TS転生したら芸能事務所の社長に引き取られたのでアイドルをやります 作:ああああああ
この小説の進め方ですが、後2話で原作開始時間まで持っていきます。そこからはゆったりと進みます。
ちなみにいつになるかわかりませんが、七草にちかと斑鳩ルカにぶつかる日が来る予定です。
〇月×日
アイドルとしての滑り出しは悪くなかった。早いもので3ヶ月が経つ。新しいアイドル達も入ってくる予定らしいが、ユニットや売り出し方は考えている途中らしい。今は僕だけが283プロの看板アイドルというわけだ。
〇月×日
踊りや歌は上達するがやはりというかそれだけでは埋もれる。頭抜けていない技量のアイドルは吐いて捨てるほどいるからだ。重要なのはキャラと一目を引くための色だ。無色ではいけない。目に留まる色こそが重要だ。元気で可憐な赤、クールで美しい青、鮮烈で目を引く黄色。あらゆるアイドルを研究し、模倣する。
〇月×日
テレビに出演した。バラエティの一コーナーのゲストとしてだが、次に繋げるために必要だと言われ出演した。ライブよりもぶっちゃけ得意だ。耳触りのいい言葉を垂れ流すのも出演者の欲しい言葉を言うのも十八番だから。
〇月×日
ミニライブに出た。様々なアイドルや歌手が野外のステージで色々とやるイベントの一枠。ソロでステージに立ったのが珍しいのか、少し注目を浴びた。なので庇護欲をそそるような頑張ってます感を演出し、気弱なアイドルを演じた。
〇月×日
今日はミステリアスキャラ。実力派が出揃うイベントの数合わせで呼ばれたので主役を食う勢いでパフォーマンスをした。ついでに足をわざと挫き、顔色を変えずに歌い切った。天井君には怒られた。
〇月×日
社長の癖に僕のプロデューサーしてるのおかしくね?今はアイドル少ないけど、その内問題になるだろ。嫉妬で絡まれそうで怖い。プロデューサーいるのに何で彼にプロデュースさせないのだろう。
〇月×日
軽く燃えた。ネット怖い。好き勝手書くじゃん。
〇月×日
歌もダンスも伸び悩んできた。高レベルにやれるがおそらくこれ以上は成長できないかも。
〇月×日
エゴサをしてはいけない理由は精神面にダメージを受けるからだ。昔先輩のアイドルに言われた。この意見には反対だ。僕は、自分がどう見えているか研究しないといけないから。だから、顔だけが取り柄だの、媚びを売りすぎだの、キャラがブレブレ、媚び売りアイドル、キャラの押し売り、キメラアイドルと言われていることはどうでもいい。八方美人が嫌われやすいのは知っている。ここから塗り替えれば………………
〇月×日
デビュー予定の子に出会った。ロングの銀髪をツインテールにし、おでこには広めの絆創膏、腕にはぐるぐると巻いた包帯、おまけに紫の瞳のハイライトはいくらか少なめという地雷系の女の子。見た目だけでまったく地雷ではなかったけど。
〇月×日
愉快な子だった。
〇月×日
中々アイドルしんどいな。デビューして1年近くが経つが一定ラインから伸びない。天性のアイドルを相手にすると霞む。しかし、色々な本物を模倣すると「嘘臭くなって」燃える。天井君は素を出してアイドルをしてくれというがそれじゃあ売れないだろ。
〇月×日
何か現実逃避で霧子の面倒ばかり見てる気がする。
舞台に上がってスポットライトの照らされる。
ステージに足をつける。
何度見てもこの光景に息を飲む。暗い会場の中唯一光に溢れたステージ、埋め尽くされた観客席、注がれる熱い視線。それらが全て一体となってまるで重力のごとく風香の体に絡みついてくる。
唇をペロリと舐める。今日来ている観客達は、少し前に行われた野外ライブイベントで風香に注目した人間が多い。
その時は、無口で歌とダンスにはキレがある。そんなキャラを演じながらパフォーマンスをした。
そのリピーターは多いということで同様のパフォーマンスを行う。ステージでの挨拶も少しそっけなく、だけど 無愛想になりすぎないレベルに。
一番近いアイドルを思い浮かべて真似る。アイドルは本当にいい商売だ。不特定多数から愛されて、愛されればお金を貰える。善意と悪意をそのまま向けられて、自分を実感できる。
辛いのは本物とぶつかって思い知らされることと、ネットで叩かれることだろうか。
歌い終えてステージを降りる。風香の顔に笑みは残っていなかった。
「やあ、おかえり霧子。今日もレッスン?デビュー前なのに頑張るね」
風香は事務所に入ってきた少女を見て微かに微笑んだ。銀髪がふわりと揺れ、少女は嬉しそうに笑った。
「僕変なこと言った?」
「あ、いえ。わたし、小さなころから………両親が帰ってくるのが遅くて………あまり…ただいまとかおかえりって…言われなかったから」
風香としてはジョークのつもりだった。自分にとってはこの事務所は家のようなものだから、ふざけていったのだ。
「…ふーん、じゃあ僕と同じだ。仲間だね」
風香は心人と距離を縮めるのが得意だ。その人が欲しがっているキャラクターを纏って接するし、聞きたい言葉を並べるから。ただし、どこまで行っても演技であるため仲良くなれているとは言い難いが。
「花が増えてる…今は霧子が世話してるんだっけ?」
事務所の窓際にポットが増えていた。おそらく社長が買ってきたが世話するのが面倒になったのだろうと風香は考えた。
「はい………今日は晴れてるから…お花さんも気持ちいって………」
「そう、最近雨続きだったもんね…僕も人じゃなくて植物の声が聴きたいよ。もう人と話すのは疲れた」
霧子は素で不思議なことを言う子だった。初めは風香も驚いたが、別に芸能界に変わった人間がいるのは普通だし、わざわざ指摘するほどでもない。それに風香は霧子を気に入っていた。
「ふふ………お花さんは………話しません。そんな気が………するだけです」
霧子の捉え方では「花はしゃべらない」「花もしゃべるかもしれない」「花がしゃべるといいなあ」その全てが共存しているのだ。霧子は多くの物や人をこのように多角的に見続けている。霧子は花がしゃべらないという現実の世界を知りつつ、お花がしゃべっているかもしれない霧子の世界を選んで生きているわけだ。
浮世離れした人を演じる際に参考にするのが霧子だった。
風香は思う。霧子は他の人にそれぞれの世界があることを理解しており、人の世界をすることが楽しいのだ。だから笑う。それがうらやましい。風香にとってそれは必要な作業であり、演じるための必要経費でしかないから。
「でも君の世界ではそうで、だから君は独りだ」
霧子の、主観世界というべき認識こそが周囲の人に理解されなくて孤独になるきっかけになっていると思う。普段なら霧子の全てを肯定して好感度を稼ぐところだが、今の風香にそんな余裕はなかった。
だから少し攻撃的な言葉を掛けたのだが、霧子は笑ったままだ。
「一人じゃ………ないです。わたしのこともお花さんのことも………風香ちゃんは知ってる………見つけてるから」
霧子が腕を伸ばし風香の頬に触れた。ビクりと驚き目を瞑る風香を眺めながら霧子は瞳を揺らす。
「太陽みたいな風香ちゃんも………水面みたいな風香ちゃんも………天使さんみたいな風香ちゃんも全部………風香ちゃん」
「ふふ………風香ちゃんの言った通り…わたしが包帯を取らなくていいのと…同じ………わたしは全部見てるから。どの風香ちゃんも」