ホントに病むからやめて。
褒め称える感想とかはすごく嬉しいからぜひ下さい。
ストレス発散のために書いてるからね。
ところで個人的に「俺レベ」かなりハマったんだけど皆さんはどうですか?
私はコミックと小説をピッコマで制覇、アプリは途中……リナが実装された辺りまでは全キャラコンプでアプリリリース以降皆勤賞でした。強化に疲れてやめたけどね……。
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›魂の意思確認を実行
[輪廻転生の拒絶意思を確認しました]
›魂の意思確認を実行
[疑似転生の願望意思を確認しました]
›魂の意思確認を実行
[願望過多・・・最適解を模索中]
・
・
・
[・・・完了しました]
[隔絶世界への疑似転生を推奨]
›魂の意思確認を実行
[・・・隔絶世界への転生意思を確認しました]
›魂の意思確認を実行
[輪廻世界永久追放の承認意思を確認しました]
›魂の意思確認を実行
[願望過多・・・最適解を模索中]
・
・
・
[・・・完了しました]
[願望の統一を実行・・・失敗しました]
[願望の統一を実行・・・失敗しました]
[願望の統一を実行・・・失敗しました]
・
・
・
[全願望の統一を不可能と断定]
[最多の同系統の願望のみの統一を実行・・・]
[・・・完了しました]
›魂の意思確認を実行
[統一不可能な願望の放棄意思を確認しました]
›魂の意思確認を終了
[これより不要な魂を隔絶世界へ投棄界放します]
[・・・・・・完了しました]
・
・
・
›輪廻世界の生命総量が規定値を下回りました
›これより外界からの新たなる魂の流入を開始します
›異界の神々の承認を────────
【プロローグ】
大気を震わす歓声雷動。大地を揺るがす手舞足踏。古代ローマを想わせるアンフィテアトルム。遥か遠き現代が日本の地にて再び日の目を見たコロッセオは、すり鉢型の観客席が満員を優に越した超過密満員状態と相成っていた。
収容人数25万人の会場へ集う、およそ30万人の観客が見つめる先はただ一点。中央に置かれた円形闘技場だ。
鈍色の魔鉱石で造られた石舞台。アリーナには二つの人影が在り、舞台の直上へ浮遊している空間投影式の円形ディスプレイが肉眼では目視し難い舞台の状況を映していた。
無論のこと、ただ舞台上を映すのみにはとどまらない。
各所へ設置されている“魔動式超高速度カメラ”や“新型映像補助機器”の数々により、非ハンターの観戦者であろうともアリーナでのすべてを把握できるように配慮されていた。
ゆえの大喝采である。
試合を見届けた誰もが、声高らかに拍手を贈っていた。
ゆえの大足踏である。
興奮冷めやらぬ人々が、手では足りぬと足を踏み鳴らす。
客席だけでは飽き足らずに、ネットを介して観戦していた世界中の視聴者が、二桁億人へ届く熱狂的な“ハンターコロシアム”のファンが、此度の“敗者”の健闘を讃えていた。
全世界が認めざるを得ない“地球史上最強生物”の称号を冠して久しい、少女の如く愛らしい“怪物”に敗れた新たなる“強者”の健闘を。開始2分で地に伏してしまった、否。2分もの間、彼の“天災”を相手に闘い続けた日本で“30人目”となる“S級ハンター”の奮闘を。近年稀に観られる大激闘の終演を、世界中の人々が熱狂をもって讃えていた。
そこに「否や」を唱える者なぞ存在しない。
此度の審判を務めていた“
勝者の宣言────。
それをもってして
実況席兼審議用の席へ着いた静の行動を映し出すディスプレイを目に、観客のボルテージはますます高まってゆく。
今現状でさえ騒々しいを通り越しているにもかかわらず、果たして締め括った後はいかほどの騒ぎへと達するのか。儚げな美貌に若干の嫌気を見え隠れさせつつ、静の口が開きかけた直後。否や『待った』の指示が彼女を目掛けて飛んだ。
無言の指示元は、誰あろう舞台の上の“勝者”であった。
アリーナで日本の伝統的装束に身を包む、二十代半ばに在りながらも日常的にセーラー服を着こなせる成人女性。日本ハンター界の頂点に立つ“見た目は
彼女の前には膝を屈し肩を荒げた青年がいる。
両手へ短剣を握り締めたままの青年にはどうしてか、諦めた空気はまるで見受けられない。万人が万人、終わりを観る中でいて彼だけは未だ闘争の真只中の様子であった。
その状況へ興奮していた観客もようやく理解が追いついたのか、会場は徐々にだがしかして確実に静まり返ってゆく。
静は、手に持つマイクをそっと戻した。
「おいおい。きみ、まだやる気かい?」
少年のようにも、少女のようにも、大人のようにも、子どものようにも聴こえる鈴音の美声がコロッセオに流れだす。
審判へ指示を出した、集音マイクの拾った覇者のものだ。
黒地の伝統装束の襟を気持ち正す振る舞いを見せた彼女は、若干の呆れを滲ませつつも目の前の青年を注視していた。
相対するのは当然、青年の低くも若々しい男声だ。
「まだも何も……始まったばかりだろ? 勝手に終わらせてくれるな最強。俺は「まだやる気」だよ。状態の回復」
青年の言葉の最後は、まるで囁くようであった。
それは高性能の集音マイクですら拾えぬ音階だ。
少なくとも観客に聞き届けた者はいないであろう。
何かを口にしたことは分かっても、到底言語としては理解の及ばぬ呟き。あるいは言語ですらないのかも解らぬ一言。しかしてそれが意味なき言葉でないことは、顔を上げて立ち上がった青年から失せた疲労の度合いを見れば明らかだ。
先まで確かに限界も限界の状態にまで追い込まれていた彼は、まるで別人の如く腕の柔軟をしつつ不敵に笑っていた。
コロシアム内に先とは違う、ざわめきが広まってゆく。
立った姿への驚愕。
滲む余裕への動揺。
足掻く姿への嘲笑。
それらは瞬く間に伝播し、そして大半は期待に転じた。
他に類を見ぬ圧倒的数の“召喚魔法”を組み込む高速近接型
あるいは彼ならばと、青年の勝利を叫ぶ弱者贔屓の者。無敗の頂点に黒星を望む性根を腐らせた者。もしもの
「へー、ふーん、う~ん、ウン! まさに“劇”的だネ!」
右の客席を観て一つ。左の客席を観て一つ。そのままくるりと一回転してまた一つ、しげしげ頷く可憐な災害。目を惹く美貌に瞬く、情の色褪せた瞳が今一度青年を映し観た。
何を見ているのか焦点の定まらぬ無機質な瞳は、愛らしい美貌に咲く笑みのなかでどこまでも不気味な雰囲気を放つ。
それでいて当人の纏う空気は穏やかに楽し気であった。
「読者の燃える展開ってやつ? 『一度は倒れた主人公の復ッ活ッ!』そこから始まる『怒涛の快ッ進ッ撃ッ!』」
身振り手振りで物語る大女優が如くに怪物は謳いだす。
会場の動揺戸惑いなぞお構いなしの
「『ひた隠してきた切り札による逆転ッ!』『窮地を脱した真の能力の開示ッ!』そう、それはまさに『最弱から始まった最強へのサクセスストーリーッ!』ああッ! なんて“劇”的なんだろうッ! きみは正しく主人公ッ! 最強伝説は今日ここから始まるんだネッ!? うんうん! 実に素晴らしきカナ少年誌的胸熱王道展開ってやつだよぉっ!」
両手を天高らかに、袖を翼の如くに振り広げての
突然の最強による独り劇場へ反応した者は極少数だ。
その中の1人、審判の静は戻したマイクを手に持った。
まるでこの後の展開が予定調和であるかのような仕草だ。
そして、
「なーんて、此処は
熱血譚へ思いを馳せ、恋焦がれる役を演じた見目麗しき女優は、聖人君子も唾棄せざるを得ない悪役へと豹変した。
次瞬。
「つーか、E級がS級になった程度でこの僕と戦う気でいるとかさぁ。お前、頭に馬のクソでも詰まってんじゃねえの? イキリナメプは最強たる僕の特権だぜ?
「っ!?」
それは文字通りに“一瞬”の出来事であった。
やり遂げた舞台女優さながらに、頬を上気させたことで愛らしさのなかに色気を魅せていた美貌を一変。視るも悍ましき狂笑を浮かべた小さな悪魔が、観客の、機材の、すべての認識をすり抜けて、青年の首へ背中越しに抱きついていた。
そうして彼女は、
彼の耳元で愛を囁く恋人のように、
情も気も味も感じ得ぬ無機質な言の葉を紡いだ。
「お前はお呼びじゃねえんだよ
「────」
《……
「いっいぇ~いっ! ぴ~すぴ~す! 僕さいつよ~!」
静まり返った会場に、二つの女声が響き渡る。
舞台で独り戯ける勝者へ、拍手はまるで起こらない。
太陽を頂く空の下に、少女にしか見えぬあどけなき理不尽の化身──天御中なごみの無邪気な笑声はこだまし続けた。
「あ、僕へのチャレンジャーは随時募集中だぜ!」
ここに綴られるは一人の転生者による独り遊びの記録。
そこに
これはたった一人の人間が織り成す
【降誕人生録】
天御中なごみは転生者である。
前世を“知識”のみ引き継いだ転生者だ。
ゆえに自己に関しての“記憶”は一切覚えてはいなかった。
男であったのか。女であったのか。子供であったのか。大人であったのか。名前は何であったのか。家族はいたのか。友人はどうであったのか。恋人は存在したのか。何処に住んでいたのか。老衰で死んだのか。病で死んだのか。事故で死んだのか。そもそも死んだのか。何一つ自らの記憶を保ち得ずに、しかして生前蓄えたであろう情報を頭に産まれた。
ただ、彼女は自らの前世を大人の男であろうと判断している。知識の方向性や性的食指が女性にのみ反応するためだ。
あるいは生前──前世より
男であれ、女であれ、今生においては瑣末事なのだ。
なにせ彼女は“全能”であったのだから────。
◇
覚醒直後、其の者の抱いた感情は“不快”であった。
呼吸はできず。何も視えず。周囲には識っているようで身に覚えのない音や、遠くくぐもった話し声、緩やかな衝撃にもならない衝撃が響き続け、あげく思うように動けない。
しかし苦しいわけではなく、ただ生きるのに必要な全てを何かに依存し強制的に生かされているように其の者は感じた。
そして其の者の理解は覚醒のしばらく後に及んだ。
前世の感覚で呼吸を出来ぬは道理。何も視えぬのも当然。響く音は他人の血潮。くぐもる話し声は水の中であれば必然。動けば揺れるは自明の理であり、己の思うがままに動けるわけもない。其処は母体の胎内であったのだから。
なぜ産まれる前に覚醒したのか、其の者には分からなかった。が、目覚めたのであれば留まる理由はない。
其の者は、胎より自力で這い出すことを決めた。
あー、どうやって出るかな……?
其の者の脳裏へ過った刹那の思考に、応えは返った。
さも当然の如く、閃きとも似つかぬ答えが湧いたのだ。
ああ、そうだった
力を使って能力を創ればいいんだ
さしあたって当たり障りのない感じのやつを
うーん……、胎児だし自己強化系に免疫系と……、
感覚補助系に念動力辺りがいいかなぁ、うん
そうして其の者は母体への配慮も考慮も一切なしに、産道を力付くで開け広げ滑り落ちるが如くに突破してみせた。
母体の妊娠期間24周目の出来事である。
そして其の者は「なごみ」となった。
死に向かう母体、今生の母親が生まれ落ちた自身を手に、そう呼んだのだからそうなのであろうと受け入れたのだ。
『忌み子』
生後まもなく、名門財閥たる“天御中”家のなかに在って、なごみはそのようにして呼ばれ疎まれる存在になった。
母親殺しの、不吉の、不気味の、忌み子の、なごみ。旧家ゆえに分家筋や異父母の兄弟姉妹も多くいた一族のなかで、彼女だけは都内の本邸や別邸、あるいは離れでもなく、横浜へあてがわれたマンションの一室に押し込まれて育てられた。
家名を取らずに捨て置かれた理由を「父親によるせめてもの情けだろう」と述べたのは、お目付け役兼教育係である。
なごみに不満はなかった。
日本屈指の家柄。数え切れぬ血縁者。一族での立ち位置。一族からの扱い。総てを彼女は許容し、受け入れていた。
その方が「おもしろそうだ」という理由で。それだけでは飽き足らずに、幼いうちからなごみは率先して周囲─主に一族の同世代─を中心に煽り見下す活動へ励んだ。
勉強スポーツ芸事に。あらゆる分野で己の存在を刻みつけては、各分野で勤しむ一族の者へ“無関心”の瞳を向けた。
布石である。未来への。ドラマや漫画で描かれている財閥や名門一族、優れた兄弟姉妹の登場する“作品”には付きものであろう“天才と非才の確執”を生み出すための布石だ。
未来で異父母の兄弟姉妹が、あるいは血族の者が、逆恨みの報復に来る事を願ってなごみは幼少の日々を過ごした。
『全能』
ゆえに承認欲求の満たされる人生をなごみは堪能した。
世間的にギリギリで“人間の範疇”に留めてこそはいたものの、どんなことであれ最高の結果を手に周囲に畏怖され褒めそやされるのだ。他者の評価で己の心を満たせる人間でさえあれば、なごみの生涯は誰もが羨む一生となるであろう。
自重は徐々に、確実に、最低限の最低限になっていった。
気に入った者がいれば肩入れして優遇。そのなかでも特に気に入った者には“自重せず”に力を見せつけ取り込んだ。
少なからずアンチ─主に天御中家の異父母の兄弟姉妹と其処に連なる分家筋や従者の家系─はいた。が、障害には成り得ない。例え成ったとしても、どうとでも処理が可能であれば、むしろそうなることを望むのが彼女なのだ。
なごみは有頂天になっていた。
自身を好み、慕い、仰ぐ人々に囲まれ楽しむ日常に。
世界は、彼女にとって楽園と化していた。
そんななごみを狂喜させる事件が起きたのは、彼女が横浜私立淑嶺女学院中等部生徒会執行部会長へ収まった時分。進級まもなく、つまり中学一年生へ上がった直後であった。
『世界各地での同時多発的怪奇現象の発生並びにモンスターの出現、及び常軌を逸した異能力が発現する人々の誕生』
後に“ゲート”と命名されることと相成った怪奇現象。地球と何処かとを繋ぐ謎の発光する穴の世界的同時発生と、穴の向こうから一度でも這い出して来てしまえば人間を襲い街を破壊して回るモンスターの出現。同時に、まるでモンスターへ相対するためかのようなタイミングで人々が少しづつ、しかし確実に魔法の如き異能力へ次々と目覚め始めたのだ。
なごみは異能力に目覚めた者を──後の世の“覚醒者”たちのことやゲートの存在理由をしっかりと把握していた。
未来に待つのが“スキル”や“魔法”を当然とする世界である事実を前に、自重の必要性を欠いたなごみは狂喜のままに即応。抱え込んでいた面々を強制覚醒させ、当人の望む“スキル”を与え、世界初の覚醒者による自治組織を発足した。
世間には自治組織のことを“ギルド”として広めつつ、自組織の名を“
結果、世界初の“ハンターギルド”高天原は創設メンバーが女子中学生のみであったにもかかわらず世間の信用を獲得。政府非公認のまま“ハンター界”での地位を確立していった。
【原典侵犯】
ゲートの発生から十数年────。
名実ともに世界最高峰のギルドへと成長を果たした高天原は──否。なごみは、己の国を求めて終には手に入れた。
正しくは日本との折り合い─母国に泣きつかれた─のために一都市でこそあるものの、高天原のギルドマスター、なごみを頂点に置いた“特殊指定都市”を手にしたのだ。
“覚醒者の楽園”
“覚醒都市”
“百年先を生きる未来の都市”
“ハンターシティ”
“世界で最も人気の都市”
“女神の集う地”
“神々の楽土”
名を“
世間に「
また立ち入るには、横須賀、横浜、川崎、東京、千葉に架けられた五橋。交易船のみに開かれた海路。ヘリコプターでの空路。それぞれ五橋二路の総てに施行されている厳重な入都審査を超えなければならず、その審査を超えるには“紹介状”“招待状”“通行許可証”のいずれかが必須。つまり関係者以外はそうそう入ることのできない仕組みになっていた。
そのため外部の者が天都内部を知る機会はメディアや噂話に限られ、そういった情報には尾ヒレ背ヒレが付きもの。結果、天之都は現世の“桃源郷”や“エデンの園”として、誰もが一度は行ってみたい都市、あるいは移住ないし永住したい都市として、誕生以降不動の一位に君臨し続けていた。
無論、人気の理由はそれだけではない。
ダンジョンブレイクによるモンスター被害の絶えぬ現在。世界最強のハンターと、世界最高峰のギルドのお膝元というのは、何ものにも代え難い魅力、安全性があるのだ。
事実として日夜、著名人や政界の重鎮、大手企業や芸能プロダクション等からの移住移転の希望が後を絶たない。
その総てを受け入れるには、現状の天都は狭すぎるのだ──と。そういった建前を吹聴しつつ、希望者同士の蹴落とし合いを上から眺めるのが昨今のなごみの趣味であった。
◇
「にじゅーだんじょ~ん~?」
高天原ギルド本拠地。天之都の中心へ聳え立つ、螺旋を描いた
「はい。今し方ハンター協会へレイド参加者から通報があり、D級ダンジョンのボスを倒した後に未確認の────」
二重ダンジョン────。
その言葉になごみは覚えがあった。
物語の起。起承転結の起。水篠旬が初めて“カルテノン神殿”へ足を運び見事“プレイヤー”と化すイベント会場である。
水篠旬に“輪廻の杯”を、正しくは“最も眩しい光”に杯を使わせる気こそないものの、転生者であり原作知識を持つなごみにはさしたる興味も抱けぬ無価値に等しい情報であった。
強いて述べれば“一つの”原作軸の把握に成功した程度だ。
別段、水篠旬が“最強”になろうともなごみには関係ない。
いかなる相手にも勝つ自信があるのであれば、二次作品に有りがちな“先手を打って障害を排除”する必要はないのだ。
そこでふとなごみは思う。
水篠旬は原作開始時点ですでに幾度となく死にかけていた最弱のE級覚醒者。“人類最弱兵器”とまで揶揄されていた彼の入るレイドには、協会所属で顔馴染のB級
その
(そもそもカルテノン神殿直前で致命傷治してたような……? あの、えーと、名前なんだっけ……。つーか)
高天原ギルドはなごみの趣味により、副マスターを筆頭に構成員の多くを女性が占めた男女比2:8の女系ギルドだ。
そのため日本の女性覚醒者は大半が高天原入りを望み、海外の覚醒者であっても近年は高天原の門を叩く事が増えた。
またギルド加入資格を持たぬE級覚醒者であっても女性の場合や、戦闘を嫌う覚醒者、不遇のスキルを発現させた覚醒者等を高待遇で雇用。ハンターではなくギルドを支える一職員として級位に関係なく重用することでも有名であった。
つまり、前述の女性
高天原所属のハンターは、高天原ギルド専用掲示板へ提示されたレイドに自己判断で参加してゆく
さらに付け加えれば高天原のレイドエリア──縄張りには、他所のギルドや協会は絶対に近付こうとはせず。ダンジョンブレイク等の緊急時を除けば、高天原のハンターが他所属のハンターや協会と直接的に関わる機会はまったくなかった。
ましてや初期の水篠旬はギルドの加入資格を持たぬE級。所属はフリーか協会の二択となり、高天原所属のB級ハンターがどうあっても関与する機会なぞあり得はしない。
必然的に件の女性と水篠旬の関係は構築されないのだ。
するとどうなるか────。
(水篠旬、原作スタート以前にもう死んでんじゃねーの?)
昼寝特有の寝起き眼でぼうと宙を見つめたまま、ふとした己の気付きによって得も言えぬ遣る瀬なさを抱いたなごみ。
(主人公 始まる前に 終わっていた件。字余り)
やる気の欠片も窺えぬ一句を心内に読み上げ、自らの思考に区切りをつけたなごみの意識が不意に現実へと向かう。
ああ、そういえばなんか報告受けていたな──と。
そして、
目が合う。
常の無表情で、およそ「感情を失っているのでは?」と巷に噂されている無色の
國常咲耶。なごみの生家天御中にこそ及ばぬながらも、日本屈指の名家として知れ渡る國常一族の才女。怪物に人生を変えられた一人にして、家を捨てて最強に付き従う、なごみ至上主義の忠臣が、ただ静かに彼女を見下ろしていた。
「考え事は終わりましたか?」
聴者のいないなか、淀みなく報告をしていたであろう涼やかな咲耶の声音には抑揚がない。それが彼女の常である。
見知らぬ者はそれを恐れ、咲耶への苦手意識を持つ。
しかし、なごみにとっては違った。
「うん。それで?」
「二重ダンジョン。神殿。祭壇。神像。石像。どれも未知の情報だったので
咲耶は話を無視されたことに対して、怒りも苛立ちも不満すらも抱いてはいないことをなごみは理解していた。
國常咲耶はなごみのイエスマン。なごみを絶対とし、彼女の総てを許容し付き従う絶対の忠誠を捧げた狂信者なのだ。
黙してなごみを見下ろし続けていたのは、単に彼女の考え事が終わるタイミングを見計らっていただけに過ぎない。
「僕のじゃないよ。応援は……、他にいないの? おニャン子ギルドとか、なんかいっぱいいるじゃん? 最近」
「白虎ギルドはすでに向かったそうです。それとは別隊として後詰めで出して欲しい、と。協会はおそらくこの間の、マスターお手製“ダンジョントラップ”による事故を、騎士団ギルドの“ブレイクトラップ”の悲劇を恐れているのでしょう」
なごみは全能である。
全能とはすなわち「できないことがない」という意味だ。
ゆえにダンジョン“制作”やモンスターの“生成”は当然。既存のゲートの“コピー&ペースト”に“改造”や“ゲートの全自動ランダム生成を世界の理へ組み込む事”すらも可能なのだ。
それら全能なる力を、なごみは高天原ギルドと自らを誇示するためだけに遺憾なく発揮。世界に猛威を振るっていた。
無論、周知なぞしてはいない。これらの事実を知るのは極々一部の、なごみに対して絶対を誓う者たちだけだ。
咲耶の口にした「ブレイクトラップ」もその一つ。
なごみ製の二重ダンジョンに仕掛けられた罠のことだ。
通常、ゲートの先のダンジョンには、そのダンジョンの“核”とも言える“魔力源のボス”が一体存在している。
そのボスを倒すことでダンジョンへの魔力供給が停止。約一時間でゲートは閉じてゆく。が、二重ダンジョンの場合もう一つの“魔力源のボス”とダンジョンが存在しているのだ。
なごみは、その在り方を利用し人類側の意表を突いた。
ゲートは出現して七日経過でダンジョンブレイクを起こす。裏を返せば七日間は何があっても外側は安全なのだ。
ゆえに最初の誰かがダンジョン攻略に失敗しようとも、別の誰かが七日以内にボスさえ倒せれば問題にはならない。
そこでなごみは『一体目のボスを倒した後、ゲートの閉じる一時間以内に二つ目のダンジョンのボスを攻略できなければ強制ダンジョンブレイク』というトラップを仕込んだ。
それまでは例え二重ダンジョンであろうとも、ゲートの出現から七日間は安全という法則に変わりはなかった。
例え二重ダンジョンである事実を把握できるのが、一体目のボスを倒した後であろうと猶予さえあれば攻略は可能だ。
しかし、一体目のボスを倒した後『ゲートの閉じる一時間以内に二体目のボスを倒す』必要が出てくれば話は別。途端に時間的猶予も戦力的優位性も奪われてしまう。
事実、ブレイクトラップ導入以降、ダンジョンブレイクによる民間人の犠牲者の数はうなぎ登りと化していた。
そのなかでも最も凄惨な事態へと陥ったのが、騎士団ギルドのトップ攻撃隊が担当していた大阪でのB級ゲートだ。
なごみによって世界中のあらゆる場所へ、なごみ製ダンジョンが“ランダム生成”され続けているなか。騎士団ギルドは最悪の組み合わせである『S級ダンジョンが二つ目に隠れていた』二重ダンジョントラップを引き当てたのである。
結果、近年稀にある大災害が大阪の中心で発生した。
ゲートからはなごみの仕込んだS級ダンジョンのモンスターが湧き出し、ハンターとモンスターの大乱闘が勃発。報告を受けたなごみが赴くまでの一時間で民間人6000人強、ハンター200人弱の死者を出す最悪の結末を迎えたのだ。
「あー、あれは運がなかったよね~。まさかの宝くじの一等と同確率で設定していたS級トラップ引くんだも~ん。あそこのマスター絶対なんか憑いてると思うんだ」
にへらと笑ってなごみは言う。
「まったくです。ですが、お陰でマスターとギルドの評価はさらに高まり、我々の地位はより盤石なものになりました」
「だよね。咲耶わかってるぅ~」
「恐縮です」
己の行動で誰が死のうと顧みず。
身内以外を物の数としてしか認識しない。
エゴイストを極めに極めた天御中なごみの、唾棄すべき人間性を國常咲耶は当然の如くに許容し共感していた。
「んじゃま。行こっかな」
「よろしいのですか? マスターのダンジョンでなければブレイクトラップの心配は無用。他の者に任」
「ついでに生存確認したいし」
咲耶の言葉を断ち切るなごみは徐ろに両手を伸ばす。
そんななごみの振る舞いに、咲耶は瞬時に応えてゆく。
抱き抱えて、立たせて、脱がせて、身繕いして。
その間に言葉の応酬が途絶えることはない。
「かしこまりました。移動手段はどのように」
「自前」
「お召し物は」
「いつもの」
「おぐしは」
「ストレート」
「本日の夕食は」
「蒸籠の小籠包っ! 揚げはダメだよっ!」
「かしこまりました」
物の十数秒で身支度を整えれば、そこには桃色のセーラー服に身を包む愛らしい十代前半と思しき少女が立っていた。
齢二十歳を超えても尚、中学一年生の容姿から一切の成長を見せぬなごみが“不老不死”である事実を知る者は少ない。
「うん。ばっちりだね」
一つ頷けば、
二度三度。
したり顔で。
満足気に。
なごみは頷いた。
そして、
「じゃあ行ってくるよ」
いってらっしゃいませ──と。
咲耶が口にするよりも早く。
なごみは姿を消した。
◆
(一時間経過……。これ以上の被害はなさそうだな)
薄暗闇の洞窟を足早に、男は安堵の息を密かに吐く。
D級レイドでの二重ダンジョン出現の通報を受けたハンター協会監視課課長“
昨今の“異常現象”の相次ぐゲートでは何が起きても不思議はなく。周囲に実力を評価されてこそいるものの、監視課最強の犬飼はA級。もし“事”が騎士団ギルド同様のS級案件であれば対処のしようがないため、都合よくS級ハンターの白川を招集できたのは監視課にとってまさしく行幸であった。
また、数年前に
「見てください犬飼ハンター。あそこに誰かいます」
靴音と、ハンターたちの装備が奏でる金属音のみの気不味い空気のなかで、不意に立ち止まった白川が指差して言う。
其処は行き止まりの、小さな空洞であった。
まかり間違っても「神殿」とは程遠い景観。強いて上げれば空洞の中央へ場違いに鎮座している、「誰か」が横たわる“石台”こそが辛うじて“名残”を思わせる程度であろう。
通報によって把握していた事前情報とのあまりの差異に、犬飼は眉間に皺を寄せつつ先頭の白川へ所見を述べてゆく。
「見たところ行き止まりのようですね。報告にあった祭壇や神殿はもちろん、神像や石像も見当たりませんが……。状況的におそらくは“彼”が、最後の生存者の言っていたレイド参加者のE級ハンターでしょう。残念ですが、もう……」
生存者の事前報告を耳に犬飼は予想していた。
結果も見え透いていたのだ。
D級ダンジョン単体であればまだしも、二重ダンジョンに成ってしまえばE級ハンターの生き残る確率は“0”だと。
ましてやE級ハンターが一人で残れば、例えただのD級ダンジョンであったとしても生き残るのは至難の業なのだ。
「そう、でしょうね。“彼”は立派な、いえ。行きましょう」
歯切れの悪い白川も犬飼と同様の結論なのであろう。
“彼”を意識しないよう周囲を警戒しつつ進み始めた。
「……、はい」
遣る瀬無い思いに一つ頷いた犬飼が白川に続く。
薄暗闇のなか厭に靴音と装備の上げる金属音が煩く聴こえ、犬飼は警戒心と集中力をかき乱される思いをしていた。
しかし、それは彼だけではない。
その場を行く全員が同じ思いを抱いていたであろう。
ゆえにこそ、みながいつも以上に警戒していたのだ。
そして、
「なんだ。生きてるじゃん」
『────』
部隊の面々は、武器を構え戦闘態勢を整えた。
有無を言わさぬ反応速度は部隊の実力の証明であろう。
だが、そこまでであった。
「ご都合主義? それとも特権ってやつかな? けらけら」
「────、あ、ま」
「────な、なぜ」
「────うそ」
「────ど、どっから」
視線の先に、彼らの進む先に、少女がいた。
場違いにもほどがある、日本で屈指の名門女子中学校が誇る桃色のセーラー服に身を包む小柄で華奢で可憐な少女だ。
腰まで伸ばした栗色の髪。トレードマークの黄色いヘアリボン。手折れてしまいそうな体躯に見合わぬ、他を圧倒する絶対的存在感。ハンターに、否。世界に知らぬ者なしとまで謳われている、少女の皮を被った怪物。日本で唯一の“国家権力級”ハンターにして世界史上最強の超人類────。
“天災”の異名を持つ化生────。
天御中なごみが石台を前に悠然と立っていた────。
「天御中ハンター! 貴女がなぜここに!?」
犬飼の驚愕を孕んだ叫びが洞窟内部に反響した。
彼を筆頭に、部隊の誰もが周囲の警戒をしていたのだ。
無論、そのなかにはS級ハンターの白川も含まれている。
何が起きるかわからない二重ダンジョンのなかであれば当然であろう。ゆえに、不意の少女の声にみなが即応できた。
にもかかわらず部隊の正面。彼らの進行方向であり、行き止まりに有る石台の目の前になごみは忽然と立っていた。
誰に気づかせることもなく。
最初から其処へいたかのように。
「なぜって協会の、あー、いいや。それより犬飼課長」
動揺を隠せぬ面々を前にして、しかし気にも留めずになごみは石台の上の“彼”を、“彼”の足首を無造作に掴み上げた。
その行いに全員がぎょっと目を剥く。
死体だ。
人の死体である。
犠牲者なのだ。
仲間を逃すために死を前提に一人残った犠牲者である。
それを物のようにして掴み上げた非道な天災の振る舞いに、犬飼や他の者が口を開くよりも先に彼女は行動を終えた。
「ほら、生存者だよ。犬飼だけに取ってこーい、なーんて」
「なっ!?」
距離にして約30メートルの投擲。ハンターとはいえ成人男性一人を片手で軽々掴み上げたあげくに、放物線を描かぬ直線距離で放ってみせた膂力の余波を、指名されてしまった犬飼は正面から受け止める羽目に相成った。
同時に、聴き逃がせない言葉を彼は必死に咀嚼してゆく。
(生存者……、生存者だと? 天御中ハンターはE級の彼が生存者だと言ったのか? ありえるのか? いや、まさか彼は再覚醒を……、だとしたら、ん? 待てこれは────)
犬飼の思考はそこで止まった。
よくよく思えば、飛んで来るままに“彼”を受け止めてしまえば、“魔法”によって鉄以上の硬度を誇る鎧へ打ちつけられる形で、生存者を殺しかねない事実に彼は気づいたのだ。
本当に生きているのか。怪物による悪辣極めた冗談なのか。どちらにせよ、来るがままに受け止めるわけにもいかず。彼は目と鼻の先へ迫った物体を、器用に横から抱きとめる形で横回転を加えつつ華麗に受け止め事なきを得てみせた。
「ほ……、本当に生きてる。天御中ハン……た、あ?」
受け止めた青年の安否を確認しつつ、犬飼が非難の視線を上げれば其処にはただ静かな薄闇の空洞が広がっていた。
初めから何もなかったかのように影も形もない。
狐につままれた気分を味わいつつ、確認がてら犬飼が白川を見れば、彼もまた同様に愕然としているだけであった。
他の面々も反応こそ違えど同じ様子を晒している。
犬飼は、何とも言えぬ空気を変えるようにして口開く。
無意味であると知りつつも、開かずにはいられなかった。
「……。あの、白川ハンター。天御中ハンターは……?」
「消え……、ました。幻のように」
「そう、ですか。消えて……。はは、相変わらず、ですね」
「はい。ふっと。……。天災、か。やはり恐ろしいな」
白川の最後の呟きは聞き流し、犬飼は生き残った最後の一人──水篠旬を背負って急ぎ足でダンジョンを脱した。
次に遭った*1のなら一言物申そうと決意して。
▼
西日の射し込む、ハンター協会本部の一室。
無機質でありながらも最低限のインテリアによって飾られたベーシック調の会長室にて、書籍で埋まった書棚を背に執務へ勤しむ、老成した白髪の偉丈夫がふっと視線を上げた。
瞬間。
彼の瞳へ桃色のセーラー服に瑞々しい白磁の柔肌と、真赤なローファーに白のソックスの揺れ動く光景が映り込む。
明らかに不自然、場違いな状況であった。
例えるのであれば、校長室の校長の前で寛ぐ生徒の図だ。
にもかかわらず、男は厳しい顔へ柔和な笑みを浮かべた。
「おや、いらしていたのですか」
「今ね」
偉丈夫の厳かでいて優しさの滲む老声に応えたのは、黒革のソファで腹這いになって週刊少年誌を読む少女の美声だ。
彼女は膝上丈のスカートを穿いている自覚がないのか、あるいは男の視線を気にしていないのか、事務机へ足を向けたまま、ぱたりぱたりと美脚を交差させて読書へ耽っている。
会話のためにと、偉丈夫へ向き合う様子は窺えない。
その体勢のまま、週刊少年誌を読んだまま、少女は続けた。
「さっき課長にあったよ」
「犬飼くんに? ふむ……。ああ」
歳の差四周はあろう少女の態度へ気分を害した様子も見せずに、偉丈夫は彼女の言葉にしばし考え得心顔で返答した。
「二重ダンジョンへ行っていただけたのですね? ありがとうございました。何事もなかったようでなによりです」
傷だらけの顔を破顔させ、好々爺じみた偉丈夫は笑う。
彼の様子からは本気の安堵と感謝の念が滲み出ていた。
それでも少女の態度は変わらない。
変わらずに、週刊少年誌のページを捲りつつ、言う。
「僕は何もしてないよ」
「だとしても、です。あなたの存在はとても大きい」
「ふふ。ごますりのつもりかい? 大変だね会長は」
そこで少女は、ようやく偉丈夫を視た。
正しくは目を細めつつ、後目に視た、であろう。
彼女の口端をつった横顔はいっそ嘲笑の相好に思える。
「はっはっはっ! 大変なのは否定できませんね。しかし、あなたの存在が大きいのは事実です。日本ハンター協会の会長として、一人のハンターとして、何よりも────」
豪快に。楽し気に。愉快気に。大口を開けて呵々大笑とした偉丈夫は、まるで真剣味を窺わせない少女へ一層と優しさに溢れた双眸を向けつつ、己の胸にそっと手を当て言紡ぐ。
「命を救われた者として……。私にとってあなたの存在はとてつもなく大きなものなのですよ。ご存知の通り私の心臓は病んでいました。あなたがいなければハンターとして戦うことはおろか、生きることもままならなかったことでしょう。しかし、今は執務の合間に若者たちと戦場を共にできる。これもすべてはあなたが私を治してくれたお陰なのですよ?」
明朗快活に言葉を羅列し始めた偉丈夫に反して、先までふてぶてしく嘲笑っていた少女の顔が不快気に歪んでゆく。
「もちろん私だけではありません。他にも多くの者たちが、ハンター、非ハンターに関係なく、あなたという強大な存在によって支えられながら生きているのです。それをどう」
「あーはいはいはいおーけーおーけー聞き飽きたよそれ」
まったく──と、ぼやきつつ少女が身を起こす。
彼女の幼く可憐な美貌には呆れの色が強く浮かんでいる。
果てには右手の小指を耳の奥へねじ込みつつ「耳に胼胝じゃなくて蛸が住み着いちまったぜ」と、一人ごち始めた。
そんな少女の様子を、さながら孫娘を愛おし気に見守る祖父の如くに、偉丈夫は嬉しそうに眺めつつ口を開く。
「どうやら機嫌は直ったようですね?」
「お か げ さ ま で。一周回って、ってやつさ」
「はっはっはっ! それはなによりです。差し支えなければ不機嫌だった原因をお訊きしてもよろしいですかな?」
「食えないジジイめ。これだよ」
応えるやいなや少女は偉丈夫の事務机へ足早に寄って行き、手に持っていた週刊少年誌を天板へ力強く叩きつけた。
およそ三桁キロの重厚な机が跳ねたのは錯覚であろうか。
「これは……? ふむ。ほう。うーむ」
「黒スーツの筋肉爺さんに週刊少年誌ってシュールだね」
偉丈夫は開かれていた週刊少年誌を読み進めてゆく。
少女はそれを腕組みの姿勢のままに眺めて嗤っていた。
「なるほど。つまりこの結末が気に入らなかった、と?」
「そうだよ。ありえないでしょこれ」
「私は詳細を知らないので……。それに漫画も読んだことがほとんどありませんが、これは要するに物語のすべてが」
「夢でしたーってオチなんだよ。ウケるよね。けらけら」
苦笑気味の偉丈夫から週刊少年誌を奪い取り、閉じた状態のまま破り千切った少女は両手に火を灯し総てを焼却した。
華やかに微笑む彼女の表情は、酷く冷淡だ。
「作者も出版社も関係者も全員夢にしてやろうかな」
「それはやめてください。それよりも、こちらをどうぞ」
「考えとく。で、なにこれ」
誰もが呆れ返るであろう子供じみた不機嫌の理由に、これ以上の深入りをよしとはしなかったのであろう。
偉丈夫は話を変えるようにして、机の引き出しから取り出した【極秘】印の大きな茶封筒を少女へと手渡した。
「高天原ギルドへの入会申請書や各種必要書類です」
「あー、最近ほんとウチ希望のひと多いよねー。海外からの移籍希望も増える一方だし、ひょっとして繁忙期かな?」
少女は気怠げに【極秘】印の茶封筒の口を破り捨てた。
中身は記入済みの書類や顔写真付きの履歴書だ。
「ええ。ただ今回の覚醒者の一人は例え本人が希望されずとも、高天原ギルドを協会として推薦していたでしょうね」
「つまりE級の女性ハンターってことね。って、おー? この子ナマJKじゃん。活きがイイね~、命知らずだね~」
慣れた手つきで履歴書を流し読んでゆく少女がぼやいた。
それを目に、偉丈夫は頷きつつ重々しく言葉を紡いだ。
「そうです。そしてその件についてお願いがありまして」
「内容によるね。察しはつくけど」
ため息混じりの少女が履歴書を眺めつつ素っ気なく返す。
偉丈夫は気にした風もなく続けた。
「そう難しい話ではありません。ただ彼女を、朝比奈りんさんを「高校は卒業するように」と説得して頂きたいのです」
「中退覚悟でハンター志望の思春期の説得ってムズくね?」
「確かに普通であれば難しい年頃でしょう。しかし、説得役があなたであれば話は別ですよ。世界が一目置く傑物。ハンター界の頂点に君臨している、彼女が所属希望を出したギルドのマスター。天災の天御中なごみハンターであれば」
少女──なごみが胡乱な瞳を偉丈夫へ向ける。
面倒を押し付けるな──と、彼女の目は物語っていた。
「そもそも説得する必要あるの? いいじゃんハンター」
「ハンターに成ること自体は自由意志なので止めはしません。ですが彼女はE級で、ハンター志望なのです。まず間違いなく長期的に続けるのは不可能でしょう。そのまま一生を高天原の職員としてやっていくのであれば問題もないはずです。しかしハンターを挫折した者は、ギルドに留まることを惨めに思い辞めていく、という話はあなたもよくご存知のはずです。そうなった時、高校卒業という学歴と、中退、つまり中学卒業のみの学歴では未来に大きな格差が生じてしまう」
「学歴社会「高校だけは卒業しましょう」って?」
「はい」
「やっさし~い」
おちょくるようななごみの返答に偉丈夫が真剣に頷く。
「お願いできますか」
「なんでそこまですんのさ? 他人でしょこの子」
先とは違う、多少の真剣味を見せつつなごみが問う。
対して偉丈夫は、微笑んで言った。
「他人かどうか、そこは重要ではありません。若者を少しでもより良き未来へと導く。それこそが先達としての、老い先短い老骨に残された使命である。と、私はそう考えます」
このような理由でいかがでしょうか──と、言葉を締め括った偉丈夫がなごみへ穏やかに微笑み掛けた。
「お節介が過ぎんじゃねーの、おじーちゃん?」
「はっはっはっ! おじいちゃんですか! 実によい響きだ。どうでしょう。本当に私の孫とし」
「寝言はあの世で言いなよ。後藤の爺さん」
心底嫌そうに、整った顔を盛大に歪めて、なごみは事務机に背を向け背中越しに紙束を持つ手で中指を立て歩き出す。
それを目に偉丈夫──
「はは、これは手厳しい。なごみハンター」
「なんだい」
後藤の呼び掛けに、なごみは振り返らず。
緩やかな足取りで部屋の出入口へ向かってゆく。
言外に話の終わりを示しているのであろう。
「朝比奈ハンターを、彼女を……、いえ。彼女だけではなく、我々に続く者たちのこと、どうかよろしくお願いします」
深く、天板へ額を擦り付ける勢いで後藤は頭を下げた。
対するなごみは止まらない。
「考えとくよ」
「あなたはそれで構いません。ありがとうございます」
立てた中指を下ろしつつ、変わらずに後ろ手で、今度は反対の手を力なく振るうなごみの歩みで扉までおよそ三歩。そこで後藤は思い出したかのように顔を上げて言葉を繋げた。
「ああ! そうだ、忘れるところでした! ここ最近のことなのですが、ご実家の方々が協会を出入りしていますよ」
なごみの足が止まる。
彼女の背を目に後藤は机の端末を手繰り寄せて続けた。
「何でも天御中家に覚醒者が現れたとか。確か────」
「いいよ」
後藤の言葉途中に一言。
立ち止まっていたなごみは再び歩き出した。
「────。わかりました。それでは、また」
「うん、じゃあね。ふふ、うふふふふ」
そうして重厚な木製の扉が開かれることはなく、一人笑い出したなごみの姿は会長室から忽然と消え去っていた。
◇
「お、おい! 見ろよ! 天御中ハンターだ!」
「マジかよ!? 本物かっ!?」
「本物よ。間違いないわ。メディアで視たままだもの!」
「なんでこんな所に? あ、ひょっとしてスカウト!?」
「本当に小さいんだな……。中3の妹より小柄だぞ」
「あれが、最強か……。なんか、オーラがスゲェな」
「はぁ、やばい緊張する。私さっきE級判定下されたんだけど、高天原ギルドに申請書出してみたのよね……。はぁ」
「いいよなぁ。女はランク問わず申請出せてよぉ」
「Eで男の俺達はギルド入れねえからな……。はぁ……」
「お~、あれが噂のなごみちゃんか~。挨拶しちゃう?」
「おいバカ! 目立つ真似絶対すんなよっ!?」
「そうですよ。ただでさえバレたら面倒なんですから」
「すごーい! 本物のなごみちゃんだよ、お兄ちゃん!」
「ホントにあの頃のままじゃねーか……」
ハンター協会本部一般フロアを威風堂々進みつつ、自身を突き刺す数多の視線を無視したままに、なごみは後藤から受け取った履歴書の一枚々々へ今度は丁寧に目を通してゆく。
手続きや扱いが面倒な未成年者は件の“朝比奈りん”一人。“原作キャラ”でもあった彼女を除けば、なごみにとって他は無個性が個性なモブばかりが十名ほど名を連ねていた。
今回は原作キャラ以外に得るものはなにもない。
なごみが最後の一枚をそう断じて終わろうとした瞬間。視界の端、フロアの隅で異様な気配を複数同時に知覚した。
思わず足を止めた彼女の行動で、フロア全体の空気がわずかに浮足立ってゆく。しかし、その事実をなごみ自身は意にも介さずに、己の気を引く異様な存在を静かに凝視した。
「あ」
「あ? なに──、えっ」
「……」
「ねえっ!? ねえっ! お兄ちゃんっ!? ひょっとしてなごみちゃんこっち見てないっ!? 見てるよねっ!?」
「あ、ああ……。いや、てかこれ不味くないか?」
キャップの上に、目深く重ねたパーカーのフード。フードの奥にはマスクとサングラスを覗かせ、パンツにスニーカーのシンプルな服装は素顔を隠すための変装さながらだ。
体格は小柄の、おそらくは女性。彼女の身の内にはA級相当の魔力と、それとは異なるカリスマ性が秘められていた。
サングラス越しに絡めた視線をなごみは横へ流す。
そこには鮮やかな金髪の、幼くも端麗な子どもがいた。
紅い瞳の女児に、蒼い瞳の男児だ。
歳の頃は五にも届かぬ、おそらくは双子であろう。
顔立ちの似通った二人は、常人とは異なる歪な気配を、人ならざるモノの残り香を幽かに、だが確かに纏っている。
なごみは、件の三人を、識っていた。
そこでふと、彼女は履歴書とは別の書類に目を移す。
今の今までなごみが見ていた履歴書とは、個人で登録した一般人向けの代物。しかし、覚醒は誰にでも起こり得る現象であり、覚醒者のなかには即時公にはし難い者も存在する。
それが顕著なのは、著名人。特に芸能関係者は、所属プロダクションや関係各所との兼ね合いなどもあるために、発表をするにしてもタイミングを慎重に選ぶ場合が多いのだ。
つまり、
「お、あったね」
例に漏れず、彼女もまたその一人なのであろう。
朱肉で【秘匿覚醒者】の巨大印を押された一枚の紙。顔写真はなく、氏名や秘匿理由のみを端的に記された書類へざっと目を通せば、なごみの想定通りの内容が綴られていた。
「いやはやまったく」
書類から顔を上げて一歩。
なごみは正体を隠す者へ踏み出した。
今、フロアの視線は彼女へと集中している。
そのなごみが真直ぐに向かえば、例え顔を隠していようとも、秘匿性は少なからず損なわれてしまうであろう。
それは向こう側で慌てふためく面々を見れば明らかだ。
「今までもいくつかの“原作”を目にしてはきたけどね」
二歩、しかしなごみはお構いなしに足を進めた。
数多の視線が「どこへ向かうのだ」と、辺りを見回す。
顔を隠した女性の隣では、くすんだ金髪にヒゲを貯えたサングラス姿の男が顔を青褪めさせて小刻みに震え始めた。
「まさか別次元の作品が干渉し合うとは……。クロスオーバー? いや、多重クロスオーバーになるのかな? いや参ったね。面白くなってきたじゃないか。と、その前に」
三歩、不意に周囲の視線がなごみから途切れた。
彼女の向かう先へ集まったワケではない。今までの流れが嘘のように、誰も彼もが意識を別のことへ逸らしたのだ。
「【
そして、四歩目────。
なごみは、彼女たちの眼の前で微笑みながら口開いた。
「もう誰も視てないよ。これで問題はないね?」
『────!?』
終
なんでもいいから俺レベ作品増えろ!
長々お読み頂きありがとうございました。