ツレが魔女になりまして   作:碼椙 柊

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tips「それは魔法少女のはじまり」


tips

 

 

 自分はそこまで要領のいい方ではないと思っている。

 頭は悪くない自負はある。学校の成績はそれなりにいいところをキープできているし、テレビのバラエティでやるクイズ番組も結構答えられる方だ。頭の回転だって決して遅い訳じゃないと思う。生活の何気ないところで気づきを得て毎日をいろいろ楽しく生きれていると思う。

 

 でもそれは何でもできるという意味ではないと知ってる。

 もちろん、知らないことはたくさんある。学校の授業で学ばないと知ることのなかったことも多い。突出して賢いといったことは全く感じたことはない。

 むしろ。

 間違えたらどうしようか。ここは正しい判断が必要だ。誤った選択だけは避けないといけない。

 いつもいつもそんなことを考えている。日本という社会は、中学生というグループは、生きやすいように見えるかもしれないけれど、当の本人たちにとってはなかなかに難しいものだと思う。

 大きな失敗はそれほど無いと思うけれど、あの時はこうすれば良かったんじゃないか、これはあぁすればもっと良くなったんじゃないかという気持ちがいつだって残ってしまう。

 後になって、すごく遠回りしていたということを気づくことなんてざらにある。

 

 私は生きるのが下手なのだろうか。そんなことも考えたこともある。けれど、それに対する答えは見つけることは難しい。

 都合のいい答えがほしいなら、自分よりも不幸だと思う人たちを見ればいい。都合のわるい答えがほしいなら、自分よりも恵まれていると思う人を見ればいい。

 結局のところ、見え方、感じ方で変わる以上は意味のない問いであることは理解している。かといって、それで悩みがなくなる訳ではないんだけれども。

 

 

 ぐるぐると思考が廻る。

 内観。自分の内側を省みる。自分を知ることで、ようやく外に目を向けることができるから。

 私にはそういった時間が必要だ。

 

 校舎の裏というか外柵のフェンスとの数メートルの隙間の、ちょうど他人の目が入りにくいところで瞑想というか精神統一をする。まだ昼休みだから誰も探しにこないと思っていたけれど、そういう時に限って探しにくる人がいる。それが誰かは姿を見なくてもわかる。私が会いたいと思う時に来てくれる。

 

「また変なことしてるのか……」

 

 誰の目にもつかないようなところで、勉強机や事務机などの使えなくなった学校の備品が積み上げられたその上でI字バランスなんてしてたらまぁ変な目で見られるのはしょうがないか。

 呆れ顔を隠すことなくため息をつくけれど、怒ることはしない。

 本当にダメなことは怒ってくるけれど、そうじゃなかったらなんだかんだで付き合ってくれるのが優しいところ。…うん、好き。

 

「怪我するようなことはするなって何回も言ってるだろ。……その姿勢のままで向きを変えるな目のやり場に困る」

 

 注意しながらも目をそらすその様子を見て満足。家族みたいな距離だけど、ちょっとは意識してくれてる。

 

 それはそうと。

 そもそも何で私がこんなところでこんなことをしているのかというと……まぁ大した理由は無いのだけれども。

 

 足場が悪いところでバランスを取ろうとすると、意識がそちらに集中してしまうので思考がまとまらないのが普通だとは思うけれど、場合によってはこちらの方がいい刺激になることがある。私の場合は。

 普段使わない部位までぐるぐると頭を使うような感覚になるので、普段思いつかないようなベクトルの思考ができるのだ。他人に話してもなかなか理解されないが。

 

 あとは単純に四六時中他人と一緒にいるのがそこまで好きじゃないというのもある。一般的な範疇に収まる人付き合いは苦にならないが、それはそれとしては私は自分の時間が絶対にほしいタイプなのだ。

 

「とりあえず怪我する前に降りろ。昼休みももうちょっとで終わるぞ」 

 

 呆れ顔でいうので仕方なくガラクタから飛び降りる。飛び降りた拍子に勢いづいた上履きが弧を描いて飛んでいくが、放物線の先でナイスキャッチ。

 

「ほら。戻るぞ」

 

 何事もないかのように上履きを私に渡して、そのまま校舎へと歩いていく。まだもう少し話したかったけれど、直に昼休みの終わりをつげるチャイムが鳴りそうだ。名残惜しいが引き止めることはせずに後ろについていく。

 

「ね、今日一緒に帰ろ」

「…いつも通りの話だろ」

 

 そんな変わり映えしない会話ですら、私は幸せを感じる。彼は、どう感じてくれているだろうか。知りたいという思いと知らないからこそいいという思いが同時に存在する。私のこころはいつだって対立する思いが存在し続ける。

 

 

 やりたいことはたくさんある。

 やっちゃいけないこともたくさんある。

 私という存在ひとつでは見にいくことのできない景色が多すぎる。

 私の人生ひとつだけではやってみたいこと全てをやるにはとても足りない。

 だからといって、全部がまんするのは嫌だ。

 私は、私という人生を精一杯生きたいんだ。

 

 けれども立場と年齢が、自己責任という社会の立場に立つことを許してくれない。

 中学生はまだまだ守られなければならない立場なのだ。

 それは理解している。けれども、やっぱり歯がゆい思いはある。

 

「ままならないなぁ…」

 

 休みの日に散歩をする私の頭の中は、そんな、この世代らしいのかどうか判断がつかない思考で覆われていた。

 中学生という身分は、やりたいことに対する制限が多い。それは金銭的にも、年齢的にも、そして時間も。

 もうしばらく、あと数年も待てばできることはとても沢山増えるだろう。けれど、私はいまやってみたい。今だからやりたいこと、今しかできないことって、沢山あるはずだ。

 けれどもそれの多くはだいたい許されない。難しい。

 

 そんなことをつらつらと考えながら半ば無意識で歩道を歩く。家の近所の散歩道を、時折いろんな人とすれ違いながら歩く。

 アスファルトの歩道から舗装されていない田舎道に変わった先の、ひと気のない道を、何を考えるでもなく何かを求めるでもなく歩く。考えているような何も考えずに足を進めると、やがて目的地の小さな公園へとたどりつく。

 

 

 遊具が撤去され、さびれたベンチと街灯しかない広場のような公園の真ん中で、空を、街灯を眺めながら物思いに耽る。

 そんな、普段慣れないようなことをしていたからだろうか、突如として気配もなく忍び寄る気配に全く気づくことができなかった。

 

「やぁ、初めまして。僕と契約して魔法少女に——」

「う、うおああぁぁぁぁ!?」

 

 思わず蹴り飛ばしてしまった。

 何もないところから突如現れた白い物体。危機を回避するかのごとく、姿を見る前に条件反射で身体が動いてしまった。普段はゆうちゃん以外にはそんな暴力的なことはしないのに。

 それはそうと、蹴った物体はなんだろうか。大きさや色から察するにもしかすると、存在するかはまったく分からないがヌートリアのアルビノみたいなのがいるのだろかと頭に思い浮かんだものの、そこで違和感に気づく。

 

 どうして自分はいきなり驚いて蹴ってしまったのだっけ。

 そう、確か謎の生物に出会ってそれがいきなり——

 

「いきなり蹴るのは少し酷いんじゃないかな?」

「ああぁぁぁぁあぁ!?」

 

 また蹴ってしまった。

 驚かさないで欲しい。こんな小心者をびっくりさせると何をしでかすか分からないというのに。こんなふうに。

 

 

 

「やれやれ、君は理性よりも行動が先に出てしまうようだね」

「……しゃ、しゃしゃ喋ってる!?」

 

 ほんの少しの時間をおいて、ゆっくりとそれはこちらに近づいてきた。

 明らかに言語を発している。自分の記憶と耳がおかしくなっていなければ、明らかに日本語を喋っていた。めちゃくちゃ流暢に喋っていた。

 でも喋っている相手は人間じゃないし何なら自分の記憶にこんな形状の系物は存在しない。

 明らかにおかしい。

 

「えっ? えっ!? ええぇぇっ?」

 

 日本語を話す白いぬいぐるみ様の物体とまじまじと見つめ、そして周囲を見渡す。

 まさかと思い、一般人に対してドッキリをやろうという企画でもやっているのだろうかと一縷の望みをもって注意深く周りを見るも、どう見ても怪しい人はいない。というよりもまず人通りがない。そもそもこんな片田舎の小さな公園にドッキリをやりにこようとする特異な人間はいないだろう。

 となると、そういった企画類の可能性は非常に低い。じゃあ一体何なんだ。どうすればいいんだろう。

 

 

 

 

「えーと、話を整理すると、魔女っていうとんでもないのがいて、それを倒す魔法少女になってほしいと。その代わりになんでも一つ願い事を叶えてくれる」

「概ねその理解で間違いないね」

 

 白いぬいぐるみと会話する自分、という、傍から見ればファンシーというか奇天烈にも程がある状況に全身から違和感を覚えつつも仕方なく会話を続ける。帰るにしても暗くなるにはまだもう少し時間はあるんだ。自分の暇つぶしに付き合ってもらおう。

 

「なんでもって何でもいいの? たとえば太平洋のどこかにあるといわれるオカルトでしか存在しない大陸を本当に存在していることにしたりもできるの?」

「君の持つ因果が強ければ、あらゆることが可能になるだろうね。ただ、僕としてはどんな願い事でも構わないけれど、再考を推奨するよ」

「あ、全然願い事にするつもりないから大丈夫だよ。うーん、なんでもって言われると悩んじゃうなぁ」

 

 掴みどころがあるのかないのか、一応こちらの質問には返してくれる白いぬいぐるみ。

 何だか違和感しかないけれど、会話におかしいところは特に感じられない。最新のAIを搭載したロボットか何かかと思ったけれど、それにしては動きがなめらかすぎるし……。謎は深まるばかりだ。

 

 謎といえば、話題の中心となる私の願い事。

 私は何をしたいのだろうか。今、もっとも渇望していることはなんだろう。

 考える。

 いまの自分はずいぶんと贅沢な悩みを持っていると思う。

 なんでも一つなら願い事を叶えてくれるというのに、そんな極上の条件に対して一歩引いているような感覚を持っている。

 

「別にそこまで求めてるものってないしなぁ」

 

 やりたいことはたくさんある。けれど、それは自分の力でなんとかできることだ。自分の力でなんともならないこともあるけれど、そんな俗っぽいことに、文字通りの一生に一度のチャンスを使うのは流石に勿体無い。

 どうして今なんだろう。もっといいタイミングできてくれればと思ってしまったり。

 

「何も今日今すぐに契約してほしいという訳ではないからね」

「……他にも契約してる人っているんだよね? どんな願い事で契約してるの?」

「様々な願い事であることは間違いないね。もし知りたかったら、出会った時に聞いてみるといい」

 

 そういうことを聞きたい訳じゃない。

 唸りながら頭を抱える。

 わたしのねがいごと。何だろう。どんなことを願いたいのだろう。

 私は私自信に問いかける。

 

 自問自答する。

 私は何だろうか。私を構成する要素はいったいどんなものがあるだろうか。

 わたしという存在がそう在るのはいったいどんなもので、何を必要としているんだろう。

 自分に問いかけるのはよくやってることだ。……やっているからといって、答えが出ている訳ではないんだけれども。

 少しの間、本当に真剣に悩みこむ。

 

 

「よし、決めた」

 

 言葉通りの一生に一度の願い事だ。多分、願い事は今じゃなければまた違うことを願うだろう。けれど、ならば、いま、ここでそのチャンスがやってきたんだ。今の私が願うことを考えればいい。全力の願い事なら、将来の自分もきっと納得する。

 

「契約するよ。私の願い事は——」

 

 

 こうして、私はキュゥべえと契約を行い、魔法少女になった。

 

 ゆうちゃんは驚いてくれるだろうか。あぁ、多分すごい表情をしてくれるだろう。百面相みたいにいろんな表情を見せてくれるに違いない。思わず笑みが溢れる。今から少し楽しみだ。

 考えなしに何してるんだと、少し説教をするかもしれない。

 けれど、多分否定することはないだろう。なんだかんだで受け入れてくれると思う。彼は、そういう人だ。だから私は一緒にいたいとずっと想い続けられるのだ。

 大好きなひとと一緒にいられるなら、私はきっと頑張れる。私の将来は、想い続けるためにあるのだ。

 

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