「ハル先輩、指令です」
「んぇ?今日ヤン君が届けに来てくれたの?いつもの伝令さんはどうしたの〜?」
「あの人は今日体調が優れないらしいですよ。...それよりも先輩、今日の指令はこちらです」
「はいはい、どれどれ〜?」
「................」
「それでは、僕はもう行きます...頑張って——」
ヤンがそう言いかけた時、ハルはヤンの手首を掴んでほぼ強制的にヤンと目を合わせて、ニッコリとイタズラっぽい笑みを浮かべた後に手を繋いだ
「!?......な-何を—」
「——がいい...」
「......え?」
「コホン...ヤン君は信頼も出来るし信用もできるからね!だから私はヤン君がいい!」
「え-えぇ!?...でも僕は——」
「別に手を繋ぎながらでも指令は渡せるでしょ?ほら、行こっ!」
「そうじゃなくて—ぁ...うぅ......」
ヤンが頬を赤らめるがハルは気にせずヤンの手を引っ張って伝令者の仕事を
しばらくして......巣の中
長い時間にわたり、指令を配ってようやくひと段落で巣の中を散策していたところで見覚えのある大きな白いマントの義体姿があった...彼女は代行者のグローリアで、多分1番のベテラン...その陽気な性格からハルとしても立場関係なくやって行けている中である
「やっほーヤン〜、ハルちゃ-...あれ〜?」
「どうも〜、グローリアちゃん〜」
「.......うぅ」
ハルは軽々しく挨拶を交わすがヤンは恥ずかしいのかマントで顔を隠すような仕草をした後に小さく手を振ってグローリアに挨拶をした
「あれあれ〜?2人ってもうそんな関係だったの〜?」
「あー、いやこれはねグローリアちゃん。今指令で夜の7時までずっとこの状態なの......まぁ、何とかなったけどね」
「変な指令だね〜?...でも—」
「でも...?」
「なんか面白そうだね〜!それに2人共似合ってるよ〜、いっそこのまま付き合っちゃえば?」
「...................」
その言葉にヤンは少し機嫌を悪くしたと思われたハルが少し冷や汗をかきながらヤンの方を見ると、怒る気はなくただ満更でもなさそうにハルの手をさらにギュッと握る手を強くして自分のところへ少し引っ張る
「?...ヤ-ヤン君?」
「なんですか?」
「いや...手、引っ張って——」
それに気づいたヤンはビクッと跳ね上がった後にてはまだ握ったままだったが少し後ずさる... そして恥ずかしさのあまりに目を逸らす
「......す-すみません」
「ヤン君、私は別に良いよ。どんな形であれ
「あ...し-指令...ですか。......そっか」
ヤンは指令と言う言葉に内心落ち込む...ただの指令、本心ではない...いくら自分は彼女とは釣り合わないとはいえ、ヤンはどうしてか心から傷ついた...
「(そうだ...これはあくまで指令...自らの意思でやろうとしている訳じゃない...だけど——)」
「——ん...——君...ヤン君?」
「あ.........」
ぼーっとしていたヤンはハルに声をかけられた事にようやく気づいて振り向く...そしてそのままハルが最初に口を開いて言う
「ぼーっとしてどうしたの?考え事?」
「考え...まぁ、はい...少し」
「ヤン君さっきから変だよ?...大丈夫?」
「あ、いや...平気です。......気にしないでください」
「.........そう」
ハルはまだ少し心配そうに見つめる...そしてハルは何かあったらいけないと思い、ヤンの手を強く握る
「!?......な-なにを——」
「さっきから様子がおかしいのに...心配しない訳ないでしょ......ギュッと強く握って、離さないでね?...
「————ッ」
その言葉を聞いたヤンはなぜだか心から謎の安らぎを感じる...ずっと側に居てくれるというその言葉にヤンは染まっていく...その言葉に対する気持ちが溢れて溺れてしまいそうなくらいに......
(なぜだろう...恥ずかしいはずなのに、なんだか凄く...安心する......先輩といると心から心地がいい......)
「あっ、もう7時じゃん、かーえろっ」
グローリアは棒読みっぽくそう言いながら知らん顔でそそくさと歩き去っていく...ハルはそれに気づいて手を離して声をかけようとしたが、その前にヤンに強く手を握られて引っ張られる
「——!?...ヤ-ヤン君...!?」
「......先輩」
ハルが振り向くと、そこには綺麗な薄水色の瞳を普段糸目で見せなかったヤンが開眼してじっくりとハルの目を見ていた...恐る恐る声をかけようとすると手をさらにギュッと握られて行かないでと言わんばかりに引っ張る
「ちょっ—...ヤン君......ッ!?」
「......です——」
「え、...今なんて?」
ヤンは深く呼吸を整えて何かを求めるような目で見る...そしてようやく言葉にする
「もう少し...このままでいてもいいですか...」
ハルは焦らずにゆっくりとヤンの目を見てみると、微かな哀しみと欲求が入り混じった目で見ている...それを感じ取ったハルは再び安心させるような笑みを浮かべて手を握り返す
「......そっか」
「ありがとう...ございます...」
「...ねえ、少し場所を移さない?」
「え?...いいですけど、なんで急に?」
「いいから、ほら!ついて来て!」
「あっ、ちょっと——」
そうしてヤンはハルに引っ張られてとある場所へと向かうのだった...
とある公園の某所
ハルはヤンを連れてとある公園へと連れて来ていた...ヤンは手を繋いだままハルと一緒にベンチに腰掛けて、ハルが先に話し始める
「前に指令を渡しに来た時に見つけた場所なんだよねー...いい場所でしょ?」
「そうですね......少し廃れてはいますがくつろぐにはいい場所ではあります」
「でしょでしょ〜?」
そんな会話をしてしばらく経った後にハルはようやく本題に入る
「単刀直入に言うわ...話して」
「話してって...何を?」
「私さ、昔っから人がいろんなこと抱え込んでるのを見てきたから分かるんだよね。それで誰かが何か抱え込んでると見て見ぬふりなんてできないから...」
「..............」
「だから...さ——」
ハルは手をギュッと握りしめてヤンの方へ振り向き、小さな笑みを浮かべながら優しい声で話す
「——教えて。私が前に話してあげたみたいに。なんでこんな組織にいるのか、昔何があったか......あなたの力になりたいから」
「なんでですか——」
「......へ?」
「なんであなたはそんなにも優しいんですか。こんな都市に...こんな都市にそんな優しさは通用しないよ分かっているはずです...なんで——」
ヤンがそう言いかけてハルの方を見ると、ハルはただヤンを見つめていた...そしてその言葉にハルはこう返す
「そりゃ...意味はないかもだけどさ。それでも、私はまた誰かを守ってあげたい。あなたを見てからそう思えたの」
「......僕を?」
「......嘘、ついたんだよね。本当は私、もう二度とこの盾を持つことはないと数ヶ月前までそう思ってたの。でもヤン君がまだ執行者だった時にあなたを見かけた。遂行者の眼帯の上からでも感じ取れたあなたの悲しみ...あなたはきっとあの時静かに泣いていたかもしれないから」
「......................」
(ああ、優しすぎる...先輩。僕にはもう何も残っていないのに、あなたはまだ僕や誰かを守ろうとしている......)
「———ます」
「......ヤン君?」
「話します...全部。僕の過去も、何もかも全て」
ハルはそれを聞いて目を少し見開いた後にまたニコッと笑って手を握りながら彼女は小さく呟いた
「......ありがとう、ヤン君」
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ヤンは全て話した。彼が幼少期の頃はまだ平凡な家庭であったことを始め、指令のせいで自身の肉親を殺害、そしてその指令が自分を殺すのを目を瞑って待っていた。
また、目を瞑っていた理由は都市や裏路地で起こる残酷で冷たい現実を直視する蔵なら、目を閉じた方がマシだと。
そして指令で人差し指の遂行者になれと書かれた時、ヤンは死んだ方がマシなこの都市にまだ生きろと言わんばかりのこの指令に嫌気と気が遠くなるのを感じた...自身が横になりながら笑ってしまうくらいに。
「———と、こんな感じです」
「....................」
「皮肉ですよね......僕はもうこの都市で生きたくなかったのに。結局は指令のせいでこうも生きながらえている。これ以上の生き地獄が、どこにありますか」
「......ねえ、ヤン君」
「はい、何です——」
ヤンがそう言いかけた時、ハルは突然肩を寄せて優しく包み込むように抱きつく。ヤンは彼女の突然の行動に困惑を隠せずに動揺しまくる
「——ッ!?せ-先輩、何を!?」
「大丈夫。そっとしてて......」
「せんぱ——...ぃ......っ」
彼女に優しく抱きしめられたヤンは急に謎の温もりを肌で感じ始めて彼女の腕の中で涙が溢れて静かに泣き始める。自然とハルに抱き返してハルはそんなヤンの背中をさすりながら囁く
「よしよし。大丈夫......あなたはもう1人じゃない。私がそばにいてあげるから...ね?」
「っっ...っ...ほんと、ですか......?」
「うん、だから——」
——今だけでも正直になろ?......ヤン君。
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「どう?少しは楽になったでしょ?」
「ふあぁ〜......はい...おかげ...さまで」ウトウト
「あれ、ヤン君〜?」
ヤンはハルに呼びかけられてハッと目を覚ますが先程感情に任せて泣いたせいか泣き疲れている状態でウトウトしている。側から見ればもう子供にしか見えない
「ホントに25歳の成人男性だよね?私からすればもう子供にしか見えないんだけど...」
「う-うるさ...いですね...」
「あーあー、よっと」
ヤンは立って反論しようとしたが睡魔には勝てずにそのまま倒れそうになるが、ハルがそれに気づいてすぐに彼を受け止めた後にそのまま背中に背負う
「うぅ.....ん」
「今日は私のアパートで泊まっていって。ヤン君の家より私のアパートの方が近いから」
「ありがとう...ございます......」
「それまでにまだ寝落ちしないでよ〜?」
そうしてハルはヤンと一緒に彼女の盾とヤンの大剣も一緒に背負う。ヤンはそれを見て本来は驚きとドン引きをするだろうが眠気によって頭が回らずツッコむ気力も無かった
しばらくそんな状態でハルは歩き続けるとようやくアパートに到着して自分の家の玄関から入ってまず先にヤンを自室のベッドの上に下ろす。大剣はベッドの横に置いて、自分の盾はちゃんと自分の盾掛けに引っ掛けて片付ける
「ふぅ...やっと終わった〜。じゃあ私はリビングのソファーで寝るから、ベッドで寝てていいよ。おやすみ」
「んぅ...せんぱ......い」
「ん?どうしたのヤンく——」
ヤンに呼ばれ振り向くと気付かぬうちにヤンがハルのコートの裾を引っ張っている。しばらくの間2人の間に沈黙が流れる...そうしてヤンが先に口を開いて話す
「その...今夜だけ。いっしょに寝て...くれませんか...」
「.................」
ヤンが眠気によって声も顔もいつも以上に弱々しくなっている。ハルはそれを見て心の中で何かが刺さった音がした
「(......守りたい、この寝ぼけ顔)」
そう心の中で思いながら無意識のうちにスマホを懐から取り出してヤンのこの顔を撮影する...ヤンは何をされているのか気づいていない様だ
「?......せんぱい?」
「なんでもないよー、ほら。一緒に寝てあげるから」
そう言いながらヤンのそばに入り込んでヤンの頭を撫でながら一緒に寝る。ヤンは小さなあくびをあげた後にすぐに眠ってしまった
「すー、すー......」
「あらら。想像よりも早く寝ちゃった」
小さな寝息を立てて寝ているヤンを見ながらハルは頭を撫でると、ヤンがまるで猫みたいにもっと撫でてと言わんばかりに擦り寄ってくる
「ん...んぅ......」スリスリ
「......ふふっ、この25歳児め」
そう独り言を呟きながら優しく頭を撫で続ける。そしてハルはふとヤンの寝顔と共に首元も見つめる
「ヤン君ってな〜んか肌キレイよね〜......」
そうしてハルは突然ヤンのほっぺをぷにぷにと触り始める。ヤンは反応せずぐっすり眠っていてハルはそのまま続ける
ぷにぷにぷにぷに......
「.....................」
ハルは何を思ったのか、突然ヤンの首元に顔を近づけて小さく歯を立てる、そして——
————カプっ
「......................」
そうして噛みついたまま無言になり、しばらくして目を見開きながらゆっくりと離れて顔を枕に埋めてまるで後悔したかの様な表情をする
「いや、何やってんの私...これじゃ私が変態みたいじゃない......」
そう呟きながらこの事は忘れようと思い、そのまま眠りに落ちてしまった...
次の朝ヤンが目を覚ますと、首元に痒みを感じながらリビングへと向かう
「あ、おはよ。ヤン君!」
「おはようございます、先輩。それと、その......ありがとうございました」
「いいっていいって!それよりも朝ごはん作るから座ってて!」
「......あの、先輩」
「ん?なに〜ヤン君?」
ヤンが噛まれた*1首元に触れながら話す
「昨晩、何かに噛まれてしまいまして...蚊でしょうか?」
「...................」
「先輩....?」
「ん?あ-ああ!そ-そそうかもね〜...あはは」
「..............?」
ハルはこの事実は絶対に話さないと決めたのだった......
次はどうしようか.....まあぼちぼち考えときますよ〜