呪術は好きだが研究者ではないんだが? 作:軒下晝寝
なんか行き詰まると違う小説書いちゃうんですよね、んでそれに行き詰まると更に別の小説を書いちゃうという無限に近いループ
ようやく戻ってこれました~
「…あの時と立場が逆転したな」
伏し目がちにそう呟く恵。
そして彦根は宿儺を見たまま一瞬だけ恵に視線を向け、感情に呑まれるなよと注意するかのように軽く触れてから正三角形を描くような立ち位置に移動する。
「虎杖は戻ってくる。その結果自分が死んでもな。そういう奴だ」
「買い被りすぎだな。コイツは他の人間より多少頑丈で鈍いだけだ。先刻もな、今際の際でゴチャゴチャと御託を並べていたぞ」
煽るような言葉で淡々と否定する宿儺。
「断言する。奴に自死する度胸はない」
言いきる宿儺に恵は手を構え、手影絵を落とす。
そして覚悟と策を決めるように深く息を吐きそのまま、キッ、と宿儺を睨みつけた。
「やるぞ、彦根」
「おう。任せるから、任せろ」
地に落ちた影は鳥。
生み落とされたのは『鵺』。
「折角外に出たんだ。広く使おう」
油断か、強者の余裕か。
両手で髪をかき上げる宿儺は余裕の表情で鵺の動きを眺め、肉弾戦を仕掛ける恵をバカにした笑みで軽くいなす。
「もっと呪いを篭めろ」
流石は特級というべきか。
不完全な受肉かつ悠仁との主導権争いでも弱体化しているハズにも関わらず恵との実力差は大いにあり、恵は一撃を受けた。
だがその瞬間に影から『大蛇』を呼び出し、宿儺を噛み捉える。
その直後に鵺の攻撃が宿儺の後頭部を打つ。
「畳み掛けろ!!」
恵の命令も虚しく、捉えられていた宿儺は大蛇を容易く殺す。
「言ったろう。広く使おう」
気づけば
「~~っ!!」
投げ飛ばされた恵は驚愕する中、一瞬で移動した宿儺が両手組の拳を振り上げ、振り下ろす。
「?」
だが宿儺に伝わるのは空振りの感覚。
「サポーターキーック!」
「なんだ貴様は」
全力での空振りで生まれた隙。
それを突いた彦根の回し蹴りは宿儺の額を打ち、そのまま彦根は恵を抱えた鵺の上から落下する宿儺を見下ろす。
「ただの有象無象だ。忘れた頃に嫌がらせするタイプのな」
「小僧……」
煽るように笑う彦根はそのまま鵺の上から飛び降り、姿を消す。
そしてその数瞬後、無数の石礫が下から宿儺を襲った。
数発の被弾ののちに石礫を振り払った宿儺は石礫の来た地上に視線を向け、そしてその犯人の彦根を睨みつけた。
不愉快を如実に表した宿儺は彦根を殺してやろうと構え、その瞬間鵺の攻撃が再び宿儺を襲う。
が、視線を向けた瞬間にはそこに誰もおらず、視線を再び彦根に戻せばそこには彦根と、ちょうど鵺を解除しているところの恵の姿があった。
「オマエの式神、影を媒体にしているのか」
「……ならなんだ」
「フム、分からんな。オマエあの時、何故逃げた」
「?」
着地をした宿儺は怒るでもなく面白そうにそう訊ね、特級に自分が太刀打ちできるわけがないと考えている恵はその問いに困惑の表情をとり、宿儺は吹くように笑う。
「宝の持ち腐れだな。まぁいい」
「どの道その程度では、
強者の余裕。
それは全盛の自負や、弱体化してなお反転術式を使えるというアドバンテージや純粋な地力の差によるもの。
顎を上げ、見下す宿儺は続いて彦根に目を向ける。
「距離感を狂わせる術式か? いや、オマエ程度があの距離を自在に動けるワケもなし、対象を移動させるかそれに類する効果か」
「考察してるところ悪いが答え合わせはナシだ。モヤモヤしたまま引っ込め遺物」
「くくっ、雑魚は大変だな。感情を揺さぶり弱らせることでしか可能性を引き出せない」
「やりがいはあるぜ? 雑魚が大物を倒すってのは楽しいモンだ。特に宿儺なんて大物を倒したら興奮でその日は寝れねえかもなぁ」
「足掻きもそこまで極まると滑稽を通り越して不愉快だ。消えろ」
水面で足掻くゴキブリを見るのは楽しいだろう。
だがそれは死が近いから。何分も足掻くのは不愉快に至る。
それと同じ感覚で宿儺は許していた無礼を行き過ぎだ、と看過せずに瞬時に彦根の横腹を切り裂いた。
「ぐふッ!?」
「オマエも、そっちのオマエも、つまらんことに命を懸けたな。この小僧にそれ程の価値はないというのに」
辛うじて内臓は無事。
だが表面の肉を大きく切り割かれ、そして追撃の拳で地に叩きつけられた彦根はその高い防御力ゆえの久しぶりの激痛と衝撃で意識を明滅させる。
そして入れ替わるように恵が大振りの攻撃で宿儺を退かせたのち、彦根を庇う立ち位置で構えをとった。
「いい。いいぞ。命を燃やすのはこれからだったわけだ」
彦根の術式の全容は掴み切れず。
けれど興味のほとんどを恵に向ける宿儺は庇う立ち位置とは関係なく、四肢と翅をもいだ虫に向けるような無関心で彦根を意識から手放した。
「布瑠部由良由良」
恵の持つ宿儺に対抗できる唯一の切り札。
判断の善悪はともかく、そうするしかない、そうしたいと考えた恵はその切り札を切るべく詠唱を口にし。
「! …俺は。オマエを助けた理由に論理的な思考を持ち合わせていない。危険だとしてもオマエの様な善人が死ぬのを見たくなかった。それなりに迷いはしたが、結局は我儘な感情論。でも、それでもいいんだ。俺は
険しい表情を、スッ、と落とし。
柔らかな表情で呟くようにそう語りかけた。
「だからオマエを助けたことを一度だって後悔したことはない」
「…そっか。伏黒は頭がいいからな。俺より色々考えてんだろ。お前の真実は正しいと思う」
「……」
「でも俺が間違ってるとも思わん。――あー悪い。そろそろだわ。伏黒も釘崎も住吉も、五条先生…は心配いらねぇか。長生きしろよ」
力を失いゆく声音がついには途切れ、人の倒れる嫌な音が静かな雨音に紛れて1つ響く。
恵は涙をこらえるように。あるいは雨に涙を紛らわせるように。悠仁とは対照的に空を仰いでいた。
「やっ、落ち込んでるねー、彦根」
「悟兄……」
高専資料室。
沢山の資料を棚から引き出し積み上げ、読み耽る彦根に悟がニヤニヤと近づき声をかける。
栞紐を挿み本を閉じる彦根に悟は吹くように笑った。
「ウケる。学校の中で僕のことその呼び方するとかガチ凹みじゃん」
「正直誰かが死んで涙が出る、なんてことはないけどさ。やっぱこうして無力感をわからされるのも、殺される喪失感も、多少はあるよ」
幼少に親を失っても涙は出なかった。
呪術師をやっていて誰かだ死ぬというのも見てきてそれも涙は出なかった。
自分と代わるように母が死に、理由もなく父が死に、誰かを守って仲間が死ぬ。
彦根にとって死は近くありふれた概念だが。それでも感情に響かないワケではない。
付き合いの短い友人だからといって無感情ではないし、悲しみもあった。
「昔から感情が希薄な彦根を見てきた僕としてはその感覚は大事にしてほしいし養ってほしいけどねー」
「滅多に見せない兄貴面しやがって。いや、教師面か?」
「どっちだろうねー。彦根はどっちがいい?」
「どっちでも。言葉の本質は面じゃねーでしょ。……ま、滅多に見られないし俺自身今は兄弟として話してるから兄貴面として受け取っておく」
昔、悟に保護されてから悟と関わることが多かったため身寄りのない彦根は悟の本性を知るまでは彼を兄として慕っていた。
知ったのちもなんだかんだと慕いはしているが、それはさておき昔からロクなことしなかったくせにと失笑する彦根の頭を悟の掌が覆う。
「いらね~よ、もう15……いや、今月で16か。とにかく、もうこの歳なんだからそういうのは意味ないっつーの」
「またまたー、強がっちゃってー」
事実、意味はあった。
親の温もりをほとんど知らない彦根は周囲の人間からある程度の愛情は受けるも普通に比べてその量は少なく。
そしてほんの一時とはいえ普通を知っていたがために不足を無意識に感じていた。
だから、悟のその手の温もりというのは彦根に安らぎを与えていた。
「彦根はさ、センスはあまりないけど強くなれると思ってるんだよね、僕さ」
「六眼も案外節穴だな」
「ホントホント。思考的な意味で呪術師向きだと思ってるからさ」
「喜んでいいのか? それ……。呪術師向きって要は老害と同じじゃんよ」
「あはっ、彦根って相変わらず毒舌ー。……マジでさ、強くなっちゃってよ。彦根が望んでるみたいに、僕を殴れるくらいにね」
急変。
真面目な声音でそう語りかける悟の顔を見て、彦根は少し驚いたのちに、ふっ、と笑い。
「ブラザーズぱーんち!」
下から拳を振り上げた。
「あたぁっ!? ちょっ、いきなり何するのさ!」
「お望み通り殴ってやったんだよ」
「人がせっかく慰めてやったっていうのにそれを逆手にとって。も~、僕も怒るよー?」
「似合わねえ面してんじゃね~よバカ目隠し」
ぷりぷりと怒る真似をする悟を軽くあしらうように笑いながら彦根は積んでいた本全てを棚に戻し、カバンを持って出口に向かう。
「ソッコー追いついてやる。だからテメーは最強だなんだって驕ってねーで先進め」
「彦根。……僕、それまで生きれるかな?」
「冗談はテメーの頭だけにしろクソヤロー!」
真面目な表情で100年後は生きてないよ、僕。と呟く悟に彦根はポケットの中身をぶん投げ、元の大きさに戻してぶつける。
「それは悠仁宛てだ。俺は訓練と任務で忙しいから代わりに頼むわ」
「……半分貰っていい?」
「倫理観どーなってんだ!? ……それとな、もうちっとマシな演技しろ。――悠仁によろしくな」
「ふふっ、りょーかい」
立ち去る彦根を見送り、悟は箱を開ける。
すると中に入っていたのは『やっぱ開けやがったな』と書かれた一枚の紙と悟宛てのお菓子。
そして突然飛来した同じ形の箱が悟に当たる直前に止まり、悟は顔を上げるがそこに姿はなく足音もない。
ふっ、と笑う悟は自分宛てのお菓子を食べながら改めて受け取った悠仁宛ての箱を抱え、その場を後にした。
「おせーぞ彦根。恵といい言いご身分なこって」
「こんぶ」
「おう、俺様ってな。……パンさんは野薔薇と仲良しだな。真希さんも棘さんも俺らの訓練に付き合ってくれるんですね」
「ぼんくらの代わりにお前らを引っ張りだすことになったんだ」
「あ~……」
状況を察した彦根は、クスリ、と失笑するとパンダとじゃれ合う野薔薇、そして近くの恵に目を向け、指折り数える。
(2年がパンさん、真希さん、棘さん。1年が俺、恵、野薔薇、悠仁の7人。京都がゴリさん、憲紀さん、桃ちゃんさん、真依さん、霞さん、ロボ太さんの6人。……俺、抜けるか? あ、でも
「どうした彦根? 何数えてんだ?」
「ん~? あ~、まあ、人数合わないしこっちの方は誰か削るのかな~とか思ったけどイベントには全員参加の方が良いだろうしって思って」
「? 6と6だよな?」
(やっべ~、ナチュラルに悠仁のこと入れた状態で話しちまった~! しかも向こうが人数少ない想定で話してる~!)
「……イッケネ、ロボ太さんを人数に入れてなかった。ウッカリウッカリ」
「おい」
(これ、俺も甘党バカのこと言えねーな)
むしろ文脈を整理したら付き合いがなくても違和感に気づけるレベルの失敗であるから自分の方が下、とすら苦笑する彦根とそれを見て持っていた棒の先で頭を突く真希。
「ほら、やるぞ」
「ウッス!」
大蛇は死ぬ。古事記にもそう書いてある
ちなみに宿儺戦中の彦根は内心(あ~、これ死ぬわ~)と思いながら戦ってます
まあ、そう思うことなんて珍しくないから態度には出ませんし、戦闘力にも影響ないんですが
彦根の悟への呼び方は学校だと普通に『五条先生』、プライベートだと呼ぶとしたら『悟兄(さとるにい)』です。呼ぶとしたら、というのはそもそも呼びかける時には近くで「ねえ」とか「あのさ~」とかそういう感じで呼んだり悟が気配に気づきやすいのもあったり彦根が遠くだろうと一瞬で近づけるっていう都合上名前呼びの機会がないからです
プライベートで会うのは基本一対一なので
彦根は悟との付き合いの長さで悠仁の生存を察してる。まあ、流石にね
ゴリさん(葵)のことは彦根はそんなに嫌ってないです。そこまで好いてもいないけど好感度を聞いたら「まあ、呪術師として一定の尊敬は置ける人かな? たまに会話が通じないのがメンドイけど」と答えるし、本人に対してもそれに類似した感想を言ったり反応を見せる感じです
桃ちゃんさん、に関しては初対面で名前とか学年とか聞かなかったせいで同い年あるいは年下認定し「桃ちゃん」呼びしてしまい、先輩と知って「桃ちゃんさん」になったという経緯
ロボ太さん、については本体が別にいるのは知ってるのでそこに関しては名前は呼ばず、そもそもそこまで面識がなく少し会った程度の関係かつ実はお互いに名乗り合っていないという都合で見た目からそのまま「ロボ太」になって、それをうっかり口にした時にそのまま定着という流れです