それではどうぞ——
図書館 内部
「絶句だ……指令の正体が見れたとか……」
「都市の神……聞いたこともないのにね」
「確信は持てなけど、似たものをいくつか見たことがある気がするよ……あんまり覚えてないし。それに憶測だけど、あんな存在が都市にいくつかまだありそうだ」
ローランとアンジェラはその「都市の神」と言う存在について話していた……そうして話しているうちにアンジェラがふとある質問を投げかける。
「——そういえばローラン?この前のハルってゲストを覚えてるかしら?」
「あー、前に接待した伝令……エスターって代行者に蹴飛ばされて生き残ったやつだろ。正直あんな指令に盲信的な奴が指令関係なしに部下を助け出すなんて思ってもいなかったな……また図書館に戻ってくるかな?」
「いえ、ハルはもう既に図書館内にいるわ」
「え、そうだったのか?」
「正確に言えば、あのエスターっていう代行者に蹴飛ばされた後も図書館に残り続けてたみたいね」
そう考えながらアンジェラは話題を切り替えて、今回の招待状が見せてくれた「ヤン」の姿を思い浮かべながらポツリと呟く。
「まぁ……いずれにせよあのヤンとかいう伝令と接待するのに変わりはないわ」
「流れに逆らい、『都市の意志』から逃れて抗う『自分だけの意志』……か」
「何がともあれローラン、今回もよろしく頼——」
そうしてふとアンジェラがローランに声をかけようとすると、何か異変を感じ取ったかのように表情が少しだけ歪む。
「思ったより早かったわ……」
「どうかしたのか、アンジェラ?」
「ハルが既にゲストとして接待を受けてるわ」
「はぁ?ウソだろ…?」
「ハル本人は虫の息ではあるけど。今あなたの階の司書補たちが対処をしているけど意外と苦戦しているみたい。念のため向かってちょうだい……もしかしたらヤンをゲストとして迎え入れて同じ接待を受けさせるかもしれないから」
「はぁ〜〜……こりゃまた面倒なことを押し付けられたもんだな。ま、やってみるか」
そうしてアンジェラが指を鳴らしてローランを接待の場へと送り、自分もまた新たなゲストを迎えるために再び指を鳴らして歓迎をする準備を整えた。
図書館 入口
「ここが図書館……ここにハルが……」
辺りを見渡していたヤンが指を鳴らす音を聞いたすぐ後に前を向く。そしてそこには蒼白の髪をした機械と人間、そのどっちつかずのこの司書兼館長の「アンジェラ」がいた。
「歓迎いたします、ゲストの方」
「初めまして、ここの館長様……ヤン・ヴィスモクです」
静寂が流れる……そうしてアンジェラが先に口を開いて問いただす。
「あなたは……本を求めに来たわけじゃないようね」
「はい……僕はただ、待っている人がいるだけなので」
「……そう、なのですね」
「この扉の先で試練を受けられるんですよね?……もし他に言うことが無いのであれば、僕はこの先へ進みます」
そうしてヤンは機械仕掛けの翼を広げながら接待への入り口へと足を踏み入れる、一歩一歩と歩みを進めるヤンの背中をアンジェラは見届けながらヤンに向けて小さく呟くような言葉を放つ。
「——たとえあなたが本を求めていなくても、どうかあなたの本が見つかりますように」
その言葉が届いたかどうかはわからない……ただヤンはこの先で待っている人に会う。彼にとってこの都市でただ1人、都市によって与えられた絶望を受け入れ、慰めてくれた人に……
そして『都市の意志』ではなく『自分だけの意志』で
総記の階 接待場
「はぁっ、くぅッ……!」
「まだ倒れないのか……頑丈だな、全く」
この接待で、どれほど攻撃を受け止めただろうか。どれほどいなし、反撃しただろうか……ハルは重傷を負いながらもその盾を絶対に離さずある程度の攻撃を盾で防ぎ、防ぎきれない攻撃は体で受け止める。
「あんた、もう重傷だろっ!さっさと倒れろっ!」
「それでも……私はまだっ——!!」
シ協会部長の姿を纏った司書補、アルフレッドが放った関撃を盾で受け止め、その衝撃を弾き返して腰のサーベルによる抜刀で深傷を負わせる。シュウはその一撃で混乱状態に入り膝をついて動きを止める。
(このまま、追撃を——ッ!)
追撃をしようとしたハルの前にローランが立ち塞がり、剣を受け止めて押し勝ち。更なる攻撃を喰らわせる。…その流れに伴うように他の司書補たちもアルフレッドを死なせない為に攻前に立ち塞がってマッチをする。
「くうっ!しつこい……っ!」
「しつこいのはこっち側の台詞だっつーの!」
「さっさと倒れて本になってくださいっ!」
司書補が一斉にそんな声を上げるがたった1人、ローランはハルの盾の持ち方に違和感を覚えていた……
(なんだ……こいつのこの、"違和感"は……)
そうして全員から一斉に攻撃されるハルが突然盾を振り上げて力を目一杯に溜め込んで一気に振り下ろす。
「振動——
「ッ!全員、気をつけ——!」
——爆破ぁッ!!!」
ローランがギリギリのところで声をかけることに成功し、皆防御の構えを取ることができた……しかしそれでもハルによる『振動爆破』でほぼ全員が混乱、戦闘不能に陥ってしまう。
「かはッ……くそッ、後少し遅れてたら……(最悪、全滅は免れなかっただろうな……)」
「はぁっ……はぁッ……!」
流石のハルも疲労の蓄積によって体の震えが止まらず、盾で体を支えてなんとか立てているだけだった……ローランは深く息を整えて剣を構え、ハルの元へとゆっくり歩き出す。
「正直、俺達の連戦にここまで耐えきれるやつは初めてだよ」
「…………」
「このまま本になって眠れ……これで少しはラクに———」
剣を振る構えを取った瞬間、奥の方から感じ取った気配を察知してすぐに防御の姿勢を取る。そして全てを解き放つ為の鍵の形をした大剣が振るわれ、ローランを吹き飛ばす。
「ぐっ………!?」
「……………」
「ヤ……ヤン…?」
ヤンが現れ、朦朧としていたハルの視界が少しずつ晴れてくるとハルの目の前にはあの時の裏路地で窮地に陥った時に見せたあの時の後ろ姿。ヤンがゆっくりと振り向くとそこにはもう目を閉じておらず、ただ希望と決意に満ちた赤色の瞳をしたヤンの姿がそこにいた。
「大丈夫ですか、先ぱ——……いや、
「…っ…ヤンっ」
ハルがヤンを抱きしめてヤンもそっと抱きしめ返す……ハルが涙を流しながらも安心したような笑顔を浮かべる。
「信じてた……ずっと、ヤンのこと……待ってた」
「はい……お待たせしてすみません、ハル」
ローランはその2人が抱きしめ合っているのをただ見ているだけ……ローランは何かを思い出すかのような表情を浮かべた後にまた苦い表情を浮かべる。
(これがヤンのE.G.O……しばらく前にフィリップとかいうやつの時とは違って不安定さが無い、となればこいつは完全に使えるようになった、ってとこか)
「はぁ〜、参ったなこりゃ……」
ローランがそうため息混じりに相手側と司書補含めた自分の陣営の戦力と体力考えて参っているところに頭に声が響く。
『ローラン。聞こえるかしら』
「ッ!?…アンジェラ!?直接脳内に……!」
『こっちの方が伝えやすいわ……まあ、心の声とか何を考えているかは分からないけど、少なくとも状況は把握してるわ』
「見えてるんだったら、俺の階はこの通りだ……出来れば他の司書の階層と代わりたいが、頼めるか?」
『ええ、分かったわ……哲学の階でいいかしら』
「それがいい……早速頼む」
哲学の階 接待場
そう2人の掛け合いが終わると同時に階層全体に指を鳴らす音が響く……異変を察知した2人が当たりを見渡すとさっきとは違い一面に広がるのは本で見るような夜空に煌めく金色の星々の風景だった……そうして先程ローランと司書補がいた場所に視線を向けるとそこには金色模様の入った黒い衣装を着た指定司書、ビナーがいた。
「『皆の盾』を夢観る者……『都市の意志』から逃れ『自らの意志』で抗い、『殻』を破った幼子……」
「「………ッ!」」
ハルとヤンが本能的に感じ取った目の前の「強者の風格」……そうして彼女が一歩一歩と歩み寄りながらあたりに黒と黄色の念が出現し始める。
「其の『盾』と其の『殻』……何処まで
「……強い」
ヤンはそう確信しながらも大剣を構え、翼を広げる……そんな中で重傷であるはずのハルがヤンの前に出る。
「!……ハル、まだ傷が——」
「……私は、いつも夢見てきたの。ツヴァイの信条である『あなたの盾』だけに限らず、都市の誰かを…みんなを守りたいから『みんなの盾』っていう大きな夢を、ずっと……」
ハルは盾とサーベルを構え直し、そして今まで以上に研ぎ澄まされて満ち溢れた決意を目に宿しながら眼前の
「——だからさ、ヤン」
最後に笑みを浮かべながらヤンの方へ振り向いてその言葉を伝える。
「最期まで守らせてよ……『みんなの盾』として」
「……本当に無茶な先輩ですね、あなたは」
階層が、この2人の決意と感情によって揺らぎ始める……その星々の景色が引き裂かれると、その先に見えたのは赤く光る夕暮れと、ローランとアンジェラが見た「都市の心臓」の景色……ただそれは「ヤン自身の意志」、彼自身が編み出した都市のものよりもはるかに大きな「振動」によって「新たな指令」が生まれる段階なのだろう。
ビナーはその景色をただじっと見つめていた……そして彼女はすぐにニヤリと不気味な笑みを浮かべて2人の方へ振り向く。
「やはり面白いな……都市と其の人間と云うものは」
……………
真っ暗だ………
そういえばそっか……私、あの不気味な司書さんに負けて殺され——いや、本にされたんだっけ。
取り巻きの司書補達も強かったなぁ……都市の何処かで出会ったかもしれない色んな人たちの姿を纏って多種多様な攻撃……敵わないや。
……………
私は………
ヤンのこと……ちゃんと守れてたのかな………
裏路地のどこか
「?……あれ?」
まるで長い夢から覚めたような感覚と共にハルが目覚める、場所は裏路地の何処かで空を見上げると、小さく光の粒子が降っているのが視界に入る……ハルは今の状況に激しく戸惑う。
「何が起こって……私、本から戻ったの?」
「……とりあえず色々整理しなきゃ、——っと?」
「……んぅ、スー」
そうして起き上がろうとすると肩に何かが寄りかかっているのを感じて視線を向けると、深い眠りにもたりかかっているヤンの姿がそこにいた……その姿を見てハルは小さく微笑みながらヤンを小さく突いて実感する。
「戻ってこれたのね……私たち」
「ぅん……ハル……?」
「起きた?ヤン」
「!……あの司書は、そして傷は——!」
「大丈夫、大丈夫、安心して。なんだかよく分からないうちに本から戻ったみたい」
その言葉を聞いたヤンは唖然としていたが安堵のため息と共にハルの方に倒れ込み、そしてハルは倒れてくるヤンを優しく抱き込む。
「うおっとっと!……大丈夫?」
「……良かったです、本当に」
「……うん、私も」
そうしてハルとヤンはただ少しでもずっと、そして長く抱きしめ合いこのひとときを過ごす……そうしばらく抱きしめ合った後にようやく離れる。
「ふふっ、とりあえず移動しよっか」
「ええ、賛成です」
そう言って2人は共に歩き出す……2人はゆっくり歩きながらヤンが先に口を開いて問いかける。
「ハルは……これから先、どうしますか?」
「どうって聞かれても……まぁ、とりあえず私は人差し指を抜けるわ。また誰かを守りたいって気持ちが湧いてきたから、もう一度私の
「僕は……出来ると思いますよ。だって、あなたですから」
「ふふっ、なにそれ」
ヤンの発言にハルは小さく微笑みながら今度はハルがヤンに同じ問いかけをする。
「ヤンは……これからどうするの?」
「……僕は——」
ヤンはふと考える……都市を、指令を変えたいという願いと意志。だがそれとは別の
「僕は……都市を変えたいです。僕だけの意志、僕だけの力でこの都市を、指令を変えたいんです」
「…………」
「……けれど——」
ヤンがハルの手をぎゅっと掴んで目と目を合わせるように見つめる……そしてヤンはハルに向かって言う。
「僕は、あなたがそばにいて欲しい……僕はまだちっぽけだから、そんな僕をあなたが側にいて支えて欲しいんです……僕のわがままに少しでも付き合って——」
ヤンが言い終わる間もなくハルはただヤンを抱きしめ返し、いつもの優しく温かい笑みを浮かべて答える。
「覚えてる?私の言った事……"ずっと側にいてあげる"って。どんな理由があろうとあなたが私を必要としているなら、私はそれに応えるわ」
そう言い放ちながら自分とヤンの耳についた人差し指の通信機を軽く握り潰す……そしてハルはヤンに手を差しのでながら先へ進むように促す。
「行こう、ヤン」
「……はい、ハル」
差し伸べられた手を取り、ヤンはハルと共に踏み出した……「都市の意志」ではなく「自分の意志」で掴み、切り拓く新たな道へ……
はい、『都市の子どもとみんなの盾』篇。無事完結しました……次は誰にしようかなぁ……書きたいやつもあるし読者さんたちが前に感想で書いてくれたリクもあるからねぇ……