魔女の結界に飲み込まれ、歩き始めてどのくらい経っただろうか。しばらく歩き続けていたものの、周りの不気味な景色は変わることない。空間一面が原色のペンキをぶち撒けられていたはずだったが、気づけば足元はいつの間にか石畳の道に変化しており、その違和感が非常に気持ち悪かった。
根拠のない恐怖感や、まわりの気味の悪さに、俺はびくびくしながら付いていくしかない。そんな俺の様子を視界の端で見つつも周囲の警戒を続ける彼女は、時より思い出したかのように襲い掛かる異形の何か(この結界の魔女が使役する使い魔らしい)を、手に持つ得物で軽くなぎ払いながらも石畳の道を一直線に進む。
こんな訳の分からない空間で一人、彼女はずっと魔女と戦っていたのか。
俺が当たり前に享受していた日常を過ごしていた間、馬鹿みたいに呑気に過ごしていた間、彼女はずっと一人で魔女と戦っていたのか。
そう思っただけで、そう考えただけで、彼女の存在——魔法少女としての存在——を遠く、大きく感じた。
「随分と大きい結界……、もしかしたら結構強い魔女なのかも……」
いつもの俺と居るときに見せる、ふわふわと浮いたような のほほんとした彼女ではなく、見たことが無いほど真剣な眼差しで道の奥を睨みつけている。
石畳の道の先、結界の奥には何があるのか、俺にはさっぱり分からない。俺の目には見えていない何かが彼女には見えているのかもしれない。
奥へ進むごとに強くなる本能が鳴らす警告も、結界の外に出られない今では意味が無い。
逃げ出したところで、今は近づかずに様子を見ているだけの周囲の使い魔たちに捕まってしまうのが目に見えている。彼女についていくしか出来ない自分の無力さがつらい。
「……そろそろ本命が見える頃だよ。ゆうちゃん、気をつけてね」
「あ、あぁ……」
何をどう気をつければいいのか分からないが、せめて彼女のそばから離れぬよう、ぴったりとついていくようにした。
正直、めちゃくちゃ怖い。
この空間が、襲い掛かる異形の物体が、感覚を失わせるような周りの景色が。
訳の分からない空間に、彼女と一緒とはいえ無理やり閉じ込められ、今までの常識が通用しないような異形の物体に襲われる。
安全が担保されない空間に立たされるという現実が。いま目の前に見えている全て、自分の常識の外の存在というものが怖い。そして何より、それらに平然と対応している彼女の強さが。
彼女を支えると言いつつ、その実何も知らなかった自分が腹立たしかった。そして何も出来ない自分に腹が立つ。
そんな事を考えながらも狭い一直線の道を歩き続けてしばらく。
少し雰囲気の異なる場所へ出たと思った瞬間に、周りの景色が高速で目まぐるしく変化していく。
そして突如開けた場所へと出た。
「見つけた……!」
彼女がそう呟き、見たことの無い程の鋭い目で、この空間の奥に佇む、ガラクタで組み上げられた城のような建物の上に居る一際目立つ異形の生物を睨む。
そこら辺に沸いていた使い魔とは似ているものの、存在そのものが、俺が見ても分かるほどに一線を画している。おそらくアレがこれらの親玉、……魔女なんだろう。
「ゆうちゃんはここで待ってて。……狭いけどこっから出ちゃ駄目だよ。危ないから」
そう言って、彼女は何も無い虚空から3mほどの長さの棒を4本取り出し、俺の周りに突き刺す。
そして後ろへ一歩下がり指を一度だけ鳴らす。するとその4本の棒から透明の何かが発生し、それが俺を閉じ込めるように覆った。
「え、ちょっ!?」
「バリアみたいなものだよ。この中にいればその辺にいる使い魔たちも入って来れないし、流れ弾からもそれなりに守ってくれるから。不安は無くせないだろうけど、安心してね。あ、でも外からは弾くけどゆうちゃんが出ようと思えば簡単に出れちゃうから、大丈夫って言うまでそこから出ないでね。……それじゃ、ちょちょいのちょいで終わらせるから待っててねっ!」
言い終えるや否や、彼女は目にも止まらぬ速度で地面を駆け出し城の上で佇む魔女へと肉薄する。
そして先ほどと同じように、虚空から槍や刀といった大量の武器を彼女自身の周りに呼び出す。右腕を横に一振りさせ、それを合図に空中に留まっていた武器を一斉に射出させる。
見つけた時から殆ど動きの無い魔女は、やはりというべきか、彼女の放った武器が迫っても動くことなく、城の上で止まっていた。
そして轟音と共に彼女の攻撃が魔女へと直撃する。それに続くように、土煙のようなものが魔女の周りを包むものの気にすることなく、速度を緩めることなく彼女は魔女へと突っ込み、その手に持つ得物で魔女に斬りかかる。
しかし、
「くっ」
その攻撃は魔女には当たらない。
それどころか、彼女が放った攻撃の一切が魔女へ通っていなかった。
彼女の放った攻撃は全て、どこからともなく現れた、あの異形の物体である魔女の使い魔たちによって防がれていた。その身を挺して魔女を守った使い魔達は砂の様にボロボロと崩れていき、突き刺した使い魔たちが消えたことにより落下していく彼女の武器も、光に包まれて虚空へと消え去る。
「それならっ!」
地面に着地するのと同時にもう一度その場で跳躍し、魔女の居る城よりも高く飛び上がる。そして跳躍の頂点に達したところで彼女は虚空から再び武器を取り出す。
それは刃渡りが彼女の身長の2倍は優に超えているだろう程の大きな両手剣。肉厚かつ身幅も広い巨大なそれを両手で持ちながら身体を空中で1回転させ、勢いを付けて魔女へと振り下ろす。
「やぁぁっ!」
たとえ使い魔が魔女を守ろうとしても、それすらも容易に切り裂くことが出来るであろうと思わせるほどの大きさと威力。
案の定、魔女の使い魔たちが魔女を守るために彼女と魔女との間に次々と割ってはいるものの、まるで豆腐を切っているかのように軽々と両断し、その刃は魔女へと迫る。
再び轟音。
魔女が佇んでいた城ごと、彼女の剣は容易く両断する。
辺り一面は砂埃と土煙で再び視界が無くなる。と思ったのも束の間。突風が吹き荒れたかのように、それらは一瞬で消え去り、そこに見えた二つの影。
どうしてというべきか、やはりというべきか。傷が無く無事な魔女とそれと対峙する彼女の姿がそこにあった。
「ほんと、厄介な魔女……」
ここからは聞こえないが、そう彼女が呟いた気がする。そして城が無くなったことにより、空中で何事も無かったかのように佇む魔女は突如、奇声のようなものを上げる。
「うっさ……!!」
まるで超音波。そう思わせるような笑い声。魔女からそれなりに離れている自分でも思わず耳を塞がずにはいられない程の騒音。
彼女も一瞬だけ怯んだ姿を見せたものの、すぐに体勢を立て直し、再度虚空から武器を呼びだす。
「もう! ほんと面倒!!」
今度は長さが1m程の槍。刃の部分は短く、それでいて無駄が無い形の槍。ジャベリンと呼ばれる投擲に用いられる槍だ。それを掴み、そして振りかぶって、彼女は魔女に向かって勢いよく投げた。
「よいしょっ!」
何か魔法の補助でもあるのか、彼女の投げた槍は光の粒子を撒き散らしながら魔女へと一直線に、矢のごとく伸びるように突き進む。
魔女は未だに不愉快な笑い声を上げている。しかし彼女の放った槍が目前に迫ったところでようやくその声量を下げ、横にずれるようにして槍を避ける。
「無駄っ!」
魔女の回避を確認する前にすでに彼女は再び同じ槍を呼び出し、同じように魔女へ放っている。
しかし魔女は先ほどと同じように横にずれてその槍を回避し、壊れたように笑い声を上げ続ける。
「これでっ!」
彼女は未だに笑い声を上げる魔女を見やるが、しかしこれ以上の攻撃はしない。
離れているが故よくは見えない。けれども彼女のその横顔には既に笑みがあった。その笑みは彼女がすでに勝利を確信しているかのような、そんな笑み。そして彼女が指を一度だけ、響くような音で鳴らす。
「——チェックメイト」
その言葉と共に、先ほど投げた二本の槍が軌道を変えて魔女の許へと戻ってきた。
魔女もさすがに予想できなかったのか、すかさず回避運動を取るものの既に遅く、二本の槍は魔女へと突き刺さる。
「よしっ!」
そう声を上げたのは自分か彼女か。槍が突き刺さったまま力無く落下していく魔女を見て、この非日常の終わりをようやく感じた。
地面へと落ちて消滅した魔女の近くで何かを探るのも数瞬、彼女はこちらへ向き直り、大きな声で俺へと声をかける。
「ゆうちゃん終わったよー。帰ろっかー」
彼女がこちらへ歩きながら笑みを浮かべている。魔法少女としての白い衣装に身を包み、悠々と歩くその姿は本当に輝いていて、神々しく見えて。
だからこそ。
目の前で起きたことが理解できなかった。
「えっ——?」
口から声が漏れる。
魔女は確かに倒したはずだ。使い魔は魔女無しには生きれない。だからこそ、今この空間に居るのは俺と彼女の二人だけ。そうだったはず。
俺はもちろんのこと、彼女ですら知覚できなかった「何か」によって彼女は真横に吹き飛ばされた。
「うぐっ……」
鈍い音を立てて彼女は壁にぶつかった。うめき声を上げながらも、彼女はよろよろと立ち上がり、自分を吹き飛ばした「何か」を睨みつける。
「何で……もう一匹……」
ふらつきながらも彼女は歩きだして、俺の許へと近づく。柏手を打つかの様に一度手を叩く。それに呼応するかの様に俺の周囲のバリアが一度光を返し、再び透明な姿に戻る。
その様子を確認したところで一度膝を折り、地面に手を着く。
「きっつー……。まさかもう一匹隠れてたなんて、不覚。ゆうちゃんごめん、不測事態だ。もうちょっと時間が掛かりそう」
そう言い彼女は深呼吸を一回、そして立ち上がる。純白のように輝いていた衣装は既に汚れが目立ち、ところどころに赤い汚れ——どうみても彼女の血——もついていた。
「お、おい怪我……」
「大丈夫大丈夫、魔法でもう治したから。狭い中に閉じ込めたままでごめんね。次もぱぱっと倒して、今度こそ帰ろっか!」
気づけば、原色ばかりの目に悪い空間のはずだった魔女の結界は色を変え、ワインレッドや藍色などの、暗い色に染められていた。そして魔女の建造物だったものも既に形は無く、空間自体が別のものへと変質を始めていた。
彼女を吹き飛ばした「何か」は未だに俺の視界には映らない。しかし彼女は既に見えているのか、何も無い空間に視線を移していた。
「なるほどなるほど。でもそれで隠れてるつもりなら……」
彼女が腕を横に一振り。そうするだけで、虚空から幾つもの武器が現れ、何も無い空間に狙いを定める。
「かくれんぼは私の勝ちっ!」
ぱちんと指を鳴らす。彼女の周りに舞っていた無数の武器たちはその音に弾かれ、再び矢のように放たれる。
何も無い空間に飛んでいったかと思われたそれらは、やはり何も無い空間に阻まれたように何かに突き刺さる。しかし先ほどのようにそこに使い魔や魔女の姿は無い。ただ空間に突き刺さり、そして同じように落ちていく。
それに彼女は何も表情を変えず、再び同じように武器を呼び出し、同じように射出する。今度は違う方向へ。
しかし今度は同じようにはいかなかった。放たれた武器のうちのいくつかが、甲高い音を立てて弾かれたのだ。
「……」
その様子を黙って観察するようにみていた彼女は再び先ほどと同じように、武器を虚空から呼びだす。しかし今度はダガーナイフのようなもの1つのみ。そしてそれを持って振りかぶり、武器が弾かれた場所へと投げつける。
先ほどと同じ様に弾かれる……と思い、そして結果、同じように弾かれたのだが、
「よいしょ」
弾かれたのを確認した瞬間に彼女が指を鳴らし、同時にダガーナイフが爆発した。
爆風と黒煙が、爆発したところを中心に立ちこめ視界を狭める。しかし爆心地から「何か」が地面へと降り立つのを、俺と彼女は見逃さなかった。
「あれが本体……!」
ようやく現れた魔女。それは人の背丈を超える大きな糸繰り人形、マリオネットそのものの形をしていた。
『Mwa ha ha!』
魔女の口からこぼれる笑い声。それはまるで演劇の役者のような作られた笑い。その笑い声をあたりにばら撒きながら、人形の魔女は辺りを高速で駆け巡る。
「くっ、ちょこまかと……!」
『Bwa ha ha ha!』
魔女の笑い声は種類を変えて、まるで彼女をもてあそぶかのように辺りを駆け巡りながら延々と笑い声を上げ続ける。
人形の魔女が辺りを駆け巡る速度はそれを追う彼女よりも速い。始めはなんとか追いかけていたものの、無駄だと気づいた彼女は追いかけるのを止め、立ち止まって動き回る魔女を目で追いかける。
高速で動く魔女の動きは、なんでもない一般人である俺にはほとんど分からない。時より残像のようなものが見えるだけで、目で追いかけるのはもう諦めている。
「この……止まりな、さいっ!」
彼女が手に持つ片刃の剣を大きく振りかぶり、その姿勢のまま大きく真上へ飛び上がる。そして地上から数m飛んだところでその得物を振り下ろす。
そこは丁度、魔女が通ろうとしていたところ。行動を先読みし、魔女の通る道で、彼女の持つ得物が魔女の命を吸い取らんと迫る。
しかしそれでも彼女の攻撃は魔女を切断するには至らなかった。
「ああもう……!」
彼女の攻撃を受け止めた人形の魔女は、先ほどとは姿が変わっていた。
黒いマントのようなものを羽織り、顔に当たる部分には半分だけ覆われた仮面のようなものを付けている。そしてその手には彼女を攻撃を受け止めた、細身の刺突の剣であるレイピアが握られていた。
『huhuhu』
魔女は全身をカタカタと震わせて、変わらず役者のような笑い声を上げる。
空中で拮抗状態に陥り、そのまま自由落下により地面へと落ちていく。しかし彼女と魔女は鍔迫り合いとなったまま姿勢を変えず、その状態のまま地面が近づく。
地面まであと少しとなったところで、彼女は人形を右足で大きく蹴りだす。モロに喰らった人形は弾かれたように空中に跳ね飛ばされる。
「もらったぁぁあ!」
彼女は地面に着地するや再び姿勢を整え、空中を翔けて飛ばされて姿勢が崩れた魔女へと肉薄する。
魔女までもう少しというところまで彼女が迫る。未だ魔女は空中で姿勢を崩したまま。このまま彼女の攻撃が通れば……。
しかしやはりというべきか、彼女の攻撃は魔女へ通らない。
『huhuhu』
いつの間に。
彼女が魔女へと肉薄するその一瞬で魔女は再び衣装を変えていた。
今度は全身を鎧と兜のようなもので包み、自らと同じ大きさ程の盾で彼女の攻撃を防いでいた。
そして
『hee-hee!』
自分からその盾を手放したかと思いきや、落ちながらその盾ごと彼女を蹴り飛ばし、
『LOL! hee-hee-hee!』
その盾が爆発した。
「っ!?」
彼女はその爆発を間近で受け、そのまま空中を力なく軌跡を描くように、俺の真上を越えて地面へと落下した。
「 !!!」
彼女の名を呼ぶものの、返事は無い。十秒か二十秒、はたまた一分ほど経ったころか、ようやく彼女はぴくりと動き出し、ぎこちない動きで起き上がった。
立ち上がった彼女は悲惨なものだった。
少し前まで白く輝いていたはずの衣装は汚れ、破れてまるで襤褸のようになり、身体の至るところから出血していた。
「うー…きっつー。これはちょっとヤバいかも……」
手に持つ得物を杖のように使って立ち上がり、よろよろと俺の近くへと歩みよる。
「ごめんねゆうちゃん、もうちょっとで終わらせるから……」
「お、おい……」
彼女はよろよろと歩きながらも、再び魔女と対峙する。大きく深呼吸をし、胸に手を当てる。光が彼女を包んだかと思うとすぐにその光は収まる。光に包まれた彼女は、若干ではあるがその姿が元に戻っていた。しかしそれも完璧でなく、未だに血の汚れはついているし、服も破けたところが申し訳程度に修繕されているだけ。
「うー……さっきのグリーフシードも使わないとヤバいなぁ……」
こちらからはよく見えないが、彼女が懐から何かを取り出す。そして再び胸に手を当て、しばらくその姿勢のまま動きを止める。
「よし、全回復! 今度こそ仕留める!!」
彼女が手に持っていた何かを横に放り投げて仕切りなおしとでも言わんばかりに空中に悠々と佇んでいる魔女へと向き直る。両の手を合わせて、そして左右に広げるようにして手を離す。再び彼女の周りには彼女が呼び出した無数の武器が虚空より現れる。しかしその数は今までの比ではない。数えるのも呆れるほどの数。
分が悪いと判断したのか、空中に佇んでいた魔女はどこかへ逃げるようにすぅと消えていく。
「一気に終わらせる!」
彼女が手を横に軽く一閃。するとぶら下がるように下を向いていた武器たちは、それぞれがあらゆる方向を向き始め、そして彼女が指を鳴らしたのを合図に、再び矢のように伸びて放たれる。
壁にぶつかる音やどこかから聞こえる悲鳴、そしてこの世のものとは思えないような奇声が辺りに響き渡り、雑音としてこの空間を支配する。
「まだ……」
彼女は再び武器を虚空より呼びだす。そして同じようにあらゆる方向へ向けてそれらを放つ。
「まだまだ……」
その動作を繰り返して何度か。彼女が武器を放つたびに雑音は大きくなり、辺りに立ち込める煙は増えていき、視界や聴覚を塞いでいく。
そして最後に極めつけといわんばかりに、一度だけ大きく響くように指を鳴らす。それを合図にして、至るところに飛んでいった彼女の武器たちが爆発し、誘発し、視界を更に狭め、もはや数m先すらも見えないほどとなる。
煙が収まるまで彼女も俺も動かない。
がらがらと崩れる音が時々聞こえるものの、まるで無音であるかのようにあたりは静かになった。
煙が晴れ、あたりを見渡す。まるでテロか爆発が起きた後かのようにあたりは瓦礫だらけ。
更に周りを見渡すと、破けたマントと半分以上ずれるように外れている仮面を付けた人形の魔女が、無数の瓦礫の上に立っていた。確実にダメージは通っている。
「これでっ!」
その姿を見つけるや否や、彼女は手に持っていた得物を再び握り締め、地面を駆けて魔女へと肉薄する。魔女もそれに気づいたのか、自分の横の地面に刺していた細剣を持ち直し、それを彼女へと構える。
「終わりっ!!」
得物を振りかぶり、魔女へ振り下ろす。しかし魔女もやはり簡単にはやられない。手に持ったレイピアで彼女の攻撃を裁いていく。
『haha!』
「あっ!?」
魔女の笑い声と共に、彼女の手に持っていた得物が魔女によって弾かれ、大きく空を舞う。
一瞬だけ彼女は動揺したものの、すぐに意識を切り替え、一回後ろへ飛ぶようにして退く。
「だから!」
今までは射出だけに使っていた剣を虚空より呼び出して手に握り締める。
そして再び地を駆け、魔女へと迫る。
「これで終わり!」
『Rotflmao!! hee-hee-hee! hahaha!!!』
「やめろ行くな! 避けろ!!」
魔女へと迫る彼女からは見えなかったそれ。彼女の背後に迫るそれ。魔女まであと一手というところで彼女の動きを止めたそれ。
「え……」
勝てるはずだった。いや、勝つことを疑わなかった。彼女の強さ、それに目の前の魔女はひれ伏すはずだった。なのに
「あぅ……。うっ……」
魔女が弾いた事で彼女の手から離れ、大きく空を舞っていた彼女の得物はどういう訳か、彼女の意思を無視して、しかし彼女の許へ戻るかの様に彼女の背中へと突き刺さり、その切っ先は胸を貫通していた。
「ぐっ!」
一瞬たたらを踏んだものの、崩れることなく目の前の魔女を睨む。彼女の身体はがくがくと震えているが、それでも彼女は手に持つ剣で魔女を切り伏せようとする。しかし先程よりも明らかに甘いその剣先は容易に避けられ、魔女は大きく後ろへ退いて空中へ飛び上がる。
『Mwa ha ha ha! goodbye!』
そんな笑い声を残して魔女は再び高速でどこかに消え去った。