ツレが魔女になりまして   作:碼椙 柊

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第1話「ツレが魔法少女になりまして」


第1話

 

 

 

「私、魔法少女になったの」

 

 小さい頃からの幼馴染で相方でもある彼女がそんな事を言ってきたのは中学3年生の、なんてことのない、何も変わらないある日のことだった。

 その日は変わらない日常のうちの一日で、いつも通りに二人で学校に登校している途中の出来事だった。季節の変わりを感じ始めたこととか、少しずつと迫りくる受験と卒業とか、そういったありふれたどうでもいいことに、あまり実感が沸かないながらも楽しみにしていたような、そんななんてことない1日になるはずだった。

 だからこそ、そんな平穏で平凡な日常のなか、唐突にそんなことを言ってきた彼女をつい可哀想な目で見た俺を、一体誰が責められようか。

 

 よく考えて欲しい。普段、少し——彼女の名誉のために「少し」としておくが——突拍子もない言動行動がみられるような人間であったとしても、いきなり滅茶苦茶真面目な顔してこんな電波なことを言われたら「あぁ、ついに黄色い救急車を呼ぶ時が来てしまったのか」と思わない訳にはいかないだろう。

 そんな風に考えて彼女を白い目で見ていた俺の思考を読んだのか、学校指定のやたら丈夫な鞄で、しかも全力で一回転の勢いをつけてブン殴るのはやめて欲しい。冗談抜きでマジで痛い。防御した腕の鈍痛が身体に響く。暴力は反対です。むしろ犯罪です。

 

 鞄が直撃した腕を押さえてうずくまる俺を見やりながらも助けることはなく、彼女はぷりぷりしながら通学路を先に行く。同じ制服を着ていることから想像に難くないだろうが俺と彼女は同じ学校且つ二人とも徒歩通学なので、先ほどの光景を見てしまった同じく徒歩通学で登校する道行く生徒たちに変な目で見られながらも、置いてかれないように早足で彼女に追いつく。走ると鞄が当たったところが少し痛むのであくまでも早足だ。筋いってんじゃないかこれ。本当に暴力にも程がある。

 ……痛みで程よく現実逃避していたが、先ほどの彼女の言動についてひとまず向き合うことにする。これが一過性で何も考えていない言動であればこのまま記憶から消し去っても全く問題ないのだが、あの言葉の前後の彼女の行動や雰囲気からどうやらそうではないような気配を感じ取っていた。

 つまり、その内またこのネタは擦ってくるだろうと想定できる。ため、少し考える必要がある。

 

 さてはて、どうして魔法少女なんだろうか。わざわざそんなファンシーなものを取り上げる辺り、何かしらの影響があるとは思うのだが。

 まずはフィクションの作品絡みという仮定だが、直近にそんなに影響されるようなアニメとか作品なんてあっただろうか……。

 そう考えるも、特に思いつかないので、どうせまた彼女の気まぐれかネットで何か適当に見つけたのだろうと決め付け、これ以上はその件については反応することなく放置する事にした。とりあえずファンシーなのは頭の中だけにして現実世界に出してこないでほしい。まぁそもそも中学生にして意味不明な影響を受けるというのも理解に苦しむが、他人の頭の中は覗けないので憶測でしかない。

 兎にも角にも、変に反応するからこういう輩は助長する訳で、下手に対応することなく放置すれば、このネタを出してくるのを諦めて、知らずのうちにまた元に戻るだろう。そうしないと俺の胃に穴が空くに違いない。俺の反応を見て楽しんでいるに違いないのだ。いつも通りのことだ。

 

 ……と、思っていたのだが、その見当は外れて向こうから再び魔法少女に関する話題を振られる。その日の学校の帰りに詳しい事を聞く事になった。

 

 学校から出てしばらくの帰り道に彼女から言い出したので、まだ電波が続いているのかと考えようとしたところでまた彼女が鞄を構えたので、大人しく聞かざるを得なかった。本当に怖い。

 

「ふっふっふ。悩めるワトソンくんの疑問をこの私が解決してせんぜよう。なんでも聞きたまえ」

 

 数歩遅れて歩く俺に対して、微妙なドヤ顔を見せつけながらも器用に後ろ向きで歩いていく。

 ため息をつきながらも彼女についていく。残念ながらもう逃げられないということです。

 通学路を同じくする彼女とは当然帰り道もほとんど同じである。寄り道もせずに帰るとなれば逃げるタイミングもない。

 

 ところで、魔法少女という単語自体に正直あまり聞き覚えがないのだが、いわゆる魔法使いの女の子という認識でいいのだろうか。それでいうならば、普通は、というか俺の場合は日曜日の朝とかにやっているような小さい女の子をターゲットにしたファンシーなものをイメージするものなのだが、彼女の頭の中の実際はどういうものなのだろうか。

 ……正直言って、彼女にそういうものは似合うとは思えない。年齢的にもぶっちゃけキツいだろう。次の春には高校生だぞ。

 

 うん、どう頑張ってもそういう方向に持っていくのは苦しいと思う。まぁコスプレ的には似合いそうだが。モデル体型という訳ではないが、まぁ確かに魔法少女のコスプレをするなら、それなりにコスプレ映えしそうな体躯だから理解はできなくはない。……もしかしてそういうことか? コスプレに目覚めたのか? 俺たちは人形店の倅でもないしギャルでも読モでもないぞ。

 

 そんなことをつらつらと考えているうちに、家の近くにある小さな公園で話を聞くことになっていた。小さい頃にはもう少し遊具があったような覚えがあるが、ブランコと滑り台、砂場くらいの寂しい公園だ。遊ぶ子供は誰もいなかったため、俺たちで占有している。

 別に現在我が家は俺以外には誰もいないから気楽だし家に呼んでもよかったのだが。それと単純に早く家に帰りたいだけの気持ちが強い俺の提案は華麗に彼女に無視された。

 

 観念して公園のベンチに座り、話を聞くことにした。

 彼女が言うには、キュゥべえという、自律して動く白い謎のぬいぐるみ様の生物から、「魔法少女になって魔女と戦って欲しい」と告げられ、その意味不明な提案を受け入れ、そのまま承諾したそうだ。意味が分からない。こいつは何を考えているんだ。そして何を言っているんだ。やっぱり黄色い救急車案件だったか。

 頭の中でそんなことを考えつつも、ひとまず引き続き話を聞くことにする。なんでも、「願い事を一つ、なんでも叶える代わりに魔法少女となり、この世に巣食う魔女と戦って欲しい」のだという。

 

 個人的には魔法や魔女という言葉が出てきた時点で、胡散臭さが半端無かったのだが、非常に残念なことに、当の彼女が俺の目の前で"魔法"を使ったので信じざるを得なかった。

 勿論、始めはどこで瞬間着替えやその他のマジックを仕入れてきたのかと問い詰めたのだが俺の希望とは裏腹に、そこから次々と常識ではどうやっても説明できないモノを披露され、結局は彼女の使う"魔法"というものの存在を信じざるを得なくなってしまったのだ。俺の十数年培った価値観という名の常識が吹っ飛ぶ気配がした。

 魔法少女の衣装となるコスプレ(にしか見えない)は地味なのか派手なのか判断の難しいものであったが、この衣装は魔法少女のあり方と思い描いたものがカタチとなって現れると聞いて、あぁこいつの中途半端さがここに現れたんだなと納得した。思わず口に出したら無言で腹パンされた。昼飯が出かけた。

 

 ……さて。魔法の存在と、魔法少女というものをひとまず頭の中で理解したはいいものの、軽く聞いただけでもいろいろと不可解な点があったので、彼女に思いついた疑問をつらつらと問うてみたのだが、どうやら彼女もまだ詳しくは知らないことが多いらしい。ほとんど何も聞かないまま、成り行きとその場の勢いで契約したため、詳しい内容については追々聞くつもりであったらしい。怖過ぎだろ。普通に騙されてるとしか思えないんだけど……。

 質問の一つとして、いつまで魔法少女を続けるのか聞いたのだが、なんとコレに関しては終わりが無いらしい。魔女がこの世に存在する限り、魔法少女は戦い続けなければならないという。

 

 故に、そう簡単に契約する人間はいないらしいのだが、幸か不幸か頭がいろんな意味で残念な彼女は感性が普通の人間とはかなり変わっているところがあるので……。そしてこの結果である。

 一度契約し、魔法少女になった以上、ほぼ一生を魔法少女として戦うことを義務付けられたと言われ、思わず愕然としてしまった。魔法少女から魔法お姉さん、魔法おばさんを経て魔法中年になるのか。キッツ。

 彼女は気楽にやっていくと答えたが、戦いというものはそういう考えではやっていけないだろう。魔女が現れたら、授業中であろうと通学中であろうと戦いに赴かなければならないだろう。そしてそれが魔女がいなくなるまで続く。

 自分の一生を犠牲にしてまで、彼女はその力を得たのだ。

 確かに、彼女の感性は普通では理解できないものが多々存在するし、行動やその他に於いても本人よりも周りが頭を痛めるような事が多い。しかし、だからといって彼女は決して頭が悪い訳ではない。学業成績としては勿論のこと、知性……言うなれば地頭の良さの点で言えば俺らは勿論のこと、教師ですら驚かせる程のことを難なくやってのける。……それ以上に特異な行動・言動が目立つ事はまぁしょうがないとしてもだ。

 

 だからこそ理解が出来ないのだ。そんな彼女であれば少し考えるだけで先が、ゴールが見えないレールへと方向を転換することの危険性が分からない訳が無い。それにも関わらず、彼女はどうしてその道を選んだのか。少し感情的になりながらも彼女に問うたのだが、理解していると答えられたうえ、結局はぐらかされ、それ以上質問答えることは無かった。

 キュゥべえというぬいぐるみ様の生物にも会えなかったため、疑念が全て解決したとは到底いえないのだがしょうがないと流すしかない。

 

 正直なところ、本人が納得していたとしてもこっちは気が気ではない。相談しろと言いたかったがもう過ぎたことを言ってもしょうがないのも事実。ため息をつきながらも受け入れるしかない。……納得はしていないが。

 

「……ま、納得してるなら俺は何も言わないよ。っていうか何を言ってもどうせもう戻れないんだろ?」

「その通りー。少女の憧れ、少年の羨望の的、魔法少女! それそのものになった私はまさに素敵な存在そのもの! いいねいいね! 今更ながらになんだかテンション上がってきた!」

 

 残像が出るくらい身体を小刻みに動かし、言語化不可能な言葉を叫びながら走り出そうとしている彼女を止めながらも、またため息を一つ。

 これまでの話が本当なら、世界の平和が彼女に掛かってる。大げさに言えばこんなものなんだろう。……とてもそうには見えないのだが、そういうことなのなら仕方が無い。俺にはどうしようもないことだ。

 少々…いや、かなり心配ではあるが、さすがに引き際は自分で判断出来るだろう。何かあれば俺に頼るだろうし、これ以上は何を言おうが無駄なのはさすがに理解できている。

 

「まぁ無理しない程度に頑張ってくれ。俺には関われない話だろうしな」

 

 最後にふと気になって、どんな願いごとで魔法少女としての契約をしたのかが気になって聞いたみたものの、何故だかまったく教えてくれなかった。誤魔化したりしらばっくれたりしていたが、最後に一言だけ「秘密」といって口を閉ざした。秘密にされるとそれはそれで気になってしまうがこの様子だと教えてくれそうにない。

 まぁ、秘密を無理に暴くのも趣味が悪いと思い、いつかは教えてくれるだろうと軽い気持ちで受け入れることにした。

 ——それは結局、最後まで知ることはできなかったのだけれども。

 

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