってもたくさん食べました!!! ぽよ!!!!!


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