時間は正午を過ぎ、食堂にはお腹をすかせた生徒やトレーナーが集まっている。退屈な座学を終えた解放感で、生徒達は特に浮かれた感じがある。
「いただきます。」
一方俺の心は暗かった。午前中は資料を読んだりしていれば心を満たせていた。
しかし、悩みというものはこういう時に心を蝕む。
「はぁ……」
一口だけ、箸を止めて、思わずため息をつく。担当のいないウマ娘はまだそれなりの人数がいるが、大抵本契約に至っていないだけで、実質担当持ちばかり。担当がいない子にスカウトをかけても、新人だからなのか上手くいかない。
(仕方なくスカウトしていると思われているのかもな……やっぱり。)
そうやって悩んでいるとカタンと向かい側の席にトレーが置かれ、誰かが座った。
「どうしたんだよ、そんなに辛気臭い顔しちゃってさ。」
そこにいたのは金髪で眼鏡をかけたハンサムな男。同期のトレーナー、玉瀬澪だった。
「澪か……いや別に、何かあったってわけじゃない。」
「だろうな、だから悩んでる。……担当ウマ娘、まだ見つからないのか?」
「……あぁ」
それだけ言って、黙り込んでしまう。
「そういうところ変わってないよな、
「その名前で呼ぶなって。」
フフッと静かな緑色で笑っていた。それは幼稚園の時の呼び名じゃないか。
「昔から、悩んでるのが分かり易すぎるんだよ。」
変わってないと、続ける。
「仕方ないだろ……正直、どの子を見ても、ピンとこないんだ。」
「とりあえずどっかのチームとかでサブトレでもしたほうがいいんじゃないか?」
「そうかもしれないけど……」
「『運命』ってやつに囚われ過ぎだよ、真ちゃん。」
そう言って澪はうどんを啜る。
「妥協はしたくないんだよ。」
「……気持ちはわかるよ。だけど、その『運命』をつかむためにも、とりあえずはトレーナーでいられるようにしないとさ。」
わかってる。そうつぶやいた。
納得はできていないだろ、と澪は言う。
「担当にさ、『友達が担当ができなくて困ってる』って相談されててさ、今日頃にその子に会ってみるつもりなんだ。」
「……それで?」
「正直、まだ新人の俺が2人も担当にもつのは無理がある。そこで、だ。一度その子に会って見てくれないか?」
澪の顔が真剣な青色の表情に変わる。俺も彼の目線に合わせ、姿勢を正した。
「俺に担当になっててこと?」
「そう。どうやらその子も真ちゃんと同じように『運命』に凝ってるところがあるみたいでさ。どうだ、お似合いだと思うけど?」
少し茶化すように言ってはいるが、変わらず全く真剣な顔で俺に向き合っていた。
「その子に会ってみて、もし運命を感じることができなかったと言うのなら、今年は諦めて、俺のツテ使ってどこかのチームのサブトレに入れ。」
「……ありがたい話だけど幼馴染とは言え、そこまでしてもらう
断ろうとすると、澪は少し赤色の混じったムッとした顔に変わる。
「確かに、幼なじみってだけなら助けないかもしれない。でも、お前は……」
何か言いかけて、なんだか歯切れが悪いまま、赤色の感情も引いていった。
「……とりあえず、13時過ぎに俺のトレーナー室に来てくれ。」
それだけ言うと、澪はまた箸を持ち直しうどんを啜った。
時間は13時過ぎ。資料の整理に追われ、半ば無理やり結ばれた約束の時間に遅れたことを慌てながら、澪のトレーナー室の前に居た。少し荒くなった息を整え、目の前のドアをコンコンとノックする。すると「入ってくれ」と澪の声が聞こえた。「失礼します。」と言いながら中に入ると、澪とその担当のヴァッサゴ、そして1人のウマ娘がいた。
ボリュームのある金髪。そしてツヤのある、美しいロングヘアー。それに右耳の青いシュシュ型の耳飾りがその美しさをさらに引き立てていた。それにぱっちりした瞳と強気そうにつり上がった眉には、どこか力強い、意志を秘めているように見えた。
思わず、見惚れてしまう。
「あなたは……」
「君は……」
目が合った。
瞬間、運命を感じた。