ピンク玉の神秘   作:サイリウム(夕宙リウム)

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2:じゅう!

 

えー、はい。というわけで翌日。

 

訪ねて来たお医者様からゴーサインを頂いた私は、ちょっと外に出ています。といっても外出ではなくお庭、単にお屋敷から出ただけですね。にしてもこのお屋敷、クソデカいなぁ……。ちょっと前までの私は気にもしてなかったけど、何で屋敷の敷地内に射撃場やら訓練場があるんでしょ? しかも今世の記憶が『もっと大きい所幾つか知ってる』って言ってるもんだからもうたまげるしかありませんや。

 

 

『ぽよ!』

 

「え、どうしました……。あぁとっておいたショートケーキがデデデに取られちゃったから取り返しに行く? りょです。というか私のこと気にしなくても大丈夫ですからね? キヴォトス民丈夫、ワタシ、ウソツカナイ。」

 

『むぅ~。ぽよ!』

 

 

お声を掛けてくださったのは、我らがピンク玉様。あれからちょくちょく会話させて頂いているというか、彼からすれば『姿が見えない不思議な友達』ポジションに落ち着いたらしく、普通に受け入れてくださっている。今の彼がどんな経験を経たまんまる様なのかは解らないけれど、まぁゲームのこと知ってるとね。プププとか摩訶不思議の世界ですし。虚空から話しかけてくる存在くらい屁でもないですよね。

 

というわけであまり納得してくださったようではなかったが、声とともに御大が離れていくような感覚が降りてくる。無事ショートケーキ奪還作戦が開始されたようだ。かの大王様がアニメ基準なのかゲーム基準なのかは解らないけれど、まぁとっちめられるのは確定だろう。せめて手を合わせておくことにする。南無南無。

 

 

(う~む、それにしてもちょっと過保護というか。すっごく心配してもらってるなぁ。)

 

 

先日私が吹き飛びそうになったせいか、ピンクのまんまる様はどうやら私のことを非常にか弱い存在だとご理解為さったようだった。いやまぁ確かにまだ中坊ではあるし、戦闘技術もセンスもない。キヴォトスでも雑魚の分類だろう。

 

でもでもヘイロー持ちなので巡行ミサイル連続ブッパぐらいされない限りは死なないはずだ。だからさっきのは嘘じゃないし、前世基準じゃかなり頑丈だと思うんだけど……。え? 大王陛下のハンマー受けても平気かって? ギャ、ギャグ補正入ってくれれば何とか……。いや大乱闘出てる方の攻撃喰らって無事なイメージ出来ないわ。すみませんナマ言いました。プププの民に勝てるわけねぇべ!

 

そもそもあっち、キヴォトスが可愛く見えるレベルの案件が目白押しだもんなぁ。ポップスターはマジ魔境。

 

 

「あ、あのお嬢様? どなたとお話しなさっているので……?」

 

「あぁごめん婆や。」

 

 

かなり心配そうに話しかけてくれるのは、我が家の婆や。おっきいプードル、スタンダードプードルの獣人さんである。茶色のくるくるした毛並みとすらっとしたお体が魅力的な自慢のメイドさんだ。ごめんごめん、折角訓練のお願いしてたのに待たせちゃって。

 

一応まだ私は病み上がりではあるのだが、この地はキヴォトス。とち狂ったヘルメット団やスケバンとかが急に屋敷に攻め込んできてもおかしくはない。記憶を取り戻す前の記憶にはなるが、何度かスケバンが『いいお屋敷ですねぇ……、金出せやオラァ!』しに来たことは実際ある。

 

勿論その時は警備の人たちが撃退してくれたし、もしそれが突破されたとしてもこの館にいる使用人の人たちは全員が武装済み。屋敷を破壊されたり何か盗まれる可能性は酷く低いだろうが、その主人である私が雑魚雑魚ではお話にならない。

 

今後私がどのような選択をするのかは解らないが、キヴォトスで生活するのであれば力は必須。そして"二人の隣に立つ"のであれば生半可な力では置いて行かれてしまう。幾ら神秘が凄くても使いこなせなければ意味がないし、戦闘技術がなければ力が強いだけの雑魚だ。お医者様からゴーサインを頂いたのならば、御大から流れてきている神秘で何が出来るのかを確認し、少しでも技術を高める必要があるだろう。

 

というわけで屋敷の中で一番の実力者である婆やに訓練をお願いしたって感じですねー。

 

 

「し、神秘でございますか? ま、まぁお嬢様が問題ないのでしたら婆やのことはご放念いただければ良いのですが……。本当に大丈夫なのですか? まだお休みになっていた方が良いのでは?」

 

「大丈夫だって。単に熱出してから自分の神秘……。あ~、力の大本? それとお話出来るようになっただけだから。」

 

「そ、そうなのですか? ヘイローを持つ方がそんなことが出来るとは寡聞にして存じ上げませんが……。お嬢様が仰るのならそうなのですね。畏まりました。ただやはり心配がございます、本日は軽い習熟訓練だけに致しましょう。」

 

 

婆やはそう言うと、銀のトレーに乗せた銃器を運んできてくれる。

 

 

「何度も同じことを繰り返し申し訳ございませんが……。お嬢様はまだ成長途中、そして何か一つの銃種にお決めになっておりません。故にこれまでは護身用としてハンドガン、Browning Hi-Powerを使われていました。しかしお嬢様も中学生、自身の愛銃を定めるためにも一通りお試しになった方が良いかと思われます。」

 

 

私の眼の間に現れたのは、真っ黒な銃器。差し色にピンク。そして星のステッカーが貼られた拳銃だ。明らかに小学生が持つ銃器ではないのだがキヴォトスじゃこれが一般的である。むしろ銃を持っていない方が変態というか『色々と大丈夫?』と心配されるレベルだ。これぐらいは携帯しとかないとねー、って感じ。

 

けれど中学生となり、行動範囲が広がる様になれば拳銃では少し『火力不足』になって来る。勿論、やり方は解らないが弾に神秘をぶち込んで叩き込めばその問題も解決されるだろうし、拳銃だけでキヴォトスを生き抜いている方もいるだろう。だがやはりパワーが足りない。

 

 

(それに、この銃種しか使えないってのは明らかな弱点になるだろうしね。)

 

 

それに、あの二人の隣に立つのなら必然的に“トリニティでのイベント”に参加する必要が出てくる。となるとバニタスバニタス言ってるアリウススクワッドちゃん達や、無限湧きドスケベシスターことユスティナ聖徒会と戦う必要も出てくる。それ以外のイベントに参加するかどうかは解らないが、私の性格的に自分や大事な友、そして世界が危険な状態に陥っているというのに、お家でぬくぬくすることは不可能だ。心労で死ぬ。なんで介入しないにしても近場で完全武装待機が基本になるだろう。

 

というわけで結構な数の戦闘が待っているわけですが……。銃器を扱う以上、携帯できる弾には限りがある。どんな武器でも相手から奪って自由に使えれば戦術の幅が広がるし、“なんでも使えるようになる”ってことを婆やが求めてきているのは道理に適っているよね。

 

 

「まさにその通りでございます。ということでアサルトライフルを始め、ショットガンにマシンガン系列。少し変わり種にはなりますがグレネードランチャーもご用意いたしました。お屋敷にあるものですので少し古いものもございますが手入れは十全に行っております。問題なくお使いいただけるかと。」

 

 

婆やがそう言うと、いつの間にか現れた他のメイドさんたちが台車に乗せた銃器たちを運んできてくれる。見た感じ銃種だけじゃなくて、お屋敷にある銃器の全種類を粗方持って来てくれた、って感じだな。単純な習熟訓練だけじゃなくて、今後の愛銃探し。メインウェポン探しも兼ねてるのかな? ここから愛銃を見つける必要はないが、いつかそれを決めるのための一助になればいい、って奴。ありがたいねぇ。

 

 

「っと、その前に……。まずはこれまでの復習をさせて頂きたく。早速婆やにお嬢様の雄姿をお見せくださいまし。」

 

 

どれからぶっぱしようかな~と歩を進めようとした瞬間、やんわりと婆やにストップを喰らう。そして彼女が言葉を紡ぐと、先ほどまでそこにあったはずのBrowningが掻き消え分解された状態で出現した。……相変わらず早業というか、これまで気になってなかったけど婆や何者?

 

あ~、はい。組み立てからっすね。え~、っと? どうやるんだったっけな……。

 

そんなことを考えながら銃だったモノに手を伸ばしてみると、体が覚えているのかスラスラと組み立てが始まっていく。前世から考えれば信じられないことだが、この工程はすでに数えきれないほどに熟している。名前は付けていないけれどデコって小学校生活をずっと一緒に過ごしてきた子だ。流石に婆やみたいな目にも留まらず、ってのは無理だけど、これくらいならね?

 

 

「完璧、で御座いますね。では次は射撃を。的をあちらにご用意いたしました。」

 

「ほいほい、あれねー。」

 

 

婆やが指す方を見ていると、他のメイドさんが人型の的、中央によくある円が重なった奴を設置してくれている。ちょっと手を振って感謝の意を示してみれば、深いお辞儀の後にシュばっと視界から消え、婆やの後ろに彼女が出現する。……婆やもそうだけどウチのメイドさんヤバくない?

 

……まぁいいや。とりあえず実験も兼ねて一発撃ってみるとしますか。

 

 

(ふぅ……。)

 

 

軽く息を吐きながら、拳銃を構える。

 

そもそも、私の体は戦闘向きではなかった。今思えば“神秘”への理解不足や前世の記憶を理由とした肉体の違和感が理由だ。そりゃ成人男性の体を動かしていた記憶がぼんやり残っている状態で、中一女子の体を動かせばおかしくもなる。御大との接続が成功したのも記憶を思い出して“お名前”を理解できるようになってからだし、力を引き出せないのも無理はない。

 

そんな以前の私は、見た目からも解るように“正実モブ”。神秘を理解した今、多分そこから進化しちゃいそうな気がしているのだが、もしこのまま成長していれば本当にそうなってしまっていただろう。見た目も、能力もモブのまま。もしかしたらモブどころか“描写されない”存在になっていた可能性もある。

 

あの二人と同学年で幼馴染ではあるが、力が伴わなければ意味はないのだ。記憶を思い出す前は半ば諦め、せめて事務方で後方からのサポートをしようとしていたようだが……。今は違う。これほどまでに大きな力を、“神秘”を御大から貸してもらっているのだ。使いこなせるようにならなければ、申し訳が立たない。

 

 

(よし。)

 

 

意識するのは私の心の内に宿り、御大へと続く特大の神秘。丸く、ピンクで、もちもちとしたお体。いつの間にかかの大王のお城を襲撃していたようで、ショートケーキを奪還したイメージが降りてくるが……。今汲み上げるのはそれではない。もっと純粋な力だ。

 

 

(……これ。)

 

 

繋がりをより意識する。

 

すると私の心臓を中心に、桃色の神秘が溢れてくる。体内に収まりきらず、体表へと溢れ出たソレ。まだほんの少ししか汲み出していないハズなのにその“濃さ”故か、すでに体が軋み始めている。まるで星そのものが自身へと流れ込んできているのかと錯覚するほどの力。私一人では支えきれない、抑えきれない。

 

けれど神秘から返って来る意志。

 

感じるのは、“彼”のこちらを気にかけ寄り添う意志。

 

何れは“彼”の手を煩わせず使いこなせるようにならなければならないが、今はご厚意に甘えることにする。

 

溢れ出るそれに指示を送り、流し込むのは愛銃に込められた一発の弾丸。

 

何かを書き換えるように銃が桃色へと強く発光し、熱を帯び始め……。

 

“奇跡”が、成立した。

 

 

 

「ッ!!!!!」

 

 

 

思わずトリガーを引いたその瞬間、放たれるのは桃色の奔流。

 

轟音ともに放たれたソレは、一瞬にして私たちの視界をピンクへと染めていく。

 

焼き尽くし、消し飛ばし、全てを無に帰す。

 

“彼”の純粋無垢なエネルギーをただ弾に込め放っただけ。

 

けれどこの世界にとっては、文字通り格が違い過ぎたのだ。

 

 

「お、お嬢様……!?」

 

「……あ、あはは。」

 

 

婆やの驚愕に満ちた声が鼓膜を震わすのと共に、ゆっくりと桃色の光が晴れてゆく。

 

そこに広がっていたのは、柱の様に広がった一本の破壊痕。

 

的どころか背後に積んであった跳弾防止のための土塁を消し飛ばし、背後に広がっていた庭すらも破壊。まさに惨状と呼べる光景が広がってしまっていた。

 

 

「うん! 自力でもっと制御できるまで封印!!!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「お、お嬢様!? い、今のは一体!?!?」

 

「いやマジでごめん。ちょっと神秘込めたらこうなっちゃった。」

 

「そも神秘って何ですか!?!?」

 

 

結構ガチ目に心配してくれている婆やに肩を掴まれ思いっきり揺すられる。き、気持ちは解るしありがたいけどちょっとだけ落ち着いてもろて……。あ、あと庭師のおじさんたち手配してもらえる? こんなんなっちゃったし……。折角整えてもらってた庭木とか吹き飛んじゃってる。え、そんな場合じゃない? 確かに。

 

 

「医者を! すぐにお医者様をお呼びします! どうかご安静になさっていてください!」

 

「大丈夫! 大丈夫だって! ほら落ち着いて!」

 

 

まぁつい先日までぽすぽす銃器そのままの威力しか出せなかった人が急に破壊光線撃ったらそうもなるよね、うん。にしても私がヒナちゃんみたいなビーム砲が撃てるなんてなぁ。ぽよぽよ様の御力の凄さは理解していたけど、やっぱり規格外だべ。……でも感覚的に解るんだけどさ、さっきの多分御大のコピー能力。『レーザー』の通常攻撃より格段に弱かった気がするんだよねぇ。ぽよぽよ。

 

 

「いや熱が引いた後からなんか解るようになってね? ちょっと使ってみたらとんでもないことになっちゃった。申告せずやっちゃってごめん。」

 

「お、お体は大丈夫なのですか!?」

 

「“あっち”が支えてくれたおかげで問題なし。ちょっと疲れたぐらい?」

 

 

そう言いながら腕を動かしながら軽く跳ね、無事であることをアピールする。実際、体に異常は見受けられない。まだ"神秘"の制御技術が自身にはないせいか、何の補助もなく同じことをすれば腕が破裂しそうな気もするが、ちょうどショートケーキを堪能していたらしい"彼"が手伝ってくれたようで、何の問題もない。

 

まだもうちょっとお手伝いをお願いする必要がありそうだが……、感覚は理解できた。数を熟せば何とか単独でも出来そうな気がする。

 

 

「そ、それならば良いのですが……。ともかく婆やは心配でございます! どうかもう一度診察をお受けください!」

 

「有無は?」

 

「言わさずで御座います!」

 

 

りょ、じゃあ訓練も中止ってわけね。……両親が死んだ後、ずっと親代わりをしてくれている婆やの言葉だ。聞かないわけにはいかないだろう。

 

にしても。婆やの反応を見て再認識したが、未だこの世界では“神秘”という概念は強く広まっていないようだった。まぁ確かに今世の記憶にもそんなの無かったしね。

 

今活動しているかどうかは解らないが、悪い大人サークルであるゲマトリアあたりであれば『クックック……! えぇ神秘ですね、存じてますとも。』って返してくれるだろうが、物知り婆やが知らないのであれば今のキヴォトスの“常識”ではないのだろう。

 

さっきのでもう観測されてしまった可能性もあるが……、とりあえず余計な口を開かないようにしておこう。そっちの方が賢明という奴だ。

 

 

「じゃあ悪いけどこの子、また預かっといて……。ほへ?」

 

 

そう言いながらさっきまで使っていた愛銃、Browningを手渡そうとしたのだが……。違和感。いやグリップには問題ないのだが、"色"が丸っ切り違う。

 

 

「……『レンジャー』?」

 

 

銃口が何故か星形になり、銃身自体も元の黒から金色に染まっており、グリップが全てピンクになってしまっている。そして子供のイタズラの様に貼られていた星のステッカーが銃のデザインとして組み込まれてしまっている。御大が使っていた現物とは程遠いが、明らかにそれだ。

 

 

「……お嬢様?」

 

「し、神秘ってすごいねぇ……。」

 

 

いや、すごいのは神秘というよりもぽよ様なんですけど……。

 

 





〇大王陛下

プププの王様。かのアニメではただの名言製造機。作品ごとに立場は違うが、プレイアブルキャラである時や、より強大な敵がいる時はマジでカッコいい大王様に成ってくれるのだが、アニメだとちょっと……。裏で行われていたまんまる様のケーキ奪還作戦によってボコボコにされた。

〇Browning Hi-Power ぽよレンジャーカスタム

ぽよ様の神秘が流れ込んだ結果、謎の進化を遂げた。あだ名は『ぽよ銃』。 彼のコピー能力の一つである『レンジャー』が扱う銃器のような配色になっている。お星さまのマークが特徴的。当たるととても痛い。銃口が星型になっているが使用する弾丸は依然と変わらず、またちゃんとまっすぐ飛ぶ。頑張れば星形のエネルギー弾を飛ばせるようになるらしいが、未だマルコには不可能なご様子。

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