それと余談ですがヌベス君の設定書き直しました、ネタバレを含みそうなのは透明文字にしてあるので誤字報告やコピペで見てみてください
——図書館 入り口
「かはっ、ゲホッゴホッ……痛っつぅ!」
先程エスターから蹴りをくらい、腹部の痛みにハルはうずくまっていた……その最中にふと脳裏に疑問がよぎる
(……エスターさんは、なんで
そう心の中でハルは呟きながらふと昔のことを思い出す……彼女がまだツヴァイであり、誇りを持って成し遂げていた日々を。
それは、ハルが人差し指に堕ちる前。まだツヴァイ1課として、【鉄壁の擁護】として名を馳せていた過去の話……
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時は遡り……
——ツヴァイ協会 西部支部 1課
「あ、ハル部長!お帰りなさい!」
「ただいま〜、それと。ハルでいいって言ってるでしょ〜?……同じ職場にいる以上、呼び方とか地位は関係ないって〜」
「それでも、あなたは部長という立場に昇格したんですから。このまま行けば支部長……いや、ツヴァイの協会長も夢じゃありませんよ!」
「もう〜!褒めたってなんも出ないよぅ〜!」
たった数人の部下に褒め称えられてあからさまに照れながら着ていた鎧と自分の盾を下ろしてソファに腰掛ける……1級のエリートでありながらその事務所の人数は少ない、ツヴァイの中で選抜されたものがこの1課に入隊することができる。
「にしてもハル部長。部長は僕らと違ってツヴァイ専用の大剣じゃなくて、盾なんですね?どこの工房ですか?」
「あ〜はは……これ実は協会長さんにわがまま言って作ってもらった特注品なんだよね〜。戦闘よりも守ることを優先したいからさ」
「肝が据わりすぎてませんか!?自分より地位の高い協会長にそんなわがまま言うなんてクビになってもおかしくなかったですよ!?」
「ま、ハル部長はこれまで類の見ないほどの実力を持ってますからね。手放したくはなかったのでしょう」
そしてハルのおかげでこんな軽い雰囲気を出してはいるが、全員実力は本物。ハルはその中でも屈指の実力を兼ね備えている……流石1課の部長というわけだ。
「それにしても、今日もまたどっか飲みに行かない〜?またいつものお店行こうよ!」
「そうしたいんですけどね……生憎事務作業がまだ終わってないんですよ、それもかなりの量ですよ」
「そっか〜……じゃあさ、私がするからみんなは先に上がってて!」
「え、任務から帰って来たばかりなのに。悪いですよ!」
「良いって良いって!体力には自信あるから徹夜してでも終わらせておくよ!」
心配の声をあげる皆をよそにハルは先ほど座っていたソファから立ち上がり同僚のテーブルに置いてある資料の山を一つ一つ運びながら自分の席に座って事務作業を進める。
「それに、みんなには苦労してほしくないからさ……私はツヴァイの【あなたの盾】じゃなくて、【みんなの盾】になりたいの……どんな奴が相手でも、みんなが守れる盾として」
「……部長らしいですね」
そんな和んでちょっぴり感動する光景の中、突然扉が開いてそこからかなりよれたツヴァイ南部支部の制服を着た成人男性がいた。
「よお、【鉄壁の擁護】相変わらずお優しいじゃねえか」
「……馴れ馴れしくその名前で呼ばないで、その名で呼んで良いのは私の依頼人だけよ……あなたこそ何をしに来たの?何でもかんでも暴力沙汰で解決するエドガーさん」
珍しく皮肉と苛立ちは混じった声でエドガーという人物に話しかける。エドガーも鼻で笑って軽く反論する。
「これでもお前の信じてるものと大して変わらんだろう。俺は強行犯係として自分の正義を貫いているまで……お前の方こそ、また依頼金を受け取らず無償で助けてるならいつか早死にするぞ」
「ハ-ハル部長!またですか!?」
「そ-それは……貧しい人だったから」
ハルの図星にエドガーが笑い、そして突然横から義体でできた剛鉄の犬、「ラング」が電子音を立てながらエドガーの横に座る。
「ふっ、ほれみろ。ラングのやつも〔その言葉はつい一昨日、そして先週も同じ言葉を言っている〕……ってな」
「なっ、ちょっとラング——!」
「おいおい、いくらラングの耳がいいからってとばっちりは良くねえな」
「まだ何も言ってないし、いくら耳が良くてもこれはおかしいでしょ!?このストーカー犬!」
ラングは知るかと言わんばかりに顔を背ける、そしてエドガーはすっと煙草を取り出して吸い始める。
「何がともあれだ……形は違えども俺たちはこのツヴァイで
「…………」
煙草を吸い終わり、懐からポケット灰皿を取り出して吸い殻を中に入れる。
「お前のやってることは自殺行為だ。この都市の中、金がないまま生き残れたやつはそういねえ……それでも続けるのか」
「たとえお金が無くて飢えていても……それでも私は、その身をもってでもみんなを守り続ける。それだけが私の
「そうか、それがお前の答えか……じゃあ逆に聞くが——」
エドガーがため息を吐いて彼女を見つめながら、そして今度はハッキリと伝える。
「——お前が死んだら……誰が
それだけを言い残し、煙草を再び口に運んで吸いながら去り際に手を振ってラングと共に西部支部一課を後にした……ハルとその同僚たちが静かにその光景を見送る、そしてその静寂最初にを破ったのは———
——ぐううぅぅ〜〜……
ハルのお腹の音だった、先程のエドガーの発言から推測するにお金がなくてここ最近何も食べていないだろう
「あ…えっと……これは———!!!/////」
「……ハル部長、迷惑をかけたくないのは分かりますが。たまには俺たちも頼って下さい」
その言葉に続いて他の同僚たちもハルのデスクの上に積もられた自分たちの資料を取り、各自また作業に取り掛かる。
「今日はさっさと終わらせて、みんなでご飯を食べたり一緒に呑みましょう。今日は俺たちの奢りです」
「賛成です!僕らばかり楽してちゃ食事もお酒も不味くなりますよ!」
「み-みんなぁ〜〜!」
ハルが感動したように涙ぐましく声を上げると、ハルも気合いを入れて皆を手伝う
「そうだね!今日は沢山呑むよーー!」
「「「「はい!!部長!!!」」」」
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「……そんな日もあったっけ」
そう懐かしさに思いを馳せていたハルであったが、深い悲しみを抱きながら彼女は自分の盾に触れながら思い出す……
「……私はヘマしなければ、助かっていたのかな?」
夢も盾も、全てが砕かれてしまった悪夢のような
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再び時は遡り……
——都市西部地域 X社巣付近の団地
「———じゃ、今回の任務のおさらいね」
手に持っている資料に目を通しながら前にいる同僚たちに今回の任務に告げる……今回はX社の役員兼その現場監督者を護衛するという任務だった。
「その人曰くただの採掘場の点検らしいけど、最近指同士の膠着状態が激しくなってるらしいから。どこに行っても油断できないし、五本指の内の一つは接触するかもしれないから充分気をつけて……資料によるとなんか変な怪物もいるみたいだしね、そこにも注意しておいて」
「「「「「了解」」」」」
「……あの、質問です」
「どうしたの、イーサン?」
彼女の同僚、イーサンがハルの説明に少し疑問が浮かんだのか手を挙げて質問をする
「X社って元々自分の近衛隊がいませんでしたっけ?……彼らはどこに——」
「しばらく遠くに遠征するみたいね。そこら辺もXの本社から連絡をいただいてるから私たちが雇われたみたい……ほかに何か質問ある?」
「いえ、特に問題ありません」
「分かった。じゃあ準備を進めておいて、私は依頼人に報告してから準備を整えて出発しましょう」
少数精鋭の少人数でありながらそれは並のフィクサー事務所よりもはるかに上回る士気と雰囲気が漂っていた……ハルは盾を担ぎながら依頼人の側に寄る。
「こちらの準備が整い次第、その現場へ向かいましょう。現場への道は既に記憶しておりますので、案内は必要ありません」
「そ-そこまで……まだ本格的に始まったわけじゃないのに噂以上の仕事ぶりを見せてくれるな、【鉄壁の擁護】は」
「そう言われるとありがたいです」
先程同僚たちと話している時とは違い、依頼人の前では一流のツヴァイ1課のフィクサーとして真剣な眼差しと仕草をする……そうする中でハルたちは準備を終えてハルが先導し、同僚たちは依頼人の周りを囲うように配置してハルの先導について行く。
X社 合金採掘地域
「……ここね」
「皆さん、ありがとうございます。後の点検は私の作業なので、ここは———」
だが、突然———
「グオオオオオオオォォ!!!」
「ひっ——!」
大きな咆哮とともに謎の怪物が現れて触手のような物を飛ばしてくる。依頼人は恐怖のあまりに目を閉じてしまうがその前にハルがそも怪物の攻撃を防いだ後にはシールドバッシュで相手を怯ませ、その隙にハルの同僚たちが大剣で斬りかかり。やがて怪物はに追い込まれていく。
「グ-グオオオォォ……!」
「ふぅ……大丈夫ですか」
「は-はい……助かりました」
「流石ハル部長だ。下手すれば僕たち要らなかったんじゃないですか?」
「そんな訳ないでしょ〜、みんながいなきゃ仕留めるどころかこいつを追い詰め——」
軽く冗談を言い、皆が気を抜いて油断したその刹那、暗闇や岩の影から火花と銃声とともに弾丸が放たれてハルの肩を貫く。そして次々とハルの同僚たちも撃たれていく……中には傷が凍ったり、燃えていたり、過度の衝撃であらぬ方向に足が向いている者もいた
「う……ぁっ!?……んだよこれ!?」
「き-傷が凍って……!」
「あのバケモン邪魔だったから助かったぜぇ?……ま、いくら1課のエリートつっても、油断したとこ狙えば大したことはねえな」
「親指……完全に忘れてた!……何故ここに!」
中央で立っている親指のカポと思われる人物がハルを無視して通り過ぎ、依頼人の顎を掴んでクイっと上げた後に問いかける。
「X社の監督さんよぉ。ウチのアンダーボス、そしてその上であるゴッドファーザー様からの御命令なんだ……取引をしよう。」
「な-なんですか……ど-どうか私の命だけは……!」
カポがニヤリと笑って指でバーンと冗談混じりにやっても監督はそれに反応してびくつくのでそれをしばらく面白がった後に本題に入る
「テメエらが採掘してるこの場所の特殊合金が欲しくてな……お前がX社の誰にも言わずタダで俺らに定期的に手渡してもらいたい……本当は他にもあるが思いつくのはこれしかなくてね」
「そ-それは……で-出来な——」
「黙れ、テメエに拒否権はない……それともここに上下はないのか?」
カポがそう言い放つと手に持っていたリボルバー*1を依頼人の足下に向けて発砲する。依頼人が恐怖のあまりに叫び声を上げるとその口を塞ぐように銃口を口に突っ込んで黙らせる
「選べ……今ここで親指のカポに拒否権を使った罪でクソみたいな死を迎えるか。親指に貢献してその特殊合金を渡し、X社の役員としてありえない行為をしたことで膨らむ罪悪感に包まれてそれでも尚かつ生きたいか」
その言葉を聞いた彼は冷や汗をかいて怯えながらポケットの中に入っている鍵とカードを渡して震える声でカポに答える。
「こ-この場所からそう遠くない位置に保管庫があるはずです……その中に特殊合金が入ってます……いくらでもとって構いませんから、私の命は——」
「ほう、良いじゃねえか……感謝するぜ——」
そうカポが告げると銃を依頼人の頭に突きつける……その間際にこう言い放ったのだ。
「その少ねえ脳ミソかっぽじってよ〜く思い出してみろ……俺は
「そ-そんなっ……!」
「つーわけでテメエは用済みだ……さっさとくたば——」
その刹那、ハルの部隊員の1人が歯を食いしばって大剣を握りしめて親指構成員に斬り掛かる。それに応じて他の部隊員も立ち上がって応戦し、カポは戸惑いと共に依頼人とハルをよそにそっちの方へ気を取られる。
「なっ……こんのクソ虫共が!大人しくしていれ——ばっ!?」
その隙にハルが盾を構えてカポにシールドバッシュで吹き飛ばし、鍵とカードキーを奪って依頼人に投げて渡した直後に叫ぶ
「逃げてください!早くっ!ここは私達が———っ!」
走り去っていく依頼人に背を向け、すぐに盾を構えてカポの射撃を防ぐ……カポの表情はとてつもない憤怒に満ち溢れていた。
「生きて帰れると思うなよ……クソ虫共がぁ!!!」
「
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………
「はぁっ……はぁっ……!」
あれからどれほどの時間が経っただろうか。どれだけ同僚たちが痛めつけられていくのを見たか……ハルは片目を潰され、着けていた鎧ももうそれには見えないほどボロボロに崩れており、ハルの盾もなんとか原型を保っているがほぼ砕け切っている。
カポと親指の構成員の死闘の末、ハルだけが生き残ってしまった。命懸けで精一杯同僚たちを守ったつもりなのに、守りきれずにその命の灯火が目の前で消えていくのを眺めることしかできなかったのだ……カポの死に際にもそのことを嘲笑うように散っていった。
そしてそんな彼女の夢であり、目標であった【みんなの盾】は———
———虚しくも砕かれてしまった。
「私はもうみんなの——いや……もう誰かの盾にも、【鉄壁の擁護】にもなれない……」
力尽きて膝からその場に崩れ落ちる……彼女の存在意義も同僚たちも何もかも全て失い、虚の目で空を見つめていた。
「……みん…な」
掠れるような声で皆の名前を呟く……だが虚しくも帰ってくるのは静寂のみ。そしてハルはただいっそのこと……こんな無力な自分を殺して欲しかった。
しばらく時間が経つと、眼帯を付けた高身長の白いローブを纏った男が2人現れる。1人は褐色肌でマスクをつけており、もう1人は長髪の男だ。
「…………」
「こいつでいいのか、エスター?」
「そこ遂行者2人〜!指令に書かれてた人見つけ——ってうわぁ、こりゃまたすごいねぇ……指令の内容的にこの人でも良さそうだけど、わざわざ生きる意志もない人間も助けるの〜エスター遂行者〜?」
「人差し……指」
そして眼帯を付けた長髪長身長の男が彼女をおぶろうとするが、盾が重すぎて立てずに膝をついている。
「……ヒューバート遂行者、お前は盾を持ってくれ」
「素直に助けを求められないのか?……全く——って結構重いな、これ」
「——なんで」
その掠れた小さい声を放った後に、ハルは気を失ってしまい遂行者に運ばれるのだった……
「…あ……れ?」
そこから、翌日の事だっただろうか……身体中が痛むがハルは治療されており、潰れた右目には包帯が巻かれていた。
「私、確か人差し指に運ばれて……それで——」
ベッドからゆっくりと起き上がり、リビングにあるテーブルの上に一枚の紙が置いてあることに気がつく……それは人差し指からの指令の紙だった。
その内容を見たハルは小さく絶望した……これだけ失いながらも自分はまだ死ねないのだと。そう思いながら体と左目の痛みを感じながらその指令に従う。
アパートを出て、右曲がりのコインロッカーへ向かう……7番ロッカーの前に立ってその妙な大きさに少し困惑しながらもゆっくりと数字を当てはめる。
「………これは」
ロッカーを開くと人差し指の衣装とローブ、眼帯、通信機、剣、そしてかつてハルが使って砕けた盾が直されてそこに置かれていた……震える手でその盾に触れて持とうとすると守れなかったトラウマが蘇って更なる重さを感じていた。
「私は、もう何も守れない……この盾ももう必要ない……けど捨てる気にはなれない、から———」
ハルは中に入っていた装備を持ち、蘇るトラウマが重さと恐怖を煽って吐き気を促すが、なんとかアパートの中に持って行ってその盾をゆっくりと丁寧に置いてアパートを出る……彼女はもう盾には成れないから堕ちるところまで堕ちればいいと思ってしまった。
「……
そうしてアパートを抜けて、そして新たなる人差し指としての人生を歩むことになった時だった……
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「……………」
昔の記憶で嫌なことを思い出して表情が曇るが、すぐになかったように笑顔で伸びをしながら再び扉の前に立つ。
「ここまで堕ちぶれた私でも、また守りたいものが増えた……誰かを守りたいと思えた……だから、私は———」
一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに息を整えて覚悟を決めて前に再び進みだした。
「———どんなことだろうと生き延びて、