疲れた…………
束の刃と箒のレイザーブレンドがぶつかり合う。
お互いに気は抜かない。
一夏たちはそれをただただ見守ることしか出来なかった。
「箒ちゃん…………。 どうして、そんなに変わってしまったの?」
「決まっている…………。 お前たちがそうしたからだ」
睨み会う中、束は1つ問いかけた。
なぜ、箒がここまで一夏に執着するのかを。
「どう言うこと?」
「私はただ、昔のままの一夏でいてほしかった。 ただそれだけなのに、一夏は変わってしまった! お前たちと関わったから一夏は変わってしまったのだ!! なら、みんな消えてしまえば、いつもの一夏に戻ってくれるはず…………だから、私はお前たちを消して一夏を手に入れる!! 一夏の横に立つのは私だぁ!!」
箒はノーモーションで束の前まで近づく。
随意領域で自分の身体を弾いたのだ。
それにより、瞬時加速に必要な動作などを省いて、瞬時加速と同じ速度をだしたのだ。
「っ…………!」
一般の生徒なら、すぐには対応することは出来なかっただろう。
しかし、相手しているのはISの開発者であり、あの『ブリュンヒルデ』が認めた数少ない友人である篠ノ之束なのだ。
「…………」
束は無言で箒のレイザーブレンドを受け流し、『紅椿』に搭載されている足の展開装甲を解放して、そのまま箒を海にへと蹴り下ろした。
「ぐっ!!」
箒は随意領域を張り、体制を建て直す。
「やっぱり、CR-ユニットは面倒ね…………」
CR-ユニットに搭載されている随意領域のお陰ですぐに体制を建て直すことができてしまうのだ。
◇
「なによ…………あれ」
福音との戦闘でSEが限界値までたした一夏と簪を支えながらセシリア、鈴、ラウラ、シャルロットは束と箒の戦闘を眺めていた。
「あれが、束さんが作った…………第四世代型IS機『紅椿』の力」
「はあ? あれ、第四世代なの!?」
簪の言葉に鈴は驚いていた。
現在、ISは第三世代の試作機が出来たばかりなのだ。
そんな中、第四世代型と言う未来機がもう稼働していると言う現状に驚きを隠せる訳がなかった。
「うん…………それに、第四世代は現在9機存在するのよ」
「ちょっとお待ちください! 第四世代が9機ですて!?」
「まさかと思うが…………」
セシリア、鈴、ラウラ、シャルロットは一斉に一夏と簪に目を向けた。
「そう言えば、言ってなかったけ…………」
簪は別として一夏は入学当初から『赤騎士』を所持していたので、知ってて同然だったのだがこのことを知るのは一部の人間のみだけなのだ。
「現在、第四世代は『赤騎士』、『青騎士』、『黄騎士』、『緑騎士』、『土騎士』、『白騎士』、『黒騎士』、『折紙』、『紅椿』の9機だけ」
「殆ど騎士じゃない……」
「それもそう。 最初に作られた第四世代は7つの騎士だから」
騎士シリーズはISができる前から設計されていたISなのだから。
そう考えると、ファイさんの技術力って10年先を進んでいるよな……
「それより、箒が言ってたことって」
「どう見ても、あれは自己満足だよね」
束さんの問は一応聞いていたが、まさかあんな答えが返ってくるとは思ってもいなかった。
ただの自己満足。
箒の心は子供のままなんだと一夏はこの時、やっと気づいた。
「フレア……俺に力を貸してくれるか?」
『いいですが……我々も限界が近いですよ?』
「分かっている。 だから、少しでもいいから」
『分かりました。 無理だけはしないでください』
「ああ。
一夏は残りのSEを使い最後の足掻きにでた。
「〈
一夏は〈破軍歌姫〉を顕現させ、光の鍵盤を弾き鳴らした。
「これは……」
そして、セシリア、鈴、ラウラ、シャルロットのISに異変が起こったのだ。
『シンクロ率オーバー120%』
全員のISのシンクロ率が上がったのだ。
「箒を止めてくれ」
一夏は〈破軍歌姫〉を使ったことにより、ISが強制的に解除された。
「わかりましたわ」
「OK、あのバカをさっさと片付けるわよ」
「わかった」
「箒を止めてみるよ」
セシリア、鈴、ラウラ、シャルロットは一夏の思いを受け取り、箒の元へと向かった。
「すまないな……簪」
「うんん……いいの。 織斑くんは自分のできることをしただけだよ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
一夏は簪のISに支えながら見守った。
◇
「ほぉぉぉおきぃぃぃ!!!」
一番手で仕掛けて来たのは鈴だった。
鈴は自前の武器である双天牙月を構え、箒に畳み掛けた。
「邪魔をするな!!」
箒はそれをいとも簡単に避ける。
鈴は悠然と顔を向けた。
「箒。 あたしはあんたが嫌いだ。 今も、最初に会った時も、変わらずね。―――だけど、今の『嫌い』は、最初の頃の『嫌い』とは、多分、少し、違う。だから―――」
そして、箒の目を見据え、手にしている双天牙月の切り先を向けた。
「
「…………ッ」
その言葉を聞いただけで、箒は心臓を射られるかのような錯覚を覚えた。
「…………」
しかし、箒は退かなかった。
むしろ、これこそ、箒は待っていたのかもしれない。
「はぁ…………ッ!」
箒は裂帛の気合いと共に、随意領域を自分の身体と装備のみを包む程度に収縮させて強度を高めた。
この場合、展開範囲を広げた処で、全員の動きを縛ることなどできはしない。
ならば無駄に魔力を使うよりは防御を固めた方が利口であった。
レイザーブレイドを振りかぶり、光の刃を鈴に振り下ろす。
鈴は微かに眉を揺らすと、双天牙月で以てそれを受け止めた。
だが、それこそ箒の狙い道りだった。
箒は脳内で指令を発し、レイザーブレイドの刃の一部を分離させた。
DEM製CR-ユニット搭載型IS機〈メドラウト〉の主兵装であるこの〈クラレント〉は、随意領域内で本体を可変させることにより、魔力砲〈クラレント・カノン〉と、レイザーブレイド〈クラレント・ソード〉の二形態に変形させることができる武器である。
しかしそれはあくまで、それぞれの性能に適した形に武器を可変させているだけであって、変形によって片方の能力を失われる訳ではなかった。
高度の随意領域操作と膨大な生成魔力があれば〈ソード〉形態の刃を保ったまま、砲撃を行うことが可能なのだ。
無論、箒としても複数の専用機を相手しながらの砲撃である。
威力はそこまで高くはない。
普通であれば薙ぎ払うだけで、容易く回避できる程度の威力しかないだろう。
だが今は、その双天牙月を箒が押さえている状態である。
無理にその攻撃を払おうとすれば、対する箒の斬撃をもおらうことになる。
どちらにせよ、鈴はダメージを避け得ない。
―――筈だった。
「なめるなぁ!!」
鈴は箒と打ち合ったまま、箒を圧倒的な膂力で以て後方へ押しやり、砲撃の着弾範囲から無理矢理脱してみせた。
「く―――」
眉をひそめ、呻きを発する。
箒はレイザーブレイドの角度をずらして鈴の双天牙月を受け流すと、目にも留まらぬ速度で連撃を放った。
常人であれば一撃で身体が消し飛ぶであろう剣劇、幾度も鈴に叩き込む。
だが鈴はそれらの太刀筋を全て捉え、的確に受け止めてきた。
「―――たあッ!」
鈴が連撃攻撃の隙を突き、双天牙月を滑らせるようにして突きを放ってくる。
「く…………っ」
しかし、箒にはその攻撃が見えた。
そして、受け止めることができた。
打ち払い、斬り上げ、突き、薙ぎ、受け止め、振り下ろす。
嵐の如き剣撃が、双方向から吹き荒れる。
(どうして……こいつらはこんなにも強いのだ)
箒は〈クラレント〉を握る力を強めた。
実力は、ほぼ互角。
箒はもう、あの時みたいに惨めな頃の箒ではなかった。
「っ!!」
だがそこで、箒を強烈な頭痛が襲った。
一瞬、鈴の攻撃を捌ききれず、頭部に斬撃を貰っのたかと思ったが―――違う。
これは、明らかに内部からの痛みだった。
次の瞬間、意識が点滅するように途切れ、視界が赤く染まっていく。
「しま……」
「隙ありッ!」
そんな隙を、セシリア、鈴、ラウラ、シャルロット、束が見逃すはずはなかった。
がら空になった胴に、双天牙月が横薙ぎに叩きつけられた。
一夏の〈破軍歌姫〉によって強化された『甲龍』の一撃を、箒の身体を風に弄ばれる木の葉のように軽々と、一直線に後方へと吹き飛ばした。
その勢いのまま海の上を跳ね飛び、もはや箒の姿させ見えないくらいの距離に達していた。
だが、それでも箒は立ち上がる。
「はぁ……はぁ……」
随意領域を固めていたため辛うじて致命傷は避けられたが、全身のダメージは深刻だった。
打撲に、裂傷……出血も酷い。
通行人に目撃されたならば、問答無用で救急車を呼ばれてしまう有様である。
「私、は……」
とうに活動限界が来ており、戦うことは無理だった。
それでも箒は剣を構え、無謀な一撃を放った。
◇
箒の一撃は届くことはなかった。
「な……」
そいつはとっさに鈴と箒の間に割り入り、箒の手首を押さえたのだ。
「もう……終わりにしようぜ。 箒」
間に入って来たのは……一夏と簪だった。
一夏はISなど纏わず、箒のレイザーブレイドを避け、止めた。
一歩間違えれば死んだかもしれない一撃を一夏は止めたのだ。
「箒……俺たちはいつまでも子供ままではいられない。 だから……」
「なんでだ……」
「お前の気持ちはよく分かった……。 けど、それだけじゃダメなんだ」
一夏は優しく箒を抱き込んだ。
「俺たちはいつかは大人になるんだ。 だから、俺は進む。 それが箒が望んだことじゃなくても、俺は行く。 その先に」
「っ……」
「今すぐになれとは言わない。 だけど、いつかは来ることなんだよ……箒」
〈クラレント〉が箒の元から離れ、光の粒子と変わった。
「うう……うわぁぁぁ」
気が抜けたのか、箒が纏っていたISが解除された。
「たく……美味しいところは持っていかないでよ、一夏」
「まったくですわ」
「嫁としては失格だが……」
「まあまあ、今回だけと言うことでいいじゃない」
「そうだね」
鈴、セシリア、ラウラ、シャルロット、束はそんな中を見守っていた。
「とりあえず、これでやっと終わりね」
鈴が終わりを宣言するが、これで終わるはずもなかった。
「篠ノ之箒さんは中々いい稼働データを残してくれましたからね」
突如、上空から聞こえた声に全員、目を向けた。
そこにいたのは箒とほとんど同じISを纏った女性がいた。
「アイクの思惑通りにことが進んだことは感謝しますよ。 皆さん」
そこにいたのはあのアイザックと共にいた女性だった。
「お前はあの時の」
「そう言えば名乗っていませんでしたね」
ノルディックブロンドの長髪が特徴な女性は俺たちがいる高度まで来ると名乗り始めた。
「DEM第二執行部部長。 エレン・ミラ・メイザースと申しますわ」
そこから放たれる存在感は異常だった。
相手は1人なのに複数の人間を相手しているような非常に危険な気だった。
「本来ならあなた達が持つ第四世代を頂きたい所ですが、今日はこれだけにしますわ」
エレンの手元にはドッグタグのような物があった。
「それは!」
それを見て叫んだのは箒だった。
「これは元々、我々の物なので返させてもらいますよ……篠ノ之箒さん」
動きたい所だが、なぜか動くことが出来なかった。
「随意領域を張られている……」
どうやら、束さんも同じだったようだ。
「では、また何処かでお会いするでしょう……〈プリンセス〉」
するとエレンの周囲の空気がぐわん、と揺れた。
周囲に張っていた随意領域を凝縮したのだ。
そして、そのままスラスターを駆動させ、恐ろしいスピードで空の彼方へと旅去った。
「…………」
もし、この場で戦っていたら、俺たちは生きていなかったと思っていた。
結果として、アイザックに救われたのだ。
「とりあえず、戻るか」
福音事件と同じくして篠ノ之箒の暴走を沈め、俺たちは旅館を目指した。