都市の右腕   作:プティパット

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相棒の好きなもの

 

 

図書館 言語の階

 

 

ヌベスは図書館に来てからも、変わりなく過ごしている。

変わったことといえば、昔の研究所のみんなと似て異なる、今は司書と呼ばれる人たちに出会えたこと。

そして……形は違えど、相棒と再会できたこと。

 

 

「──ヌベス、お疲れ。」

 

「おお、お前もな。お疲れさん。」

「にしても、今日は随分と張り切ってたじゃないか。」

 

「ん、そうか?」

 

 

図書館での接待を終え、その最中ゲブラーが無意識のうちに嬉しそうにしていたことを指図する。

 

 

「当たり前だ、伊達に相棒名乗っちゃいねぇよ。」

「それよりも、だ……なんか良いことでもあるのか?」

 

 

そうして理由を尋ねたヌベスにゲブラーは頬を赤らめる。

 

 

「……その、笑うなよ?」

 

「笑わねえさ、さっさと言ってみろ。」

 

 

恥ずかしそうに目を逸らし、口を噤むゲブラーは深く息を吸って答える。

 

 

「その……明日、私の誕生日だからな。ヌベスや他のみんなが何を持ってくるか、楽しみにしてたんだ。」

「……本当にそれだけだ、分かったか?」

 

 

ゲブラーが顔を上げると、ヌベスは顔を青くしながらそっぽを向く。

何かに気づいたゲブラーはそっと問い詰める。

 

 

「……ヌベス?」

 

「その……えっと。」

「……明日がお前の誕生日ってこと、忘れてて。」

「プレゼントとか、そういうの何も用意してなくてな。」

 

「…………ぇ。」

 

 

ゲブラーはショックを受けたのか口をぽかんと開きながら驚き、ヌベスは咄嗟に頭を床に強く叩きつけて土下座をする。

 

 

「す-すまねぇ!悪気があったわけじゃ……!!」

「お前が望むなら、拳骨でも何でも……!」

 

「顔を上げろ、ヌベス……大事なことを忘れるのは、私もたまにあるからな。だからもういい。」

「それに──……期待し過ぎた私も、バカだったなって。」

 

 

悲しそうな顔をするゲブラーの顔を見たヌベスは、心をギュッと罪悪感に締め付けられた。

何か解決策はないかと、ヌベスは咄嗟にとあることを思いつき、その言葉を口にする。

 

 

「そうだ!明日、俺と一緒に出かけないか?」

 

「……は?」

 

「い-いや、その。何も用意出来そうにねぇから、咄嗟にそう答えただけだ。」

「勿論、お前がそれで良いならな……イヤなら別に──」

 

「──そんな訳あるか!一緒に行こう、絶対だ!」

 

 

悲しんでいたゲブラーの顔が、一気に嬉しそうなキラキラした目でヌベスを見つめる。

まるで飼い主が散歩に行こうを伝え、それに嬉しくなっているペットの犬みたいな表情だった。

そんなゲブラーの反応を見てヌベスは唖然とするが、ゲブラーは自分の行動に顔を赤くして咳払いをする。

 

 

「コホン……とにかく、私はイヤじゃない。むしろ嬉しい。」

「お前と一緒にいられる。私にとって、それだけで良いんだ。」

 

 

そんなゲブラーの言葉を聞いたヌベスは、ふっと笑みを浮かべながら煙草の煙を吐く。

 

 

「ゲブラーがそれで良いなら、俺は何も言わねえよ。」

「楽しみにしておいてくれ。」

 

 

そう言い残して言語の階を後にする。

それを見届けたゲブラーはヌベスがいなくなったことを確認すると、ソファにバタンと倒れて足をジタバタする。

らしくないことは判っている……それでもゲブラーはクッションに顔を埋め、照れくさそうに小さく微笑む。

 

 

「ふふっ……ああ、楽しみにしているぞ。」

 

 

そう一言告げ、次の日を待ち遠しく思いながらゲブラーは眠りに着いた。

 

 


 

 

外郭 とある町

 

 

翌日、ゲブラーとヌベスは共に町へと足を踏み入れた。

そこに広がる景色は、色とりどりのビニール屋根が連なり、玩具や食べ物などが屋台ごとに並べられている。

そして嫌でも聞こえる客と屋台の店主たちの怒号に近いような声。

そんなお祭り騒ぎの場所に、2人は来ていた。

 

 

「ほお?随分と楽しそうだな、この町は。」

 

「ああ。如何にもお前が気に入りそうだなと思ってな。」

 

「ふっ、よく分かってるな。」

 

「ははっ!だろ?……それじゃあ楽しもうぜ、ゲブラー!」

 

 

そうして2人は屋台の街を歩き出す。

先ほど述べた通り、屋台にはいろいろなもので並べられていた。

何かの置物や食べ物から、都市にも存在しないよく分からない物まで置いてあった。

するとふと、ゲブラーが裾を掴んでとある屋台を見つめている。

 

 

『へいらっしゃい!美味しい美味しいケバブだよぉ!さぁ、買った買った!』

 

 

垂直に立てられた鉄の串に、幾重にも重なった肉の層が巨大な円柱となって鎮座している。

その傍らでメラメラと燃える火の熱を受け、肉の表面は黄金色に染まり、絶え間なく沸き立つ脂がパチパチと小さな爆ぜる音を立てていた。

 

 

「……美味そうだな、ヌベス。」

 

「食うか、ゲブラー?」

 

「当たり前だろ、今日はまだ何も食べちゃいないんだ……あんなモン見せられたら──」

 

「ハハッ、それもそうだな!……おっちゃん、それを2つくれ!」

 

『はいよぉ!』

 

 

店主がそう言いながら長いナイフを手に取ると、熟練の動きで肉の表面を薄く削ぎ落とす……シュルシュルと音を立てて剥がれ落ちる肉片は、すごく柔らかそうで、立ち昇るスパイスの香りが鼻を突き抜けす。

店主がその肉をパンで挟み、ヌベスとゲブラーの2人に手渡す。

 

 

『お待ちどぉ!早いうちに食べちまいな!』

 

「お、ありがとう!」

 

「っ!……ヌベス。私もう──」

 

 

ゲブラーが喉を鳴らしながらそれを眺め、そして気がついた頃には既にかぶりついていた。

美味しそうに頬張るゲブラーを見たヌベスは笑いながら手を差し出す。

 

 

「ハハハハ!ゲブラー、そんながっつくなって!」

「ほら、口に付いてんぞ。」

 

 

ヌベスがゲブラーの口元についている肉片をつまみ、そしてそれをそのまま口に運ぶ。

ゲブラーはその行動に恥じらいを感じたのか顔を赤くする。

 

 

「……わ-悪いな。」

 

「腹が減ってたんだろ?ならしょうがないさ。」

「それで、次は何処に行きたい?」

 

 

迷路のように広い屋台を見渡し、手に持っているケバブを食べながらゲブラーは悩み、そして指差す。

 

 

「あっちだ、あっちに行こう!」

 

「ふっ、ああ。良いぞ。」

 

 

ヌベスはゲブラーに手を引かれたまま歩き続ける……まるで子供のようにはしゃぐゲブラーを見ながら。

 

 


 

 

「楽しかったな、ヌベス。」

 

「ああ、楽しんでもらえて何よりだ。」

 

 

そう言いながらヌベスは小さく微笑む……ここまではしゃぎ倒した相棒を見たのはいつぶりだろうか。

そんな姿を見てヌベスは笑みを溢さずにはいられなかった。

 

 

「何ニヤけてんだ。」

 

「いや……こうやってはしゃいでるお前を見るのはいつぶりだろうなと思って。」

 

「……今日は過去一楽しかったぞ、ヌベス。」

「私にとって、1番思い出に残る誕生日になるかもな。」

 

 

ゲブラーがそう言った時、ヌベスは何も言わずにゲブラーの手を引く。

 

 

「!?……ちょ、ヌベス!?」

 

「いいから、何も言わずに来てくれ。」

 

「だからって、引っ張る事──」

 

 

そうしてゲブラーはヌベスに引っ張られて行く……そうして辿り着いたのはとある廃ビルの屋上だった。

 

 

「……急にどうした。何でここに連れてきた?」

 

「見せたいものがあるからだ……ほら、見てみろ。」

 

 

ヌベスがそう言い、じっと待っていると空に一筋の閃光が舞い上がり、爆ぜる。

 

 

「………!」

 

 

1つ、また1つと舞い上がるそれは、美しく綺麗な花火だった……ヌベスはここからの景色を見せる為に連れてきたんだろう。

 

 

「……綺麗だ。」

 

「だろ?お前に見せてやりたかった景色だ。」

「1ヶ月くらい前だったか。あの町の住民から花火が打ち上がる祭りがあるって聞いてな。それを昨日思い出して、まさか丁度予定が合うとは思ってなくて。」

「もし運が悪けりゃ……俺はお前に何も用意してあげられなかった。」

 

 

ヌベスがそう呟きながら、目の前に広がる花火の景色を眺めていた。

ゲブラーはそんなヌベスを見て、下唇をキュッと噛みながら心の中で口ずさむ。

 

 

(本当に、昔っからバカ真面目で愛おしい奴だ。「お前がいるだけで充分だ」って、昨日言ったばかりなのに。こんなサプライズ……。)

(けど……そんなこいつを突き放したあの日を、今でも覚えてる。)

 

 

あの日、ゲブラーがロボトミー社のセフィラとして生まれ変わり、ヌベスが自分や他のセフィラにも会いに来たこと。

ゲブラーを含め、他のセフィラは一時的に記憶に霧がかかったように消えていた時代。

そんな中でゲブラーは、ヌベスを冷たく突き放してしまった……ゲブラーは記憶を取り戻した後、心に残るほどの後悔を背負った。

 

 

(過去は消えない。ビナーのやつもそう言っていたな。)

(私は怖い……もしまたヌベスを心から傷つけてしまわないのかと、また冷たく残忍に突き放してしまうんじゃないかと。)

(……私は、本当にヌベスの隣にいてもいいのだろうか。)

 

 

そんな不安に駆られていると、突然ヌベスに声を掛けられた。

 

 

「なぁ、ゲブラー。」

 

「っ!な-なんだ、ヌベス?」

 

「……どうしても、伝えたいことがあってな。」

 

 

そう言いながらヌベスは、ゲブラーのことを抱きしめる……ゲブラーは目を見開き、両手が行手のないまま固まる。

背後に聞こえる花火の音など、2人にはもう聞こえないだろう。

 

 

 

「ッ!、ヌベス?」

 

「カーリーのやつが不安だったり、何かを抱え込んじまった時。俺はいつもこうしていた。」

 

「ふ-不安だと?私は不安なんて──」

 

 

そう言っておきながらゲブラーはヌベスの事を引き剥がさない……それどころか縋るようにヌベスに抱きしめ返す。

 

 

「嘘が嫌いなくせして、お前も嘘吐いてどうする……お前のそんな弱え所、見たくないぞ?」

 

「ッ……ぅ、ぬべすっ。」

 

 

気付けばゲブラーに目からは大粒涙がこぼれ落ちていた。

最強の、誰も知らない弱い面……それを知っているのはただ1人、彼女にずっと添い遂げる相棒しかいないのだから。

そんな相棒が彼女の背中をさすりながら続ける。

 

 

「泣きたい時は泣け、辛いなら辛いって言え……そばにいてやるから。」

「それに……ずっと気づいてたよ。お前が何か不安になっている事も。」

「だから、すげぇ嬉しかった……お前が俺といられるだけで充分だって言った時。お前はあの一瞬、そしてさっき遊び回った時。」

「あんな風に笑っているお前が……お前が──」

 

 

ゆっくりと彼女を離した後、真っ直ぐに目を見つめる。

深く息を吸い、その言葉を発する。

 

 

「──大好きだ、ゲブラー……お前のこと。」

 

 

その言葉を聞いてゲブラーは、また涙を浮かべながら頬を赤くしている。

けれど……その顔は幸せそうに、笑っていた。

 

 

「ッ……それで?」

 

「その、あの世にいる相棒(カーリー)が赦すか、分からねえけどよ。」

「俺と……付き合って──」

 

 

その瞬間、花火が打ち上がった瞬間にゲブラーが顔を近づけ、ゆっくりと口付けをする。

背後に聞こえる花火の音は2人にとって無音に等しく、長い時間口付けを交わした。

そうしてお互いに口を離した時、ゲブラーが今日1番の笑みを浮かべながら告げる。

 

 

「ああ、勿論だ。」

 

「まだ何も言ってないのにか?」

 

「伝わってるからいいじゃねえか……それにカーリーも、多分許してくれるよ。」

 

「多分ってなんだよ、多分って。」

 

 

2人は互いに微笑みながら手を繋ぎ、まだ打ち上がっている花火を背に向けながら図書館へと戻るのであった。

 

 


 

 

図書館

 

 

「「「「「「「「「ゲブラー!誕生日おめでとう!/ございます。」」」」」」」」」」

 

 

クラッカーが鳴ると共に、指定司書たちがゲブラーとヌベスを迎え入れた。

ゲブラーは一瞬驚きつつも、その顔には笑みを浮かべていた。

 

 

「ねえねえ!今日ヌベスと一緒に出掛けたんでしょ?」

「どうだった、ゲブラー?」

 

「あー……。」

 

 

マルクトの問いかけに、ゲブラーは一度ヌベスを見つめた後に、ふっと笑みを浮かべて答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──今日は私にとって、最高の誕生日だ。」

 





誕生日おめでとう、ゲブラー。
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