五千年生きた魔法使い   作:湯瀬 煉

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秋に書いたやつです。季節外れですね。


秋には焼き芋を食べるといいらしい

そうだ。焼き芋を作ろう」

「焼き芋ですか?」

 俺が思わずオウム返しすると、師匠はいつも通りの自慢げな顔を見せた。

「そう。そろそろ秋だからね。秋には焼き芋を食べるのが良いんだよ」

 師匠がまたわけのわからないことを言っている。おそらくだが、昨日見知った情報をウキウキで試したがっているに違いない。そういうとき、師匠はまず知識自慢から入るのだ。

 長い耳と豊かとはいえない体つき。俺よりも遥かに年上にも関わらず、瑞々しく若々しい見た目。幼さすら感じる顔で笑顔を向けられた日には、誰しもが心を和ませるだろう。本人は年上らしさを演出しているつもりなのかもしれないが、幼子が家族に自慢話をしているように見えて微笑ましい。

 この世界には魔法というものがる。詳しいことは俺は知らないが、魔力という体に蓄えられた力を使って様々な奇跡を起こすものだ。俺たちは一般に魔法使いと呼ばれ、特に師匠のような優秀な人間は、俺のような出来損ないを弟子として雇ってくれる。

 さて、魔法にはいくつもの種類があるが、中には禁術と呼ばれる、禁じられた魔法もある。人類には早過ぎた魔法と呼ばれ、発案者も含めた全員がその使用を禁じられるのはもちろんのこと、実験することすら禁止とされている。俺が今体得しようとしている不老不死の魔法もまた、そんな禁術のひとつ。もっとも、不老不死の禁術に関しては誰も実現すらしていない難関中の難関だが。

 ちなみに。これら禁術は人類には早過ぎた魔法だ。つまり人類でなければ、使っても構わないという解釈も出来る。いや、無理矢理そう解釈しよう、そうしようということで研究も実践もしている不良エルフがいる。俺の師匠だ。

「まあまあ。そんなまたか、みたいな顔しないでよ。これをごらん。異世界観測記録鏡をごらん」

 そんな師匠は、ずいずい、と俺の顔に鏡を近付けてきた。禁じられた魔法の編み込まれた、師匠お手製の道具だ。よほど出来がいいのか、毎回誇らしげに名前付きでぐいぐいと差し出してくる。

「もうちょっと短い名前にならないんですか?」

 正直、絶賛のコメントはし尽くしたまであるので、今回はそんな文句を飛ばしてみる。

「分かりやすいじゃん。それに、並行世界観測装置とか言われても堅苦しいでしょ? 適度な異世界ファンタジー感が良いんだよ、こういうのは」

「イセカイ、という言葉もまあまあ分からないですし、なんなら師匠の言っていることのほとんどを理解していませんけど、まあいいです。いつものことですから」

 俺が理解を放棄すると、師匠は不服そうな顔で解説を始めようとしていた。小さくかわいらしい唇を開こうとしている。

「それで、師匠。焼き芋ってどうやって作るんですか?」

 話が完全に脱線してしまう前に、俺はさっさと話を戻すことにした。俺自身は師匠の講義をいつ、どれくらい受けても苦痛じゃないけれど、師匠がやりたいことが出来なくなるのは良くないんじゃないかと思う。実際、俺への文句、愚痴、突発的な専門用語の解説で数時間を潰し、ひどく後悔する師匠の後姿を幾度となく見ている。

「分からないけど」

「は?」

「だから、分からないよ。でもディークは料理上手だし、言ったら何となくで作ってくれるかなって」

 なぜか誇らしげな師匠の顔を見て、思わずため息をつきそうになる。料理上手ならば、名前を聞いただけでどんな料理も再現できるとか思っているんじゃないだろうか、この人は。その感覚は、分からないでもない。俺だってこうして弟子として色々と学ぶ前までは、魔法使いなら魔法でなんでも出来ると勘違いしていたし。

「……。……名前から推察して作るぐらいしかできませんけど、それでも良いですか?」

 俺がそう答えると、師匠は子供みたいに明るい顔になった。

 

 

 焼き芋。書いて字のごとく、芋を焼く料理なのは確かだ。幸いなことにシチューが好きな師匠のために芋は買い貯めている。後はこれらをどのように調理するか、なのだろうが。

「うーん……」

 分からない。普通に芋を焼けばいいのだろうか。そもそもどう焼けばいいのだろうか。

 俺は師匠の持つ異世界観測記録鏡を見ることが出来ない。それは俺が人間だからで、禁じられた魔術は、いかに人外の魔法使いの弟子といえども扱えない。だからこそ、俺の不老不死の研究も、対外的には師匠の研究の手伝いということになっているのだ。仕方がない。こうして悩んでいる間にも時は流れているのだから。

 そう思い、俺は師匠に話を聞くことにした。

「師匠。せめて、焼き芋という料理の外見だけでも教えてくれませんか」

 外見を見るだけでも、だいぶ予想がつくだろう。いや、ついてくれという必死な願い。藁にも縋る気持である。

「えっとね……。こう、紫色の細長い芋をね、こう、石の上に置いてて……なんか、文字が書かれた紙で包んで食べてたよ。冬の名物なんだって」

 果たして、師匠に尋ねてみて正解だった。まず俺たちの家に紫色の芋はない。育成法が特殊なのか、保管方法が特殊なのか、或いは別の種類の芋を使うんだろう。

「いや……でも。なんだかそういう芋を見たような……」

 必死に記憶をさかのぼる。確かに見た。俺は特別記憶力がいいわけではないが、なぜだか今回に関しては、記憶に残っている。

 必死に頭を回すと、案外すぐにその答えは出てきた。

「あ。北方の村ですよ。前に、一週間かそこら滞在した、あの」

 北方、国境の村。かつて師匠と俺は仕事をしたことがある。めったにない遠方出張、くわえて数日間とはいえ滞在している間は目一杯のもてなしを受けたから印象深かったのだろう。確かあそこの料理で、紫色の芋があったはずだ。

「どうします? 俺がひとっ走りすれば夜までには入手できますよ」

 師匠は俺がそういうと、少しだけ悩まし気な顔をして、しかしすぐに返答した。

「いや、芋を少し送ってもらえるよう、手紙を送るだけで大丈夫だよ。急ぎじゃないし、わざわざ私がいち早く焼き芋を食べるためだけに貴重なディークの数時間を奪うわけにはいかないからね。焼き芋づくりは延期」

 珍しい。例の北方の村に行く前の師匠ならすぐに頼むよ、と送り出していただろうに。そう思いつつ、口には出さずに、俺は村の知り合いへ宛てて、手紙を書くことにした。

 

 

 それから三日後。俺たちが想定していたよりも早く、芋は届いた。しかも焼き芋の作り方についての説明付きだ。

「手紙にはなんて?」

「焼き芋も作り方と、あとよければまた二人で来てください、だそうです。師匠が助けた病気のおじいちゃん、もう畑に出られるくらいに元気になったとか」

「ふーん」

 自分から聞いておいてひどく淡泊な答えだったが、いつもの事なので言及はしない。俺はおとなしく手紙に書かれた通り、調理を進めることにした。

 

 実際、調理方法そのものはそこまで難しくなかった。石と一緒に芋を熱して、あとはタイミングをみてひっくり返すなどして焼き上げるだけ。

 寒冷地体で獲れるこの芋は、普段はあまり甘くないが、加熱することで柔らかく、かつ甘くなるのだとか。作物があまり取れないときでも食べられるからと重宝していたものの、色合いも不気味だし、基本的に甘くないし硬いから売れない、そんなポジションの芋だったそうな。マニアの間では有名だが、そこまで広く売られている芋ではないとのことで、今回俺たちが知っていて驚いたと、手紙にはそう書かれていた。

 師匠が見た異世界とやらが特別寒いのか、それとも寒い地域を写し見たのかは分からない。シンプルに、異世界を見たのではなく、北方の料理も知っていただけかもしれない。焼き芋を食べるためにわざわざ、異世界の料理と紹介する必要があったのかといわれると、そんなことはないとは思おうのだが……ともかく。

「美味しいね」

 そう言って微笑む師匠の顔が見られただけで十分かなと、俺はそう思っている。美味しいものを、大切な人と食べられているのだから幸せだ。

「はい。この寒い季節には特に」

「言ったでしょう。秋には焼き芋を食べるべきなんだって」

 村の知り合い曰く、これは今よりももっと寒い、冬の食べ物らしいのだが。そこは言及しないでおく。言ったら師匠、拗ねそうだし。だから俺は、

「そうですね」

とだけ返し、焼き芋を頬張った。

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