——図書館、内部
「前に招待した人差し指の景色に出てきたあのハルって伝令、やっぱりツヴァイ一課のあいつだったのか」
図書館にて招待状が見せてくれた光景をローランとアンジェラは見ていた……特にローランは目を見開きながらハルの正体に納得がいったかのように驚く。
「あの時あいつは途中でどっか行っちまったからどういう奴か分かんなかったし、名前が一緒ってだけで半信半疑だったけど。今回のこれでようやく合点がいく」
「ローラン、聞くけどそのハルっていうツヴァイ一課のフィクサーはどんなフィクサーなの?……前に接待したツヴァイの人たちの印象から、あまりいい印象が見受けられないのだけど*1」
その言葉を聞いてローランは手を首の後ろに回して考えた後にハルの正体について解説する。
「ツヴァイ一課に所属してた頃のアイツは、別名【鉄壁の擁護】って呼ばれてた奴で。ツヴァイの中でも珍しかったカネを要求せずに自分の身体を張りながら彼女の依頼人と同じ部署の仲間をその盾と共に守り抜いてきたフィクサーだな」
「カーリーと似たようなものかしら?」
「あながち間違ってはいないな。結構前に一度会ったことあるが、とある事件を境にハルは姿を消した……厳密には行方不明ってトコだな」
「そのとある事件っていうのはどういう内容かしら」
疑問に思ったアンジェラのその質問にローランは真剣な眼差しで答える。
「元々その依頼は簡単な護衛依頼のはずだったんだ。だけどその時期は親指と他の組織同士の冷戦があったんだ……そしてハルの部隊はたまたまその現場に居合わせちまったってことだ。ハルとその同僚であるツヴァイ一課の隊員も応戦しようとしたけど、親指の不意打ちを喰らっちまって、結果的にアイツの部隊は壊滅。現場で生き残っていたのはハルただ一人」
「……彼女もまた、五本指の被害者なのかしらね」
「だろうな……あと部隊は違うが『エドガー』っていう奴も居たらしい。まぁ、直接的な関わりがあるかは分からないが」
ローランが一通り解説を終わらせると、それを聞いていたアンジェラは何かを考えるような仕草で黙り込んだ後に、ローランに新たな質問を投げかける。
「じゃあ、彼女はなんで人差し指になったのかしら」
「その辺はさっきのヤンっていう伝令と同じだろうな……俺の憶測ではあるが、どんなフィクサーでも仮に家でゆっくりしたい時は安全が一番だろ?だから指令を守って人差し指の保護を受けていた、そして指令に加入しろって書かれてて今に至るわけだ」
「だとするなら、納得がいくわね?」
「そうだな。何がともあれ、もうじき迫ってくる人差し指の代行者たちと、その
その言葉を聞いてアンジェラは呟くように続ける。
「人差し指の指令っていうのは、何をしようとも全て見抜いているのね?」
「それもそうだな。誰かは知らんが、ヤバいくらいの計算だな……そんな指令を盲目的に遂行するやつらもイカれてるけどな」
その指令を出しているのが何者なのか、どういう存在なのかを黙り込みながら考える……それを見ていたローランが彼女を呼びかける。
「どうかしたか?館長サマ」
「……少し考え事をしていただけよ」
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——図書館、入り口
「ごめんくださぁあ〜〜い!誰かいませんかぁ〜?」
大声を出して誰かを呼びかけるグローリアに対してヒューバートが「うるさい」と声をかけてグローリアを黙らせる、その光景を見ていたハルは小さく苦笑をしていると、パチンッと指を鳴らす音と共に目の前に蒼白の顔色をした少女が立っていた……彼女こそが情報に書いてあった館長兼司書の「アンジェラ」だろう。
「歓迎いたします、ゲストの皆様。私はこの図書館の館長兼———」
「あれ、ここの館長さんって機械じゃありませんでしたっけ?聞いてた話よりも人っぽい感じがありますけど……」
「というかほぼ人間じゃんか〜?」
「そうか?俺には曖昧に見えるな」
「それは別に重要な事実ではないと思いますけど」
アンジェラがそう告げるも気にせず、グローリアは少し呆れながら呟く
「半人前か〜。まだこんなどっちつかずなやつが居るなんてびっくりしたよ〜」
「…………」
「気が立ってるじゃ〜ん。怒ってるの?」
その言葉にアンジェラは眉をひそめて気を立たたせていることに気づいてグローリアが煽って反応を試そうとする……しかしアンジェラもそこまで短気ではない故、冷静に対処する。
「ゲストの皆様は、ここで試練を克服なされば良いのです……入場を望まれるならばあの扉へ入ってください」
「……意外と落ち着いているな」
「伝令ハルを含めた代行者へ告ぐ。指令の遂行が優先だ、程々にして扉へ入れ」
「はぁ〜い」
「どうかあなたの本が見つかりますように」
「…………」
アンジェラの言葉を聞き流しながら遂行者、代行者に続くようにハルも扉に入ろうとする……だが入る寸前で足が止まり、何かを思い返す。
もし仮に自分が死んでしまったら、ヤンとの約束を破ってしまうことになる……その時ヤンはもう這い上がれないくらいに深くて暗い絶望と悲しみを背負わせることになるだろう……だから———
「———生き残らないと……ヤンとここで逢うまで、私は死ねない。なんとしてでも」
そう呟きながら覚悟を決めてハルは自身の墓場になるであろう場所へと進む……
扉を抜けて数分後…
———総記の階、接待場
ハルと代行者たちが扉を抜けてどれくらい経っただろうか……いや、想像よりも早かっただろう。体力を温存する為遂行者を先に行かせて一同はただ眺めていた、だがこの図書館の司書と司書補という存在が予想以上に強い
その中で司書補という存在はかつて図書館に挑んだ者たちの姿に変貌し、それぞれの武器と戦術を使っていた。その中にはカーロアンダーボスの姿をした者、シ協会2課の部長の姿をした者、そしてその他二人もこの図書館に挑んで散った者たちだろう。
「……図書館に来て本になった人達は、あんな感じで司書や司書補に使われるのね」
「ね〜。仮にもし私たちが死んだらあの子たちに使われちゃうかもね〜」
「全員、構えろ……もう終わらせたらしい」
そうエスターが呟くように伝えると、先程遂行者が戦っていた司書とその司書補という存在がこちらに振り向く、その中で司書であろう黒いスーツの男がどこか鋭くて冷たい眼差しを向けながら発言する。
「底なしの恐怖に震えるがいい……」
「………ッ!?」
その言葉にハルと代行者たちもさらに警戒して身構える……だが男の様子が少しずつ変わっていき、彼の横にいた司書補も溜め息をつきながら彼の方へと向く。そのうちの半数は苛立ちを感じており彼に軽く説教するのが聞こえる。
「ちょっとローランさん!真面目にやってくださいよ!」
「くくっ……いやぁ、悪い悪い。こういうの一度は言ってみたかったんだよなぁ」
黒スーツの司書の名前はローランというらしい……ハルはその名前を微かに聞き覚えがあるがあまりよく思い出せない……まるでその会った時に認識が阻害されて記憶にノイズがかかっているよう感覚だった。そうハルは思いながらもその事を一旦置いておきながらローランとその司書補の説教を眺めている。
「な-なんか、変な人ですね……?」
「油断するな、ハル伝令」
「ゲストの皆さん、安心してください。この人はいわゆる変人ですから」
「おいおい、変人呼ばわりは流石に酷くねぇか!?……確かにふざけた俺も悪いけどさぁ」
自分の部下的存在である司書補にボロクソ言われてネガティブな言葉を言いながら警棒のような黒色の剣を取り出して構える……
「こいつらの底がまだよく分からん……実力がどの程度なのか、見当もつかないな」
「だがやることは変わらない……俺たちは指令を遂行するのみ」
そうエスターが再びその呪文のような言葉を呟くと、それに対してローランは呆れるように呟く。
「相変わらず人差し指は指令にだけ狂信的だな……取り憑かれたみたいに盲信的で、イカれてて、そして今これから死ぬかもしれないって時に自分の人生の悔いとか、そういうのはないのかねぇ」
そして次の瞬間、ローランがで剣を横に振りかざしながらものすごい勢いエスターの方へ攻撃を仕掛ける。エスターも長剣で攻撃を弾こうとするも、攻撃を防ぎきれずにローランから一撃をもらってしまう。
「へっ、どうだ?少しは効いたろ」
「…………」
「ローラン、下がれ」
かつてのカーロアンダーボスの姿をした司書補、アルスがそうローランに声を掛けながらピストルを構えてエスターに一方攻撃を仕掛ける。だがその弾丸は虚しくもハルが盾を構えて前に出たことによって弾かれてしまった。
「あの時の伝令か……あの借りは必ず返してもらうぞ」
「なるほど、肉体は違っても記憶と人格はその人物そのままなのね……通りでさっきあの司書補がアンダーボスさんに変身した時からイヤな視線を感じたのね」
そのまま彼女の横からヒューバートが飛び出し自身の右手のガントレットに剣を装着してアルスに力強く剣を振り下ろす。彼が防御を試みるがヒューバートの強圧的な攻撃により防御は崩されて攻撃を受けてしまう……だが致命傷には至らなかったみたいだ。
「くっ……痛いじゃないか」
「アンダーボスの服はいい生地を使っているな……それにハル伝令の言う通り、姿は変わってもこの頑丈さは親指を背負うアンダーボスなだけあるな」
「そこの代行者。よそ見をするんじゃ、ないッ———!」
そうシ協会の部長らしき人物の姿をした司書補、アルフレッドが鞘に収められていた赤色の刀を抜き、ヒューバートの不意をついて彼に向かって攻撃を仕掛ける。それにハルは援護防御で対応しようとするが、彼女の防御が相殺*2されて司書補から2回攻撃を受けてしまう……だが本来狙っていた対象のダメージと受ける攻撃を肩代わりした事実に変わりはない。
「かはッ……痛ったいな〜」
「耐えただと……本気で言ってるのか?」
「おいアルフレッド!動きを止めるな!殺されるぞ!」
ローランがそうアルフレッドに動きを止めぬように声を掛けながらエスターの攻撃を捌き切り、反撃を喰らわせる
「……噂通りやるな、この図書館の司書というものは」
「そいつはどうもっ!」
ローランがそう言いながらエスターとのタイマンを続ける……その横でグローリアはギラギラと燃える剣を持つハナ協会に指定された「泣く子」の姿をした司書補、エリヤと戦っている
「もぉ〜!しつこいよ〜!」
「ここで足止めできれば、彼らの援助には向かえないでしょうね」
グローリアは本来エスターたハルの援助へ向かおうとするが、エリヤの《羽の盾》でグローリアが放つ5本の鎖剣を全て防ぎながら行手を阻む。グローリアも急いで始末しようとするが、想像以上にしぶとい。
「エスター!後どれくらいで解放できそう〜?私いま手がまわんないし、解放にも時間がかかるかも〜!」
「こちらもまだ少し時間がいる」
「俺なら出来る。一人は片付けおこう」
青色の花びらが舞うと共にヒューバートがアルスの方へと突っ込み、解禁した自分の剣を横に振りかぶって叩き斬る。しかし間一髪でアルスが間に腕を入れて防ぐことはできた……だからと言ってタダでは済まなず、致命傷を負って混乱状態だ。
「……っく、ぁ——!」
「今のを防ぐか。だが致命傷は避けられまい」
「貴様っ!!」
アルフレッドが怒りの混じった声で居合の動作をしながらヒューバートに攻撃を仕掛けようとするが、途中でハルがそれを防ごうと前に出る。
「私がいる限り不意打ちは無駄よ!」
「——分かってる、
「なッ——!?」
アルフレッドが深く息を吸い、呼吸を整えたその次の刹那。閃光が如くシ協会の奥義《死の境界》を決める……ハル盾を構える余裕もなくモロにその一撃を喰らい、そしてその斬撃は肩から胴まで深く斬られておりハルもかろうじて立とうとするが、あまりに深手だったため混乱状態に入ってしまった。
「かッ…ハァッ……!」
「(
——今だッ!!
間髪入れずにアルフレッドが再び刀を抜いて彼女に斬撃を浴びせる。先程の攻撃と今加わった追撃によって更なる致命傷を負う……ハルの体は動かず次の攻撃を受けないように盾を構えることしかできなかった。
「殺すことは出来なかったな……だがこれで盾は封じた。あとは別のやつらを——」
アルフレッドが歓喜と闘気に満ち溢れた声を上げた途端、背後から5本の鎖剣がアルスの胴を貫く……ゆっくり振り向くとそこには焦げ跡とかなりの傷を負ったグローリアからその鎖が伸びていた。
「いやぁ〜、私たちをここまで追い込んだのは初めてかもね〜?」
「くっ…ァ、貴様っ……エリヤをどうしたっ!」
「あぁ、あの娘ね〜。本当にしぶとかったよ〜!まっ、もうバラバラにした後光になっちゃったけどね〜……おかげで私の体すっごく熱いし焦げ焦げになっちゃったよ〜」
「このっ……クソやろ…っ」
次第に彼の意識が遠のき、彼も光となって散ってしまった。
「さてと〜、残りはあの黒い服と〜……ハルちゃん、生きてるでしょ〜?あとは誰だっけ?」
「……えっと、確か——」
ハルが答えようとすると彼女はとある違和感に気づく、ローランという司書を含めた接待で戦う人数が5人。5人中二人は殺し、そのうち二人はエスターやヒューバートと戦っている……
微かに速足でこちらに近づく音が聞こえた。グローリアの背後に影が見え、咄嗟にグローリアに声をかけるハルだったが——
「——グローリアちゃんッ、後ろッ!!」
「えっ———」
グローリアが気がつく前によれたスーツとシャツを着た司書補、オルトは剣を詰め込むように突き刺し、グローリアも反撃するがこの絶妙な瞬間を待っていたようにニヤリと笑みを浮かべながら攻撃を回避をしてその剣で同じ傷口を斬る、そしてグローリアの中身を掻き回して抉り出す様に斬り裂いた。
「ま-マジddddd——」
「この絶妙な瞬間を俺は待ってた。いくら俺が一級フィクサーでも、ここじゃ卑怯もクソもないからな……って、聞こえてるか〜?」
淡々と告げる彼女をよそにグローリアが混乱状態に入り、彼女の赤い義眼が点滅しながら倒れている……溜め息をつきながら彼女はグローリアの頭部に斬りつけ、剣を両手で力を込めてさらに深く切り裂いた後、光になって消えるのを確認し右手を再びポケットに入れた後にローランの方へ振り向きながら呟く。
「これで、厄介なのは消えたな。後は俺がローランのやつと他の味方のの援護に向かうとするか」
「…………」
唖然とその光景を見ていたハルは彼女の見た目を見て妙にとある人物が脳裏によぎる……その人物はハルと同じ一級フィクサーではあったが、彼女ほどの実力はないが顔と認識だけはかなり高かった。名前は確か……
そう思っていたがハルはハッと我に帰り、前を見てみると重傷を負ってなお剣を解禁して戦っているエスターとヒューバートの姿が見えた。
「エスター…さん。ヒュー……バートさんっ!」
ハルはなんとか体を動かそうとするも、傷が思ったよりもひどくまともに立っていられない状態だった……それを見たオルトが警戒してハルの方へと標的を変えて剣を振りかぶって斬りかかる。
「くっ……!」
辛うじて目を瞑りながら盾を構えて衝撃に備え、そして剣が衝突する音が鳴り響く……だが妙なことに盾からの衝撃が感じない。恐る恐る目を開くと目の前には長剣でハルから攻撃を庇ったエスターがいた。
エスターはオルトの剣を受け流して攻撃を返した後、ハルの方へと振り向いて問いかける。
「……まだ息はあるか、ハル伝令」
「え-エスターさん……なんでっ」
「さあな、俺にも分からない」
「じゃあ尚更なんで——」
そう言いかけたハルにエスターがかなり強い後ろ蹴りで彼女を吹き飛ばす……飛ばした先はあの招待状やこの接待場に入場する時の扉と同じ光に包まれた門だった。
「っ、エスターさんっ——!」
ハルが光の中へ消え、エスターがそれを確認すると息をついて跪いているヒューバートの横に立つ。そんなヒューバートはエスターに声をかける。
「いいのか、エスター。何も言わずにあいつを助けて、お前にしては珍しいな」
「…………」
「今のお前、昔とよく似ている……まだ指令に縛られていなかったあの時とな」
エスターは何かを思い出すように遠くを見つめる、だがすぐに目を伏せて同じ言葉を呟く。
「……俺は指令に従うのみ。そして本来この指令に書かれていたのは代行者のみ、ハル伝令は含まれていない。どうしようが俺の勝手だ」
「そうか?……まあいい」
ヒューバートとエスターが同時に再び剣を解禁し、構える。
「俺たちは指令を遂行する……死のうが死なないが、図書館に行けという指令を遂行するのみ」
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今回は一旦ここまで……