ピンク玉の神秘   作:サイリウム(夕宙リウム)

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7:なかま!

 

 

「ささ、どぞどぞ。」

 

「ふふ、すまないねぇマルコ。」

 

「いえいえ、私とセイア様の仲ですから。」

 

 

そう言いながら彼女のジョッキに、茶色い瓶の中身を注ぐ。今私たちがいるサンクトゥス分派秘密の庭園との相性は最悪で、どこからどう見ても居酒屋なボトルではあるが……。ま、別にいいよね!

 

……え? セイア様とは初対面じゃないのかって? そうだよ! 今日初めて会った!

 

 

「さ、瓶を貸したまえ。注ごう。」

 

「これはこれは……。ありがとうございます。」

 

「うむ。では私たちの輝かしい初対面を祝って……」

 

 

かんぱーい!!!

 

んっんっんっんっんっんっ……

 

 

「……。」

 

「……。」

 

 

 

 

「「麦茶だコレ!?」」

 

 

 

 

口内一杯に広がる良い麦の香りと、何故か鼻に残るリンゴの香り。

 

お、おかしい! 私こんなの用意した覚えないぞ!?

 

 

「え? え? マルコ? 君ちゃんと持ってきたんだよね!?」

 

「も、持ってきましたよ! ほらラベル見てくださいな!」

 

 

そう言いながら二人一緒に私が持ち込んだ瓶を覗き込む。そこにはしっかりとウチのグループの名前が描かれたラベル、そして『こどもビール』という商品名がデカデカと書かれていた。ちょっとデザインを大人よりにしたせいで筆記体になってて読みにくいけど、決して麦茶ではない。

 

えぇ? まだ販売前の試作品だけどちゃんとラインに乗ってる正規品だぞ? こ、これ最悪今動かしてる工場全部止めないといけない奴? うそん、大損害。

 

 

「……ん? マルコ、キミが持ってきた袋、何か紙が入ってるぞ。」

 

「あ、ほんとっすね。えっと何々……『お酒は20になってからです、ご帰宅の際はお覚悟を。婆や。』」

 

 

……。

 

 

「い、いい婆やさんじゃないか。……とりあえず弁明のためにも一筆書いた方がいいかい?」

 

「お、おなしゃす……!」

 

 

た、確かに傍から見ればマジでビールになる様に指示出して作らせた品だけど、わざわざ中身入れ替えないでもいいじゃんか婆や……。というか中身ただの炭酸リンゴジュースだし、匂いで気が付かなかったの? あぁでもリンゴのお酒とか普通にあるし、見た目が見た目なら勘違いしてもおかしくないのか。

 

あっちの立場とか考えれば止めるのが普通だし、正しい大人の倫理観に強い安堵を覚えるのは確かなんだけど、さっき私たちがしてた茶番がほんとに茶番になっちゃう……!

 

 

(まさに、麦“茶”だけに!?)

 

『……ぽよ?』

 

(ぽ、ぽよ様。そこは愛想笑いでもしていただければとても助かります……!)

 

 

だ、だから! だからそんな無邪気な瞳で見つめないで!? 色々と浄化されちゃう!!!

 

 

……っと、ふざけるのもこれぐらいにして、本題に入りましょうか。

 

 

今日の私は、これまで接点のなかったセイア様。トリニティが誇る三大派閥の一つ、サンクトゥス分派のトップにして原作開始時点ではティーパーティのホストを務めることになる彼女からお招きを受け、それをありがたく頂戴した形になる。そしたらわざわざ密会専用庭園みたいなところに通されたわけだ。

 

彼女が持つ異能、『未来視』の力は私も知るところ。故にお呼ばれするってことはそういう未来に関する案件だろうし、こんな人払いされた場所に通されたのならもう確定だ。

 

というわけで私は『何か強く思い悩んでいたらしんどいだろうし』ってことでネタをご用意。原作から彼女がとても愉快な性格というか、こういう突拍子もない茶番を仕掛けてもノリノリで乗って下さると知っていたので『こどもビール』を持ち込んだのだが……。失敗しちゃったぜ!

 

……普通にジュース飲めなくてちょっと悲しそうな顔してたし、後で郵送しとこ。

 

そんなことを考えていると、話を本題に進めようとしたのだろう。私の対面にゆっくりと腰かけながら、その身に纏う雰囲気を変化させていくセイア様。こちらもそれに応えるように、佇まいを整える。

 

 

「さてまずは……。急な呼び出しに応えてくれたことに感謝しようか、マルコ。」

 

「この身はフィリウスなれど、セイア様はサンクトゥスの長となられる方です。理由が何であれ、すぐさま馳せ参じますとも。」

 

「そうか。……“馳せ参じる”のは私以外も、かい?」

 

 

えぇ、もちろんですとも。ナギサ様はもちろん、ミカ様も。優先こそすれど、他の方々も同様です。

 

私の母。お母様はちょっと色々ヤバい人だったが……、私はフィリウス分派に所属していて、中立寄りだ。変に強く肩入れして勘違いされると困るし、そも政治うんぬんに時間を費やしたいタイプではない。勿論鍛錬のお誘いとかなら飛んでいくが、そういうのに誘ってくれるのはハーちゃんとかツーちゃんだけ。

 

なので同じ派閥であるフィリウスには気持ち多めに付き合うが、基本的に薄く広い交友関係を維持できるようにしている。普通なら“蝙蝠”扱いされそうだが、ウチが扱っているのは食で、インフラだ。どこかに肩入れしすぎてる方が怖いだろうってことで、これを続けている感じだね。

 

それと、そもそも私をお呼び出しするような人は、何かしら追い込まれている場合が多い。勿論単なるお茶会の誘いや商談の時もあるけど、食糧支援や資金援助を求めて声を掛けてくる人が大部分を占めている。それを受けるにしろ断るにしろ、顔を合わせた方が良いだろうと思うので、何か緊急の用事がない限りはすぐに駆け付けるようにしている。

 

ま、みんな仲良く~って感じですね。

 

 

「なるほど……。ではもう一つ質問しておこう。君の母君はトリニティに覇を唱えようとしていたようだが、キミはどう考えている?」

 

「あぁ、その件ですか。そうですねぇ……、正直面倒だなぁ、と。」

 

 

私の母親はまぁ……、うん。そういうことをしようとしていたのは、彼女が私に残した手記で理解していた。最初は自分が頂点に立とうとしてたらしいけど、私が生まれてからはこの身を玉座に座らせようとしていたのは伝え聞く行動から理解できた。彼女なりの愛情表現だったろうから否定はしないけれど……。ちょっと嫌だ。うん。

 

明らかに外に出したら駄目な思想。そんなものわざわざ口にするものではないし、母と同じ野望を持たぬのであれば受け継ぐようなものでもない。まぁ確かに『トリニティという巨大な学園を好きに動かせる王の立場』は魅力的ではあるのだが、絶対面倒だし、政権を維持できる気がしない。確実にどこかでぶっ壊れて酷いことになるだろう。そもそも原作と乖離しまくるようなことはしたくないのだ。折角の前世知識の利点が薄れちゃう。

 

あ、あと。私の神秘は『星の戦士』。決して大王様ではないんだよね。

 

 

『ぽよ!』

 

(ですよねー!)

 

 

まぁ神秘が戦士と言えど、私自身は凡人だ。正直戦いどころか銃弾がクソ怖いのは事実だし、この身が一番かわいいのも事実。でも少しでも私達が住む世界が滅びる可能性、大事な人たちが傷つく可能性があるのであれば、動かなきゃいけない。“彼”の活躍を知るからこそ、立ち止まることは許されていない。

 

 

「とまぁそんな感じで、私自身にその意志は欠片もないですね。母がまだ生きていれば私を王座に座らせるために色々しそうですが……。そうなったとしても、どこかいいタイミングで表舞台から消えていたと思います。」

 

「そうか……。よ、よかったぁ!」

 

「?」

 

 

私の返答を聞いた後、何か憑きものが落ちたように安堵のため息をつかれる彼女。

 

……え。もしかして私が大王様に成る様なルートの未来、見てた感じですか? チェーンソー振り回しながら『環境破壊は気持ちいいZOY!』してました?

 

 

「あ、あはは。いやそのような未来は見ていないとも。だが“今の君”にその意志があるかどうかの確認は面と向かって言葉を交わさなければ解らないだろう? いやマジでよかった、本当にそうだったとしたら色々終わるし……。」

 

「終わる、ですか?」

 

「そうだとも。……もしかしてその顔、解ってないのか?」

 

 

え、何がです? なんか私やらかしちゃいました? 幾つか思い付きはしますけど分類すれば全部ゲマトリア案件、悪い大人の倫理観無しめな研究サークルが調べたがりそうな『ぽよ様の神秘』ですし、あちらからの接触がない様なのでとりあえず大丈夫かと思っていたんですが……。もしかして原作みたいにもう繋がっちゃった感じ?

 

 

「何その怖いサークル。……いやそうじゃなくてね? マルコ、君思いっきりナギサに勘違いされてるよ?」

 

「ま?」

 

「ま。主に君の言葉不足、客観視不足、そして母や祖母などの君の一族の積み重ねが悪魔合体した結果だとは思うが……、『トリニティに新しい体制を打ち立てようとするマルコVS現体制を維持しながら血を流さぬために対抗派閥を生み出そうとするナギサ』な状態になっていたよ。まぁナギサの方はもう動き出しちゃったようだが……。」

 

 

……え? ほんとに? いやセイア様がわざわざお呼び出ししてくれたってことはマジでそうなんだろうけども。わ、私ちゃんとフィリウスに恭順してますよ!? いや確かに家の影響力とかは削がれないように立ち回ってはいますけど、マミィみたいに暗躍は一切してないです!!!

 

 

「サンクトゥスでも探ったから君のことは理解してるんだけどね……? 『学園』を作ろうとしただろう? 『社会貢献』の隠れ蓑で武力を得ようとした。トリニティの食と経済を支えてる君が明確な武力を得ようとしたら、ねぇ? あぁそれと、なんか大量に武器弾薬買い込んでたじゃないか。それも理由のひとつかな? 役満だよ役満。」

 

「ス、スゥゥゥゥ。あの、その。武器弾薬は食事用でして。」

 

「……食事? 誰、いや何の?」

 

「私の。」

 

「は???」

 

 

あの、私ですね? セイア様みたいにちょっと不思議な力を持っているというか、お借りしてまして……。そういうの食べたら徐々にパワーアップできるんですよ。まだ法則性とか、どれが一番力を得られるとか実験中なところもあるので、そう言う感じで買い込んだんです。

 

そんなことを言いながら、証明の為にさっきのこどもビールの瓶に齧りつき、モグモグする。特に神秘の無い工場製品なのだが、麦の香りとリンゴの香りが口内に広がり、独特な風味を醸し出している。まずい!

 

 

「?????」

 

「まぁそうなりますよねぇ。御大みたいに丸呑みできればギャグテイストに出来るんですけど、まだそこまで大きなもの飲み込めないので……。」

 

「ば、ばけも……。いや失礼? 見方を変えれば私も確かに化け物だ。謝罪させてほしい。」

 

「あ、いえいえ! 全然気にしてませんから! むしろ誉め言葉です!」

 

 

頭を下げようとするセイア様を手で何とか制し、そう言葉を紡ぐ。

 

自分でもヤバい絵図なのは理解しているのだ。まんまる一頭身のピンク様がすれば可愛らしい補食シーンであるが、私がすれば何かの怪異だ。……こうなればもう無理矢理頭身を下げてぽよ様と同じ感じにしてみようかな? 多分プレス機でぺちゃんこにされても何とかなりそうな気がするし。

 

 

「そ、それは蛮勇じゃないのかい?」

 

「なんか行ける気がするんですよね~、ですよねぽよ様!」

 

『ぽよ!』

 

「……何今の声。」

 

 

あはは! 私の力の源、お力添えして頂いている方ですね! とっても可愛らしくて途轍もなく強いんですよ! とっても遠くにいるせいかこっちにお呼びするには私が爆発四散しないといけないんですが、本気でキヴォトスがヤバくなったら“お願いする”所存です!

 

 

「っと、脱線しすぎちゃいましたね。何の話でしたっけ?」

 

「い、色々と整理する時間が欲しいが……、確かにそうだね。」

 

 

心を落ち着けるためか、ジョッキに残っていたリンゴ風味麦茶で喉を潤しながら。少し顔を顰めたセイア様が話を戻してくださる。

 

簡単に言うのであれば、私が完全にガバってしまったの一言だ。政治嫌いであまり周囲を探ろうとしなかったツケが祟り、母の所業や家の力を強く理解せず、武力を求めてしまったが故にナギサ様が疑心暗鬼フェーズをすっ飛ばし覚悟ガンギマリフォームへと変身。

 

トリニティから戦火を遠ざけるため、その政治力をぶん回し始めてしまったのだ。

 

 

「君の話を聞く限り、“ナギサ”がどのような子なのかについての認識は同じようだ。確かに何かを守ろうとするあまり視野が狭くなってしまうのが彼女の特徴の一つ、けれど一度決めたからにはどれだけ苦しみを感じようとも全力でことに向かうのが彼女でもある。」

 

「“未来”ではそれが悪く働いてしまったけれど……。」

 

「そうだね。けれど今の彼女はミカ、“友”がいる。ナギサの不調はすぐにミカが察知し、支えてくれるだろう。つまり彼女は我々が知るよりも完全な状態で、力を振るうだろう。こちらも全力でことに当たらなければ、全て食いつぶされるほどに。」

 

 

セイア様からヒントを頂ければ、私でも理解できる。

 

現在私が所属していることで他派閥と比べ突出しているのがフィリウス分派、その頂点にいるのがナギサ様だ。未だ幼いながらもその影響力は強く、彼女が少しでも動けば周囲にそれは伝播する。私と対抗するために動けば、私が持つ利権に縋りたいものや、ナギサ様を好まないもの。またそれ以外の派閥の者たちが私に寄って来る。

 

無論それを繋ぎ止めるためにナギサ様は動くだろうが、どうしても相容れないものはいる。自然と派閥は二分されていき、“余った”者たちは私を対抗派閥として神輿に担ぐだろう。そこに私の意志は、存在しない。あったとしても制御など不可能だろう。こちらに『食』という無視できないカードがある限り自然と周りの声は大きくなるだろうし、制御できなくなるだろう。

 

そして私がそんな危険なカードを持つ限り、ナギサ様の警戒が薄れることはない。……けれど、おいそれと廃れるようなものでもないのだ。

 

 

「“トリニティ”として考えるのならば、抵抗せず受け入れるべきだろう。国は全てを一本化した方が強い、神輿ごとナギサに差し出す。けれど君も私も、“トリニティ”の娘だ。一族が築いてきたものを差し出すことは、付いてきてくれている者たちに対する侮辱。最大の裏切り行為だ。銃を構えずに白旗をあげることはできない。」

 

「……『貴族』らしい私達にとっての枷みたいなものですよね。」

 

「そうだね。私も、サンクトゥスのトップの娘としてそれなりに良い暮らしをさせてもらってきた。その恩義に背くことは不可能だ。私個人で済む問題ではないのだから。」

 

 

セイア様の言う通り、“お嬢様”には“お嬢様”の義務が存在する。

 

動かせる力が大きいほど、その責任は重く、払わなければいけない代償は重い。この身一つで解決できる問題では無くなってしまう。

 

もし私が力を手放せばそこに混乱が生まれ、同時に未来への対抗策を失うことになる。被害がどれだけ生まれるかはわからない。この地に『先生』がくるのならばやってくる危機を任せてもいいのかもしれないが、そも彼、もしくは彼女が本当にやって来るのかさえわからないのが現状。なおさら手放せるわけがない。

 

 

「まだ完全に把握しているわけではないが、私もトリニティやキヴォトスに『危機』が迫っているのは理解している。それを前に力を分散させてしまうのは実に愚かだ。だが纏めることは難しい、首脳陣が疑念に塗れた状態で乗り越えられるほど敵は甘くないだろうからね。……ならば二分されたとしても、“手を取り合える”状態を作る必要がある。」

 

「あの、その、セイア様? 今から正直に言いに行くってのは……。」

 

「ナギサが信じると思うかい? 多分煽られたと思われるよ、確実に。というか私も真っ先にそれを考えたが、私と彼女が本格的に友誼を結ぶのは高1、トリニティに入学してからのはずだった。今から私と共に言葉を重ねても取り合ってくれるどころか悪化するだろう。というか今君に接触した瞬間、ナギサは私、いやサンクトゥスを『マルコ派』と読み取っただろうしね。」

 

 

う、う~ん! 詰んでる!

 

けどセイア様が教えてくれなかったら、私は何も知らずこのまま好き勝手やってしまっていただろうからマジでなんも言えない奴じゃん! ぴゃぁぁ!!! というかセイア様まで巻き込んでしまったってこと!? そも私がナギサ様の頭を悩ませて覚悟決めさせた元凶になったってこと!? うぁぁん! 申し訳なさ過ぎて腹切りたいよぉ! でも今切ったらもっとやばいことになる気がするよぉ!!!!!!

 

 

「君の事だから放置してもなんとかなるかも、とは思ったんだけどね? 確実性がないし、より力を求めた場合ナギサがご乱心して逆クーデターしでかしそうな気もするんだ。いっそのこともう先に叩いちゃえ! って奴。『食』という生命線を君が握ってる状況だからなぁ。」

 

「常に王手仕掛けてるような状況ですもんね……。私を叩き潰せればそんな状態から解放されるわけですから『物理的解決』に踏み切る可能性もあった、と。」

 

 

私が抱くナギサ様のイメージとは違うが、彼女の周りが暴走してことに至るということもありうる。セイア様が声をかけてくれなければ何も知らなかったであろう私がどのようなルートを選ぶかはわからないが、襲われたら多分曲解してプチ戦争みたいなのが始まってた恐れがある。

 

 

「先日の君とナギサの茶会を夢で見れていれば先に動けたんだろうけど、ね……。今も変わらないが、君の力を求める行動は『危機』を知る私からすれば強く支援したいと思っている。というかだからこそ『学園』の件では裏から手引きしたわけだし。」

 

「ですよねぇ……。あ、その件は感謝です。」

 

「いやいや、構わないとも。」

 

 

現状、私達が取れる行動は一つだ。

 

私には一族が育てて来たグループと影響力が、セイア様には三大派閥の一つが付いている。けれど政治とは複雑怪奇、私より何倍も政治に明るいセイア様が頭を抱えているのならばマジで改善の兆しが見えないのだろう。ナギちゃん様から要らぬ心配を取り除こうにも私達では不可能だし、大人しくしてたら逆に警戒される。

 

一応何とかできそうな“ミカ様”もいるにはいるのだが、彼女はナギサ様の親友にしてウィークポイントの一つでもあるのだ。接触して説得をお願いしようとしても、近づけるどころかそれがきっかけになって戦端が開いてしまう可能性すらある。そしたらもう終わりだ。

 

 

「……はぁ、こうなればもうやるしかないか。」

 

 

ゆっくりとそう言葉を紡ぎながら、私に意志の籠った視線を向けてくるセイア様。

 

おそらく、彼女と私は同じことを考えている。求める結末は同じ、そしてナギサ様も同じであるのならば反発しあっていても何とかそこにたどり着くことが出来るだろう。

 

巻き込んでしまった彼女には申し訳なさしかないが……。この身で出来る全てをもって、答えるしかない。

 

 

「桃玉マルコ、共に“トリニティの敵”になろうか。」

 

「りょです。もちろんお受けしますとも。」

 

 

ナギサ様が現体制の継続を望む者であれば、私達に残された立場は『その破壊』を目論む者。そんな意志が一切ないとしても。火花を散らす様なにらみ合いが待っていようとしても。そこに安寧があるのであれば、進むのみ。

 

全部まるごと解決できる力があればまた違った選択をしていたかもしれない。けれど私は、御大のように強くない。ならば最善を目指して足掻くしかないのだ。

 

 

「整理しよう。私たちが求めなければいけない状況は、『二分されたトリニティ』だ。お互いがお互いを敵視しているが故に戦力の強化に余念がなく、同時に安寧を求めているからこそ身を亡ぼす様な戦力増強どころか、争いさえ起こさない。トリニティらしく手を取り合って足を踏み合う新たな体制だ。」

 

「そして緊急時は、その足を退け敵に向かって振り抜く。」

 

「その通り。互いに踏み合って無駄に強化された足だ。星の彼方まで蹴り飛ばしてハッピーエンドといこう。」

 

 

このキヴォトスを襲う厄災の数はごまんと存在する。私が知らない様な存在もあるだろう。息を合わせて蹴り飛ばすうちに和解できれば幸いだが……。目標は一つ、『トリニティが血を流さない』ことのみだ。

 

おそらくそれは、ナギサ様の意思と合致する。

 

 

「そうだな……、未来のティーパーティとして会合を開こうか。私とナギサとミカ。現在の三大派閥を定期的に集める。私達のことを敵と意識させながらも、同時に手を取れる余地がある存在だと理解させる。目の前に明確な敵がいた方があっちも変に暴走することはないだろう。可能ならば全部ぶち撒けるつもりだが……、まぁ望み薄か? ナギサに要らぬ心労を掛けてしまうのは忍びないが、これ以上のことは思いつかない。どうだいマルコ?」

 

「セイア様が無理だったら私なんか不可能ですよ。思いっきりポカした張本人ですし。」

 

「ふふ、確かに。」

 

 

セイア様が政治を担当するのであれば、私が武力を担当することになるだろう。ことの発端となってしまった『学園』ではあるが、戦力をかき集め育成するのにはもってこいの場所だ。

 

うん、もうこうなったら自重とかしてられないじゃんね☆

 

 

「やる気があるのはいいが、先に相談してくれよ? マジで。……いやでも君の場合好き勝手に動いてくれた方が効率が良いのか? ナギサが武力行使に動かない程度の戦力じゃ不安が残る。『学園』よりももっと大きな見せ札を用意し、こちらで『危機感』を演出できれば? 私だけでは無理だったがマルコのツテを使えばミレニアムが最適か? まだ発見していないようだが、危機に立ち向かえる人材もいることだし、手を取り合うのは不可能ではない。それに彼方の技術があればより強い防衛力が手に入る、引き込むなら絶対に早い方がいい。今のままでは一瞬だけ見えた仮面の剣士、いやアレは槍だったから騎士か? とにかく今のままでは星すら砕く存在に刃向かうことすら……。あぁぁ! ややこしいっ! なんでこんな爆弾処理みたいなのしなきゃならないんだ! そもそも頭に糖分が足りてない! マルコ! お茶休憩を入れるぞ! いいな!?」

 

「ア、ハイ。」

 

 

……小声のせいで上手く聞き取れなかったんですけど、今なんか途轍もなくヤバいこと言ってませんでしたか?

 

と、とりあえず気のせいと言うことにしておこう。そうじゃないと心が持たない。わ、わー! マルコちゃんお茶たのしみだなー! わたし、おちゃだーいすき!

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ふぅ、というわけでまぁ大まかな方針程度は纏まったわけだし、一旦お茶休憩でもしようと君が気に入りそうな茶菓子を用意させたのだが……。」

 

 

もっもっもっもっもっ!

 

 

「マジで銃喰ってる。……その、美味しいのかい?」

 

 

はい! 歴史と染み込んだ神秘の味がします! 濃厚なワインの味!

 

 

「世界、広いなぁ。」

 

 

んぐっ! ぷぱぁ! すごいおいち!

 

私用の茶菓子として、セイア様がサンクトゥスで使わなくなった上に古すぎて再利用どころか観賞用としても使えない銃器をかき集めてくださったんだけど……。ヤバいわよコレ! 体内の神秘というか、それを受け止める器がどんどん大きくなってるのを感じるわよ! 多分歴代の使用者が丁寧に神秘を込めてたんだろうなぁ……! いずれそのまま廃棄する予定だったみたいだし! 気兼ねなく頂けるわね!

 

 

「というかもう色々あり過ぎて突っ込めなかったんだが、普通に私が『未来を見る力がある』ことを把握してたしぶっちゃけてたよね。一応秘密なんだが?」

 

「いやまぁ私も似たような感じですし……、ぽよ様のこともぶっちゃけちゃったのならいいかなって。お互いの秘密公開し合ったって事で。」

 

「あぁ、やっぱりそうなんだね。」

 

 

私は未来視ではないが、前世の知識としてこの世界の一つの未来を知っている。セイア様の未来視は断片的で制御できないものらしいが、私のことだ。積極的に原作のイベントに顔を出していることだろう。彼女が見る未来のどこにでもいる私、何かしらの『異物』。もしくは『特異点』扱いしてお呼び出しを喰らうことは想定済みだ。

 

というか、多分セイア様。私の情報の出所何となく把握済みですよね?

 

 

「あぁ、その通りだ。私とは違った“未来視”。いや“物語として読む”というべきかな? ともかく君が一つの未来を知り、その対策の為に動き出しているのは把握していた。というかおそらく最高学年になった君のことを夢で見た時、あちらから接触して来た。髪色が桃になっていたせいで最初は解らなかったが、明らかに君だろう。ぽよぽよ言ってたし。」

 

「あらら、そうでしたか。というか接触? 私なんか言ってました?」

 

 

そう聞くと何故か顔を赤くし、少し躊躇いながら口を開く彼女。

 

 

「……『セクシーフォックスですまない』とか言いながらマイクロビキニ姿の私の絵を見せて来たぞ?」

 

「 アッ 」

 

 

即座に立ち上がり、彼女の足元へ。これまで出したことのない速度でその場に跪き、頭を地面に叩きつける。

 

み、未来の私がほんとぉにすみませんッ!!!!!

 

いやたぶんやる! ふざけた私なら絶対やりますけど! やーいCVなしー! とかやるかやらないかで言えばやる方だとは思いますけど! マジで! マジで申し訳ございません!!!

 

腹、腹切らなきゃ。さっきのも合わせて切らなきゃ! ぽよ様介錯してぇぇぇ……!

 

 

『ぽよ!?!?』

 

「い、いやそこまで謝らなくても大丈夫だ。確かに驚いたが……、大変よく描けていたな。うむ。自分のそういう絵を見るのは初めてだし複雑だったが、拡大プリントして額に入れたいレベルだった。」

 

「ま、マジで申し訳ない……。」

 

 

本当に何してんだ未来の私! ……ん? そう言えばセイア様。私の髪色、黒じゃなくて桃色になってたんですか? ほんとに?

 

 

「そうだとも。髪色も毛量も今とはかなり違っていたな。それに身長の方も大分伸びていた。彼女が書いた絵を鑑みると、将来の私はちんちくりんのようだが……。ちょっとだけうらやましい、うむ。」

 

「せ、セイア様にはセイア様の良さがありますから……!」

 

 

に、にしても! 色がピンクってことはそう言うことですよね! ぽよ様! 最高学年と言うことは、今から約5年後。今の神秘取り込み生活を続ければいつしかビッグに、そして御大の神秘をより多く引き出すことが出来る! なんで髪色が変わるのかはちょっとよく解んないけど、基本的にぽよ様が扱うものは謎の力でピンク色に染色されている。

 

そう考えれば色の変化は、私の強さの証明みたいなもの! よ、よかったぁ! 未来の私が真っ先にそのことについてセイア様に伝えなかったと言うことは、このまま頑張れば大丈夫ってことだよね! よっし! じゃあもっと食べるぞー! おー!

 

んじゃ早速まだ残ってるビンテージ銃を一口……、んん~! 美味しい!

 

 

『! ぽよ! ぽよよ!』

 

「ふぇ? どうしたんですか急に?」

 

『ぽよー!』

 

「え、踊るんですか!? ここで!? は、はい! すぐに!」

 

 

 

 

 

デデデーデ デデデ!

 

デデデーデ デーデ!

 

デデデーデ、デデドンドン! デデーデデデ!

 

 

「『ぽよ!』」

 

 

 

その瞬間私の体から響く、ぽん! という音。そして感じる、視線の異常。

 

なんかこう、高くなってる? え、何? ぽよ様なんで『頑張った』みたいな顔してるの!? というかセイア様の顔が! お顔が凄いことに!? ど、どうしちゃったんですか私!? え、え? ぽよ様!? 鏡で自分の頭見たらいいんですか???

 

御大に言われた通り、ポケットに入れてあった手鏡を掲げ、自身の頭上を見る。

 

するとそこにあったのは、私のヘイロー。十個の丸のうち、一つだけ蒼く染まったそれが……、桃色に、光り輝いている。十分割されたお姿だが、完全なるぽよ様が、そこに。

 

 

「と、灯ってるぅぅぅ!!!!!」

 

「踊ったらデカくなった!?!?!?」

 

『ぽよ!!!』

 

 

あ、なんか御大からイメージが降りて……?

 

えっと、『お友達と喧嘩しちゃったら、ちゃんとごめんなさいするんだよ? もし大変なんだったら一緒に付いて行ってあげようか?』ですか? ……い、いいいえ! た、確かにちょっとピリピリしてますけど御大のお手を煩わせるようなことは決して! えぇ! ちょっと同じ方向を向いてるはずなのに関係値悪くなってるのは確かですが! このマルコが何とか一人で解決して見せる故! なにとぞ! なにとぞお任せいただければ……!

 

 

『ぽよ!』

 

 

頑張ってね? え、えぇ! もちろんでございます……!!!!!!

 

 




〇こどもビール(ホーリーナイトメア印)

キヴォトスの神秘のせいか、マルコのせいかは解らないが、トリニティの特殊な土地でのみ採取できる宝石のような輝きを持つリンゴ。そちらを特殊な加工を経て存分に使用したプレミア炭酸リンゴジュース。ハーちゃんことハスミが試飲したところ超大絶賛を受けた魅惑の品。(なお品が品なので値段がヤバく、それを聞いたハスミはぶっ倒れた)

会談の後にマルコからセイアに謝礼として大量に送られた。後日通常のリンゴを使用したビールが一般販売される予定。婆やも安心、ノンアルコール!


〇セイアとマルコの計画

サンクトゥス分派のトップと、トリニティが誇る巨大企業の主。いわばトリニティの貴族のような存在が私達さ! それ相応に使えてくれてる人数も多いから、没落はもちろん影響力の喪失が起きただけでトンデモナイ損害が生まれるよ! つまりナギちゃんが政争を仕掛けてきてるのに応戦しなかったら、最悪みんな路頭に迷うことになっちゃうよ! やばいね! でもナギちゃん様の疑心暗鬼が極まっちゃってるからもうどうしようもないね!

しかもここトリニティだから、“頭トリニティ”な派閥の子たちが変に暴走していつでも大戦争! な可能性を秘めてるよ! つまり『誰から見ても、戦えば両方とも消し飛ぶ』レベルの解りやすい『均衡状態』を生み出す必要があるよ! もちろんナギちゃん様の心労がヤバいことにならないように、良い感じのかじ取りが必要だよ! だって相手側のトップがぶっ倒れて派閥が制御不能になったら終わるじゃん! ひゃー! 地雷原!

というわけで! 和解する手段を模索しながら“敵対しているようなポーズ”を維持する体制に頑張って移行していきまーす! お互いに力を高めあい、来るべき敵をぶっ飛ばせるように準備中ってかんじ! 細かい舵取りなどの政治はセイア様が! 武力の向上や資金源の構築と維持はマルコちゃんが担当するよ!


〇どこかから“お茶会”の情報を手に入れたナギサ様

マルコがセイア(サンクトゥス分派)と同盟を結んだと理解した彼女。相手がより強くなったことで心労ポイントがまた一つ重なったが、ミカちゃん様が察知し一緒に遊ぶなどして治癒した結果、完全回復した上に強化も入った。




〇ぽよ様(マルコが感じたイメージを意訳したもの)

マルコが内心めっちゃ反省した上で、ナギサ様に申し訳ないと思っているのを感じ取ったので『出発!』まではいかなかった。とりあえず自分で頑張るみたいなので応援してる、でもお友達が困ってて誰かと喧嘩しちゃいそうになってるのならいつでもお助けしに行く予定。がんばってね~!

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