〇前回までのあらすじ
雷帝の宣戦布告により始まったトリニティとゲヘナの戦争。雷帝が繰り出す超兵器やクラッコといったポップスター産の存在に追い込まれるトリニティだったが、マルコによって何とか追い返すことに成功。そんな時トリニティ情報部が列車砲の存在を発見、それを破壊するために訪れたピンクのヤバいまんまる顔はほうばりヘンケイの後にごっくんちょ、味方も敵も恐慌状態に陥れ、雷帝の首を取るために万魔殿へと殴り掛かったのです。でも雷帝がアビドスのおじさんとひぃんを金で雇って出してきたからマルコも対抗するよ、お金で!
ここにキヴォトス史に残る札束バトルが幕を開けるのだった……!
「あ、あのぉ。ちょっといいですか……?」
「「なに!?」」
今! 今札束ぶん殴りバトルの佳境……! あらユメパイセンじゃん。どったの? 今雷帝とどっちがアビドスのお二人雇えるか勝負してたんだけど。なんかあった?
「ひぃう! あ、あのですね? そこのトリニティのお二人に聞いたんですが……、その。流石に戦争に成ってるのに他校の私たちが参加しちゃうのは色々まずいというか、お聞きした感じゲヘナがすっごく周辺国から追い込まれていると言いますか……。」
「……雷帝、もしかして言ってないの?」
「む…………? そう言えば忘れていたな。だがクロノスだったか? 新聞でもテレビでもかなり大々的に話されているものだからてっきり知っているのかと。……え、マジで知らんかったの?」
「はい……。」
ひぃんと言いながら頷くユメ先輩。
おじさんが話を補強してくれたが、どうやらアビドスは砂漠化によって世間から少し隔離され気味なため外の情報は入りづらく、同時に雷帝から『傭兵契約』の話を受け取る直前まで砂漠探索をしていたそうで、本当に私達の現状を理解していなかったようだ。
単に一回戦ったらお金が手に入るってことで飛びついたらしい。……そう言えばおじさんって雷帝のこと原作でもあんまり把握してなかったっぽいし、そういうもんなのかも。
「砂漠の方で大きな戦闘音と集団を見たって情報があったんで治安維持のためにもそっちの探索に行ってたんです。まぁ何も見つかりませんでしたが……。騙されてたのなら正直両方ともぶん殴って消し飛ばしてましたが、その顔からしてそう言うつもりはないみたいですね。」
(あ、それウチ……。というか今両方ともぶん殴って消し飛ばすって言った?)
「うむ、我知らぬ。杞憂ぞ小鳥遊。」
「そ、その……。だから雷帝さん? 契約の方を撤回してもらいたいし、正直色々と大変そうだからトリニティの方にも付きたくないというか……。」
「「あ、そういう。」」
私と雷帝の声が重なり、同時に納得してしまう。
まぁ戦争なんか関わらないのが一番だもんね……。自分の友や家族や財産を守るために戦うのは必要だろうけど、対岸の火事に突っ込むようなことは普通にしない方がいい。しかも個人はともかく、この世界における“国家元首”にあたるアビドスの生徒会長が飛び込んじゃうってのはなかなかにヤバい行為だ。
私もてっきりその辺り理解した上で出て来たのかと慌ててマネーバトルし始めちゃったけど……。まぁユメ先輩とホルスおじだからね! 仕方ないね!
……いやまじ安心した。
「私が117京411兆2464億1370万8685で。」
「我が117京411兆2464億1370万8686か……。ヤバいな後脳ぐらいしか売るものなかったぞ?」
「そういう私は次心臓ぐらいしかなかった!」
「「あはー! やばー!!!」」
「……桁ヤバくない?」
「ひ、ひぃん! ほしのちゃぁーん!」
「これ買えても死んでて意味なくなるのでは?」
というか雷帝。お前色々大丈夫なの?
「我雷帝ぞ? 大丈夫に決まっているだろう。そも戦争自体策の内よ。」
「あ、そっち?」
彼女が言うには、どちらに転んでも問題はなかったようだ。
もしこの戦いで雷帝が勝った場合、ゲヘナの勝利が濃厚になる。後は雷帝本人がトリニティにでも出向いてクラッコや列車砲を使って無血開城からの停戦。そこから連邦生徒会を落してゲヘナ中心にはなるが新しいキヴォトスの形を提供しようとしていたそうだ。多少反乱は起きるだろうが、“テクスチャの張替え”によって原作が吹き飛ぶ以外は何も問題はなし。
未来を知る雷帝によって整地され危機の無いつつがなく進むこの世が生まれていたとのこと。
「……え、お前テクスチャ張替えれるの?」
「生身では少しだがな。というかそれぐらい出来んとポップスターの品々を持ちこめん。」
「まぁそりゃそうか……。」
「単身ではキヴォトス全域は不可能だが、連邦生徒会を手中に収め自身に“連邦生徒会長”の役職とオーパーツがあれば全てを書き換えるのも余裕というもの。まぁその場合は適当に危機になりそうなものを潰して、外との関わりを切った後は後任を見つけて旅に出ていただろうがな。つまらぬキヴォトスに必要以上いる意味はあるまい。」
そして雷帝が負けたとしても、悪いことにはならないようにしていたようだ。
ゲヘナには雷帝の恐怖政治が敷かれ誰も反抗できなかったという証拠があるし、トリニティも連邦生徒会もその方向性で動くことは把握済み。後任に解りやすいよう『雷帝の遺産』リストも作り自室に放置しているとのことだ。またアビドスの面々に対しても『脅されていた』証拠を自分から用意してあるという。更に別名義で既に契約金を支払っているおかげで、連邦生徒会から10億を奪われるということもない。
トリニティや連邦生徒会の仕事は増えるが、少々差はあるが『原作』に続き問題なく物語を進められる状態に持って行くことが出来るのだという。
「それに。我の未来視だとことを起こさなければ内部分裂からの爆散しておったぞ、トリニティ。」
「ま?」
「ま。来年の9月ごろか? ナギサ配下とマルコ配下が暴走して銃撃戦になったところがたまたまシスターフッドの敷地でな? それを救護騎士団が止めようとした結果派閥戦争が暴発して全面戦争に成っておった。たぶん『一度でも結束して戦った事実』が生まれた以上なんとかなるとは思うが……。」
「……ひ、否定できないのが辛いッ! 普通にありそう!!!」
とまぁそんな感じでもうちょっとやり方なかったんか? とはすごく言いたいのだが、一応雷帝にも今後の展望があったうえでことを起こしたようだった。
……これたぶんマネーゲームしたおかげで空気が緩んだから語ってくれたことだな。普通に殺し合いしてたらわざわざストーリークリアした後に外伝かEXストーリーで二周目した上にポーズでキャラ紹介見て確認しなきゃ解んない奴!
「あ、ちなみに戦争を仕掛けた一番の理由はマルコ。貴様と戦いたかったからだな。うむ!」
「それはそれでめいわくッ!」
めっちゃいい顔で言うなボケ!
そんなコントみたいなやり取りをしていると、何か気が付いたようなユメ先輩が慌ててこちらに声を掛けてくる。
「あ、あ、そうだお金! お金返さなきゃ!」
「要らぬぞユメ殿。迷惑料としてとっておけ。」
「じゃあマルコちゃんも……、とりあえず同額で10億でいいよね? ほい小切手、“不干渉”のお礼ってことで受け取っておくように!」
適当にさらーっと小切手に金額を書き込んでそのままユメ先輩に投げ渡しておく。凄い顔で固まっているが、足りなかったのだろうか? とりあえず10倍くらい追加しておきます?
ユメ先輩の戦闘能力がどれほどのものかは解らないが、今この場でアビドスの彼女たちと敵対しないということは非常にありがたい。10億なんて安いもので、もっと出しても私の懐にダメージは行かないだろう。というか彼女たちのお金の使い方は“アビドスの復興”以外にはない。ウチのグループとしてもお金投げただけで滅びかけていた市場が復活するのなら、いくらでも投資できるのだ。
ま、あり得ない話だとは思うのだが……。“テラー化”の可能性もある。
何せ今の暁のホルスことキヴォトス最強の神秘である小鳥遊ホシノは、イケイケだった時期の彼女だ。そんな彼女の目の前でユメ先輩を傷付けた場合、ぷっつんしてガチギレからの闇落ち……、がないとも言い切れないんだよね。ほんとに。十中八九ゲマおじども見てるだろうし、急に地下生活者だっけ? アイツが登場してテラー化とかありそうだもん。
止められないとは言わないけど、ホシノテラーと雷帝を一緒に相手するのは骨が折れるのだ。物理的に。
「と、なるとフレンズバトルは中止か。どうしたものか……、空崎ヒナあたりでも呼びつけるか? 若干しなびてきていたが。まだいけるだろう。」
「やめたげて? ……はぁ、一対一でやりたいんでしょ? ならしてあげるから。」
ヒナちゃを呼ぶと言っておきながら、更に懐から出そうとしていた雷帝の手を言葉で止める。
そして一瞬だけ私の親友たちに視線を向ける。ツーちゃんことツルギは力強い頷きを、ハーちゃんことはハスミは少し歯を食いしばりながらも、頷いてくれた。
「おぉ、そうかそうか! ならこの“クラッコの素”はしまっておくとしよう。」
明らかに奴の手には私がモグモグして来たクラッコよりも神秘の濃い存在。よりポップスターの大本に近い存在の目玉が握られていた。今のヒナはハスミには勝てるが、ツルギには勝てないレベル。その差を埋めるために用意しようとしたのだろう。
……正直、一対一でやり合うことに不満はない。
たぶんコイツ、雷帝の本気は私の“全力”に匹敵するか、それ以上だ。
周りを見ながら戦うことは出来ないし、よりポップスターに近づいた戦いに“まだ”ハスミとツルギが付いてこれるとは思わない。いずれあの二人なら到達してくれそうだけれど、どうしても私は二人を守る動きをしてしまうだろう。二人にとってもそれは苦痛だろうと言うことはさっきの視線で理解できてしまった。……“今はまだ”なのだ。この機会は大切にとっておくことにする。
さて、ぽよ様。
何度も悪いんですが、今回の敵はかなり強敵で、私一人じゃ多分無理です。
だから……。一緒に戦って、くれますよね?
『ぽーよ!』
ふふ、そう来なくちゃ!
◇◆◇◆◇
「ふふ、あぁ血が沸き立つな。……観客もいることだ、場を整えよう。」
彼女がそう口にしながら指を鳴らす。その瞬間、世界を揺らす揺れ。
万魔殿自体に細工が為されていたのだろう。突然天井が開き、地面が空へと上がって行く。そして眼前の雷帝の神秘に反応したのか、ゲヘナ上空の全てが黒雲に変わり始めていた。
ミカ様が無差別隕石出来るわけだから、雷帝が天候操作出来てもおかしくはないんだけど……。正直、個人でこれほどの神秘を見るのは初めてかもしれない。風の噂で雷帝一人でゲヘナ全てを平らげられるとは聞いたけど、『気合を入れた』彼女を前にすると、やはり頷けてしまう。
私たちのいる場所よりもより高く上がって行く彼女の玉座。完全に見下ろされる位置で停止した瞬間。彼女の背後に極大の雷が落ちる。
「どうだ我が好敵手、マルコよ。」
「……いいんじゃない? センスあるよ、雷帝。」
その背の大きな悪魔の翼を広げ、上機嫌そうな笑みを浮かべる彼女にそう言葉を送る。
先ほどまでのふざけた空気は既に消え去った。少し視線を背後に送れば、ハスミやツルギの姿が下に見える。上昇したのは、私とコイツだけのようだ。周りを気にせず眼前の敵を倒す。その場所にはちょうどいいと言えるだろう。
「くく! 良い言葉を聞けた。その礼というわけではないが……。」
彼女がそう言いながら指を鳴らした瞬間、彼女の両手に1本ずつ。剣が出現する。幾重にも分かれた銀の剣と、どこにでもありそうな何でもない剣。彼女はその何でもない普通の剣をこちらに向かって投げ捨てる。
そして、私の目の前に突き刺さるソレ。
「こう言うべきかなマルコ? ……GET IT!」
「ッ! そう来なくっちゃッ!」
『ぽよっ!』
即座にそれを引き抜き、ぽよ様の声に合わせ大量の神秘を剣に流し込み始める。
あのお方の神秘をこの身に受けた存在が、それを拒否するというのは……。いやまぁプレイヤーによって無視することもあるが、私に繋がるぽよ様はこの勝負を受けるタイプ。ならばそれを手に取る以外の選択肢はない。
その構成情報全てを塗り替えるように変わって行くソレは、まさに奇跡の再現。何の変哲もない剣はその姿を完全に変え、材質をポップスターのものに。いつの間にかその柄には大きな星形のマークが飾られていた。
疑似コピー能力、ソード。
(ぅし! できた!)
おそらく雷帝が持つ剣の名は、『宝剣ギャラクシア』。色が金ではなく銀になっていることからダークメタナイトが扱うような複製品の一種なのだろう。銀河最強の剣士が扱う剣だ、その複製品だろうが強く警戒すべき武器。だがぽよ様が扱う剣は、その能力によってどんななまくらだろうと強固なつるぎとなる。私は未だ彼の様に作り替えることは出来ないが、今はこれでいい。
この子で、アイツに勝つ。
「ふふ、はは、あはははは! さぁ、始めよう我が好敵手よ! 楽しませてくれッ!」
「そっちが、なぁッ!!!」
雷鳴が轟き、雷帝の剣に雷が宿る。それと同時に、私も神秘を剣に纏わせ桃色の光を放たせる。
踏み込みは、同時。
地面が消し飛ぶほど強く踏み込んだ瞬間、私達の剣は互いに互いを切りつけていた。
耳が割れそうなほどに響く、金属音。
眼前に、愉しそうな奴の顔が見える。
「あぁこれだ! これだ! 我はこれを求めていたのだ!」
「うるさい、なッ!」
全力で切り合うが、全て剣で弾かれる。
いやむしろ、遊ばれているに近い。何合も打ち合っているが、そのすべてを技術で上手く流されてしまっている。ぽよ様のおかげで出力は何とか勝ったが、それでも僅差。これ以上やれば私の体が吹き飛ぶ以上、技が勝る彼女の方が上だ。勝手に自分の世界に入り始めたコイツの面を叩く方法がない。
一応私もある程度は婆やに叩き込まれたけど、どっちかというと銃や無手での近接戦闘がメインだ。このキヴォトスで剣をメインにしている奴なんてそうそういない。だから私も軽くしかやってなかったけど……。ちょっと後悔しそう。
だからもうぽよ様の頭の中にある記憶と技術! ちょっと無理してでも私の体に落とし込むしかないよねぇ!
『ぽよ!?』
「ッ!」
御大の持つ無限の可能性。その中の一つであるソードの技術、それを私に落とし込み、雷帝へと切りかかる。瞬時に私の動きが変わったことに驚き防御を固める彼女だが、同時に私の体もかなりヤバい状態に。ぽよ様が抱える情報量が多すぎたのだろう。一瞬で全身に罅が入ったかのような感覚に陥る。
だが……、構わない。ならばその罅すらも神秘で埋めて、叩き直して、無理矢理敵を叩っ切るのみ!
「だりゃぁ!」
「かはっ! お前も大概だなッ!」
「う、っさいッ!」
力と技量が上回ることでようやく雷帝を押し始める私。幾重にも連なる剣戟の音が煩わしく、一撃でも肉体にもらえば弾け飛んでしまいそうな肉体に成ってしまったが、これでいい。このまま追いこ……、ッち!
「ならこちらも出力を上げさせてもらおうかッ!」
その瞬間。彼女の背中に突き刺さる雷鳴。
極光と化した稲妻がその身に注入され、雷帝が持つ神秘がまた特段に大きくなってしまう。クソが! そういう回復もありかよ!
「貴様の“捕食”に比べれば可愛い物だとは思わんかね?」
そう言いながら切りかかる彼女の剣を、何とか受け止める。まぁそれはそうだけど!
神秘の増量によって、上回っていたはずの出力で負け、打ち合うたびに更に追い込まれて行ってしまう。ぽよ様に宿った技術のおかげで何とかなっているが、眼前のこいつを打ち倒すにはまだ色々と足りない。そして雷雲がある限り先ほどと同様の能力向上、また神秘の回復をされてしまうだろう。
なら。
『アッパーカット』ッ!
「ぬッ!?」
全力で剣を上へと切り上げ、肉体ごと飛翔。容易く回避され雷帝からの追撃を喰らうが、太腿に収めていたいつもの銃でそれを無理矢理受け止める。衝撃により銃身すべてが弾け飛んだような音が鼓膜を揺らすが、一瞬でも稼げればそれでいい。
周囲の空気を一斉に吸い込み、作るのは口風船。滑稽だろうが、今はやるしかないのだ。全力で手を動かし、空へと向かう。
そう、回復されるのならその大本。雷雲ごと食べてしまえばいいのだ。
「チィ! なら落とすまで!」
雷帝もこちらの意図に気が付いたのだろう。即座に雷雲から雷を発生させ、そのすべてを私に向かって振り落としてくるが……。こちらも想定済み。口の中に溜まった空気を下に向かって吐き出し浮力を得ながら、握っていた剣で全てを受け止める。そしてその剣に宿るのは、雷の力。
属性剣はぽよ様の得意技だよ、雷帝?
そしてその合間に生み出された隙が、私の射程圏までの到達を許す。
「ぽよ様!」
『はぁーいっ!』
こうなったらもうヤケだ!
「『がんばり吸い込み!!!』」
今の私では本来使用できないハズの吸い込み。けれどこの身の損傷を無視し、ぽよ様から潤沢な神秘を受け取ることで、このキヴォトスに桃色の奇跡を顕現させる。私の肺活量では考えられない程の空気が口へと吸い込まれていき、まるで台風でも来たのかと錯覚するほどの勢いで、雷雲が放り込まれていく。
雷帝からの稲妻による攻撃もあったが、それすらも吸い込み……。そのすべてを、飲み込む。
「んっ! これでこっちも回復だァ!」
「……かはッ! そうでなくてはなァァ!!!」
大きく笑いを零した彼女は、その大きな悪魔の羽を羽ばたかせ、空中戦へ。こっちはまだ空の足は無いが……、無理矢理ホバリングと疑似コピー技の一つである、『スピニングカット』で迎撃していく。けれど自由に動けるあちらの方が確実に優位、だがそう安々と地面に降ろしてくれそうにはない。
数えきれないほど打ち合った後、全力の一閃が互いに決まり、鍔迫り合いに発展する。
「あぁ、あぁ! これほどまでとは思っていなかったぞ我が好敵手よ! これほどに素晴らしい日はないッ!」
「でしょうねぇ! そんな顔されたら嫌でも解るッ!」
「ははッ! そうか! それはよかったなッ!!!」
一瞬だけ雷帝の神秘が増大し、全力で振りぬかれてしまう。勢いは殺せず、そのまま地面へ。無理に神秘を使い過ぎたのがいけなかったのだろう。受け身すら取れずに、叩きつけられてしまう。
ほんの少しだけ気が飛びそうになってしまったが……、剣の刃を無理矢理握り締め、意識を覚醒。相手の追撃が来るよりも早く立ちあがり、剣を構える。そんな私のことを愛おしそうに眺めながら大地に降り立つ存在が一人。未だ大したダメージを与えられていない、雷帝の姿が自身の視界に映る。
「永遠にこの時が続けばいい、そうは思わぬかマルコ?」
「……ちょっとそれは、ごめんかな?」
「ふ、まぁそれもそうか。……なら、少し面白い物を見せてやろう。」
彼女がそう言った瞬間、雷鳴が響き、その背後に“鏡”が出現する。
……ポップスターに存在する願望器の一つ。“ディメンションミラー”。その鏡面に映し出した者の願いを叶えるが、悪意を以てそれを成し遂げてしまう様に改変された劇物。もしかしたらとは思っていたけど、やっぱりお前だったのか。
「あぁ。たまたま拾い上げてな?」
「……ッ! 馬鹿! そんなもん使うなッ!」
「そう心配するな、見ているがいい。」
雷帝がそう言った瞬間、その鏡に、奴の姿が映る。
浮かび上がるのは、“テラー化”した奴の姿。ひび割れ鏡として使い物にならなくなるほどに壊れ果てたソレでも、奴の姿がその中に映し出されてしまう。
「だが、ただ反転するだけでは面白くない。」
本来の雷帝がそう言いながら、その拳を鏡へと振り抜く。そしてその鉄拳は、鏡からはい出そうとしていたもう一人の雷帝、テラー化した彼女に。顔面が陥没するほどに振りぬかれたソレは確実に“複製体”を破壊し……、吸収する。
その体からあふれ出すのは、それまでの神秘とは全くの別物。“恐怖”と呼ばれるエネルギー。彼女の肉体の中には、本来相容れるはずのない二つのエネルギーが均等に混ざり合っていた。……“通常状態”と“テラー状態”の両立。単純な2倍では収まらない程の、神秘量。
……ちょっと、不味いかも。
「どうだ? あの“黒服”のようなゲマトリアたちが目指す『崇高』。その我なりの到達点だ。そして……、更にこれを足す。こい、我が僕よ。」
彼女がそう言った瞬間。複製の鏡が弾け飛び霧散しながら黒い影がこの地に舞い降りる。
……黒い、メタナイト。ダークメタナイトが、そこに。
「複製品で呼び出したせいかかなり弱くなっているが……」
指を鳴らす雷帝。その瞬間、彼の一頭身の体がぽんという小気味良い音と共に消え、現れるのは大きな傷跡の付いた仮面。彼女はそれを手に取り、懐へとしまう。
おそらく、それが雷帝にとって“力を取り込む”過程だったのだろう。その背に広がっていた一対の羽が、もう一組増えてしまう。どこからどう見ても、メタナイトの翼だ。既に彼女が抱える神秘量は、私じゃ把握しきれないほどに巨大化してしまった。
「どうだ、我が好敵手よ。これが今出せる最大の“雷帝”だ。……どうする?」
「……あはッ!」
すこし不安そうな顔をして、こちらを覗き込んでくる彼女。
んなもん決まってる。
「上等ッ! そんなもんで“私”が諦めるとでも!?」
「……くくくっ! そうであったな!」
楽しそうに笑う彼女に笑みを返しながら、思考を高速化させる。
今私が取れる手で、眼前の雷帝を打ち倒す術はない。既に神秘は限界まで引き出してしまっている。ならば限界を超えるしかないけれど、ちょっとさっきまでのやり取りで既に限界は越えちゃってる。しかもこのままもう一度壁を無理矢理乗り越えたとしても……、ちょっと届きそうにない。
今の私の頭、ヘイローに宿るぽよ様は5人。そして通常時の雷帝が6人分。強化された今のアイツはかるく20を超えているだろう。もちろん本家大本のぽよ様を呼べばそれで解決する程度の相手でしかないのは確かなんだけど……。
ここで使う?
……いや、コイツは純粋にキヴォトスの危機ではない。このカードを使うべきタイミングは、もっと悪意ある存在にのみ使うべきだ。
なら、どうする?
『ぽよ!』
……確かに。そうでしたね。
「ねぇ雷帝?」
「どうした、マルコよ。」
「それ、雷帝一人の力じゃなくない? テラー化とダメナイト様。1対3になっちゃってる。だったらぁ!」
即座に振り返り、視線を合わせるのは私の親友たち。
これまでずっと見てくれていたのだろう、強い二人の視線が、私と交わる。……ぽよ様! アレお願いします! なんかこう、良い感じで!
『ぽぉぉぉ、よ!!!』
その瞬間、私の胸からはじき出されるのは、桃色のハートが二つ。即座にそれを手に取った私は、二人に向けてそれを投げつけた。“フレンズハート”のまがい物。敵だろうが何だろうが友達になる、そんなポップスター基準の劇物じゃない。ただ、力を借り受ける器。
ハーちゃんにツーちゃん! それに神秘込めて私に投げ返して!
「なるほど……。受け取ってくださいマルコっ!」
「けひゃひゃひゃは!!! 全部もってけぇ!!!」
何者にも染まらない黒い神秘と、鮮血のような真っ赤な神秘に染まったハートが、私に投げ渡され……。この身に宿る。瞬時に理解する、ハーちゃんの意味不明なほどに伸ばされた技量と、ツーちゃんの理不尽なほどに伸ばされた神秘の極意。それに私の神秘、ぽよ様の“無限”を掛け合わせて……、増大させる!
「もう、いっちょぉ!」
回復し、より体に馴染んだ神秘を胸に。手に握りしめた剣で背後を星形に切り抜く。
ぽよ様が私の許容限界を超えるほどに強く神秘を流したせいか、腕が吹き飛びそうになるが、気合で堪えて生み出すのは“通り道”。ほんの一瞬だけ、アナザーディメンションとこの世界を繋げる。そして取り出すのは。“スーパー能力”の欠片!
私の頭上に光り輝く、剣のマークが刻まれた星形の結晶。
それに、この“ソード”を、重ねる。
顕現しろ。
「『ウルトラソード』!!!」
巨大化した、私の剣。
通常の能力を超えたソレを、このキヴォトスに成立させる。
「……く、くくく! きはははは!!! そうか、そう来たか、ならば……!」
雷帝が懐に入れていた仮面を装着し、その瞳に稲妻が宿る。そして私の剣同様に巨大化させるのは、宝剣ギャラクシア。
もう、言葉はいらない。全力で切り抜くのみッ!!!
「だりゃぁぁぁああああああ!!!!!!!!!」
「はぁぁぁああああああ!!!!!!!!」
全力で、剣と剣を合わせる。
お互いの顔がはっきりと理解できるほどに近づき拮抗した、鍔迫り合い。
確かに、雷帝。お前の方が強いかもしれないが……。
親友に力借りて! 憧れの御大に背中押してもらって!
そんな状態で負けるなんて恥ずかしいこと!
出来るわけないだろうがッ!!!
「ちぇすとぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!!!」
宝剣に罅が入った瞬間。全力をもって剣を振るう。
仮面に罅が入り、地面へと落ちる音だけが、私の鼓膜を揺らした。
◇◆◇◆◇
「はぁ、はぁ、はぁ……。やば、もうむり。」
ついそう零しながら、この身に纏っていた能力たちを解除していく。真っ先に負担の強いスーパー能力が消え、ハスミやツルギから譲り受けた神秘も役目を終えたとしてゆっくりと霧散してしまっている。これ以上の戦闘は難しそうだけど、仮面を割れたってことは……。
いや待て、雷帝ってメタ様じゃないから仮面割っても恥ずかしがって帰ってくれねぇぞ!?
急いで振り返ろうとするが、その衝撃で私の手に握られていた剣が崩れ壊れてしまう。既にこの子も限界だったのだろう。これまで耐え抜いてくれたことに感謝しながらも、完全に無手に成ってしまったことに焦る。けれどそんな私の気を吹き飛ばすように響く、雷帝の笑い声。
「はは、あははは! はっはっは!!!! あー、負けた負けた。いやはや、やはり“無限”というのは素晴らしいなぁ、マルコよ。貴様もそう思うだろう?」
「……余裕そうな顔して、よく言うよ。」
「なに、仮面を割られた以上私の負けだとも。」
信じられないくらい良い笑みを浮かべながら、そう笑う雷帝。既にその姿は元へと戻っている。テラー化した自分との合体やダメナイト様との融合みたいなのは解除済みのようだが、余裕そうにしている以上まだまだやろうと思えば戦えるのだろう。
「それに、これほどまでに満たされたのだ。これ以上望めば……、うむ? あ、ちょっと待って? ダークメタナイトが暴れ……。噴ッ!」
なんか一瞬黒いオーラというか、片目部分が抉られたダメナイトの幻影が彼女の背後に現れようとしたが、即座に雷帝が神秘解放からの全身に雷を纏うことで、なんかそれが収まる。
「ふぅ、やっぱコイツ僕にしたの間違いだったかも。マルコ、……いる?」
「いやなんで私に聞くの!?」
「ぽよぽよ!」
…………ん、今なんか隣から聞き慣れた声???
「おぉ、シャドウカービィか。ようこそキヴォトスへ。お迎えかい?」
「ぽよ~」
「……は、はぁぁぁ!?!?!? なんでいるんですか御大のシャドウ様ぁぁぁ!?!?」
『ぽよぉぉぉぉ!?!?!?!?』
脳内で響く本家大本のぽよ様の困惑した声。いやは? は? なんでシャドウカービィこっち来てるんですか? というかなんで来ててキヴォトス崩壊してないんですか!? YOUの神秘デカすぎてキヴォトス壊れちゃうでしょうが! ……え? そこのダメナイトと同じように色々制限して力弱めたらなんか出来た? うそぉん。
て、ていうか! 私のぽよ様も何も知らないってどういうことですか!? 説明してください! 抱き着いて一生離しませんよ!? というか抱っこさせて! させろ!!!
「この地にディメンションミラーが流れたことは貴様も知っているだろう? 鏡の世界の住人としてそのシャドウカービィはソレを回収しにきたのだろう。鏡がある限り辿り着くのは容易だろうしな。」
「あ、そういう。」
「ついでに今ここでカービィの子機とも呼べるマルコに負けて拗ね始めたダメナイトも迎えに来た、という訳か。……む? ダークメタナイトだと? 黙れ貴様などダメナイトで十分だ。我に従うとか言っておきながら何度離反しようとした? ん?」
「ぽよよ」
『ぽよ! ぽーよ!!!』
「ぽよ、よよよ。」
……というかさっきから御大とシャドウ様なに話してるんです? え、秘密? そ、そんなぁ。それとシャドウ様。そのもちもちほっぺわちゃわちゃしていいですか!? え、イタズラさせてくれるなら? どうぞどうぞ好きなだけ!!!
急にサインペンやシールを取り出して私の顔をデコり出したシャドウ様を余所に、その御身をもにもにしていると、ちょっと羨ましそうな顔をした雷帝が話しかけてくる。お前もされたいの?
「うむ、正直な。……っと、そろそろ幕引きと行かなければ。シャドウカービィ? あまり長居すれば神秘の制御も難しくなるのであろう?」
「ぽよ!」
「せっかくだ、我も責任をもってこのダメナイトを連れ帰るとしよう。帰り道を開いてくれ。」
「……え、お前もそっち行くの?」
さっきまで私の鼻にお花さんの絵をかいていた彼が、雷帝の声に反応しどこかから小さな手鏡を取り出していく。さっさと箒で飛び散ったディメンションミラーの破片をその中へと続く鏡の世界に放り込むと、雷帝の手を握った。
「あぁ、そも我がこのキヴォトスから出ていくことになるのは『原作』から決まっていたのだ。マルコに敗け、どこかキヴォトスの外に逃げ出した。そんな筋書きの方が色々と都合が良いだろう?」
「……まぁそうだけど。勝ち逃げする気?」
「かはっ! お前の勝ちだと言っているだろうに! ……だがまぁ、また何度でも同じ時を過ごしたい。そう思いたくなる戦いだった。」
ぽよ様のシャドウに引かれながら、ゆっくりと歩き始める雷帝。どこか、寂しそうな顔。まるでようやく思いっきり遊べたのにもう家に帰らないといけない時間になった子供のような。
んもう、世話焼けるなお前!
「じゃ、また遊ぼうよ雷帝!」
「……はっ! 確かに、“また”だ!」
彼女がそう言うと、シャドウ様が手鏡を起動なさる。どうやらその鏡ごと、“あちら”に転移する仕組みのようだ。
「ではなマルコ! キヴォトス! せっかくの機会だ! ポップスターとやらを盛大に楽しんでから帰ってやろう! マルコ、サボっていれば即座に我が“食べて”しまうからな?」
「上等! なら今度は全身丸ごとモグモグしてあげる! あとぽよ様によろしく! じゃーね!」
返ってきた返答は、その背中と軽く上げられた左手。
ゆっくりと彼女たちは光に包まれ、消えて行った。
ゲヘナの宣戦布告から始まった私たちの戦争は、一月も経たずに終戦を迎えた。
結果は、トリニティの勝利。雷帝の失踪という形で、幕を閉じた。
原作には存在しなかったけれど、この世界では確実に起きた出来事。
多少の差を生みながらも、私達はこのキヴォトスという世界で巻き起こる事件に。
身を投じていくことになる。
……まぁ2週間後くらいに悲鳴上げながら雷帝が帰って来るんだけど、それはまた別のお話ってことで。
〇ウルトラソード
カービィの扱うコピー能力“ソード”の発展形であり最強能力の一つ。スーパー能力。巨大な剣を振り回し敵を切りつけるとっても強いちから。アナザーディメンション経由の力が必要なのか一部作品にしか登場していない。本来マルコがこれを扱えばキヴォトス諸共消し飛ぶレベルのヤバい能力なのだが、ハスミやツルギの神秘。そしてマルコとぽよ様の頑張りによって何とかなった。
〇シャドウカービィ
ダメナイトを迎えに来た子。ぽよ様の裏の存在みたいな子で、ディメンションミラーによって生み出された子なのだが元々のぽよ様がいい子過ぎたのでちょっとイタズラ好きな子になっちゃった。マルコの顔や髪に一杯シールを張り付けて落書きしたから大満足。かなり弱い雷帝が付いて来ようとしたのは驚いたが、なんかダメナイト従えてるから大丈夫かな……。と思ったらダメだった。帰りの際も彼が送ったご様子。
ポップスター魔境過ぎんか? いや何とか不死性確保したが、本気ワドルドゥに敗けるんだが……、何アノビーム? 意味わからん……。っと、すまん。余だよ。更新が空きすまないな。まぁ次回からは原作に向かって“駆け足”に向かっていくから安心したまえ。第三章でも、このキヴォトスをよろしく頼むぞ?
……あ、それと。原作がより崩壊する故、覚悟しておくように。ではな。