時間は正午を過ぎ、食堂にはお腹をすかせた生徒やトレーナーが集まっている。退屈な座学を終えた解放感で、皆どこか浮かれた感じがある。午後はトレーニングだからかもしれない。
「いただきます。」
一方私の心は暗かった。座学なんて集中して聞いていれば心を満たしてくれる。でも、こうやって食事を摂っている間はそうはいかない。
悩みというものはこういう時に心を蝕む。
「はぁ……」
箸を止めて、思わずため息をつく。練習をやっても、選抜レースに出ても結果が出ない。だからトレーナーが付かない。
(どうしよう……もっとトレーニングを増やして、レースもいっぱい研究して……)
そうやって悩んでいるとカタンと向かい側の席にトレーが置かれ、誰かが座った。
「どうしたの?冷めちゃうよ、それ。」
「ヴァッサゴ……ううん、何でもないの。」
「嘘つかないでよ、今だってため息ついてたじゃない。最近なんか悩んでる感じするし。」
「そんなこと……」
言葉に詰まる。事実として、今の私には悩みがあるわけで、でも、相談して簡単に解決できるものじゃない気がした。
「当ててあげよっか。トレーナー契約のことでしょ?」
「んっ……」
さらりと悩みを当てられて狼狽してしまう。
「どうしてそう思うの?」
「だってお昼いつもそんなだし、ホームルームの時もさ、ちらっと顔見たらすごい萎えた顔してたじゃない。」
「うっ……そんなに分かり易かった?」
「うん、とっても。」
そんなに分かり易かったのかと恥ずかしくなっていると、彼女は意外な提案をしてきた。
「そんなに悩んでるならさ、私のトレーナーに相談してみよっか?」
「え?」
思わず「マジ?」と続けてしまった。「マジマジ」と返ってくる。
「じゃあさ、お昼過ぎたら私のトレーナー室に来てよ。」
「そ、そんなにすぐ?」
「うん。だってさ、友達がずっと暗い顔してるの、嫌だもんね。」
そうやって彼女は笑顔を見せてくれた。
時間は13時過ぎ、コンコンと目の前のドアをノックすると男性の声で「どうぞ」と返ってきた。「失礼します。」と言いながら中に入ると、ヴァッサゴともう一人、彼女のトレーナーがいた。
「こんにちは。」
「こんにちは。そして初めまして、ブリッジコンプ。まあ、とりあえずそこに座ってくれ。」
促されるまま中央のパイプ椅子に座る。すると私の隣にヴァッサゴが座り、その反対にトレーナーが座った。
「改めて初めましてブリッジコンプ。俺の名前は
「よろしくお願いします。」
軽く会釈するとつづけた。
「早速だけど、ヴァッサゴから聞いたその、君のトレーナーのことなんだが、正直俺には厳しいな。」
「そう……ですか。」
やっぱり無理か、と思いうつむく。
「えぇ~!!いいじゃないトレーナーさん。コンプがいたほうがもっと楽しいのに。」
「そうはいってもな、俺もまだ新人で、一人を見るので手一杯なんだ。本当にすまないブリッジコンプ。」
そう言って彼は頭を下げた。
「こちらこそすみません、わざわざトレーニングの時間を削ってまで私に時間を使っていただいて……その、ありがとうございました。」
立ち上がって頭を下げる。そのまま暗い顔を見せないようにドアの方を向こうとする。
「ちょっと待ってくれブリッジコンプ。別に俺が担当できないって話であってだね……」
そういわれた時だった。コンコンとドアがノックされた。
「お、ちょうど来たな。入ってくれ。」
「来たって……?」
私の疑問の答えはかちゃりと音を立てて開くドアから入ってきた。
「失礼します。」
すらりとしたスリムな体つきと少し高めな身長の男性だった。肩下まで伸びた長い黒髪がふわりと揺れ、中性的なキリっとした顔立ちが見える。だけど、少しだけ暗い感じの顔つき。そしてグレーのスーツの襟元にはキレイなトレーナーバッチがあった。
「あなたは……」
「君は……」
目が合った。
瞬間、運命を感じた。