今日もやきもき朱鳶ネキ   作:オパール

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朱鳶ネキ復刻はよとは思っていたけど思ったより早い復刻なので初投稿です。雅とアスイヴ回しすぎたわ
身長175cmってのが美しい。ガブリアスの種族値みたいで

※注意事項※
・アキ朱がお付き合いしてる世界線
・猥談してます
・終盤書いてる途中で話の流れや展開が前回書いたのとほとんど同じなことに気づいたけど直すには文字数多すぎたからそのまま突っ切っちゃった
・い つ も の
・オニイチャンユルシテ


お付き合いしたは良いけど互いの立場と婚前交渉はしない主義が祟ってめちゃエロドスケベお兄ちゃんに毎日ムラつかされる羽目になった朱鳶さんの話

「すみません、もう閉店で……ああ、いらっしゃい朱鳶さん。お疲れ様」

「………」

「……朱鳶さん? いったいどうし」

 

 ハグッ

 

「スゥゥゥゥゥゥゥ……………」

「(珍しくかなり疲れてるな)……いつもお疲れ様、朱鳶さん。何か温かいものでも飲むかい?」

「……ありがとう。後でいただきます。今はしばらく、このままで」

「わかった」

 

 

 

「……すみませんアキラくん」

「うん?」

「少し前まではこんなこと無かったのに。疲れていようと何があろうと、こんな、誰かに不必要に寄りかかるなんて」

「僕はそうは思わないな。むしろ、こういう小さな、些細なことでも、朱鳶さんが甘えてくれるようになったことが、僕は嬉しい」

「アキラ、くん……」

「……僕からも抱きしめても?」

「……お願いします」

 

(ああ、この人は本当に───)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつか絶対ブチ犯す」

「朱鳶さん?」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 治安局において、少し前からある噂が流れている。

 

「朱鳶特務班長に恋人が出来た」

 

 相手は誰だ、どこの男あるいは女か、そもそもそれは事実なのか。

 ある者が抱いた疑念は世間話から噂として広まり、今や治安局員たちの間で話の種となっている。

 中には特務捜査班の隊員、果ては当人に直接尋ねる蛮勇の者もいたが、問われた者はみな一様にはぐらかすか沈黙を貫き、唯一渦中の朱鳶だけはそれとなく否定していた。

 治安局でも特に実力と人気を兼ね備えるエリート治安官の色恋沙汰ともなれば、食いつかない者もそういない。

 

 結論から言えばそれは事実なのだが。

 

「リンちゃん」

「うん」

「リンちゃんも知っての通り、私はアキラくん……あなたのお兄さんと、正式に恋人としてお付き合いをさせていただいています」

「うん」

「ですが、私は治安官。彼はプロキシ。共に裏社会を知っている身である以上、関係をあまり大っぴらにしては互いが互いの弱点になりかねません」

「うん」

「なので彼と話し合った末、私たちの関係は周りには隠しておこう、ということになったのですが」

「うん」

「……もしかしなくても、バレているのでは、と」

 

「だいぶ前からバレてるよ」

「えっ」

「バレてないと思ってるの、朱鳶さんだけだよ」

「えっ」

 

 この事実は朱鳶にとってショックであった。

 治安局内だけとはいえ、噂になっている辺り勘繰られているな、くらいにしか思っていなかった。何せ特務班の同僚たちにすら話していないのだから。

 

「ちょっと待ってください」

 

 そこでふと思い出す。

 自分たちが今いるこのビデオ屋、そこに足繁く通う美女や美少女たちのアキラへの態度や言動を。

 

 

 

『プロ……アキラ先生。ニコがお給料代わりにと映画のチケットとハンバーガーの割引券をくれたわ。割引券は邪兎屋のみんなと使うけれど、映画は先生と行きたい』

『アキラ。次の週末空いてる? また釣りしてるとこ見せてよ。……あたし? 見てるだけだけど』

『仕事はどうした、と? 無粋だアキラ。私は今『私のプロキシと友誼を深める』修行をしている。時間はあるな? では行くぞ』

『アキラ! "また"あなたを借りに来たわ!』

『ハァ……ハァ…… あぁ、今日もパエトーン様が尊い……いつでも遊びに来てと仰っていましたけど……ダメ……一度体験してしまってからだと、あの幸せ空間に飛び込むには覚悟と勇気が必要すぎる……えっこっち見た!? あぁ、もっと見て! 視線をこっちに! いやダメやっぱり見ないでわたしの眼が焼かれてしまうのです……! あ"っ ウィンクした!? お顔が良すぎるしファンサもすごいぃ……好きぃ一生推しましゅ……

 

 

 

「じゃあなんですか。彼女たちは私とアキラくんが恋人関係だと知った上で彼にコナをかけているということですか」

「略奪愛は新エリー都でも犯罪じゃあないからね」

 

 なんということでしょう。

 胸中でごちる朱鳶。しかしある意味で自分が蒔いた種でもある。

 恋人がいようが奪えば良し、いないと言い張るなら自分に振り向かせれば良し、というのが恐らく彼女らの行動原理だろうことは明白。

 倫理や道徳的にどうなんだと言われればそれまでだが、そもそもホロウの中でドンパチして五体満足で帰ってくる人たち。その辺の意識も常人とは些か異なるのだろう。

 

「うぅ…」

「元気出してよ。少なくとも私とイアスたちは朱鳶さんの味方だから」

「リンちゃん……」

「自信持って。あれでもお兄ちゃん結構一途だから。恋人がいる内は他の人に靡いたりしないよ。信じてあげて、お義姉ちゃん♪」

「ん゛ッ」

「……あはは。まだ慣れない?」

「す、すみません……」

 

 アキラと交際を始め、それを伝えたその日から、リンはからかい交じりに自分を義姉と呼ぶ。

 それが、自分とアキラは本当に恋仲なのだと改めて認識させられるようで、呼ばれる度に喉の奥から今のような変な声が出てしまう。

 だが嫌な気はまったくしない。むしろリンにとってただ一人の兄の心を射止めた女に、変わらず親しくしてくれていることは朱鳶にとっても嬉しいことだった。

 

「っと、私はそろそろお暇しますね」

「あ、お昼休憩も終わりだね。それじゃあまたね」

 

 リンと別れの挨拶を交わして外へ出る。

 よく晴れた昼下がりの六分街の通りには、多くはなくともそれなりの人々の営みがある。

 自分と同じように昼休み終わりに職場、もしくは学校へ戻る途中の社会人や学生たち。

 耳に心地よい音楽が漏れ出ているCDショップ、中から何か修理中と思しき音が響くジャンクショップ、威勢の良い店主が作るラーメン屋、昼時とあって客入りが少ないのか店先で店員が欠伸を噛み殺しているゲームセンター、3匹のボンプが声を張って客引きをしている雑貨店、休日なのだろう、若者のグループがクレーンゲームで躍起になっているホビーショップ。

 ホロウ災害などとは無縁であろう、街で当たり前に暮らす人々の姿を見ながら、自分はこういう生活を守るために治安官として過ごしているのだと身が引き締まる思いになる。

 

 そうして駅の前に差し掛かった所で、地下鉄駅の階段を上がってきた一人の男性の姿が目に止まった。

 

「こんにちは、アキラくん」

「こんにちは、朱鳶さん」

 

 こちらを見つけた男性───恋人であるアキラが、優しい笑みを浮かべていた。

 

「今から帰りかい?」

「ええ。先ほどまであなた達の家でリンちゃんと話をしていました。次の電車で局に戻ります」

「そうか。もう少し早く帰っていれば昼食も一緒に摂れたかもしれないけど……」

「気にしないでください。元々六分街に来る前に済ませていたので。アキラくんも今帰りですか?」

「ああ。ちょっとした依頼でバレエツインズまでね。これからリンへのお土産でも買って行こうかと」

「なるほど。では、私はこれで」

「うん。じゃあまた、朱鳶さん」

 

 軽い挨拶とちょっとした世間話。

 他人からすれば治安官が知人と話しているだけの何てことない光景。

 恋人同士にしては味気ないものだが、これも二人が話し合って決めたことだ。誰が見てるかもわからない街中、恋慕丸出しで逢瀬を重ねては『周りには隠す』という取り決めが無意味になる(隠せているとは言っていない)。

 

 それでも、この二人にとってはこれが日常。これくらい近すぎず遠すぎない距離での会話が一番気楽に過ごせることでもある。

 ならそんな気安い関係でいいところを、何故わざわざ恋仲に? という疑問への答えはこれだ。

 

 好きになったから。

 

 至極単純。

 恋愛なんぞそんなもんで良いのである。

 

 

 

(───アキラくん)

 

 治安局へ戻る道中、これからの仕事への考えを巡らせると同時に、朱鳶は恋人へ想いを馳せる。

 

 

 

(アキラくん)

 

 彼の瞳が好きだ。いつも自分を、誰かを優しく見つめ、時に少年のように輝いているのが好きだ。

 

 彼の声が好きだ。穏やかな日差しのような、暖かい響きで心を落ち着けてくれるその声が好きだ。

 

 彼の手が好きだ。男性にしてはやや細く、けれど何かを掴まんとする強さを感じるその手が好きだ。

 

 

 

(アキラくん)

 

 ───ああ。

 自分はもうどうしようもないほどに、アキラという男に惹かれ、どうにもならないほど焦がれてしまっている。

 彼を想うことに後悔などない。

 あるとすればそれはきっと───いつの日か、今度は治安官(朱鳶)プロキシ(アキラ)を裏切らざるを得なくなってしまった時だろう。

 

 

 

 治安局に着き、ゲートを抜け、局員たちに挨拶と敬礼を交わしながら特務班に宛がわれているオフィスに入る。

 敬礼で迎えてくる班員たちに応え、休憩は終わりと声をかけて自分のデスクに着く。

 

 息を一つ。早速とばかりに班員の一人が手渡してきた書類を受け取り、今一度気持ちを切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(えっちすぎる)

 

 

 

 

 

 気持ちを切り替えたとは何だったのか。

 この痴安官(誤字に非ず)仕事モードの頭の片隅で恋人への劣情が全開になっているのである。

 

 朱鳶の名誉のために言っておかねばならないが、彼女は決して好色家や性狂いなどではない。

 むしろ身持ちはかなり堅い。武家出身の友人の影響もあるのかやや古風な貞操観念の持ち主であり、性的なことに関するものは避けているほどだ。

(自分が性的な身体してるのに? と思ったそこの素敵なご友人、貴方は正しいのでご安心ください)

 

 交際するに辺り、朱鳶はアキラともう一つある約束を交わしていた。

 

『正式に籍を入れるまで()()()()()()はしない』

 

 このご時世、とりわけ郊外ほどではなくとも結構奔放にしている者の多い新エリー都では極めて珍しい、カビの生えたような価値観だが、当の朱鳶は至って真面目である。

 苦笑しながらもちゃんと約束してくれたアキラに気を良くしていた朱鳶だが、言い出しっぺの当人がこの有り様である。

 朱鳶が自分の性欲の強さを自覚していなかった、する機会が無かったというのもあるが。恋心由来の何かしらのフィルターもかかっているのだろうが。

 

 それらを差し引いても、良い歳して性という概念も知らぬ生娘みたいに()()()()朱鳶にとって、アキラという男は非常に魅力的、或いは劇物。

 身も蓋もない言い方をしてしまえば

このお兄ちゃんスケベすぎるというやつだ。

 

(ちょっと腹立たしいまであるのよね)

 

 何なんですか、あの若さの割に世間擦れしたかのような枯れた雰囲気は。

 何なんですか、あのこちらを射貫くように向けられる眼から漂うどうしようもないエロスは。

 何なんですか、あの食事中に唇についたソースやクリームを舐め取る時の男性らしからぬ妖しい色気と艶かしさは。

 

 付き合い始めてからというもの、意識してしまうことが増え、同時にそういう風に見てしまうことも増えた。

 自分からエロ(直球)は禁制と言っておきながら目も当てられないこの現状。頭ではダメだとわかっていても生理的な欲求ばかりはどうしようもない。

 

 結果、無自覚スケベな彼氏に毎日ムラつかされて、しかしそれを発散することも出来ないエリート治安官が爆誕することとなった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「わかるよ」

「リンちゃん……」

「お兄ちゃんえっちだもんね」

「リンちゃん?」

 

 もう何度目になるだろうか。

 六分街のビデオ屋、Random Playの一室にて、アキラの妹であるリンへ相談をしている朱鳶。

 義妹だとか治安官とプロキシ云々を抜きにしても、そもそもリンは良き友人の一人。唯一あれこれを話せる相手でもあるため、申し訳なく思いつつも甘えっぱなしだった。

 

「それにしても、身内のこういった話は抵抗ある人も多いと思っていたのですが。リンちゃんは嫌な顔ひとつしませんよね」

「まぁね。最初こそ複雑だったけど……お兄ちゃんのことで色々悩んで相談してくる朱鳶さん見てたら気にならなくなっちゃった。可愛いんだもん」

「かわっ……またそういうことを」

「あははっ。……それにね」

「?」

 

 

 

「私がこれまで何人お兄ちゃんをえっちな目で見てワンチャン狙ってる人の相手してきたと思う?」

 

 

 

「……すみません」

 

 普段のくりくりとした愛らしい瞳から光が消えているのを見て、悪いことしてないけど何か謝るしかなかった。

 

「でも実際のところどうなの? それだけ普段からお兄ちゃんにムラムラしてるならいっそ正直に言っちゃえばいいのに」

「ナニをどう言えと!? ……こほんっ。いえ、不純異性交遊は治安官的にNGなので。そもそも身から出た錆ですし」

「ちゃんとお互い、本心から両想いなんだから不純ではなくない?」

「それはっ………………そうかもしれませんが」

「というかさ。どうしてエッチなのは駄目ってことになったの? お兄ちゃんその辺り話してくれないから気になってて」

「妹にそういう話をするなら私はまずアキラくんの人間性を疑います……」

 

 ズバズバ斬り込んでくる義妹(予定)にため息を吐きながら答える。

 恋仲になったからにはお互いの弱みになるようなことは避けよう、と決めたはいいが、それはそれでなんか妙な悩みを抱える羽目になった以上は変に隠すわけにもいかない。

 

「……なるほどねぇ」

「……変、でしょうか?」

 

「自分で()()こともないなんて朱鳶さんらしいね」

「雅と同じことを言わないでください……!」

 

 まず気になるのはそこなのか、と食ってかかる。

 過去に同じ話をした友人の武家狐も「お前らしいな」とにこやかにしていたのを思い出してちょっと腹が立った。

 

「……ちょっと意外。雅さんと朱鳶さんもそういう話するんだ」

「いえ、まぁ。彼女とも長い付き合いですし、したと言っても学生の頃で……当時は、そういうのに興味が無いこともなかったですし」

「朱鳶さんむっつりだ!」

「リンちゃん」

「ごめん」

 

 閑話休題(まぁそれはそれとして)

 

「まぁ。その……自分でも、少し古い考えだとは思っているんです。今時「結婚するまでそういうのは無し」だなんて……」

(結婚するのはもう決まりみたいに話してるのちょっと面白いかも)

「リンちゃん」

「ごめん。……まぁ、考え方は人それぞれだし。お兄ちゃんと朱鳶さんがそれでいいなら、私含め誰かがとやかく言う筋合いは無いと思うけど……」

「はい……ですが、その」

「でもそれが原因で欲求不満になっちゃってるんじゃ本末転倒だよね」

「わかっています……!」

 

 顔を覆う。

 

「でも、本当にどうすればいいのかわからなくて。もう彼の姿を見るだけでいやらしい考えが浮かんでしまって、顔に出さないようにするだけで精一杯なんです。私一人が我慢していれば済むのかもしれませんが……」

「実際出来てるかは怪しいもんね。お兄ちゃんに言えないならやっぱり一人で発散するしか無いと思うよ?」

「うぅ……」

 

 どう考えてもやはりその結論に至る。

 朱鳶自身その方法は考えなかったわけでもない。だが自分のその姿を想像したら、やけに虚しくなってしまった。それ以降は頭から消していた。

 

 それにそもそも

 

「……情けないことですが、なんというかその……少し、怖くて」

「情けなくないよ。実際にそういう人もちょこちょこいるらしいから」

 

 しかしそうなっては、いよいよ解決法は約束を無かったことにして一発シケこむしかないわけで。

 

「男性の性欲、というものについてはあまり理解が及んでいませんが……アキラくんも健全な若者である以上、切っても切れないものだと思うんです。……万が一、何処かの誰かに誘惑されて一夜の過ちなんてことになってしまったら、私はどうすれば……!」

「お兄ちゃんが浮気なんて万に一つも無いだろうけど……厳しいこと言うけどさ、もし本当にそうなったとしても朱鳶さんだけは責める資格無いと思う。わかってて我慢させちゃってるわけだし、三大欲求なんだからどうしようもないもん。見た目やスタイルで相手を選ぶようなお兄ちゃんじゃないけど、それでも好みっていうのはあるし」

「そう、ですよね……」

「……まっ。覚悟決めてお兄ちゃんとスるっていうのは最後の手段ってことで。私ももう少し色々考えてみるよ」

「すみません……いえ、ありがとうございます。リンちゃん」

「どういたしまして。そうだ、ついでだし普段どんなデートしてるのかも知りたいなぁ~」

「へ!?」

「よいではないかよいではないか~。付き合う前からもう色々出かけてたんだし、ちょっとは違う所に行ったりもしてるんじゃないの~?」

「そ、そんなこと言われても……ん?」

「? どうかした?」

「……あの、リンちゃん。もしかして」

「うん」

 

 

 

「私たちって、恋人になる前からデートしてたんですか!?」

「うっわこのお義姉ちゃん可愛いがすぎる」

 

 

 

 義姉(予定)のあまりの初心っぷりに思わず抱き付こうとしたリンにエリー都カラテが叩き込まれるまであと2秒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なーんて)

 

 夜も更けた時間。

 帰宅する朱鳶を見送った後、店の軒先でリンは一人(痛む腰を擦りながら)ネコシリオンめいた「にゅふっ」とした笑みを浮かべていた。

「考えてみる」などと言ったがあれは嘘だ。考えなどとっくの昔に決まっている。

 兄の恋人からの相談。無碍になどしたくはないが、見方を変えればただヘタレているだけの義姉にちょっと辟易しているのも事実。

 このまま遅々として進みそうにない関係と欲求不満でまごつかれるのも癪というもの、あの新エリー都でもトップクラスに刑事(デカ)(ケツ)を引っ叩いて進ませてやるのも義妹の役目だろう。

 

「ちゃんと話聞いてたよね、お兄ちゃん?」

 

 店の扉を開いて開口一番、出入口近くにいたアキラへ問う。

 困ったような呆れたような、何とも言えない表情を浮かべている兄はおずおずと口を開いた。

 

「……朱鳶さんが来るからこっそり話を聞いててほしいと言うから何かと思えば……あんな内容を聞かせて、僕にどうしろと言うんだい?」

「お兄ちゃんだって色々我慢してるんでしょ? 良いじゃない、朱鳶さんもすっごいシたいって思ってるんだし」

「うーん……だからといって、僕らの間で交わした約束を反故にする理由にはならないだろう」

「それでギクシャクしたり別れたりしちゃったら私が嫌なの。せっかく家族が増えそうなのに」

「………」

「……なんて。そうは言っても、二人で決めたことだから結局はお兄ちゃんたち次第だけどさ。これまで二人の相談に付き合ってあげてきた私の気持ちも汲んでみてよね」

 

 それだけ言って欠伸を溢しながら、リンは自室へと戻っていった。

 一人残されたアキラも同じくため息ひとつ。「ンナナ?」と心配そうに寄り添ってきた18号に大丈夫、と告げながら頭を撫でてやると、上機嫌そうに奥の部屋に引っ込んでいった。

 

「………」

 

 当然と言うべきだろう、欲求不満なのが朱鳶だけなはずがなかった。

 陰で枯れてるだの何だの言われてるのはアキラ自身も知っているが、別にそういった欲が無いと公言した覚えはない。

 まして相手は顔良しスタイル良し器量良し、真面目で優秀、にも関わらず茶目っ気やユーモアも兼ね備えた才女。道行く男どころか女の目をも釘付けにするエリート治安官だ。

 正直自分では釣り合わないのでは、というのは何度も考えたし、本来ならプロキシと治安官など敵対するのが当たり前の関係。

 にも関わらず、アキラと朱鳶は互いに心から惹かれ合い、その気持ちを通わせるまでに至っている。

 恋と愛に理屈はいらない。多かれ少なかれ障害はあるだろうが、共に乗り越えていこうと誓った決意は何があっても忘れるつもりは無い。

 

 まぁ目下一番の障害は【性欲】という生物である以上絶対に切り離せないモノに二人して悶々とさせられている現状なのだが。

 

「……はぁ」

 

 諦めたような、或いは何かを決めたようにもう一度息を吐く。

 スマホを手に取り、ある人に向けてノックノックのメッセージを飛ばすのだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『夜遅くにすまない、直接会って大事な話がしたいんだ。いつでも構わないから、都合の良い日時を教えてほしい』

 

(終わった)

 

 Random Playからの帰宅後、就寝前にノックノックに届いていた、アキラからのDMを確認した朱鳶の感想がそれだった。

 別れ話だろうか。当然と言えば当然だ。

 付き合い始めてそれなりに経つ。デートは幾度かこなしたが結局それまで。自分が原因とはいえ、性交渉どころかキスすらしていない男女がよくここまで関係を保てたものだと顔を覆いながら他人事のように胸中でごちる。

 別れたくなどない。ないが、リンに言われたことが頭の中で繰り返し流れ続けている。

 

「浮気されても自業自得」

 

 まったくもってその通りだ。

 言ってしまえば、ただの我儘に付き合わせてしまった。主義主張は個人の自由、だがそれを他人に強要することがどれだけ愚かで独善的か知らぬ訳もないというのに。

 

「………」

 

 まだそうと決まったわけでもないが、最悪の展開ばかり想像してしまって、眼が滲む。アキラを好きな気持ちは変わらない。恐らくこれからも。

 だがもし彼が自分と離れることを望むのなら、それを拒む権利は自分には無いだろう。

 震える指先でスケジュールを確認。近日中に空欄のマスが一つ。休日であるそこを指定しようとしたが、もし本当に別れ話だったとしたら、その休日を空虚な気持ちで過ごした挙げ句、翌日になっても立ち直れる気がしない。

 なのでその前日、仕事終わりの時間をDMで返信。すぐさま『了解。じゃあその日に。おやすみ、朱鳶さん』という返事が返ってきた。

 

「……おやすみなさい、アキラくん」

 

 画面が暗くなったスマホに額を当てて呟く。

 ベッドに横になり大きく息を吐くと、頭の中で色々な考えが、胸の奥で色々な感情がぐるぐると渦巻いている。

 

「───」

 

 そんな状態でも睡魔は訪れる。

 身に付いた習慣を今だけは恨めしく思いながら瞼を閉じて、そのまま朱鳶の意識はゆっくり眠りに落ちていった───

 

 

 

 

 

 

 

 啓示の日(約束当日)

 朝からやや陰鬱な気分を抱えるも、誰にも気取られず普段通りの顔と態度でその日の仕事を終わらせた朱鳶は足早にRandom Playに向かう。

 店の前まで来ると、真っ白いボンプを撫で回している一人の見知った女性の姿があった。

 

「リンちゃん」

「あ、朱鳶さん。お疲れ様。お兄ちゃんなら中で待ってるよ」

「ええ、ありがとうございます。……お店、もう閉めたんですか?」

「うん。だって二人で込み入った話するんでしょ? なら他に人がいたんじゃ集中できないと思って。それに、今日はあまりお客さんも来なくて暇だったから閉めちゃった」

「そう、ですか。何だか気を遣わせてしまったみたいで……」

「気にしないでいいって。私はしばらくこの辺で時間潰してるからさ。1ディニーボンプ、行こっ」

「ンナッ♪」

 

 1ディニーボンプと呼ばれた、真っ白ボンプを伴ってリンは鼻歌を歌いながら立ち去っていく。

 

「………よしっ」

 

 深呼吸。

 何を言われても、泣き言など漏らさないようにと覚悟を───決められるはずがなく。不安でいっぱいいっぱいなのをどうにか隠しながら、ゆっくりと店のドアノブに手をかけて。

 

 

 

「───失礼します」

「いらっしゃい、朱鳶さん」

 

 

 

 カウンター横から、マグカップを二つ手にしたアキラがいつも通りの微笑みで迎えてくれた。

 

「時間通りだね。流石だ」

「いえ、そんな……」

「……お店は閉めてるから。話をするならどこでも大丈夫だけれど……ここでいいかい?」

「……いえ。出来れば、アキラくんの部屋で」

「わかった」

 

 アキラの案内を受け階段を上る。

 先を進む彼の背中を見ながら、胸中の不安が大きくなっているのを感じ、何か声を出そうとしても喉元でつっかえるようで、口を開いては閉じるという動作を繰り返すだけだった。

 

「どうぞ」

「……はい」

 

 促されるまま彼の私室に入り、そのままソファへ腰を下ろす。差し出されたマグカップを受け取り礼を言って、カカオの甘い香りが漂うホットココアに口をつけた。

 

「……それで、アキラくん。大事な話というのは」

「……うん」

 

 こちらからの質問に、別のソファに腰かけるアキラは曖昧な返事だけを返してそのまま無言となった。

 横目で様子を窺えば、その視線は室内のあちらこちらを行き来するだけで、朱鳶には一切向けられない。何かを迷っているような雰囲気は感じられるが、それが尚更不安を煽ってくる。

 

 どちらも言葉は発さず、時計の秒針と飲み物を啜る音が響く時間だけが過ぎる内、意を決したように一人が口を開いた。

 

「朱鳶さん」

「っ、は、はいっ」

 

 マグカップをテーブルに置き、先ほどまでと打って変わって、まっすぐ朱鳶を見つめるアキラ。

 それに倣い、朱鳶もカップから手を離してその視線をまっすぐに見つめ返す。

 

「……なんというか、その」

「………」

 

 朱鳶はただ言葉を待つ。

 未だ消えない不安をどうにか隠しつつ、固唾を飲んでアキラの次の言葉を待っていた。

 

 そして

 

 

 

「何か……我慢したり、不満に思ってることがあるんじゃないのかい?」

 

 

 

「…………………………………え?」

「いや、その……思い返してみたら、僕らは付き合い始めてから、そういう話をしたことは無かっただろう? だから、こういう場と機会は必要だろうと……」

「……別れ話では、ない?」

「……どうしてそう思ったのか訊きたいところだけど、少なくとも僕にそんなつもりは無いよ」

 

 苦笑と共に告げられたその言葉を頭の中で反芻させ、そのまま繰り返して事態を理解し。

 

「……はぁぁぁ……!」

 

 背もたれに思い切り身体を預けて、大きく安堵の息を漏らすことになった。

 

「……大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫です……よかった、もし別れようなんて言われたらどうしようかと」

「心外だな……いや、あんな言い方をされたら僕でもその可能性を考えてしまうかも。すまない、言葉が足りなかった」

「……私が勝手に勘違いをしていただけですから。それで、その……私が何か不満を持っていないかを訊くために?」

「ああ。何でもいい。思っているところや直してほしいところがあれば、遠慮なく言ってほしいんだ。内容によってはすぐには無理かもしれないけれど……必ず直すよ」

 

 本心からの言葉なのだろう。それはわかる。

 が、それに答える前に一つ、気になったことがあるので訊ねることにした。

 

「その前に、先に一つだけいいですか?」

「うん?」

「リンちゃんから何か聞いてますか?」

「………」

 

 一瞬だけ顔と身体が強ばる。質問の答えにはそれだけで十分だった。

 

「……リンちゃん」

「いや、その……」

「いいんです、怒っているわけではないので。そもそもここまで拗れさせてしまった私のせいですから」

 

 何度も相談を持ち込んで、何度も困らせたり呆れさせてきた手前、リンが責められる謂われは無いだろう。

 何か改めてお詫びをしよう、決めて、再度アキラへと向き直った。

 

「それで、質問の答えですが」

「うん」

「………」

「朱鳶さん?」

「………アキラくんは」

「僕が?」

 

 

 

「アキラくんはいやらしすぎます……!」

 

 

 

「………………うん?」

「あ、アキラくんにそんなつもりが無いのはわかっています。ですが、何というか私には、あなたの一挙一動がその……とてもいやらしいものに見えてしまって……!」

「……それは」

「わかっています、わかってるんです。私がただそういう風に思ってしまっているだけだと。けれどどうしても……!」

「……あー、うん。何というか……すまない?」

「謝るべきは私なのでは……」

「でも、そうか……ふふっ。少し意外だな。そう思うってことは、朱鳶さんは僕に「そういう欲求」を抱いているってことだね」

「~~~~ッ、アキラくん!」

「はははっ、すまない」

 

 何度となく向けられた意地の悪い笑みとからかいの言葉に耳まで赤くなる朱鳶。

 くつくつと笑うアキラの様子を見ている内、気付けばもう暗い気持ちはどこかへ消えてしまっていた。

 

「やっぱりアキラくんは意地悪です……ああ、直してほしいところが今一つ増えました」

「おっと、ならこれ以上はやめておこうか。……うん、何というか、嬉しいものなんだね。好きな人からそう思ってもらえるのは」

 

 言いながら、アキラは朱鳶の隣に席を移す。

 隣合ってはいないが、互いに手を伸ばせば触れられる程度の距離。一気に近くなった恋人の存在が、朱鳶の胸を否が応にも高鳴らせた。

 

「あ、アキラくん……?」

「少し、確かめてみようか。性的なことはしないという約束、それが朱鳶さんを困らせてしまっている。もちろん僕も約束は守るつもりだけれど……そういうのを抜きにして、僕らの触れ合いはどのくらいまでならセーフなのか、線引きをしておく必要があると思わないかい?」

「な、なるほど……?」

 

 こちらはあなたにムラつかされてるのに発散しようがない、というのが問題なのだが、恋仲になってから初めての至近距離にそのツッコミが出来なくなるほどに朱鳶の頭は茹だっていた。

 

 そして無論、このクソボケた提案はアキラの首を締めることになるのだが、当のお兄ちゃんは終ぞ気付かなかった。

 

「はい」

「?」

 

 差し出されるアキラの手のひら。朱鳶は何の疑いもなくそこに自分の手を重ねると、それが優しく握られた。

 

「これくらいは平気かい?」

「は、はい……」

「……言い遅れたけど、この状況と雰囲気で投げるのは勘弁してほしいな」

「わ、わかっていますっ」

「よかった。じゃあ次は」

 

 優しく繋がれた二人の手、アキラは握ったままの手を動かし、朱鳶の指を自分のそれで絡め取るように握る。

 

「ひっ……」

「恋人繋ぎ、ってやつだね。これはどうかな?」

「だっ、大丈夫、ですっ」

「……大丈夫に見えないけれど」

「な、慣れていないだけです……こんな、こんな手の繋ぎ方なんて……!」

「まぁ、人前では到底できないね。とりあえず大丈夫ということにしておいて……それじゃあ」

 

 言い終わるや否や、アキラは繋がれた手を一度離し、そのまま朱鳶の手を自分の方へ引き寄せる。

 その手のひらを自分の頬に当て、その上から手で覆うように重ねた。

 

「ひゃ、あ……!」

「……これはさすがにアウトかな?」

「………」

「朱鳶さん、やっぱり」

「ち、ちが、違うんですっ」

「うん?」

「こ、こんな……私、こんなのはじめてで……こ、恋人と……好きな人とこうして触れ合うのが、こんなに恥ずかしくて、でも嬉しくて……いま、すごく幸せな気持ちになってて……頭が、どうにかなってしまいそうで……!」

「……そうか。ということは、ここがラインかな」

 

 言って、アキラはその手を朱鳶の頬に添える。

 心臓が飛び出るのでは、と錯覚するほど高鳴る鼓動。茹だった頭は、朱鳶からまともな思考を奪いつつあった。

 

「あ、きらく、ん……」

「……朱鳶さん。僕からも一つだけ」

 

 真剣な眼差しに、少しだけ朱鳶の頭が冷える。

 

 が、直後かけられた次の言葉が、生真面目な治安官の理性にトドメを刺すことになる。

 

 

 

「朱鳶さんは、僕をいやらしいとか言って、色々と我慢しているようだけれど」

 

「その逆を考えたことはあるかい?」

 

「恋人ともう少し進展したいと、僕が考えなかったとでも思っていたのかい?」

 

「……もし、僕が『そういうこと』をしたいと言ってしまったら、朱鳶さんは応えてくれるってことでいいのかな?」

 

 

 

「────」

 

 

 

 初めて見る頬を染めたアキラ。

 顔を少しだけ伏せていることでやや上目遣いに見つめられる朱鳶。

 言いながら添えられたままの手のひらに頬擦りまでしてくるその姿。

 

 

 

(ブチッ)

 

 

 

 なけなしの理性を叩っ斬るには十分すぎた。

 

(わたし、なにをがまんしてたんでしょう)

 

 ただでさえ普段からギリギリで、そこにここまでのあれこれで色々と限界が近かったというのに、この男はこんなことまでしてくる。

 

 どうなるかは語るまでもないだろう。

 腹を空かせた獣の前に、獲物が無防備な姿を晒したらどうなるかなど火を見るより明らかだ。

 

「だめです」

「だめかぁ……まぁ仕方がない。僕だって朱鳶さんに無理をさせたくは」

「いまのは、だめです」

「? 朱鳶さ──」

 

 アキラの呼びかけは最後まで続かなかった。

 男の頬を両の手で逃がさぬよう包み、事態を呑み込めていない憐れな獲物の唇は、捕食者の牙の餌食となった。

 

「………………え?」

「……あぁ。これがキス、ですか」

「あの」

「……もういちど、いいですよね?」

「まっ」

「いいえ、なんどでも、なんどでも、これからずっと、なんかいしたって、いいですよね?」

「ちょ……!」

 

 もうアキラは言葉を紡げない。

 何か言おうとする度に、熱烈な口撃で塞がれて。

 呼吸も疎かになる内、気付けばアキラは自身のベッドに仰向けに転がされていた。

 

「フー……フー……!!!」

「し、朱鳶さん、一旦落ち着こう。僕らはこういうことはしないって」

「ええ、そうですね。ごめんなさい、やくそくひとつまもれないコイビトで」

「だったら……」

「でも」

「で、でも?」

 

 

 

「───アキラくんがわるいんですよ

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

【メッセージは 一件 です】

 

『もしもーし、お兄ちゃーん?』

 

『電話に出ないってことは、朱鳶さんとの『お話』は順調みたいだね。よかったよかった』

 

『あっ、私ね。ルーシーとパイパーが新エリー都に来ててね。チートピアで食事会するからって言われて、いま郊外に向かってるとこなの』

 

『今晩は向こうに泊まるから。帰りはたぶん明日の午後とかになると思う』

 

『戸締まりはちゃんとしてあるから、その辺は気にしないでちゃーんとお義姉ちゃんと『話し合って』おいてね』

 

『じゃっ、おやすみー♪』

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

(ヤってしまった……!!)

 

 

 

 すっかり日も高い翌日の新エリー都。

 Random Playの一室、そのベッドの上にて一糸まとわぬ姿の朱鳶はまたしても頭を抱えていた。

 すぐ隣で未だ寝息を立てているアキラの身体には、点々と赤い模様や引っ掻いたような傷痕が散見される。

 自分たちの身体をはじめ、室内に漂う異臭や乱れに乱れたベッドシーツ。ここでナニが起きたかなど考えるまでもないことだった。

 

「なんてことを……欲に負けてあんな……あ、あんなことを……!」

 

 赤くなったり青くなったりを繰り返す。

 理性はブッ飛んでいたが、その間にナニがどうなったかの記憶だけは一切の不足なく残っていた。

 

 それでも、後悔の気持ちだけは全く浮かばない。

 むしろ

 

(気持ち、よかった……)

 

 記憶と共に、その最中の感情も思い出す。

 恋人と。愛してやまない人と、身も心も深く結ばれるあの時間は、本当に幸せで気持ちよくて。

 世の中の恋人たちが享受しているモノの意味と理由を、ようやく心から理解できた。

 

「………」

 

 ころりと。

 アキラと向かい合う形でもう一度横になる。

 安らか……というには少しばかり疲労の色が見えるその寝顔にそっと手を添えると、そこから確かな温もりが伝わり、同時に胸の奥から暖かな想いが溢れてくる。

 

 今までより、この人への想いが強くなっている。

 昨日よりも、この人のことが好きになっている。

 

 まだ夢の中でも、聞こえていなくてもいい。この気持ちだけは、ちゃんと言葉にしておきたいから。

 

 

 

「───好きです。アキラくん」

 

 

 

 届いているのかいないのか。

 ほんの少しだけ身動ぎしたのが可愛らしくて、くすりと微笑んだまま、朱鳶は彼が目覚めるまでその顔を眺め続けていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ん……」

「おはようございます。アキラくん」

「しゅえん、さん……? ああ、そうか。確か昨夜は」

「身体は大丈夫ですか? すみません、色々と無理をさせてしまったようで」

「……いや、大丈夫さ。朱鳶さんこそ、どこか辛いところは無いかい?」

「ええ。鍛えてますから」

「そうか……なんというか、妙な気持ちだ。恥ずかしいような、こそばゆいような……なのに、嫌な感じはしなくて」

「私も同じです。嫌な感じはしない、むしろ嬉しくて。……ですが、その……すみません。結局、私からお願いした約束を私が破ってしまうなんて」

「朱鳶さんが謝ることなんて何も無いさ。一つ違っていれば、僕から手を出してしまってた可能性もあるんだから。……いや、そうなる前に投げられて終わりかな?」

「……否定はできませんね」

「とにかく。ちょっと強引ではあったかもしれないが、僕らはお互いに望んでしたことだから、どちらが悪いということは無いよ」

「……はい。ありがとうございます」

「うん。……それにしても」

「?」

「寝て起きても、意外と感覚っていうのは残るものなんだな。まだ……うん、色々と感じているよ」

「そういうところですよアキラくん」

「朱鳶さん? え、あの、どうして急に覆い被さってくるんだい?」

「すみませんアキラくん。どうやら私まだ足りていなかったようです。いえ、今のアキラくんでまた昂ってきたというか」

「一夜で変わりすぎじゃ? いや、待ってくれ朱鳶さん。もう朝で」

「ああ、ご心配なく。元々今日は私休みを取っているので。時間はたくさんあります」

「そういう意味じゃな……ちょ、すごい力だ!」

「フフッ……そう言いながらアキラくんもまだまだやる気十分じゃないですか」

「いやこれはなんというか……あっ、まっ、本当に待ってほしい朱鳶さん、せめて先にシャワーを……!」

「ええ。後で一緒に入りましょうね

「だから違……!」

 

 

 

 帰宅したリンが未だ止まぬ騒音を聞き、甥っ子もしくは姪っ子の名前を考え始めるまであと数時間。




リンちゃんにはつよつよになれてもお兄ちゃんには基本的に勝てなさそうな朱鳶ネキいいよね
餅合わせて無凸でいいからお迎えしたい
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