都市の右腕   作:プティパット

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都市の意志と自分の意志

 

 

 

???

 

 

 

「……L5123……4つ目の扉」

 

 

 

ヤンは指令に書かれていた通りにその場所へと向かう……指令に書かれている通りの言葉を呟きながら先へ進む。

 

 

 

「右に14歩……左に23歩……」

 

 

 

そしてヤンは先が見えずどこまで続いているのかわからないほど暗くて長い階段があった。

 

 

 

 

「この階段は……一体どこまで続いてるんだ……?」

 

 

 

そう疑問に思いながら進んで行くと小さいが段々と音が大きくなり、明るくはないが光も見えた時にヤンは扉の前で止まって考える……果たして本当に入ってもいいものなのかと。

 

 

 

「……入るしかないか」

 

 

 

そうして扉を開いた先に見た光景は……どこか異質なものだった。

 

 

 

「——なんだ?この巨大な装置は……」

 

 

 

謎の振り子がついた巨大な装置、囲むように設置された無数の糸車……これまでに類を見ないものを見てヤンは困惑する。

 

 

 

その時、白いローブを羽織った茶髪で背の高い人物が笑顔で近づいて来る。

 

 

 

「ようこそようこそ〜!ここまで来るだなんてさぞお疲れでしょうね……早く入って楽〜にしてくださいね〜!」

 

「……あなたは?」

 

 

 

ヤンのその一言に再びにこりと笑って彼女は続ける。

 

 

 

「あぁ!私はここの()()()です!…久々にここにお客さんが来るだなんてすっごく嬉しいですね。さぁさぁ!ぼーっと突っ立ってないで!」

 

「紡織者……?」

 

 

 

ヤンはさらに困惑する……何故ならヤンが今まで人差し指に入り、そしてその「紡織者」という役割は今までやってきた中で一度も耳にしたことがない役職だったからだ。

 

 

 

そしてその紡織者という人物が再び語りかける。

 

 

 

「貴様も指令の招待を受けて、この場所に来たんですよね……?」

 

「どうしてそれを……」

 

「ここは指令の招待がなきゃ、貴様みたいな人たちが訪れる場所ではないからですよ!…招待を受けてここに来る人は本当に稀なんですよ〜!」

 

「……この場所は指令と関係あるんですか?」

 

「はい、とても密接な関係があるんです。——ここは()()()()()()()()()ですからね」

 

「指令が……生まれる場所……?」

 

「聞きたいことが多そうな顔ですね〜!…でも良かったです。私もすごく暇だったけど……とりあえず座りましょうか。話も長くなりそうですからね!さ、ここに座って———」

 

 

 

そう1人で勝手に話を進めるその紡織者はヤンを座らせた後に自分も座る。

 

 

 

「お茶が出せなくてごめんなさい。この場所お湯が出なくて……。挨拶が遅れましたね。お名前は?代行者ですか、伝令ですか?私の名前は()()()()です!…先程申したように、ここで紡織者の役割をさせていただいています!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。一つずつゆっくり話してくださいよ……」

 

 

 

早口で話すそのモイライという紡織者をひとまず落ち着かせながら自分も自己紹介をする。

 

 

 

「とりあえず、僕はヤン……ヤン・ヴィスモク。伝令になってまだ1ヶ月も経ってないです」

 

「ヤン!伝令なんですね」

 

「はい……わけも分からない残酷な命令で一杯の伝令を伝達しました」

 

「分かりますよ。指令は残忍です。その意味を察することの難しさにも殺されたりしますし」

 

 

 

ヤンはモイライのその言葉にかすかに怒りと悲しみの混じった声で俯きながら呟くように答える。

 

 

 

「……そのせいで指令を受けた人の恨みと絶叫を聞く羽目になりました。あなたが……そのわけも分からない指令を作ったんですか?」

 

 

 

モイライがその言葉を聞いてまた不気味にクスッと笑いながらヤンの言葉を訂正するように答える。

 

 

 

「私は指令の内容を作りません。この糸車と織機をもしもの時のために守るだけです」

 

「……はい?じゃあ指令が生まれるっていうのは———」

 

 

 

そして突然モイライが「シッ」っと静かにするような動作をしてヤンもその通りにすると、先程まではあまり気にしていなかった奇妙な音とその振動をかすかに感じ取る。

 

 

 

「この音聞こえますか?つま先から胸にまで届く振動が感じられませんか?」

 

「……細かく揺れるのは感じられます。けど……これが関係あるんですか?」

 

「違います!これはただの振動ではありません。…簡潔に答えるのなら、この振動はまさに()()()()()()()()です。乱数的な振動数で震えているんですよ……」

 

 

 

そう言いながらモイライはその重りが揺れる大きな機械の方を見つめてまた語り始める。

 

 

 

「この振動が重りを動かせば……私は糸車を回しながら糸を紡ぎます」

 

「…………」

 

 

 

ヤンはその言葉を聞いていたが言っている意味がわからなかった。「都市の心臓の鼓動」……その意味がわからなかった。果たしてそれが本当に指令と関係があるのかと。

 

 

 

ヤンの困惑に気づいたモイライは再び笑みを浮かべながらヤンの方に再び振り向いて声をかける。

 

 

 

「あぁ、言葉で説明すると分かりづらいですよね?…近くで見ていってくださいよ〜、ちょうど新しい指令が生まれてますね!」

 

 

 

その言葉に誘われてヤンは彼女の近くに寄りながらその都市の心臓とも呼ばれている機械の前に立つ……そしてヤンがその光景を見ている最中でその機械の重りが延々と揺れながら布の上に奇妙でぐちゃっとした謎の模様を刻んでいた。

 

 

 

「こうやって紡いだ糸の上の重りが揺れながら、その意味を刻むんですよ」

 

「……意味って?ただのぐちゃっとした模様じゃないですか」

 

「最初はそう思うかもしれません。これはいわゆる()()()()()ですからね。分からなくて当然です、うん……だって私にも全然わからないんですよねー」

 

 

 

「都市の言語」……新たな言葉を聞かされるたびにヤンはまた混乱し続ける。そんな中でモイライは意味が刻まれたという布を糸車に入れて織り出す。

 

 

 

「ここには57台の糸車がありますよね?私はその糸車から紡いだ糸を織機に入れて織り出すだけです……そしてその過程を経て私たちはこの布に刻まれた意味が分かるようになるんですよ。少し待っててくださいね〜」

 

「……………」

 

 

 

そうしてヤンが黙ってその作業を見つめているとモイライが織り出した一枚の布を手に取ってヤンに渡す。

 

 

 

「できた!見てください、指令が1つできましたよ〜!」

 

「そんなわけが……」

 

 

 

そう信じられないようにその布に書かれた字を読んでみると確かに指令だった……まだ信じられずに唖然とそれを見つめていたヤンだがすぐに指令を優しく奪い返されてモイライが口を開く。

 

 

 

「さぁ、そんなぼーっとしてる時間なんてないですよ!…指令ができたらそれを伝令さんに送らないとですよね?」

 

 

 

そう伝えると再び忙しそうにテキパキとその指令を持ってまずはハンコを押し、そして地上に伝っているであろう無数のパイプが並べてある場所へと歩き出してアルファベット順に探している一つのパイプへと向かう。

 

 

 

「——あった!N9201のパイプが見つかりました!」

 

 

 

そう伝えると同時に指令を丸めてパイプの中に入れる、そうしばらくすると先ほどの振動とは違う音がパイプからなって指令が地上に届けられた。

 

 

 

「こうやって指令を入れて、その指令はパイプを伝って地上へ行くんですよね」

 

「これが指令の正体……そんなバカな……この糸車、織機、パイプまで……一体誰が作ったんだ?」

 

「分かりませんね〜。私も指令に従ってこの仕事を始めましたし……」

 

 

 

ヤンはまた指令という呪いの言葉を聞いて怒りが込み上げてくる……少しずつヤンは声を荒げてモイライを睨みつけながら問いかける。

 

 

 

「……指令に疑問を抱いたことはないのか?」

 

「特には?この仕事以外、別にやることありませんし」

 

「ただ、デタラメに作られる文なんかのせいで。どれだけ多くの人が死んだのか知っているのか……!」

 

「……それは、少し違う気がします」

 

 

 

そう告げるモイライにヤンは困惑していると、モイライはそのまま続ける。

 

 

 

「私が思うに、この文はデタラメではなく、『都市の意志』だと思います」

 

「都市が……?」

 

「さっきも言いましたけど、糸の模様を刻む重りは都市の振動で動くんですよ」

 

 

 

モイライはヤンの周りをゆっくりと歩きながら振動が生まれる様々な原因と理由をぽつりぽつりと話す。

 

 

 

「地上で忙しく動く人々……工事現場の揺れ……誰かが床の転げて生まれる振動……悲鳴の響き……。都市で起こるすべてのことが集まり振動を成し、そしてその振動は重りを動かすんです」

 

 

 

そう続けながらやがてヤンの目の前に立ち止まり、目線の高さを合わせるように小さく屈んでからその笑顔とは裏腹に不気味なことを言い出す。

 

 

 

「——結局、都市の人は都市から逃れられることはできないんですよ。…都市の人がすることは都市の事。都市の意志を都市の人々が代弁してるって事ですよ」

 

「都市は……どうしてそんな残酷にならなきゃいけないんだ」

 

「人間が残酷だからですね……都市は人間が作ったもので、その人間という存在が残酷なのでこの都市は似るしかないんですよ」

 

 

 

ヤンが表情を暗くして俯く……今まで自分がやってきた数々のことが、全て都市の意志だったという事実を噛み締めながら口ずさむ。

 

 

 

「めちゃくちゃだな……人間が都市を作ったのに、今は都市が人間を操るって?」

 

「順序ってそんな大事なことですか?大事なのは私たちが何をしようが結局は都市の一部ということです」

 

「こんな場所で呑気に布を織っているだけのお前は……その布切れ一つがどれだけ残酷な結果を呼び起こすのか知らないだろうな」

 

「そうです。私には分かりませんね。私は与えられた仕事をしているだけですから」

 

 

 

そう言いながらモイライはまるで既に悟ったかのように語り続ける。

 

 

 

「都市の意志通り、都市の意のままに……そしてその意志はすなわち、都市に住む人たちの意志……」

 

「知ってますか?都市の人々が望んだことによって作られた存在がいるってこと……人間というのは与えられた道を歩みたがるものです。選択による結果と責任を負うことが怖いんです」

 

「人生の目的がない人たちが自分の道を切り拓いてくれる何かを求め、望んで……」

 

「あるいは野望と希望の中で平等を求める人の願いにより……」

 

「あるいはこの都市が満ち足りぬことがないように生きていけたらいいなという人々の虚しい望み……」

 

「多くの人々がそう望むがゆえに……()は生まれたんです。指令が生まれた理由を……やっと少しは分かりましたか?」

 

 

 

モイライがそう述べた後にヤンの閉ざされた目の奥に宿った光がスッと消える……モイライが述べた言葉はヤンにとって希望を打ち砕く絶望のような言葉だった。

 

 

 

そして誰にも話しかけられてすらいないのに()()()()が聞こえ始める。

 

 

 

————————

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分かったでしょう?

 

結局のところ、誰も都市から逃れられないの。

 

そんな貴方の意志は、都市の意志でもある。

 

貴方が司令を伝達するせいでみんなが残酷なことをしているわけじゃないわ。

 

都市と貴方……そしてこの都市の人たちも全部1つよ。

 

貴方もそう思わない?

 

 

 

 

その言葉を聞いてヤンは今までの行動を思い返して俯いている……するとヤンがゆっくりと口を開いて語りかける。

 

 

 

「……確かに、そうかもしれない」

 

「都市を作った全ての人たちが元から残酷であり、人間がそう言った存在であり……そして切に願うものがあるから」

 

「僕がやったことは都市の一部……都市の意志。だから勝手に嘘の指令を伝えるのも僕の意志ではなく、都市の意志だったかもしれない……」

 

「………けれど———」

 

 

 

ヤンが顔を上げると閉じていた目を開いてじっと見つめている……薄水色の瞳の奥には都市の人間にはあまり見ない光が宿っており、同時に底知れぬ決意にも満ちていた。

 

 

 

「あなたもモイライも言っていたじゃないか……指令は都市で起こることの全てが集まって作られている」

 

「意志という名の振動は、他の振動と混ざり合って変質してしまうだろう」

 

「それじゃあ、その振動がこの指令に……この織機の重りにたどり着く頃に原型を留めていたのだろうか」

 

「僕は……それを少なくとも『自分の意志』とは認めたくはない」

 

「僕の意志、僕の振動で指令を変える……都市の振動が指令を作るのなら、僕はそれより強い振動を持てば変えられるはずだ」

 

「残酷な指令を作る都市の人間を、僕が変える。誰も苦しまないような、皆でより良い未来を目指せるような、そんな人間に」

 

「全ての人の願いを変える必要は無い……指令は都市に作られるなら、都市が変われば指令が変わるはずだ。指令が変われば都市が変わるはずだ」

 

 

 

そう断言するように言い放つと、声は再びヤンを囁く。

 

 

 

どうしてそこまでして抗うの?

 

この都市で抗っても、逆らっても、残るのは絶望だけよ。

 

それでも、そんな崩れかけている橋を渡るような道を進むの?

 

崩れて落ちてしまえば、1人じゃ後戻りは出来ないわ。

 

どこまで深く落ちてしまっても、私があなたを受け入れて照らしてあげる。

 

 

 

そんな囁きをするとヤンは見えていないはずの声の主を見つめるように決意の眼差しを向けて答える。

 

 

 

「たとえそうなるのなら、僕はそれを受け入れる。それが『都市の意志』ではなく、『僕だけの意志』で選んだ道だから」

 

「……それに——」

 

 

 

ヤンは脳裏によぎるハルの笑顔と彼女は図書館へと向かう前に言い放った言葉に思いを馳せながら静かに言い放つ。

 

 

 

「僕への受け入れ、そして照らしてくれる人の席は……もう既に埋まってるから」

 

 

 

ヤンの言葉に声は一瞬だけ黙り込み、そしてようやく認めたかのような落ち着いた声でヤンの答えと意志を受け取る。

 

 

 

…………

 

そう

 

貴方が本当に、そう言うのなら——

 

 

 

「……ちっぽけな僕でも、この流れを変えられるような力を——」

 

 


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気がつくと、ヤンの見た目は変わっていた……ローブとスーツの色は反転し、胸元には朱色の花が咲いている。錠前が掛けられたヤンの大剣は鍵の形になっており、周りには解き放たれて砕けた錠前と鎖が浮かび、ヤンの衣装の背後から機械仕掛けの翼が生えている。

 

 

 

「身体がすごく軽い……今まで縛り付けられたもの全部から解き放たれた気分だ……」

 

「…………」

 

「先輩に、ハルに会いに行かないと……これ以上彼女を待たせるわけには行かない」

 

 

 

そう言いながらモイライの方へと振り向く、モイライは予想と違ったのか目を見開いている。ヤンの姿が変わったからか、あるいはヤンが都市に抗い、逆らうというその意志に驚いたのか……どちらにせよヤンはモイライに近づく。

 

 

 

「モイライ……図書館の招待状は持っているか?」

 

「……あぁ、ご心配なさらず、ちょ〜っと待っててくださいね〜」

 

 

 

モイライはそう言いながら懐から招待状を取り出す……手渡す際にモイライはヤンに向かって言い放つ。

 

 

 

「仮に貴様が都市の意から逃れられても、他の人はそうではありません。さっきも言いましたけど、都市の人々は常に与えられた道を歩むものです……貴様1人じゃどうすることも……」

 

「すべての人間がそうである必要はない。もし僕の振動で指令を変えられるのなら、それで都市が変われると信じているから。……都市の人々が与えられた道しか歩まないなら、僕が彼らの道を拓く」

 

 

 

招待状に名前を書く手を少し留めてモイライの質問に最後まで答える。

 

 

 

「それに、僕は1()()()()()()……受け入れて支えてくれる人は、今でも僕を待っていてくれているから」

 

「…………」

 

「それじゃ、僕はもう行きます……僕の意志で指令が変わり、同時にあなたも変われると願っています」

 

 

 

そう最後に言い放ち、招待状に名前を書いて光に包まれながら消えていった……1人残されたモイライはヤンが放った言葉を繰り返し口ずさむ。

 

 

 

「………私も変われる、か」

 

「にしても、どこを見ながら会話をしてたんだろ……。あるいは私に話しかけてたのかな?……まぁ、とにかく——」

 

 

 

モイライはグッと伸びをして体をほぐしながら織機の方を見つめて

 

 

 

「戻りましょっか〜。私の立ち位置を守るために」

 

「……そして、いつか本当に叶うならそれまで待ち続けますか」

 




今回のストーリーコンセプトは「嫌怠」さんが許可してくれました。本当にありがとうございます!


ヤンのEGOはMOD版の見た目を採用させていただきました。
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