それは、たった一つの指令だった......ハルは青ざめた顔を浮かべながらその指令を何度も、何度も読み返す...それは彼女や指令を受け取る者達にとっては想像もつかない、簡単でなおかつ絶望的な指令......
「......だ-大丈夫よ私!な-何かの間違いよ!ええっと—」
「...............」
詰んだ......と、そう絶望の最中にハルは冷蔵庫の中にある炭酸水と酒を手に取り、酒を炭酸水で割って呑み始める
「ゴク、ゴクッ...ぷはっ、いやぁ。私お酒強すぎて全然酔えないなぁ...死ぬかもしれないのに惨めになってきたよ......」
かなりアルコール濃度が強めの酒を炭酸水で割って呑み続けるハルだが、酒による耐性があまりにも強すぎて酔うことすらできないのだ......そのせいで何回飲み潰れたヤンや他の代行者達を自宅まで介抱した事か......グローリアが手伝ってくれて助かったと思いながら、これが最後の酒だと呑み進める
「——っよし、行きますか。生き延びればいい話だもんね。生き残ったらたらふく飲んでやるんだから!」
口からはそう言うけど、グラスを持っている手が次第に少し震え始める......もう片方の手で手首を掴んで震えを止めようとする
「っ...大丈夫っ......死線は何回も越えたじゃない。これくらい平気よ......!」
そう自分に昔から言い聞かせているまじないを言う......そして酒を飲み干して指令の紙と一緒にテーブルに置いておく......
サーベルを腰に掛け、展開型の盾を手慣れた様に折りたたんで背中に背負う......伝令者としてのマントを羽織り、そして玄関から歩み出て23番区へと向かうのだった......
——23区、裏路地
ハルは裏路地のど真ん中でただ立ち尽くしていた...時計を手に取り、時刻は「3時12分」......後1分で、
「......23区は特にイヤな臭いがするのよね」
ハルが独り言を言っていると時計の針が進み、「3時13分」......今、裏路地の夜が始まった
「4658203」
「26104243132」
真っ暗な裏路地の奥深くから赤色の光を放つ目と鎌の様な武器を手に持ち、彼らが話す謎の言語の声とガスマスクの呼吸音の声と共に波の様にぞろぞろと押し寄せてくる......ハルは背中に背負っていた盾を展開して構え、腰に掛けていたサーベルも抜いて戦闘準備をする
「——ッ、来るッ!」
ガキィンッ!!
ハルが構えたと同時に波が押し寄せて数名の掃除屋が飛び掛かって鎌を振り下ろすが、ハルはその全ての攻撃を防いで弾いて盾を構えたまま突進する
「——ふんっ!」
突進して押された掃除屋数名が盾と背後にある壁の間に押しつぶされて圧死する......だがこれでひと段落というわけでもなく、ハルは即座に振り向いてさらに押し寄せる波を盾で防ぐが、今回はさらに数が多すぎて押され始める
「ぐっ......!」
「325346539236」
「悪いけどっ......生憎アンタ達の言葉、分かんないだよねっ!」
ハルは突然盾をその場に置いて高く跳び、やがて奴らの真後ろに立っていた。
そして掃除屋が振り向いた頃には、ハルの周りから青色の花びらのような光が放たれて、凄まじい速度で掃除屋を切り裂く
「にしても...流石に数が多いっ!このままじゃ——」
そう言った刹那、音もなく背後から掃除屋が飛び出してハルの背中目掛けて鎌を振り下ろして肩から背中を大きく斬った
ズバッ!
「あ゛っ......!?」
ハルは大きく切り裂かれた痛みに堪えるが、すぐに体勢を立て直してそいつの首を叩っ斬る......だが背中出血が酷く、腐敗毒が付着しているかのように傷口が溶けかかっていて、目眩が止まらず立つだけでもやっとな状態だった
「はぁっ...はぁっ......まずいっ......!」
「88236539236」
「っ......!」
掃除屋が次々と近寄ってきて鎌を振り上げて、まともに動くことすらままならないハルに向かって斬りつけようとする
「もう終わりなのね......もうちょっと生きて......やりたい事沢山......やりたかったな......」
そしてハルはゆっくりと目を閉じて、自分がこの都市の中での人生の終わりを悟った......
ブォンッ、ズバッ!
「............ぇ?」
目を閉じて死ぬのを待っていたハルは、突然
「ゃ-ヤン君......?」
「大丈夫ですか、ハル先輩?」
ヤンは構えて目の前の掃除屋を大剣で薙ぎ払い、そして膝をついているハルの方へ振り向く
「な-何で...どうしてここに?」
「今日は先輩に少し用があって合おうと思ってたんです.....それで先程先輩のアパートを訪ねても先輩が居なくて、鍵も掛かっておらず部屋を見渡すと。あなたへの指令を見ました」
「......私、もしかして鍵掛け忘れてた?」
「ええ、けど逆に運が良かったですね......ほら」
ヤンは懐から解毒剤を取り出してハルに渡し、そして手を差し伸べる
「手伝いますから、立ってください」
「え......でも——」
「指令には“一人で生き延びろ”などという文字は書かれてなかったはずです......さぁ」
「......ふふっ、頼りになる後輩を持ったよ」
ハルは微笑みながらヤンの手を取って立ち上がり、体勢を立て直す......置いておいた自分の盾を持ち上げて構える
「ヤン君!背中は任せたよ!」
「そちらこそ.......」
ヤンがそう告げると同時に、掃除屋が再び波の様に襲いかかりハルは盾で全て防ぎ切る...そしてその隙にヤンが飛び出して大剣を振るって掃除屋を薙ぎ払って行く
ヤンに向かって攻撃しようとする者もいたがハルがそれをさせずに攻撃を防ぐ...ハルの「護る」という意思がある以上攻撃は全て防がれる
「ヤン君には指一本も触れさせはしないんだからね!」
「先輩、後数分で夜が終わります」
「もう一踏ん張りね!それじゃ、一発やってみようか!」
ハルがそうニヤリと笑いながら盾を振り上げて地面に叩きつける、それが何なのかを察したヤンは地面から離れるために高く跳び、そして叩きつけられた地面が地震を起こしたかの様に「振動」を起こし、その「振動」が地面に立っている掃除屋達の身体に伝って彼らの身体が震え始める......そして——
ドパンッ!!
——その振動に触れた周囲の掃除屋達の身体が弾ける......振動の影響で肉体が耐えきれなかったようだ...と言っても彼らはしぶとすぎるが故に弾けてもその弾けた肉の部分を無理やりくっつける個体や、体の一部分しか弾けておらず平気な顔(?)をしている個体も.......そうして時刻が「4時34分」になった時、掃除屋も時間が終わったと認識したのか弾けた身体のままその場を去っていった......
「お-終わったぁ......」
「先輩、最後のあの一撃実行するなら事前に言ってください。僕の身体まで風船みたいに弾けたらどうするんです?」
「いやー、人差し指になって初めて使ったよ〜。久々過ぎて身体がすっごい痺れる...あはは」
ハルは身体が痺れてそのまま地面にへたれ込んでしまう...それを見かねたヤンが歩み寄って隣に座る
「お疲れ様です、先輩」
「どーも。......ん〜っ!疲れちゃったし少し眠いな〜、明日サボ-」
「ダメですよ?」
「い-良いでしょ!私もうクッタクタなんだからぁ!...朝早く起きるのすっごいイヤだったんだからね!?」
「それでもダメなものはダメです、またエスターさんに言いつけますよ?」
「むぅ〜......」
「う゛っ......はぁ」
ハルは少し涙目になりながら頬を膨らませてその視線で何かを訴えようとしている......これにヤンは心の中の良心が痛んだのかため息を吐いて頭を抱えながら手を差し伸べて立ち上がらせる
「き-今日だけですよ?......可愛く演じてれば何でも上手くいくと思わないでください」
「やった〜!
「...................」
「あれ?ヤン君もしかして照れてる〜?」
「......うるさいですね」
ヤンは顔を赤らめてそれを手で隠す... そんな時でも構わずからかっているハルにヤンは怒ってしばらく口を聞いてくれなくなったそうだ
ネタがねぇ...という訳でアンケートだッ!!