「……おや」
「?…どうかしたの、がりおん」
ガリオンが棚の中にある茶葉が保管されている紅茶缶の中身を確認していると、その中身はもう空に近い状態だった……2から3缶の紅茶缶全てがだ。
「一年程保つと思っていたが……思いの外、早々に切らしてしまったか」
「ん……こうちゃ、ないの?」
ガリオンはしばらく空になった紅茶缶を眺める……そのまま端末機を手に取って電話番号を打ち込み、ある人物に通話する。
「……はい、なんでしょうガリオン様」
「ああ、紅茶を切らしてしまってな」
「……それで私をタクシー代わりに呼んでショッピングモールでその紅茶を買い足すと」
「話が疾くて助かるな……来れるか?」
「……今からでもすぐに」
「ああ、頼むぞ」
そう言い残して電話を切った後、すぐに扉からチャイムが鳴る、扉を開くと先ほどの通話先で別の場所にいたであろう足爪が今目の前に立っていた……そしてその彼の背後には『血清-W』によって開かれた空間の扉が裂かれているように位置している。
「矢張り、此れが1番手っ取り速いな」
「買い物用のタクシー代わりにされる私の身にもなってください……もう慣れてしまいましたけど」
「…………」
「…ノエル、だったか」
ガリオンの横にいるノエルの前で屈んで目を合わせる。
「あのときの……」
「久しい……と言うには一瞬しか顔を合わせていないはずだが」
「あ…その……」
「………?」
「えっと…おなまえは……」
その言葉を聞いて足爪は予想外だったのか否かしばらく黙り込む、そして直ぐに言葉を発する。
「バラルだ」
「……ばらる」
その名前を覚えるかのようにノエルは小さく何度も口ずさむ…バラルはその光景を見つめた後に立ち上がり、再びガリオンの方へと顔を向ける。
「本当に怖がらないですね……『足爪』という存在を知らなくても怖がられる自信はあるのですが」
「私を畏れなかったのなら、違いないな……御前の
「……?なんのはなし、してるの?」
ノエルがそう尋ねるとガリオンはそっとノエルの方を見て頭を撫でながら答える。
「何も無いよ……只、今日は御前も連れて征こうと思ってな」
「えっ」
バラルも予想外のガリオンの言葉に驚く。その前でガリオンはノエルの手を取って先に裂け目へと足を踏み入れる。
「先に征ってるぞ、処刑者」
「はっ── し、失礼……すぐに行きましょう」
そうしてバラルは彼女たちの後を追うように裂け目へ足を踏み入れ、その裂け目を去り際に閉じた。
ガリオンとノエルは裂け目を通った後、先ほどガリオンやバラルが言っていたショッピングモールへ着いていた。
あまりの広さにノエルは小さく目を見開く。ガリオンはそれを見てクスクスと笑みを浮かべている。
「ノエルよ、未だ驚くには疾いよ……此の場所はほぼ何でも買える特別な場所だ」
「食も、菓子も……何でもな」
「……こうちゃもある?」
「ふふっ、ああ。紅茶も澤山有るとも」
「その一年は持つであろう沢山の紅茶が二週間で消えたんだ……どれほど紅茶が好きになればそんな芸当ができるんですかねぇ」
バラルは明後日の方向を見ながら諦めたような言い草でぶつぶつと喋っていた……そんなバラルを無視してガリオンは上の階にある紅茶屋へと指差す。
「彼処の紅茶屋が見えるだろう?私は何時も其処で茶葉を選んで購入している」
「其処で茶葉を買う……そして次来るときは1人でも来れる様、場所も憶えておくと善い」
ガリオンの一言に対して小さく頷くノエルを見てまた笑みを浮かべる…そうして手をつないでエスカレーターに乗って上の階へと登る。
そうしてその売店へ足を踏み入れると、最初に感じたのは紅茶の香り。
その一つ一つの違いをノエルは感じていた。
「いいかおり……」
「うむ……矢張り此の店に居ると、心身共に安らぐ」
「あ!ガリオンさん!いらっしゃいませ!」
このお店の店主らしき女性がガリオンを歓迎するように明るい声で挨拶をし、歓迎する。
そして店主の目が次に見たものは、ガリオンの横にいるノエルの姿だった。
「ガリオンさん……その子は?」
「嗚呼……此の子は私の新たな召使いだ」
「未だ見習いで、見ての通り幼いが……意外にも飲み込みが疾くてな」
「前も仕事から帰宅した刻、此の子は自宅の掃除をしてくれていた…埃が少し残ってはいたが、其れでも態々私がやるまでの手間が省けたよ」
「へえ!いいですね!それに、ちょっと可愛いですし」
店主が屈んでノエルと目を合わせながら話しかける。
「ボク。お名前は何て言うの?」
「のえる……」
「ふふっ、いい名前ね。お母さんがそう名付けてくれたの?」
ノエルが無言で首を横に振り、ガリオンの方を指差す。
それに何を思ったのか、店主は慌てて言葉を訂正しようとする。
「いやっ、あの!違くて…!が、ガリオンさんがホントにこの子のお母さんだったなんて知らず!」
「安心なさい、此の子は拾い子だ、私が産んだ訳ではない」
「そ、そうなんですか……」
「でも、こうしてみると本当に親子に見えますね……」
「……ふむ、そう観えるか」
ガリオンがそう口ずさんだ後、ノエルの顔を見つめる。
ノエルも彼女を見つめ返し、しばらくしてガリオンがノエルに尋ねる。
「ノエル、御前は私の事をどう想っている」
「んー……」
ノエルはガリオンの問いにしばらく悩み、そうしてノエルは口を開いて答える。
「……がりおんは、おかあさんみたいで、だいすき」
「でも……ほんとうのおかあさんじゃない──」
「──だからがりおんは、がりおんだよ」
(い、良い子すぎる〜!)
(こんな言葉聞いたら、ガリオンさんも嬉しいんだろうな〜。ガリオンさんに限ってそんなことはないと思うけd──)
その言葉を聞いていた店主は微笑ましく思いながら、そっとガリオンの方を見つめる。
「……………」
ガリオンは目を見開いたまま、じっと岩のように固まっていた。
先ほどノエルがしれっと発言した「だいすき」。
その一言がガリオンの感情に異常をきたしてしまったのだ。
「……ふっ」
「?………ん」
ガリオンが小さく笑い、ノエルの頭を撫でる……いつもより長く、心なしか愛おしくその頭を撫でる。
「がりおん……?」
「ふふ……すまない、久しく心の底から、少し嬉しくなってしまってな」
「?……そっか」
(……思ってた10倍以上嬉しそうだったな)
店主がそう心の中で呟くと、ガリオンは思い出したかの様に声を上げながら店主の方へと振り向いて話しかける。
「おっと、茶葉を買いに来たんだったな……危うく忘れて了う所だったよ」
「アンジュ*1よ……いつもの茶葉を──」
「──いや、アールグレイと……ダージリンも貰おうか、20は欲しい」
ガリオンががそう言って店主に注文をする。
「あ……は、はい!只今用意します!」
店主がハッ吐息をもらした後、ガリオンが来ると予感していてあらかじめ準備したであろう大量の紅茶缶を箱に詰めて渡す。
「相変わらず早いな」
「へへーん、ガリオンさんのことはよく知っていますから!」
そう会話を交わしながらガリオンは箱を受け取り、会計をする。
そんな中で店主が悪戯っぽい笑みを浮かべながらノエルに耳打ちをする。
「ノエルくん……後でこのお店を出る前に何か欲しいものがあったら、『ガリオンさん、これ買って』っておねだりしてみて!」
「おね……だり……?」
「聴こえているぞ、アンジュ」
「あ、あはは……冗談じゃないですか〜、ガリオンさんったら〜」
「……最も、そう言われて易々と買う訳が無いがな」
「それじゃあ……又世話になるよ」
「はい!ありがとうございました!」
会計を済ませたガリオンが箱を持ち、店を去る。
去り際にノエルも手を振って別れを告げ、ガリオンの跡をついていく……そしてとある店の前で立ち止まる。
そこには大きくてふわふわの、鳥の人形だった。
ノエルは目を小さく輝かせながら、それを見つめていた。
「…………」
何を思ったのか、ノエルは突然ガリオンの裾を掴んで呼びかける。
「どうした、ノエル……云っておくが、要は済んだから此のまま帰宅すr──」
「………が──」
ノエルは、先ほどの店主の言葉を思い出し、ゆっくりと上を向いて上目遣いで言い放つ。
「──がりおん……これ、かって……?」
その表情と言葉を聞いて、ガリオンの中にある何かにひびが入り、何かが崩れる音がした。
「……っふぅ〜〜〜」
ガリオンは天を仰ぐように上を向き、深くため息を吐く。
どうやら効果は抜群だったようだ。
「あ……ごめんなさい、むりをしてかわなくていいからね?」
「あ、ああ……少し取り乱して終ったな……還ろうか、ノエル」
「………うん」
無垢で無表情なはずのノエルの顔からは、なぜだか悲しげで、しょんぼりとしていた。
その顔を見た瞬間、ガリオンの心を今までに無いほど大きく揺さぶられた。
まるで心臓を鷲掴みにされたかのように、ガリオンは罪悪感に締め付けられた上。
ここまで愛おしいものを見て仕舞えば、ガリオンの心は持つはずがない。
「……仕方が無いな、今回だけだぞ」
「!……いいの?」
「勿論だ……此れからの御前に対する励みにも為るだろうからな」
「がりおん、ありがとう……!」
ノエルが目を輝かせて、今までよりも喜ばしそうにするその姿を見たガリオンは、なぜか自分も心から嬉しそうになる。
ガリオンは再びノエルの頭を撫でる……今日、幾度ノエルの頭を撫でたか、そんなことはどうでもいい。
「ふふっ……これからも励むと善い」
「うん!……やくそく、だね!」
「ああ……また一つ、約束事が増えて終ったな」
そう笑みを浮かべたガリオンは、先程の人形が置いてあった場所へ足を踏み入れたのだった。
「……遅いな、何事もなければいいが」
デパートの外で、バラルは時計を眺めながら静かに呟く。
その直後、扉から荷物を抱えて出てくる2人の姿が見えた。
「!お帰りなさいませ、ガリオン様」
「いつもの時間よりも遅めでしたが……何かーー」
そう言いかけた時、ノエルの手元を見てみると鳥も人形を大事そうに抱えていた。
バラルはそれを見て屈み、ノエルに問いかける。
「これは……ガリオン様が?」
「うん……がりおんが、かってくれた」
そうノエルが言った直後にバラルは何度もガリオンとその人形を見返す。
ガリオンは振り返らず、ただただバラルが次元を開くのを待っている。
だがガリオンは痺れを切らしたのか、バラルを呼びかけて次元を開くように命ずる。
「処刑者。扉を拓け」
「!ハッ!……も、申し訳ありません!ただいま開きます!」
バラルは行き先を設定し、『血清W』で次元を裂くように扉を開く……ガリオンは一足先に通り、ノエルもまたその跡をついていく。
それを見ていたバラルは小さく……そう呟いた。
『従者関係みたいな感じで言っていたが……完全に親子だな、ありゃ』
最近絵を描くのにハマっています……モチベと時間があればみんなの立ち絵が描けるかも?