「……はぁ!? クラッコ出たァ!? ……あ、やべ。名前言っちゃった。」
【あ! ……なんかカッコつけようとしたせいで私も言ってしまった。詰んだか?】
「私らの失言のせいでキヴォトス滅ぶとか笑えないよセイア様!?」
戦闘機たちの司令部、そこに詰めているセイア様からの報告を受け、つい“その名前”を口にしてしまう私。
ぽ、ぽよ様は頭で念じただけで来ちゃうんですよ! た、確かに『聖ワドルディ学園』は完全に何度も口にしちゃってるのになんかまだこちらに来てないですけども! 雲さんと私達の関係性って0に等しいから縁ができにくそうですけども! もし“聞いてたら”来てもおかしくない御仁ですよあの雲! 雲あったらどこにでも出現しますし!
そもその雲! ボスの中でも厄介な部類ですよ! せ、セイア様だって過去視で見てるじゃないですか!
【いや、そこまで強くなかったような気が……。あのピンク色の一頭身君がかなり簡単に倒していただろう? どちらかというと機械化されていた方が強い気がするのだが……】
「比較対象ッ! あっちぽよ様! 私らクソザコ! というかセイア様も解って言ってるでしょ!」
【バレたか。……とにかく、“本物”が来てしまう前に排除すべき存在だ。戦闘機たち、エアライド隊ではまだ不安が残る。君も出てくれ。】
おかのした!
もう言ってしまったので遠慮はしないが、『クラッコ』という敵は非常に厄介な敵だ。対空のみならず、対地上能力も非常に高いポップスターの存在の中でも来てほしくないランキング上位に位置する存在。何せキヴォトスに碌な空の戦力は存在せず、対抗できそうなのは『学園』の戦闘機たちぐらい。それもまだプロトタイプで完成しきっていないという状況。
さらに、かの存在は雲そのもの。ご本人は愉快な性格をされているというか、バトルの際も卑怯な攻撃をしてこないおかげで何とかゲームとしての形を保っていたが……。私達のお手手が届かないところから、延々と雷撃を撃ってくるだけでキヴォトスは文字通り消滅する。そして一度倒せたとしても、“雲”がある限り不滅。
「まがい物、なんだよね?」
【あぁ。君も地上から見えているだろうが、“神秘量”というのかな? それが夢で見たよりも格段に低いと思われる。】
セイア様の言う通り、見上げればすぐそこにある巨大な巨大な雲。地上の真下からはそんな入道雲みたいなのにとげが付いているって形にしか見えないのだが、“雲自体が神秘を持っている”ことに危機感を覚え連絡してみれば、これだ。もう本当にキヴォトスがどうなっているのかマルコちゃん解りません。
というかついさっきメタ様から『鏡のコピー品がどこかに流れ込んだかもしれないから気を付けて』って言われたばかり。ないとは信じたいけどもう嫌な予感しかしない。とりあえずはあの雲に集中しなきゃならないんだけどさぁ……。
【子機のような存在なのか、劣化コピーされた存在なのか。色々と考えられるが、それでもゲヘナがアレを使役している時点で大問題だ。】
「……雷帝か。」
【おそらく、ね。以前聞いたが、かの世界は洗脳やら使役やら、そのあたりの手法が豊富なのだろう? その方法まるごとこちらに流れ込んできていると考えていいかもしれない。】
私が知る『原作』では、雷帝と呼ばれる存在について詳しく語られたことは殆どなかった。
アビドスに存在する列車砲を作っていたりだとか、優れた政治家であり統治者であり開発者であったとか、そんなものだけだ。未来のゲヘナ生徒会長であるマコト様や、風紀委員長のヒナちゃんがその遺物を発見次第破壊しようとしていたあたり、かなりの厄ネタばっかりだと言うことは解っていたんだけど……。
もし彼女が、『ポップスター』に伝手を持ち、あの存在たちを使役しているのであれば、とんでもなく不味い。雷帝が個人で動いていようが、その後ろに何がいようが、不味いことには変わりない。
キヴォトスは、あちらを受け入れられるほど強くないのだから。
(不死性がすべてに付与されてる世界の奴らが、キヴォトス基準でちょっと丈夫な奴しかいない世界に流れ込んでくるんだぞ? あちらにその気がなくてもどれだけの被害を覚悟すればいいか……!)
【ともかく、今は可能な限り早く敵を撃滅するしかない。ナギサの戦闘機たちは雷へは未対策。我らで全てを消滅させるしかあるまい。やれるな、“星の戦士”。】
「半端者な上に未熟者で、そう名乗れるほどの存在じゃないけどね!」
セイア様の問いかけにそう答えると、速度を落とし戦闘機が音を越えた世界から戻って来る音が聞こえてくる。
そちらを見てみれば、接触ギリギリまで地面にその機体を寄せ、限界まで減速したドラグーン1の機体が。ビナーの時はまだ何とかなったけど、今日の戦いは完全な空中戦だ。“ワープスター”みたいな私の専用機はまだないし、彼女たちに足をお願いしようと言うことなのだろう。
ちょっと私自身の神秘量に不安があるのは確かだが……。
ここで逃げれば“星の戦士”の名が廃る! ぽよ様! お暇になったんですよね! またお力貸してください!
『ぽよ!』
御大の声が頭の中に響くと、大量の神秘が全身に流れ込んでくる。受け止める側の力が不足しているせいか、全身が軋みだし崩れ落ちそうな痛みに襲われるが、構わない。ぽよ様が急いで注入を止めようとしてくださったが、それを押し止めこのまま戦闘状態を維持する。
幾らまがい物でも、全力でかからなきゃ勝てるかどうか解んないもんね。
『ドラグーン1から理事長へ! 飛び乗ってくださいッ!』
「っしゃぁ! いっくよッ!!!」
速度を落しても人の何倍も速い鉄の塊、それに無理矢理飛び乗り、取っ手を掴む。
私が乗ったことを確認したドラグーン1は即座に加速し、私達目掛けて地面に放たれた雷撃を回避。音速の世界へと飛び込み、大空へと舞って行く。既にそこには彼女の僚機と、ハイドラたちの姿が。雷やその巨体に翻弄されながらも、未だノーダメージで舞い続けている。
『遅いっすよリジチョ!』
『……アレで戦えるのか?』
『あの人だろ、なんとかなるだろ。』
『理事長! この機体は対雷コーティング済みですが、何度も受ければ堕ちますッ! 全力で動きますが構いませんね!』
「もち! なんでもや、ほわぁぁぁぁ!?!?!?!?」
そう言ってカッコつけようとした瞬間、機体自体が全速力で横回転し吹き飛ばされそうになる。マッハ飛行の中でのロールだ、普通に死にそうになるがぽよ様の神秘のおかげでなんとか耐える。……このままじゃ普通にお荷物だな。ぽよ様ー! いつもなんかワープスターにいい感じに掴まってますけど! あれどうやってるんですかー?
うんうん、……掴まってるだけ? ダメだ、参考にならん!
えっと、じゃあちょっと無理矢理試行錯誤してやるしか……。開発のリオちゃによると、最近は機体自体が神秘を持ち始めて自己進化の傾向が見えるって言ってたから、ぽよ様の“無限”の神秘にちょっと指向性を与えて、『PROTO DRAGOON』の神秘と部分的に合致するようにすれば……、よし! “くっついた”! これで立てる!
「よいしょー! これで私も戦えるぞ!」
『……ドラグーン2から1へ。それどうなってるの?』
『リジチョが! リジチョが仁王立ちしてるっす! 機体の上で! すげぇ!!!!!』
『あ、あの。今マッハ4ぐらいで高機動してるんですが、どうやって?』
「気合っ!」
さぁさぁクラッコちゃん! 今からマルコちゃんがお相手だ! 紛い物でもお目目が弱点ってことはそのクリクリで澄んだ目ん玉が証明してるよね! ぶん殴って……、ごはんにしてやる!!!
◇◆◇◆◇
場所は変わり、地上へ。
マルコと戦闘機たちが戦いを始めたころ、地上では空崎ヒナと剣先ツルギの戦闘が行われていた。
ゲヘナとトリニティ、その将来の武力における頂点同士の戦い。本来の世界線では起きなかった雷帝の宣戦布告によって生じてしまった戦いは、既に常人の眼で捉えられる速度ではなかった。
「ぎゃひ、ぎゃは、ぎぃぇええええええ!!!!!」
聞こえるのは、ツルギの叫びと互いの銃弾の音程度。
何重にも重なった発砲音が響き合い、拳と拳がぶつかる音がそれを助長し、残像が見えるほどに苛烈。既に地面は互いの踏み込みによってすべてが陥没しきっており、跳弾によって焼野原。誰も介入できない死の世界が、そこにあったのだ。
「死ねぇぇぇえええええ!!!!!」
「ッ! 貴女ほんとにトリニティ!?」
「お前はゲヘナにしてはお上品だなぁァァ!!!!!」
ツルギからすれば普段通りの顔なのだが、誰が見ても狂気に染まり万人が恐怖を感じる面で、敵を追い詰めていく彼女。被弾しようが打撃を受けようが、一切ひるまずダメージも受けず、ただ相手が倒れるまで攻撃を続けていく。けれどその戦術の組み立てはハッキリとした理性の元で行われており、寸分の狂いもない。
相手に威圧感を与える戦いかた故か荒々しく見えるが、考え尽くされたのちに生み出された戦法だということは、実力者であれば強く理解できるだろう。
(当てているのに……、ダメージになってない!)
1点に体を置くことで地面を強く踏みしめながら全体攻撃とカウンターを得意とするヒナと、動き回りながら確実に相手のスタミナと集中力を奪っていくツルギ。互いが互いの得意戦術、強者との1対1で有効な戦術でぶつかり合う。
戦闘技術や戦術の組み立ては、ほぼ互角。神秘量とその攻撃力は確かにヒナが勝っているのだが……。相性が、悪すぎた。
何せヒナの眼の前にいる存在は、“マルコによって魔改造”されたツルギである。身近で星の戦士の力を扱いながら全力で後ろから追いかけてくるのが、マルコだ。そんな存在に負けじと走り続けていれば、自然とその実力は上がっていく。ハスミが技術による強化を求めたのならば、ツルギは“神秘”による強化を求めた。
その結果が、『ヒナの最大の攻撃ですら沈まないため、一生負けないことが確定したツルギ』である。
今のツルギは、攻撃で受けたダメージの分だけ回復するというゲームバランスを破壊し尽くす性能を誇っている。つまり彼女を撃破するにはその最大体力を一撃で消し飛ばすだけの破壊力が必要になると言うことだ。そしてその“必要攻撃力”は、現状マルコがかのまん丸様の力を最大限引き出してようやく、というレベル。つまりビナーを一撃死させるレベルを持ってこないと無理なのだ。
未来のヒナ、風紀委員長となり経験を積んだ上でその肉体が“万全”を保った状態であればそれぐらい何とかなる、というかそれ以上もいけただろうが……。
(スタミナが減ってない、……勝ちの目が、ない!)
「ぶっ壊れろッ!!!」
「ッ!」
ツルギに向かって何百とも放たれていたヒナの弾丸が全てその肉体に弾かれ、接近。ほぼ0距離でツルギがショットガンを放ったことで、防御を余儀なくされる。けれど高機動戦を得意とするツルギからすれば、守りに入った相手は殴り放題のボーナスステージ。
即座に服の下から更にショットガンを取り出し撃ち込むことで、追撃していく。
ヒナの耐久力をもってしても、耐えきれぬ攻撃。20を超える散弾はほぼ0距離で叩き込まれ、最後にその腹部に向かって蹴りが、叩き込まれてしまう。その衝撃によって肉体が浮かび、吹き飛ばされる彼女の体。
銃を手放すことはなかったが、既に蓄積された痛みが立ち上がることを拒み始めていた。
「くッ……!」
ハスミとの戦闘でヒナが受けたダメージは決して大きなものではなかったが、無視できないもの。そこにツルギとの戦闘によって喰らった0距離散弾の雨と、“勝ち筋がない”という絶望。肉体的にも精神的にも限界が近いが、与えられた職務は全うせねばならない。
これ以上喰らえば気絶は免れないほどに追い込まれているが、ここでヒナが落とされれば彼女が任されている砲台に被害が出るのは確実。『撤退したが砲台は無傷』と『砲台も破壊され敗退した』では天と地の差があるのだ。あまり付き合いはないが、今任されている砲兵隊の者たちまで雷帝の裁きを受ける可能性がある以上、続けなければならない。
倒れるわけには、いかないのだ。
そう思い、更なる追撃に備え銃を支えに立ち上がろうとするが……。来ない。
違和感を感じ相手の方へと顔を上げると、それまでの覇気を収めた相手が、そこにいた。
「…………はぁ、止めだ止め。もう十分だろ、お互い。」
「なに、を。」
「上、見てみろ。」
ツルギはトリガーから手を放し、上を指差す。その方向を見たヒナだったが……。
彼女にとって信じられないものが、広がっていた。
巨大な目玉が空に浮かんでおり、それが雲を操り大空を飛び回りながら、雷を放っている。明らかにキヴォトスでは想像できない様な化け物で、子供向けの番組にでてくるような“怪獣”そのもの。とてつもなく強大で、放つ威圧感は“普段の雷帝”と並ぶレベル。自分たちがどう足掻いても勝てない様な存在が、そこにいたのだ。
一瞬、お互いにとっての予想外が起きたため戦闘を中断すべきだと、相手が言い始めたのかと思ったが……。ヒナの頭脳が、とあるマークを思い出させる。
そう、“雷帝”の指示によって配備された特殊弾頭。“目玉のマーク”の砲弾である。
マークの意匠は雷帝の趣味に合わない様な可愛らしいものであったが、書類上は確実に雷帝が生み出し、戦場に配備させたものだった。ヒナとしては雷帝の新たな一面を見れたのかもしれないと思った程度であったが……。上空に存在する“目玉”と瓜二つであることを考えれば、話が変わる。
あの化け物は、ゲヘナが生み出したのだ。
(……あれを、あの人が?)
その雷撃は空中で飛び回る戦闘機たちに向けられているが、一部が大地へと降りかかり、破壊しつくしていることが確認できる。もしアレがどこか大都市の上空に放たれれば、それこそヒナが指揮する“砲台”の比ではないレベルの被害が生まれてしまうだろう。
しかもあの雲は、ゲヘナの人間の指示で動いているわけではない。それまで戦闘に集中しすぎて聞こえていなかったが、ヒナの持つ通信機から砲兵隊からの悲鳴がいくつも聞こえてきていた。もし味方の指示で動いているのであれば、『急に出て来た化け物のせいで恐慌状態に陥る』など考えられない。自分たちゲヘナは、取り返しのつかないことをしているのかもしれないと、思ってしまうヒナ。
「そんな表情するってことはアレが出てくるって知らなかった、ってことか。ならなおさらだな、もう戦う必要はないだろ、さっさと味方でも連れて帰れ。」
「……何、を。」
「感情じゃなくて“職務”で戦争してる奴恨めないだろ。……はぁ、やりにくい。」
そう言いながらもリロード、ヒナが襲い掛かってきた時に備えショットガンの弾を補充していくツルギ。
相手がまだゲヘナらしいゲヘナでトリニティを恨んでくれていれば問答無用で病院送りには出来たが、戦いを通じて嫌なほどに相手の真面目さを実感してしまった彼女。さらにヒナの強さを考えると、ハスミとの差はかなり大きい。相手がもしトリニティ憎しで戦っていればもっとハスミは重傷を負っていたであろうと理解できる。つまり、ある程度手加減されていたのだ。そんな相手を、何も考えずにぶん殴れるほどツルギは単純ではなかった。
本当にマルコに任せなくてよかった、などと考えながら、彼女は言葉を続ける。
「砲台を残してやることは無理だが、その怪我ならそっちの上も認めてくれるだろう。あとは適当に病院にでもこもるか、D.U.あたりに亡命でもしてればいい。味方に回ってくれれば頼もしいが……、同じ学園の奴と戦うのは嫌だろ? ……とりあえず、そのまま倒れておけ。」
そう言いながらヒナの頭に手を置き、寝かすように地面へと押し込むツルギ。
ヒナの職務を考えるならば反発して更に戦闘を選ぶべきなのだが……、勝ち筋がないという状況が、体力も精神も疲弊したヒナからその選択肢を奪って行った。
「さて、アレはマルコが何とかするとして。私は砲台か、少なくともこの方面だけは全部やっておかないと仕事したことにはならない、か。ってことで……。ぶっ壊れろォォォオオオオオ!!!!!」
◇◆◇◆◇
「というわけで一射ァ! 全弾おめめに集中させろ乙女たち!」
そう言いながらハーちゃんの銃を構え、照準を合わせる。常に動き回る戦闘機の上での射撃なんてまぁ難しいことこの上ないけれど、これ以外の攻撃方法はない。ならば無理やりにでも当ててやるのみ。
(ぽよ様の神秘を銃身にではなく、銃弾に集中させる。破壊力はもちろん、より強化するのは“追尾性”。……“クラッコ”の初期状態、ジュニア状態を考えると、まずは周囲の雲を破壊するところから。)
クラッコの生態など考えたことはなかったが、彼が成体、完全な戦闘形態に移行する前は、眼玉の周囲に雲の素のような球体が幾つか浮かんでいる。つまり目玉は本体であり、その球体は雲を操るのに使う制御ユニットのような物だと推測できる。
今乗ってるドラグーン1ちゃんや、その他の子たちの集中力にはまだ余裕がある。このまま戦いを続ければ余裕は無くなってくるだろうが、今ならまだ大丈夫だ。時間のあるうちに敵の弱点を知り尽くしておく必要があるだろう。何せ“本物の彼”は雲がある限り復活するのだ。対処法を確立しておくことは間違いではない。
「撃ぇ!」
そんなことを考えながら、制御ユニットらしき球体、雲に隠れているが一層神秘の深い場所へと、弾丸を放つ。
通常の弾であれば雲内部の雷にすぐ溶かされてお終いだろうが……、ハーちゃんのライフルに、ぽよ様の神秘。これで貫けなきゃもうそれは何かの間違いだ。破壊できないわけがない。
音速を軽く超え、狙った目標へと吸い込まれていく弾丸。クラッコもクラッコで、音を越えた速度で動いているが、こっちの“追尾性”の方が、高い。命中だ。
『ッ! 雷撃の密度が低下! 保有雲量も減少し始めました!』
「っし! つまりアレが“雲を操る源”ってわけね! 丸裸にするよ! ハイドラちゃんたち!」
『了解ッ!』
『えっと、眼玉の周りを囲むようにロックオンして……、FOX2っす!』
私の声が届いた直後、ハイドラたちがその発射口を全開させ、次々と対空ミサイルが放たれていく。雷撃によってその多くが落とされていくが……。私によって制御ユニットを破壊されたせいで全力を出せないのか、幾つかが通り抜け、目的へと到達する。
瞬間、爆炎が巻き起こる空。しっかりとクラッコへと命中し、私が乗るドラグーン1から雲の量が減ったという報告が飛んでくるが……。すぐに逆転する。機器のアラートが無線越しに私の鼓膜を揺らし、眼前の敵が“元”へと戻り始めた。
『敵雲量回復! 元の状態に戻りました!』
『ちッ! そういうギミックか!?』
『ひゃー、一瞬すね。……となると?』
「そういうこと! もっかいやるよ!」
ハイドラ2の言葉に応え、ハーちゃんから手渡された銃弾をリロードしていく。
私の言うことは確実に伝わったのだろう。さらに激しくなった雷を華麗に捌きながら、もう一度陣形を整えていく戦闘機たち。うんうん、優秀でほんと助かるよ! 言葉にせずともやりたいことが伝わる、決戦兵器はこうでなくっちゃ!
……ドラグーンやハイドラが飛ばしたミサイルがその目玉に接触しようとした瞬間。クラッコが目を閉じたり、雲の中で移動させることで避けようとすることは既に把握している。つまり目玉が弱点であり、本体であることは私達の考える前提とは変わらない。
ならば接近して噛みついてやれと思うかもしれないが、ちょっと危険すぎるのだ。
保有する雲によって幾重にも重なった雷を放射することが出来るクラッコ、ドラグーンですら何度も喰らうのは危うく、大型で防御力が高いハイドラでさえ突っ込めば丸焼きになってしまうだけの電気が、あの雲には蓄えられている。故に其処に突っ込むのは自殺行為。一旦制御ユニットを破壊し、雲を散らしたとしてもすぐに再生し元通りになってしまう。
(だったら、全部散らしたその瞬間につっこめってコトよ!)
「もういっちょ、撃ぇ!」
『『『FOX2!』』』
私の弾丸、そしてドラグーン2とハイドラ両機のミサイルたちが、クラッコに襲い掛かる。
一度制御ユニットを吹き飛ばされたせいで警戒していたのだろう。雷を網状に展開し強力な防御壁を形成するが……、それでミサイルは誘爆させて落とせても、弾丸は消し飛ばせない。
ほんの少しだけ銃身自体にぽよ様の神秘を込め、“同時”に全ての弾丸を、ユニットへと打ち込む。
雲に包まれた真っ白な球体に弾丸が突き刺さり、罅。
「いっけぇ!!!」
『突っ込むッ!!!!!』
それを逃さぬように、全力でエンジンを吹かす『PROTO DRAGOON』一号機。
音を優に超え、機体限界も越え、目指すはその一点のみ。
制御ユニットすべてが崩壊し、クラッコが操ることが出来る雷雲が極端に減った状態。“再生”が始まるその一瞬に割り込むように、空を制する竜が、その顎を開く。
『理事長ッ!』
「パージ!」
機体と目玉が接触しようとした瞬間、機体を横に回転させながら体当たりを避けるドラグーン1。けれどその回転がかかる瞬間に、機体との接続を切り、大空へと放り出される私。
竜が全力で掛けた加速は、私の身にも降りかかっている。接続が切れ大空に放り出された程度で、その速度が弱まることはない。
つまり。
(めのまえに! おめめ!)
クラッコが何かをする前に。全身でその目玉に張り付く。近づいてみれば2mを越える巨大なお目目。普通ならば恐怖を感じそうなものだけど……。私の鼻孔を擽る。魅惑のぱちぱちとした甘く美味しそうな神秘の香り。
既にぽよ様の神秘を大量に受け入れてしまったせいで、私のお腹はとっても腹ペコだ。もし戦闘中でなければ、ドラグーンやハイドラに噛みついて咀嚼して飲み込んでいた程に腹が減っていた。そんな時に目の前に現れた、特大のご馳走。特大のお菓子。
食前の挨拶など脳裏にすら現れず。
私は、問答無用でそれにかぶりついていた。
ごしゃ、がりゅば、ぎしゅ、ぎり、ごき、ばき、んっんっんっ……
「おいちい!!!」
『……わぁ』
『あれ、食べれるのか?』
『理事長だけだろ。』
『写真とっとくす。記念になるっす!』
【まぁそうなるよな、うん。エアライド隊全機、悪いがまだ各地で“目玉”の存在が確認されている。食事中のマルコを回収し、すぐに向かってくれ。マルコー? それのおかわりがまだあるみたいだぞ? 食べにいか……】
「いく! おかわり!!!」
そのご、いっぱいたべた!
〇クラッコ(劣化コピー)
質感はマグロの目玉でたんぱく質の堅い塊を食べているような感じだが、雷を宿っているせいか噛めば噛むほどにパチパチとした面白い食感が口に広がり、同時に甘い綿菓子のような香りで包まれるという非常に面白い珍味。また食べずにちょっと放置すると少しスパイシーでとても甘い涙や、より電気が強くやわらかな綿菓子雲を生成するので様々な食べ方が出来る。
人は選ぶだろうが楽しみ方を理解できればもう二度と普通の綿菓子を楽しめなくなる、と思うほどには美味しい。惜しむならばこれは劣化コピーで味が少し落ちているといったことだろうが……。本物を食べればその濃厚な神秘で脳がぱっぱらぱーになっていたかもしれないので、これでいいのかもしれない。
〇マルコの様子
たくさん目玉を食べて神秘を全回復した! その後おやつにまだ残ってた砲台も食べた! 美味しかった! あとヘイローに灯るぽよ様の証、ピンク色の球体が3から4になった! 進化したよ! ごちそうさま!!!
〇ツルギの様子
まぁマルコだし、怪獣みたいなやつでも食うよな、そりゃ。あと砲台食べてる所見て安心してしまったから私もかなり毒されてると思う。あ、一応数台程鹵獲して中央に送っておいたぞ。途中邪魔だったゲヘナ兵を倒してゲヘナに送り返しておいたが……。あの横乳だけ出すファッション、流行ってるのか?
〇ヒナの様子
まだ勝てるけど途轍もない技量の相手させられたと思えば、途轍もない殺気ぶつけられて、そのあと耐久お化けに負けかけたと思えばゲヘナ側がなんか怪獣召喚してて、それキヴォトスを滅ぼせるレベルで……。あの、私なんか悪いことした? キヴォトス滅ぼせる怪獣召喚の片棒担いでいたとか笑えないのだけれど。帰って全部終わるまで引きこもってもいい? というかもうD.U.あたりに亡命したいのだけれど。……え? 作戦失敗のお咎めはないけど雷帝がお呼び? 信じられない程上機嫌? はい、行きます……。
〇横乳
自分たちが何かとんでもないものを使用してしまった(目の前にあったボタン押したらゴジラが生成されて町を破壊し出したようなノリ)ので若干恐慌状態に陥ったゲヘナ軍を立て直すため、自身が抱いた脅威を抑えながら態勢を整えていた所にツルギが『やぁ』しに来たので反撃したら、顔にストレート喰らって気絶した。
耐性が出来ていたのか結構早くに復帰して、まだ倒れてるヒナやゲヘナ兵を連れてひぃんひぃん言いながらゲヘナに帰還した。もうトリニティきらいですぅ!
〇聖ワドルディ学園・航空部
対外的には存在しないことになっている秘匿された部活。『PROTO DRAGOON』を乗機とする2名と『PROTO HYDRA』を乗機とする4名で構成されている。
極秘部活なため専用の制服などはないが、部員は全員黄色い星にピンクの丸が乗ったようなピンバッチを帽子に付けている。(聖ワドルディ学園の制服はオレンジのベレー帽に白のブレザー、オレンジスカートが基本。上下は様々なバリエーションがあるが、ベレー帽だけは共通しており、そこに好みのアクセサリーを付けていることが多い。)
適性試験を兼ねたゲームで優秀な成績を収め、同時に決戦兵器を駆るのに相応しいかどうかの検査などを突破したメンバーたちのため本当に替えがおらず、これ以上メンバーが増えることはない。そして減ることもないだろう。キヴォトスの空には竜が住んでいるのだから。
・ドラグーン1(TACネーム:チープ)
航空部の部長にしてエアライド隊の隊長。ゲヘナ出身。エースオブエース。
もともと貧民街のような場所、トリニティにおけるアリウス地区のような場所で産まれたため親の顔どころか自分の名前すら解らなかった。『この身の代わりなどいくらでもいる』という意味から“チープ”と名乗り野盗紛いのことを強いられていたが、中学生の年齢になったころに当時の風紀委員会に捕縛され、『聖ワドルディ学園』にやって来ることになる。
ちなみに彼女のような名前を持たない生徒たちはマルコが『桃玉』姓を与え、名前もそれぞれに付けてあげているのだが彼女からすれば生活どころか学びを授けてくれる理事長と同じ性を名乗ることは恐れ多く、ずっとチープで通している。……だが決戦兵器の戦闘機乗りで機体よりもパイロットの命の方が重要視されている航空部の中で『自分の命など安い』なんて言うことになる“チープ”の名前は戦友である部員たちですら呼びにくく、彼女たちがTACネームをあまり使用しない理由となっている。
慣れない部隊指揮を完璧にこなすために日々努力しているカッコいい人。
『もうこの身に言い値を付けてくれる人や仲間がいるんだ。そう簡単に落ちるわけにはいかないだろう?』
・ドラグーン2(TACネーム:バロン)
ドラグーン1の僚機にして相棒、エアライド隊の副隊長を務める。トリニティ出身。
フィリウス分派の人間であり、もともと外交官や大使に似た役職を任されている家に生まれた。一族全員がフィリウス分派というよりもマルコ派であったため、トリニティ総合学園ではなく聖ワドルディ学園の門を叩くことになる。お嬢様な話し方も出来るが、パイロットとしての役割を求められるのならば似合わないだろうと、少々荒い言葉をよく使う。だが育ちのよさはあまり隠せていない。
最初はドラグーン1に対してあまりよく思っていなかったが、その境遇や高い技量。常に努力する姿勢を強く評価し相棒と呼び合うような仲にまで発展した。
後述するハイドラのパイロットたちに様々なことを吹き込まれてしまうちょっと残念な一面もあり、ドラグーン1に《戦う理由は見つかったか?相棒。》と言った際には相棒から『裏切らないでくれぇぇ!』と号泣し縋りつきながら懇願された。本人は意味が解らなかったが、その後ZEROをプレイし、吹き込んだ野郎をしばきにいった。ぶっころですわ~!
『戦う理由なんか友のためだけで十分! 相棒、まだ飛べるよな!』
・ハイドラ1(TACネーム:ソプラノ・チェック)
ハイドラ1を操縦する二人組、ソプラノが機体操縦を務め、通信や武装管理はチェックが行う。本編で話しているのはチェックの方。
ソプラノはD.U.の一般入試から。チェックはトリニティの元スケバンから聖ワドルディ学園にやって来た。一応この学園は厚生施設なのだが、学費や寮費が基本ただし犯罪者じゃなくても入学できるので結構進学先にしている者は多い。たまたま学園内のゲームセンターで顔を合わせ、キヴォトス内外のゲームに目がないという理由から意気投合し、今ではハイドラでバディを組むまでに至った。
よくゲーム内の武器や装備を実現化してハイドラにくっつけようと画策しており、技術部に殴りこんで色々悪だくみをしている。おそらく自分たちの機体と一番仲がいいのが彼女達であり、良く『ハイドラ1はこの武装を乗っけてみたい』『わかる! ロマンあるよね!』『やっぱ時代は光学兵器っしょ!』みたいなことを話しているとのこと。なお全てわにゃ語である。たまに野良のワドルディも参加し、中々カオスになっているそうな。
なお先述のアレを吹き込んだのはこいつらである。布教する方法はもうちょっと考えようね……
『人間、遊んでこそです! 友達とならもっと最高!』
『大空をプレイしつくして! ついでダチと世界も救う! やってやろうぜ!』
・ハイドラ2(TACネーム:ヒップ・SU)
航空部一の変態とお調子者、パイロットがヒップであり、通信や武装管理はSUが行う。本編でよく『す!』って言っているのはSU。傍から見れば二人ともイケイケのギャルだが頭は終わってる面白い奴ら。
命名から色々嘗めており、おしりが好きだからヒップ。適当に申請用紙に『す!』と書いたらSUになってたのが彼女たち。SU自体おしりに興味はあまりなかったのだが、ヒップに布教されて目覚めてしまった。二人して雑誌(学内で発行されているもの、たまにマルコ含めた生徒たちの際どい写真が載ってたりする)を片手にマルコに感想を言いに行くレベルにはヤバい。ヒップは一週間に24枚、SUは29枚の反省文の最高記録を保有している。
現実でも戦闘でも尻を追うことに関しては才能を持つヒップと、お調子者で考え無しだがセンスがずば抜けているSUなため、うまくノリが乗ればドラグーン1・2のコンビすら落とせる強さを持つが、ヒップは敵機の尻を追うことしか興味がなく、SUはすぐ調子に乗って自爆するので永遠に勝てないという悲しいことになっている。
ちなみに航空部の中で一番マルコと仲がいいのがSUであり、一番物理的に絞られているのもSUである。
『おしり、良いよね。理事長のもいいけれど、フィリウス分派トップのヒップもなかなか……』
『ウチらといれば一生退屈しないっすよ! 騒げ乙女たちー! す!』